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「…うぅ…………?」
―ある意味、最悪の目覚めだった。
創造主か神か、とりあえずそんな感じの者の『代理人』を名乗る少女が現れ、自分の身体を女にかえたあげくに、着せ替え人形のように散々着替えさせられていた。
ついでに言えば、隣にいたエミリアもかなり面白がっていて、その『代理人』と一緒になって―いや、『代理人』以上に面白そうに同じ事を自分にしていた気がする。
「…………夢だよな?」
そのあたりは妙にはっきりと覚えている事に不安を感じ、なんとなく両手を自分の胸にやる。
……当然、ふつーの男性の固い胸板である。
「ディン、朝っぱらから何をしておる?」
「っ! ……え、エミィ……あぁいや、なんかすごい夢を見て………」
……冷静に考えたらばかばかしい。 現実的に考えて、男が女になるなどありえるはずがない。
どこぞの伝説では”そういう効果の”呪いやら魔術もあるとかエミリアが言っていた気がしたが、産まれ持った生物としての『根本』を覆す類の術なので、かなり高度な術式と貴重な触媒を必要とする、とも言っていた。
それ以前に、詳しい方法も伝わっていないらしい。
(……というかコイツなんでそこまで知ってるんだ……)
などと思いながら、ディンは訝しげな表情でエミリアの顔を見つめる。
理由としては、色々と魔法について勉強していた時にたまたま見つけた文献だったりする。
「夢、か………もしや、女にでもさせられた夢か?」
「ぶはっ!!?」
図星を当てられ、おもいっきり吹き出す。
「ああいや、私も今朝同じような夢を見てな。 と言っても、させられてたのはお主だけじゃが」
何か言おうとしているものの、全く口から声が出て来ないディンの姿を見て、苦笑混じりにそう答えるエミリア。
だが、”見ていて面白い”夢ではあったらしく、どちらかというとおかしくて笑っているという要素の方が、その笑みには多く含まれていた。
「ま、夢は夢じゃ。 あんなもの、現実で起こるわけがあるまい」
「……」
妙に鮮明に記憶にある夢の情景。
他のぼやけている部分では、昨日別れたティールをそのまま大きくしたような女性も出てきた気がするが、そのあたりはほとんど思い出せなかった。
「それよりも、エメトとの戦闘でカバンが破れていたようでな、アイテムを色々と落としてしまったようじゃ」
と言って持ち上げたバッグの底の辺りは、ぽっかりと大きく穴が空いていた。
残っているのは包帯が少しと地図くらいなものだ。
「……まぁ、それはしかたないな……あんなバケモノ相手で命があっただけでも拾いもんだ」
「うむ……ティールに感謝じゃな……あやつ、間違いなく私達よりも強い」
「……ああ、そうだな」
『魂の炎』と『魔龍の血』の力。
彼女が持っているその二つの能力は、自分達では決して手に入る事のない強大なもの。
ただ、別れ際に”まだ身体が力を受けいれてないみたいだから、全力で戦おうとすると全身に激痛が走る”と言っていた。
……『過ぎた力』は、ムリに使えば自身の死をも招くということだろう。
それは、世の中そこまで都合よくいかない、という事を体現しているかのような一言だった。
しかしそのあたりをしっかりと理解して、自分で力をセーブできているというだけでも、大したものである。
だがそれを考えると、彼女の『表面的な全力』ではなく『肉体の限界を無視した全力』はどの程度なのかも少し気になっていた。
「ディン、どうしたのじゃ?」
この話を聞いたのは自分だけで、エミリアは表面的に『強い』としか知らない。
これはティールの心の深い部分にまで及ぶ事、彼女自身が話そうとしない限り、他人が勝手に広めていい話では無い。
「…いや、別に」
とりあえず、それだけ言って余計な事は口にしないことにした。
「……それより、アイテムがないって事は、補充に戻るのか?」
「そうじゃな。 しかしここまでモノがなくなると……ミナルならばレイスから安く手に入るが、あやつは町から出ないタイプじゃし……」
「ちょっと前にあいつのとこで補充したばっかだからな。 材料残ってりゃ用意してくれるだろうけど」
「……うーむ」
「<ruby>中央<rt>リエステール</ruby>なら確実にモノは揃うだろうけど……まぁお前に任せるよ」
そこまでディンが言うと、少しの間悩むような姿を見せたエミリアだったが、数十秒ほどたった頃に、決心したように顔を上げ、再び口を開いた。
「ミナルに戻る。 目的の物(エメトの欠片)は手に入ったわけじゃし、こいつの正体のくらい、レイスの耳に入れておきたい」
「……そうか。 まぁアイツもその石には興味持ってた感じだったからな」
基本的に、レイスというクリエイターはどちらかというと製薬関連に専門的なのだが、鍛冶や他の事にも多少は精通している。
それゆえに、エミリアほどではないにしろ、珍しいアイテムに対しての興味は多少なりあるようだった。
「よし、そうと決まれば善は急げ。 ミナルに向かうとしよう」
「そうだな。 だが、とりあえず出発は朝飯を食ってからだ」
腹が減っては戦は出来ぬ、昔から言われる、ある意味もっとも的を得た言葉であった。

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