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 夜も更けたリエステールの酒場。
人の数もまばらになり、静かになった店内のカウンターで一人静かに酒を飲んでいる男がいた。



烈心「店主、もう一杯」

マスター「あいよ」



 烈心はこの日は珍しく遅くまで酒を飲んでいた。いつもだとこの時間になると決まって宿で寝ているか休んでいるかだ。
そして彼の様子もどことなく変な感じがする。静かに飲んではいるものの、どことなく苛立っているかのように思える。



烈心「店主、もう一杯」

マスター「あいよ」



 マスターも彼の様子がいつもと違う事には気付いてはいるものの、特に詮索はせず黙って酒を注いでいる。
烈心の方も何も語らず黙々と酒を飲んでいる。そうこうする内に時間だけは流れ、流石のマスターもこの流れには付いていけず、おもむろに口を開いた。



マスター「なぁ烈心よ、お前さん今日何があったんでぇ? いつもと少し雰囲気が違うようだが?」

烈心「・・・。」



 マスターの問いにも関わらず烈心は黙ってグラスを仰いでいる。マスターの言葉は聞こえてはいるものの反応はしていない。



マスター「まあ、あんまり深くは詮索はせんがね。それに今日はちょっと飲みすぎなようだからあまり深酒はせん方が良」

烈心「見合いだ」

マスター「・・・へ?」



 マスターはいきなり喋りだした烈心に思わず磨いていたグラスを落としそうになった。正確には烈心の口から出た言葉にだった。



マスター「見合いって・・・、お前さん見合いでもするのかい・・・?」

烈心「俺が進んでやるわけじゃあない・・・。ただ、今日知り合った婆さんから一方的に押し付けられただけだ・・・!!」

マスター「一方的って・・・。」



 烈心はグラスに注がれた酒を思いっきり仰ぎ、グラスをカウンターに叩きつけた。
どうやら相当頭にきているようだ。店内に残っていた他の客もいきなりの音にビックリしてカウンターの方を振り向いたが、
彼の見えない気に気圧されて平穏を装うとした。多分この場にやかましい客や酔っ払い等がいたら真っ先に烈心は噛み付いていたであろう。
マスターもそうならなかった事にホッとして胸をなでおろした。



マスター「で、その婆さんに一体どんな事を言われたんで?」

烈心「それはな・・・。」



 烈心はグラスをカウンターに置いて、置いてあるつまみの豆をポリポリとかじりながらその時の事を語り始めた。







  ドグシャア!! ドンガラガッシャアーーーーーーン!!  
バゴボォッ!! ズグシャアァァァッ!!



チンピラ 「ドヒーッ!! 鼻がッ!! ハナがッ!! モゲゲッ!! ハナモゲッ!! ハナモゲラッ!!」



 とあるリエステールの人気の無い路地裏で、一人のチンピラが血を流しながら鼻を押さえて転げ回っていた。どうやら顔面を思いっきり蹴られたようだ。
よく見るとそのチンピラのそばには彼の仲間らしき集団が一人残らずノビていた。
中には尻を丸出しにしてタルに頭から突っ込んでいたり、木箱から頭を突き出して泡を吐いて気絶している者までいる。
そしてその脇には服を破られて恐怖で震えている少女と、顔に殴られた痕のある少年が呆然としながら佇んでいた。



烈心「おうこのドサンピン、さっさとテメーらがあの子達からブン盗った金を全部出してもらおうか。出さねぇとまた血を見る事になるぜ?」



 烈心は転げ回ってるチンピラの頭を足で踏みつけて眼前に刀を突きつけた。
どうやらこのチンピラ達は街で花や装飾品を売っていた子供達に因縁を付け、あろうことか少年を集団で殴りつけて金を巻き上げていたらしい。
その上花売りの少女に対して集団で性的暴行も行おうとしていた。
しかし、その悪行も続かなかった。折りしもその現場を烈心に見られてこのような様になったと思われる。本当に運の悪い連中である。



チンピラ「ひ、ヒィーッ!! こ、これがあのガキ達から巻き上げた金全部ですぅーッ!! ちゃんと返しますから許ひてくださぁーいッ!!」



 起き上がったチンピラは涙と鼻水を垂らしながら金が入った袋を取り出して烈心に渡した。



烈心「よぉーしこれで金は全部だな?」

チンピラ「は、はいぃぃぃぃ!! これで全部ですぅぅぅ!! ですからもう見逃して下さいね!! ね? ネッ!?」

烈心「そうだな、許してやる・・・とでも言うと思ったか?」

チンピラ「ほえ?」

烈心「さっきのは殴られた少年の分、そしてコレは貴様のようなヘナチンに犯されそうになったあの子の分だ 地獄まですっ飛べこのヌケ作ッ!!



  メギョンッ!!



 そういい終わるや否や、烈心はチンピラの股間めがけて強烈な蹴りを食らわした。



チンピラ 「タマんねぇなぁーーーーーーーーーーッ!!!!!?????」



 珍妙な叫びを上げつつ、チンピラははるか彼方に吹っ飛ばされた。
そして何処か遠い所で水に落ちる音が聞こえた。おそらく何処かの川にでも落ちたのであろう。ちなみに今は寒空吹き荒れる2月である。



烈心「フン、俺がテメーらみたいなスカタンを許すとでも思ったか。」



 烈心は金の入った袋と周りに散らばっている花と装飾品を集めてカゴの中に入れ、少年と少女のところへ持っていった。



烈心「もう大丈夫だ。あのスッタコどもはもう二度とこの辺で悪さなんかしないだろうよ。」

少年「あ、ありがとうございます・・・。なんとお礼を言ったらよいか・・・。」

烈心「礼なんざいらん。それよりも早くあの子を介抱してやんな。えらい震えてるようだからな。」

少年「本当に、ありがとうございます・・・。」

烈心「じゃあな。」



 烈心は深々と礼をしている二人を跡目に路地裏から出てきてその場を後にしようとした。その時、後ろの方で拍手の音が聞こえた。
振り向いてみるとそこには見た目7,80歳ほどの老婆が烈心に向かってポンポンと拍手をしていた。



老婆「フェッフェッフェッ、お前さん見た目に反してなかなか粋な事しよるのう。」

烈心「ん? なんだ婆さん?(なんだこのババァ・・・? いつの間に俺の後ろにいたんだ?)」

老婆「いやいや、お前さんの行動を一部始終見させてもらっただけじゃて。まあ見ず知らずの人間に対してよくあそこまでできるもんじゃ。」

烈心「別にな。ただあの連中がムカついただけだ。てか急いでんだ俺は。じゃあな。」



 烈心はその老婆を軽くあしらってその場を離れようとした。しかしその老婆はそんな事など何処吹く風で更に話を続けた。



老婆「ふむ、ここで立ち話も何じゃて。あそこのカフェでお茶でもしながら話すとしようかの? あの店のケーキはおいしいんじゃよ。」

烈心「何っ!? おいちょっと待て婆さん!! 俺は自分の用事があるんだ!! 話はこれっきりにしてもらおうか!!」

老婆「まあまあそんないけずな事でも言わんでこの婆と付き合わんか? 久々に若い衆とも話をしたいモノじゃし。」

烈心「んな事俺の知った事かい!! おわっ!? コラ! 襟首掴むない!!(こ、このババァ!? ババァのくせになんてぇ力だ!!)」



 そんなこんなですったもんだした挙句、流石の烈心もこの老婆には根負けし、仕方なく付き合う事にした。



老婆「ホッホッホ、やっぱりこの店のショートケーキは格別よのう。この上に乗っかってるジャイアントベリーがまたおいしいんじゃよ。」

烈心「ああそうですかい・・・。(チクショウ、今日はこのカステーラがやたらと不味く感じるわい・・・。)」



 老婆は機嫌よさそうにショートケーキの上に乗っかっている大きなイチゴを頬張っている。
そしてその向かいの席では烈心が不機嫌そうな顔でショートケーキを突きながら口に入れている。その光景はとても対照的であった。



老婆「それで烈心とか言ったのおぬし。見たところ十六夜の人間っぽいようじゃが十六夜の何処出身かの?」

烈心「婆さん、俺はな十六夜出身に見えるが十六夜出身じゃあねぇんだ・・・。俺はな」

老婆「ホッホッホ、異界からの来訪者じゃろ? ちゃんと知っておったよホッホッホ。おぬしはこの界隈じゃ結構有名だしの。」

烈心「・・・ケッ。(知ってるなら知ってるって最初からそう言えってんだこのクソババァ・・・!)」



 老婆ののらりくらりとした態度に、烈心は更に不機嫌そうな顔で紅茶をすすっている。
しかし老婆はそんな事もお構いなしに更に話を続ける。そして同じ事が何度も続いた後、老婆は懐から一枚の写真を取り出した。



老婆「ところで烈心や、この娘を見てどう思う?」

烈心「ん? ほーう、なかなかのべっぴんじゃあねぇか。で、これは誰だ? ひょっとしてあんたの若い頃か?(しかしどこかで見たことのある顔だな。)」

老婆「ホッホッホ、まあ確かにワシも若い頃はこれぐらいかこれ以上のべっぴんだったがの。」

烈心「そうかよ・・・。(んな事自分で言うかよ普通・・・。)」



 老婆が取り出した写真には長い青髪で胸の大きい美人の女性が写っていた。街中で歩いていれば10人中10人が振り向くほどの美貌だ。



烈心「で、その女性は一体誰だ? あんたの親族かなんかか?」

老婆「ほー、なかなか感が鋭いのう。その通り、ワシの自慢の孫娘じゃ。どうじゃ? ズキューンとくるじゃろこのプロポーション!!」

烈心「あー、まあ容姿端麗でいいんじゃあねぇかな・・・。」



烈心は耳クソをほじりながら興味なさげに写真を見ている。




老婆「おや? この写真は好みじゃないのかえ? ならもう一枚あるぞえ。今度はサービス満点の水着姿じゃ!! それでも駄目なら出血大サービスの入浴ちゅ」

烈心 「そんなもんは見せんでいいっ!!」

老婆「おやおやそれは残念じゃのう。正に出血大サービスのシロモノだったんじゃが。」



老婆は残念そうに写真を懐に納めた。流石の烈心もこの老婆の行動には辟易していた。
しかし相変わらず老婆はそんな烈心の態度にもどこ吹く風のようだ。




老婆「それで烈心や、おぬし今恋人やらはおるのかえ?」

烈心「ぶっ!!」



 いきなりの質問に烈心は思わず口に含んでいた紅茶を噴出しそうになった。



烈心「いきなり何を言いやがるアンタは!! んなもんいるかッ ボケッ!!」

老婆「おやまぁ意外じゃのう。おぬしみたいないい男じゃと恋人など引く手あまただろうに。」

烈心「俺は女なんぞには興味はねぇ!!」

老婆「おや? そうなるとお主はかわいい男の子とかの方が好みなのかや?」

烈心「何でそっちのほうに飛びやがる!!」

老婆「ほっほっほ、冗談よ冗談♪ かわいいお茶目じゃて♪」

烈心「 こっ・・・こっこっこっこぉっ・・・・・・・・・・ゼーゼーゼー・・・。 (いかんいかん・・・、これ以上怒るとこのババァの思う壺だ・・・。)」



 烈心は老婆に掴みかかろうとしたが、それ以上すると完全に彼女の思う壺と感じたのか寸でのところで自分を落ち着かせた。



烈心「で、もういいだろう? 俺も用事があるんでな。この辺で失礼させてもらう。代金は俺が立て替えておく、じゃあな。」



 烈心はそそくさと立ち上がり、近くにいた店員に二人分の料金を支払いその場を離れようとした。



 しかしその時、老婆の口からとんでもない言葉が飛び出した。



老婆「あー言い忘れたものじゃが、おぬしワシの孫娘とお見合いしてみんかえ?」

烈心「はうっ!?」




  ドンガラガッシャーーーーーーーーン!!




 老婆のその一言に烈心は思いっきりずっこけ、そばにあったテーブルやイスに盛大に突っ込んだ。



老婆「いやーねー、ワシの孫娘もいい年になっておるというのに未だに恋人も一人もおらんでのぉ~。そろそろ身を固めさせた方が良いと思っての~。」

烈心 「あ、あががががががががが・・・・。みみみみみみみあいあいあいあいあいあいあいあいあい・・・。」

老婆「いろいろ候補者を募ってはみたんじゃがのう~、なっかなかワシのお目に叶えるモノもおらんし、孫娘に合いそうなモノもおらんかったところでの~。
   そこでおぬしと言う適役がおったというわけじゃ。まあ性格はちょっとキツめじゃが容姿端麗器量よし! 家事は・・・まあ一通り出来るじゃろうて。」



 老婆はずっこけている烈心などお構いなしに話を続ける。烈心もようやく立ち上がり老婆のいるテーブルに再度席を付いた。



烈心「あ、あのなぁ婆さん。そういうのはお孫さんの意思を聞いてから進めるもんだろが・・・。(いきなり何ぬかしやがるんだこのババァ・・。)」

老婆「だってあの子ったらワシが色々紹介してやってもそっけない態度とるんじゃて。」

烈心「そら誰だって押し付けられりゃあそんな態度とるだろうに・・・。それにおたくのお孫さんの事を好きな人がいたらどうすんだい。」

老婆「あーそれは心配なかろうて。あやつを好きになる子はよほどの変わり者じゃろうに。そのような豪傑はなかなかおらんじゃろう。」

烈心「・・・。(な、なんちゅう事言いやがるこのババァ・・・。自分の孫をなんだと思ってやがんだ・・・。)」



 烈心が唖然としているその時、後ろの方で聞き覚えのある声が聞こえた。
その声の持ち主は、今の時点で烈心がもっとも会いたくもない人物であった。



ジョシュア「あんれ~? そんなところで何やってんだ烈心?」

烈心「ぶっ!! 誰かと思ったらお前か!!(ゲーッ・・・、この状況で一番会いたくない奴がきやがった・・・。)」

老婆「おや、聞きなれた声がすると思ったらジョシュアじゃないかえ。」

ジョシュア「あら? 誰かと思えばエルナ婆さんじゃないか。烈心と何してるんで? あ、僕はすぐ離れるんで注文は結構。」



 そう言いつつジョシュアは空いている席へ腰掛けた。




エルナ「何もこれもこの者にワシの孫娘と見合いをしてもらおうと思っての。」

ジョシュア「ぶっ!! 烈心が見合いだって!? 孫娘と見合いというと・・・、あのエルナさんと?」



 エルナ婆の一言にジョシュアは飲んでいた水を思わず噴き出した。流石に彼にとっても予想外の事だったのだろう。
ジョシュアの反応に烈心は黙りながら腕組みをしている。



ジョシュア「で、エルナ婆さんは何で烈心に白羽の矢を立てたわけで?」

エルナ婆「いや、この男が街の路地裏で襲われてた子達を助けておっての。それに前々から弱きを助け強気を挫くその姿勢に感銘を受けてのうくどくどくどくど・・・」

烈心「・・・。(いったいどれだけ喋るんだこのババァ・・・。それに俺の行動を逐一監視でもしてやがったのかよ、ハァ・・・。)」

ジョシュア「へぇ・・・。そりゃすごい事で・・・。あ、ちょっとそこのミニスカートがまぶしい可憐なウェイトレスさん。やっぱりミルクティーひとつで。」



 流石のジョシュアもエルナ婆の会話には少々追いついていない状況だ。



エルナ婆「そして今日のあの行動! ワシは心にビシィーーーーッ!!と稲妻が走ったもんじゃ!! この男なら孫娘にピッタリじゃと!」



 話で興奮したエルナ婆はとうとうテーブルに足をかけてさも演説しているかの如く話を続ける。
気が付くと周囲はヤジ馬であふれ返っており、カフェもそのヤジ馬で繁盛していた。



エルナ婆「ってなワケでワシはこの男にワシの孫娘とのお見合いを提案したという訳じゃ。」

ヤジ馬「おおー、いいぞ婆さんー!!」

ヤジ馬「よっ! 日本一ー!!」

ヤジ馬「ヒュー! そこの十六夜の兄ちゃんカッチョイー!!」

ヤジ馬「狂犬って噂だったけどいい男ー!!」

ヤジ馬女「愛してます!! 私と結婚してくださーい!!」

ヤジ馬女「あーん! ス・テ・キ(はぁと)」

烈心 「うるせえぞお前ら!! 黙ってろ!!」

ヤジ馬勢 「シーーーーーーーーーーン。」



 エルナ婆の周りでやんややんやと騒ぎまくるヤジ馬達であったが、空気をも震わすほどの烈心の一喝で、一瞬にして辺りは静寂に包まれた。



烈心「だからな婆さん、向こうの返事がなきゃあ見合いってのは成立しないもんだろう。それに俺も見合いなんて真っ平ゴメンだね。じゃあこの話は無かった事で・・・」



 烈心が再度立ち去ろうとした時、またしても聞き覚えのある声が聞こえた。しかも二名。
その内一名はまたも今の時点で烈心がもっとも会いたくもない人物の一人であった。



ラシード「おお、何か聞き慣れたバカでかい声が聞こえたと思ったらお前達か。」

シェラザード「あら、ジョッシュも一緒で何しているのかしら? それにエルナお婆さんまでも。」

烈心「がふっ!! な、なんであんたらまで・・・。(あ、悪夢だ・・・。)」



 烈心が後ろを振り向くとそこにはアルラシードとシェラザードの二人がいた。
手に持っている荷物を見る限り買い物の為にリエステールに赴いていたようだ。そして二人も空いている席へと腰掛ける。



エルナ婆「おや、今度はアルラシードとシェラザードではないか。リエステールに来るとは珍しいのう。」

ラシード「おお、これはエルナ殿ご機嫌麗しゅう。いや今日は妻の買い物に付き合ってですな。久しぶりにこちらへ赴いた訳です。」

シェラザード「ええ、最近できた中央通のお菓子屋がすごくおいしいと聞きましたのよ。エルナさんも行ってみるといいですわ。」

エルナ婆「ホッホッホ、相変わらず仲の良い事で。これでご子息でもできれば良いんじゃがのう。」

シェラザード「もう、エルナさんたったらご冗談を・・・。あ、ウェイトレスさん。私にはハーブティーを。この人にはオレンジジュースをお願いね。」



 三人は他愛のない日常会話を続けている。その隙に烈心は立ち去ろうと考えていたが、
今ここで逃げるとアルラシードに変な疑いを持たれる。と考えた烈心は動くにも動けない状況であった。



ラシード「それで、エルナ殿三人は一体何を話しておっしゃったのですかな?」

エルナ婆「ホッホッホ。実はの、そこの烈心という若者とワシの孫娘とお見合いをさせようと考えておったのでな。」

ラシード「はい? お見合い・・・、と申しますと?」



 ストローでオレンジジュースを啜っていたアルラシードの手が止まる。流石に聴きなれない言葉にアルラシードも聞き返す。



エルナ婆「いや、その言葉通りじゃよ。そこの烈心がヒジョーに気に入ってのう。こやつならばワシの孫娘にピッタリな婿だと思うてな。」

シェラザード「あらまぁ・・・。」

ラシード「むう・・・。」



 二人は困惑したような表情でエルナ婆の話を聞いている。烈心の目から見れば『ちょっと唐突すぎなのではないか?』と思えそうな表情だ。



烈心「そら見ろい。二人だって困惑してるじゃねえか。とにかく俺は見合いする気なんか一片も無いんでな。じゃあ俺はこの辺でオサラバさせてもr」



 そう言いつつまたも立ち上がった烈心であったが・・・



ラシード 「ヌハハハハハハ! 解り申した!!」

烈心 「ぶほっ!!」



 そのアルラシードの突然の絶叫に烈心は二度も盛大にずっこけ、顔面から地面に突っ込んでしまった。



ラシード「エルナ殿!! その大役、我輩も微力ながらお手伝いしますぞ!! いや我輩もそろそろ烈心に身を固めてもらった方がよいと考えておりましてな!!
まさに今がその時!! いやここでエルナ殿に出会えたのは正に僥倖!! こうなれば善は急げと申しまする!! 今すぐでもミナルに戻って用意を致しますぞ!!」

エルナ婆「おお、流石アルラシードよのう。それでは見合いの場所はおぬしに任せようかのう。ではワシは教会に戻って孫娘に話すとしようかね。
店員さんや、これはみんなの分の代金だぞえ。それではアルラシードや、そちらの方は任せるよ。ホッホッホ、今から楽しみじゃて。」



 そう言うとエルナ婆はテーブルの上に代金を置いて一人先に店を後にしていった。



ラシード「ヌハハハハハハ!! 任されよ!! ではシェラザード、一刻も早く戻って準備せねばな!! 
おっと店員殿、これは破損してしまったテーブルとイスの弁償代として受け取ってくれたまえ!! ではサラバ!!」

シェラザード「えっ? あっ、ちょっとあなた!! そんなに急がなくても・・・!!」



 そしてアルラシードも、テーブルの上にお金の入った袋を置いてものすごい速さで走り去って行った。
その後ろをシェラザードが追いかけるように去っていった。そしてカフェには完全に茫然自失状態の烈心とこれまた呆然としているジョシュアの二人が残っているだけであった。



烈心 「あ、あいああああいいいううううういああああ・・・・、う、ううあああああええええええ・・・。(パクパクパク)」

ジョシュア「開いた口が塞がらない・・・ねぇ。まあ頑張りなよ・・・。友人として僕も手伝わせてもらうからさ。」



 そう言いつつジョシュアも席を立ってその場を後にした。烈心は依然、茫然自失状態でイスに座っている。





ウェイトレス「あのー、お客様? そろそろ閉店の時間なんですが・・・。」







烈心「と、言う事だ・・・。」

マスター「は、はぁ・・・。」



 烈心の話に、マスターは顔を引きつりながら聞いていた。流石にマスターも話の内容には顔を引きつるしかなかった。いや、それしかできなかった。
それだけ烈心の話は俄かには信じがたく、そして奇天烈極まりない凄まじい内容だったからだ。



マスター「と、とにかくだ・・・。まあ頑張んな・・・。」

烈心「店主、もう一杯・・・。」

マスター「あ、あいよ・・・。」



 烈心は注がれた酒を一気に仰ぐ。飲みだしてからもうかれこれ10数杯である。
よほど酒の強い人でなければぐでんぐでんに酔っ払っていたであろう。



マスター「烈心よぉ・・・、もう飲むのはやめた方がいいんじゃあないのか・・・? これでもう16杯目だぜ?」

烈心「大・・・丈夫だ。店主・・・、もう・・・い・・・っ・・・・・・ぱ・・・い」



 よく見ると烈心の目は焦点が合っておらず、更には言葉にもろれつが回っている。流石に酒がきている様だ。
そして次の瞬間、烈心は突然カウンターに突っ伏した。



マスター「ほらいわんこっちゃねぇ。宿に送ってやるから今日はもう帰んな。代金はまた来た時でいいからよ。」



 そう言うとマスターは突っ伏している烈心を起き上げようとした。だがその瞬間・・・



烈心 「オラぁなぁ~!! なにが楽しくてお見合いなんかせにゃあいけんのどぁ~~~~!!  
オリャー向こうにずきなひどがいたんだよぉー!!! 今はいねぇーがぁーーーーなぁーーーー!!」


マスター「どわっち!!」



 マスターが起き上げようとした瞬間、いきなり烈心が起き上がり、大声でわめき始めた。どうやら完全に酔っ払っている。


烈心 「そんなこんなんあのになんあでオラァがみあいなんかせなあいかんのどあああああ!!!!  
しっかもあっだこどもめぇーおんなとおよー!!!
だしがにちちはあデカいじシリもデカいいじいいきのづよおそおおそっそなああおんなだがああなぁぁぁ!!  
いぎなっりいはねええだろがああああ!!
じょっしーもっらっしーどもだあああああああ!!  
みんなでよっでだかっえおれをコケにしやがああああってええええええ!!!  
ちぐじょおおおおおおごんどああっただらあいづらあぜんいんぶっちごっろおおおおお!!」




 ガクッ





烈心「グー」



 散々わめいた後、彼は再度カウンターに突っ伏して寝息を立てていた。どうやら完全に寝てしまったようだ。
マスターはこの状態じゃ彼の宿に連れて行くことも出来ないと思ったか、酒場の奥の簡易休憩室に彼を担いで行った。



マスター「ほんっとに・・・、哀れな男だぜお前はよ・・・。」

女将「ホホホ、どこか昔のあんさんに似ておりますなぁ。」

マスター「やかましい・・・!」






こうしてリエステールの夜は更けていったのであった・・・。





  TO BE CONTINUED・・・?