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―2―





「ふぅー、それにしても今日はいい天気じゃのー」
ミナルからモレクまで、隣町という関係ではあるが、徒歩ならそれなりの時間はかかる。
急ぐ者のために町の間をつなぐための、護衛を何人か雇って乗り合い馬車などという商売をしている者もいるが、エミリアとディンはどちらかというと、基本的に歩いて町を移動するタイプの支援士だった。
エミリアはディンの後ろでぐっと背を伸ばし、二人は陽気につつまれた街道をほてほてと歩いている。
このあたりのモンスターは、普段通りならこの二人からすればそれほど強くはない。
戦闘に突入している時以外はいつもこんな調子である。
「そうだな。 いつもこうならありがたいんだが」
当然、突然の雨に打たれてそのへんにある木の下に避難して数時間、などということも珍しくは無い。
そう言う時は、運良く馬車が通れば途中乗車させて貰うこともあるが、雨の日は馬車で移動する人が多く、途中乗車では乗れない場合が多かったりするのも事実。
……なので、こういう日はかなりのびのびとした空気につつまれる二人だった。
「……エミィ、構えろ」
だが、そんな日の平原は徘徊するモンスターもそれなりに増える。
少し離れた所から、こちらの匂いでもかぎつけたのか、いくつかの人影のような姿が近付いてきていた。
「人間、ダス物ヲダシテモラオウカ」
身体こそ人間のそれとほぼ同じものの、首から上が野犬のような姿をした獣人系の魔物。
人語を解する辺り、先日のウェアウルフ(人狼)よりは頭はいいかもしれないが、スピードはそれより低い。
「コボルトか。 出せと言っても、カバンの中はカラじゃしのぉ」
とりあえず応急処置として穴をふさいだバッグの中身は、道中の昼食のためのサンドイッチくらいのものである。
「……こいつらはこういうモンスターだ。 いちいち気にするな」
ぶつぶつとそんなやりとりをしながら、周囲にいるコボルトの数と位置を確認するディン。
エミリアの前で壁になるように剣を構え、初撃を加える相手を見極める。
(……少し多いな……)
敵は七体。 一体一体はそれほど強くもないので二人がかりならなんとかならなくもないが、多勢に無勢の微妙な線であることはかわりない。
「イウトオリニシナケレバ……」
「断る!」
恐らく目の前にいるグループのリーダーと思われる、こちらに声をかけていたコボルトの首を、セリフが終わるその前に跳ね飛ばす。
少し卑怯だったかななどと一瞬思うが、付き合っていたのでは身が持たない。
容赦なく、続けて隣にいる別のものに斬りかかった。
「―我が手に宿りし青の精霊よ―」
その背後で一歩下がり、呪文の詠唱に入るエミリア。
布を取り払った杖の先端のアクアマリンが、わずかに青い光を帯び始める。
「はぁっ!」
ディンは目の前のコボルトの武器を、剣を振り上げて弾き飛ばし、そのまま隙の出来た腹部に蹴りを入れる。
そして、体勢を崩しよろけている相手とエミリアの直線状から退避して、そのまますぐ横にいた別のコボルトに向けてかけだした。
「全てを貫く槍となれ― アイスニードル!!」
詠唱を終わらせると同時に、杖をよろけたコボルトへ向け、『氷の槍』を放とうとするエミリア。
……しかし―
「……えっ!?」
一瞬杖の先が光るもすぐに輝きは失われ、何も起こらない。
「あ、ら…ライトニング!!」
焦りながらも、体勢を立て直したコボルトが向かってくるのが目に入り、無詠唱で発動できる呪文を口にするが…
杖の先に電気が走ったかと思ったが、それも一瞬で霧散してとても『攻撃』にはなり得ない。
「くそっ…… エミィ!!」
ディンはその状況に気がつき、ターゲットをエミリアの方へと向かうコボルトに切り替える。
だが、数歩後ろへ下がっていた彼女までの距離と、ディンからコボルトまでの距離は前者の方が僅かに短い。
敵の剣が振り上げられ、苦し紛れに杖を振り回すエミリアだが、魔法を専門にするマージナルの打撃力ではモンスターの行動を止めるほどのダメージを与える事はなかった。
「くっ……」
もうだめか、そう思い、ぐっと目を閉じるエミリア。
……しかし、その瞬間だった。
「グオオオオオオオ!!」
「なっ!!?」
白いものが彼女の前を横切り、襲いかかろうとしたコボルトを巻きこんで少し離れた位置へと着地する。
突然の闖入者に、二人も、コボルトの集団も唖然として動きを止める。
だが、一瞬早く我に帰ったディンが、エミリアの傍へと駆け戻り、手近にいるコボルトから斬り払っていき、敵の数は残り2体まで削られた。
「…<ruby>氷狼<rt>フロストファング</ruby>……?」
その間もエミリアは、目の前を通り過ぎて行き、今ディンと別のコボルトを相手にしているその白い影を、じっと眺めていた。
シッポを除いても2Mはあろうかという巨大な白い狼……その目は紫水晶(アメジスト)のような紫色の輝きを放ち、気高く、そして誇り高い空気を纏っている。

『―古より謳われし勇なる者 民の称えに答える如く 力を奮い我らを導く―』

美しいと思えるまでに、太陽の光を反射する白い体毛に目を奪われている間に、一人の女性の歌声と、フルートの笛の音が耳に入ってきた。
―そして、その『謳』が連れてフロストファングの動きが、より鋭く、力強いものに変わっていく。
「オオオ!!」
「これでっ!!」
そして残った2匹はほぼ同時に倒され、白い騎士と白き狼……二人は七つの屍に囲まれながら、剣と、牙を収めた。
―同時に、聞こえていた謳と、フルートの音も止まり、変わりに耳にはいってくるのは足音が二つ。
「銀牙(ぎんが)、ごくろうさまです」
そのうちの一人……カーディアルトの聖衣によく似た衣装に身を包んだ女性、銀牙と呼ばれたフロストファングの頭にやさしく撫でるように手を置き、もう一人のフルートをもった小さな少女は、嬉しそうにフロストファングの背に飛び乗っていた。
「……どうやら、敵じゃないようだな」
コボルトを倒した後も、警戒する程度収めていた剣に手をかけていたディンだったが、その光景を目にして、安心したように手を離す。
その一方で、エミリアは……
「紫眼のフロストファング……吟遊詩人(バード)……笛吹きの少女……」
呆然とした顔で、そんなことをぶつぶつと口にしていた。

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