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リックテール 裏通り ショーバー

 夜もふけ、月明かりが道を照らす時間。
 支援士エミリア・エルクリオは、ディン・フレイクレスと共にショーバー…即ち、グラスを傾けながらショーを楽しむ酒場で
 軽めのカクテルを舐めていた。

「中々上手くかこつけたのぉ」
「エミィ…酒も程々にしておけ。支障をきたすぞ」
「わかっておる」

 カランとロックアイスがグラスを打ち、エミリアはショー舞台を注意深く睨む。
 エルクリオ家は名のある商家として貴族ともそれなりに関わりがある。
 そのため、そういうところからやり易い『依頼』というものが存在する。

 例えば、貴族が名を連ねるパーティ会場での用人の護衛などが定番で
 支援士として仕事をしながら、その場に居る事に不相応の無い身分として犯人に怪しまれること無く護衛を行う事もできるのだ。

 また、今回は少々特殊なケースである。
 今回のクリエイターによる品評会は、ブラックスミスの打った剣やクリエイターの薬品。
 画伯の絵。彫刻。などなどのオークション会など『実に普通の』パーティであった。
 それを証明するところとして、画伯アウロラの新作の参加や・・・・・エミリアは飽きれて口を噤んだが、『氷晶の彫刻家アウドラ』の美しいシスターの水晶像などの展示があった事が言えるだろう。
 だが、今回のパーティの主賓である貴族家ディパウロ家は、予てから騎士団に目をつけられ『限りなく灰』と言われている家であった。
 人身売買。亜人種の弄び。麻薬取引。そういう噂が囁かれるも、証拠がつかめずに居た。
 そこで、ディパウロは今回のパーティで何かしら自家が儲ける違法行為をすると睨んだ騎士団は、こういった『貴族と関わりのある』に追加し、『少し特別な条件』をつけた依頼を秘密裏に出し、支援士の登場を待ったのだ。
 エミリアは、その『少し特別な条件』を満たした支援士と言えるだろう。

「しかし、ここで『グラッグス』家の名が出るとはのぅ」

 ぼそりと、ディンにのみ聞こえるように一人つぶやくエミリア。
 グラッグスとは、これも貴族家の一つであり、グラッグス家の取引は『黒』の貴族家である。
 しかし、この『黒』という姿はグラッグスの『蓑』であった。
 通常の発想では、表の顔を白で装っておきながら裏で黒い取引をしているのが常である。
 しかし、グラッグスは表の顔で麻薬取引を中心とした黒い取引を行い、その情報を全て騎士団に横流し
 何度も黒取引の元締めの確保に貢献したという、実態の方が『白』という珍しい貴族家である。

 ・・・・最も、何度もやりすぎると警戒されてしまう事から、黒い取引を定期的に成功させなければならないようだが。

「オレ。あの家のおっさん苦手なんだよなぁ・・・・」
「仕方あるまい。この依頼はグラッグス氏の協力あって成り立つ依頼じゃ」

 つまり、『何度も使えない手法』を依頼として使ってきただけあって、それだけ騎士団も期待を大きく背負うことになる。
 いわずもがな、『少し特別な条件』というのは、この『グラッグス』と付き合いを持っていても不思議ではない支援士。という事である。

「そして、ここでの依頼は『ディパウロが黒である証拠を掴む』事じゃ」
「・・・判ってる。敵さんが隙を見せたらすぐに動くつもりだ」

 ここで名誉のために言っておくが、エルクリオ家はグラッグスと闇取引をしているわけではない。
 また、グラッグスも常に闇取引ばかりをしているわけではない事を告げておこう。
 通常の取引相手としても、グラッグス家は手腕があり、それなりに表舞台にも名があるのである。

「でもなぁ・・・・」

 ディンは苦笑いして思い出す。

(ひぇーっひぇっひぇっひぇっ・・・・ようこそ。君たちが例のかね? 話は中で聞こう・・・・ひぇーっひぇっひぇっひぇっ)

 あの独特の笑い声が耳に残り・・・・まあ、怪しさを醸し出す要因なのだとは思うが・・・・ここまで思って、
 ディンは首を振って話が逸れたのを戻すように一つ息をついてエミリアに声をかけた。

「ここまで怪しまれずに行けたのは幸いだったな」
「ウム・・・万一に備えてエルクリオの名を隠したのは正解だったかもしれんな」

 エミリアはディンの問いに一つうなずいて、悪運の良さというか・・・・それに同意をした。
 ここで少し、ディンとエミリアがこのショーバーに来た経由を話しておこう。
 実を言えばこのショーバーは品評会の二次会場であり、一次会場では、ブラックリストに名の無い実に普通の『白』い貴族家も参加していた。
 しかし、主賓であるディパウロは、二次会場への案内を特定の貴族家のみに行っていたのだ。
 闇取引の名がある『グラッグス』も頭数に入っていたのか、グラッグス代理であるエミリア達にも声が掛かった。
 ここで一つの壁だったのは、詳しく身元調査をされれば、『エルクリオ』の名で警戒される事であった。
 確かにグラッグスとの繋がりがある事は違いないだろうが、エルクリオの名で二次会に参加できない可能性があった。
 これは、ディパウロがこういう行動に取る事を騎士団が予測できなかった『不測の事態』であっただろう。
 しかし、実を言えばこの案内を行っていた人物は、詳しい内容は聞かされず、リストの貴族家に声をかけて案内する事のみを告げられていた言うなれば『アルバイト』だった事。
 これが幸いしてか、エミリア達は特に詮索される事はなかったのだ。
 もちろん、エミリア達からすれば、その案内がアルバイトであったことなど知りはしないが。
 とにかく、二次会場に案内され、数名の貴族家がチラホラとグラスを傾けている

「ディン。判るかの・・・・奥の右席に座っておる貴族家」
「・・・ああ。前科持ちか」

 今回のパーティに参加した貴族家のチェックは既に済んでいる。その中で、前科もちは特に注意をしていた。
 その中で、闇取引をした事から捕まった貴族家も存在していた。

「これは本当に悪運が良かったかもしれんのぅ」
「あのな・・・せめて良運であってくれ」

 ディンが突っ込みを入れたところで、ディパウロが壇上に上がり、手のひらをパンパンと叩いた
 エミリア、ディンも含め、全員がディパウロの主に注目をする。

「お集まりの皆様。『前戯』はお楽しみ頂けましたか」

 ディパウロは皮肉るようにクッと笑い唇をゆがめる。

「あのような余興は実に詰まらなかった。美?芸術?そんなものは飾り立てにすぎません」

 ディパウロの言葉にエミリアは小さくため息をつき、

「よくもまぁペラペラ言えたもんじゃのぅ」
「シッ」

 ディンが独り言に注意を刺す。
 もちろん、エミリアも回りに聞こえない程度に配慮はしてあった。
 ディパウロの演説は続いていた。

「快楽!本能!人間として求める事が何を反するというのでしょうか!」
「いいぞいいぞ!!」
「そのとおりだー!!」

 酔いもあるのか、参加側の貴族家もディパウロの言葉に大きく賛同の言葉を送っていた。

「私と志を同じにしてくださる選ばれた皆様!! 二次会の品評会をとくと味わってください!!
 まずは、二次会の余興として亜人種による脱衣ショーなどを楽しんでいってください!!」
「ワハハハ!! ディパウロの旦那!! 最高じゃぁぁーー!!」

 その言葉にディンとエミリアは顔を見合わせた

「破廉恥な・・・・しかし本当にビンゴとはのぅ」
「ついに尻尾を掴んだんだ。怪しまれないうちに証拠を掴むぞ・・・!」
「しかし、何を証拠とする・・・・?」
「亜人種の脱衣ショーとか言ってただろ。ならその亜人種を救出して証言者にする。証拠能力は高い」
「了解した」

 熱狂し、舞台に詰め寄っている貴族家に自然に溶け込むように、ディンは壇上に近づく。
 エミリア以外にも女性は居るが、亜人種のショーに特に興味は無いのか遠巻きに見ていた。


 或いは、それが

 幸いだったのか


「恥ずかしい・・デス・・・」
「良いから脱ぎやがれ!! 血を見てぇのか!!」
「ヒ・・・」

 白磁の肌に獣の耳がついた亜人種の少女は、ディパウロの主に怒鳴られ身を竦めた。
 その背後


「そんなに血が見たいの? あなたたち」


 闇に溶ける。良く澄んだ銀月の言霊。

「な・・ぎゃああああああ!!!!!!」

 同時に、ヒュオっと空気が鳴った刹那。ディパウロの主は叫び、壇上でジタバタともがいた。

「腕ぁ!! 腕がぁぁ!! あがあああ!!」
「う、うわあああああ!!!」
「ひぃぃ!! あがっ!!」

 二、三。まるで狙い撃ちしたかのように空気の振動と悲鳴が響く。

「ディン!! どうなっておる!!」
「わからねぇ!! 壇上だ!!」

 我先に逃げようと出口に向かう人々とは逆に、ディンとエミリアは壇上に駆け上る。
 そこには、

「・・・!! 紅の髪・・・銀の仮面!!」
「マスク・ザ・ルナミスじゃと!!?」

 くたりとしていた亜人種の少女を片手に、もう片方の手で器用に弓の弦を絞り
 また一人、頭を射抜いて殺す。

「おぬし、何をしておる!! 止めんか!!」
「ちぃっ!!」

 さすがに場所として天羽々斬を持ち歩けなかったディンは懐の短刀を抜いて、ルナミスに飛び掛る。
 しかし、そこは聖騎士と射手である。重戦士系と比べ、素早さにおいては射手のほうが一枚上手であった。

「ふっ」

 短く息をつき、トンっと跳ね、ディン達と合間見える。

「魔術師。まさかこの狭い舞台で魔法を撃つわけじゃあるまい」
「!?」
「貰い物もこう言う時には役に立つものね」

 即席でアイスコフィンを入れようとしたが、ルナミスの手に嫌なものが見えてしまった。
 『マジックミラーコート』。カード媒体の魔法反射の術書物である。
 超上級の錬金術師と魔術師が連携してしか作れない製法に非常に手間のかかる一品。
 そのため、値段が恐ろしく高い上に、効果時間は20分前後という大変効率の悪い一品でもある。
 しかし、20分も時間が有ればルナミスは逃げ切れてしまうだろう。

「あなた達のせいで必要標的が後一人逃げちゃったわ」
「ふざけるでないわ!! 何も、殺す事はなかろう!!」

 淡々と物を言うルナミスに対し、エミリアは吠える。
 しかし、ルナミスは小さく息を吐いて一笑した。

「ふふ。あなた甘いわ。隣の彼が殺された時の事って考えた事ある?
 ああ・・・有るかも知れないわね。でも、実際に大切な大切な人が殺された事は無いかしらね」

 ビッと弓をディンに向け、対峙する
 そのまま、片手の亜人種の少女を床にそっと寝かせた。

「じゃあね。そろそろ追っ手が着そう」

 そのまま、ルナミスは出口から素早く逃走をした。
 ディンは、ふぅ・・と一つ息をついて、亜人種の少女を助け起こす。

「・・・・なんなんだ。ありゃ」
「・・・・マスク・ザ・ルミナスじゃ・・・対犯罪者専門の殺し屋。騎士団からは問答無用で殺す人物と言われておったが、
 先のカーディアルト誘拐未遂事件からは、もっと違う印象を私は持っていた・・・・しかし、
 対峙して何じゃが・・・・冷たすぎて、寒い・・・・」
「同感だ・・・『殺す』という覚悟がオレの比じゃなかった」

 ハッとなり、ディンとエミリアはショーバーを後にする。
 ・・・・もはや証拠など無駄だと思うが、亜人種の少女の保護と、このショーバーの処理をリックテール騎士団に相談する為に。







チラ裏

|ω`)もともと前後編あるシナリオだったので、中途半端な終わり方ですが、後編を書ききれる自信がなかったので、ここで終わりです