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―4―





互いに持っていた弁当を少しづつ交換したりしながらという和やかな昼食タイムを過ごし、魔法が使えないという状態のエミリアの穴をうめるように、シアとユキの二人と、銀牙の一匹を加えて、ミナルまでの道中を共にした。
シアはバードの特性上、本人の攻撃能力はゼロだったが、それを補うように『英雄の謳』『戦いの謳』といった”自らが味方と認識している者”を強化する謳と『癒しの謳』『奇跡の謳』という声の届く範囲にいる味方を回復し続ける、レ・ラリラルのような謳で、ディンと銀牙の戦いを補助していた。
―欠点があるとすれば、”謳い続けなければ”効果を得られないと言うことと、その特性上”強化系の術の効果を残したまま回復する”ことが出来ないことだろうか。
ただ、効果範囲が”声の届く範囲”なので、発声しだいでかなりの広範囲の味方に効果を及ぼすことができるという利点もあるようだった。
―また、幼いためにジョブを持たないユキは、直接的な戦闘参加はできていないものの、フルートの演奏でシアの謳を補佐しているようだった。
意味があるのかどうかはあまりわからないが、とりあえず見ていて微笑ましい。




その後、夕方に差し掛かった所でミナルに到着する一行。
町は日暮れ前の夕食の買出しや、遊びつかれて家に帰る子供達の姿で賑わっている。
「ようやくついたのぉ」
道中の戦闘で全く力になれなかったことに、自身が戦う以上に疲れや気後れを感じていたらしいエミリア。
そういいながら吐き出す溜息には、その気持ちがありありと込められているかのようだった。
「モレクからなら、歩くとほぼ一日使いますからね。 出る時間によっては野営もありえますし、夕食前にたどりつけたのはよかったです」
―確かに、先日ミナルを出発してモレクにたどり着く前に、二人は平原で一夜を過ごしている。
あの時はなんだかんだで町を出るのが遅くなり、結局ついたのは日が昇った後だった。
……もっとも、そのおかげでティールに出会えたということもあるのだが。
「次からは馬車も考えておかないといけないかもな」
こういった不測の事態は、今回に限った事ではない。
今までは徒歩でもどうにかなってきたが、今後同じように無事に辿りつける保証はどこにもないのだ。
「そうじゃな……私は歩く方が好きなのじゃが……」
「あなたがたのような支援士の方なら、馬車の騎手の方からお願いされるかもしれませんよ? 乗り合いの馬車は、一般の方々も多く乗っていますし……
乗り合わせた支援士の方は護衛も兼ねていただくそうなので、実力があれば無料で、ということもあるそうです」
「ほう、詳しいんじゃな」
「一応、旅の身ですから。 と言っても、馬車は銀牙を警戒されて断られる事の方が多いんですけどね」
少し残念そうに微笑みながら、そう口にするシア。
確かに、人に慣れているとはいえモンスターを好んでのせるような馬車は存在しないかもしれない。
ふと顔を向けると、銀牙の背に乗っているユキも、不機嫌そうに頬を膨らませていた。
―彼女にとっては、モンスターとか人間とかは関係ない、大事な『家族』と言うことだろう。
「なるほど、いくら立派な『護衛』の仲間を連れているとはいえ、バード一人と女の子一人の旅で徒歩は珍しいと思っていたが……」
理由は、今の会話の中にすべて込められている。
気の毒にも思うが、客を乗せている側にしてみれば営業妨害にもなりかねない相手であることもわかる。
何事にも動じないような熟練の冒険者ならともかく、戦う術を持たず、モンスターに恐怖感しか持たない一般人などは、少し時間を遅らせてでも別の馬車を選ぶだろう。
「…『ぎんがはわるいこじゃないもん』? ……ああ、少し一緒にいた私とディンでもそれはわかる。 こやつは、お主達の友達じゃな」
エミリアの発言が気に障ったのか、再び文字盤をとりだして訴えるように指を走らせるユキ。
失言だったかな、と思い少し苦笑いを浮かべ、エミリアは銀牙の頭をなでながらユキに向かってそう答えた。
「ふふ、ありがとうございます。 ……ところで、そろそろ教会へ向かわなければならないので……」
その時、赤く染まった太陽の位置を見ていたシアが、そう口にする。
そろそろ日も沈み、星が見え始める時間帯……ディンとエミリアにしても、目的地に向かった上で、宿を探すにはギリギリの時間だろう。
「あ……そういやそうだったな。 カーディアルトなら目的はそっちか……」
「すまぬな、余計な話をふってしまって」
「いえ。 貴方がたのような方達に出会えて、私も嬉しく思います」
微笑んで答えるその横で、ユキと銀牙もその言葉に同意するようにコクリと頷く。
「ああ、こっちもだ」
「お主の歌声は私も好きじゃ。 今度戦闘などではなく、個人的に聞かせて欲しいのぉ」
「ええ、私などの歌でよければ、機会があればいくらでも」
互いに微笑んだまま、差し出した手を握り合う3人。
後からユキも銀牙に乗ったままその中に混じり、小さなてのひらを二人の手に向けて差し出していた。
銀牙は、どことなく嬉しそうに鳴き声を上げる。
「それでは、エミリアさん、ディンさん、また会いましょう」
「ああ、またな」
「楽しみにしておるぞー」







シア達3人は町の教会へと行くために二人と分かれた後、少し急ぎ足にディンとエミリアは当初の予定通りレイスの工房に向かっていた。
―ただ二人が気になったのは、フロストファングというモンスターである銀牙が町の中に入りこんで大丈夫なのか、という事だった。
だが、さっき別れる前までに見ていた分には、驚く者はいるものの、敵として警戒している程のものではなかった。
一応教会の関係者の『ペット』のようなものである以上、ある程度存在は知れているのかもしれない。
「まぁ、子供効果もあるかもしれんが」
確かに、何の警戒心もなく楽しそうに子供がその背に乗っていれば、たとえ相手がモンスターでも手は出しにくいだろう。
というか、敵意は全く感じられず、あれほど無害な獣もいるだろうか、という印象まで持ってしまうほどだった。
「―ふぅん、なかなか珍しい人に会っていたのね」
レイスは水槽に浮かんでいるなにかの結晶の様子をメモ帳に記録しながら、笑うような顔でそう口にした。
「ああ……モレクで会ったティールってやつも、もしかしたら子龍(パピードラゴン)とか呼ばれてるヤツだったかもしれないな」
「パピードラゴン……確かに黒い服を着て、長い槍を持った少女とか言われておったのぉ」
「『黒の錬金術師』とも会ってたんでしょ? そんなに噂の人と会ってるって事は、この大陸って、広いようで結構狭いのかもね」
名前の通った人間など、探せばいくらでもいそうなものだが、それでも町一つ往復しただけでここまで会うのは非常に珍しい。
復路でシア達に助けて貰った事も含め、そういう意味ではやはりこの二人は運がいいのかもしれない。
「―にしても、魔法が使えないっていうのは厄介ね。 しばらくこっちに留まるの?」
「ああ。 さすがにこの状態でダンジョンの探索はムリじゃからな……」
レイスがメモ帳を、びっしりと自筆の研究書が敷き詰められた棚の端に戻しながら言った事に、少し残念そうに溜息をもらし、そう口にするエミリア。
しかし、レイスは笑ってエミリアの方へと顔を向け、再び口を開く。
「丁度いいじゃない。 たまには2、3日くらいゆっくり身体を休めないと、もたないよ?」
「……そういやここのところ探索ばっかでろくに休んでないな。 確かに、少し骨休めでもした方がいいか」
なんとなくここ数日の事を思い出し、レイスの言葉に同意するディン。
確かに、最近は砂上墓所の探索に始まり、町の間の移動も含めてまともに休んだという記憶はなかった。
「うむ……いわれてみれば確かに…」
「そうそう。 何事もある程度休みを挟まないとね」
「わかった、いい機会だと思うことにしよう」
とは言っているものの、やはりどこか残念そうな空気が全身から漏れ出していた。
旅に出た当初から掲げている”道具、場所、自然現象全部をひっくるめて、『世界』をこの目で見たい”という目標からして、根っからの冒険者気質なのだろう。
……もっとも、町にいる時もレイスの研究につきあっていたり、逆にレイスにつきあわせて自分の魔法アイテムの研究をしていたりする事もあるのだが。
「今は特にしてもらう事も無いから、たまには観光気分で町まわってみたら?」
しかし、先手をとるようにそう口にするレイス。
厳密に言えば、『エメトの欠片』を少し調べてみたいという意識もあるのだが、話がここまで進んでしまった以上、なにがなんでも”なにもしない日”を過ごさせたいらしい。
「ま、今日はもうすぐ日も暮れるし……たまにはウチに泊まってく? さすがに宿じゃ無いから狭いけど、布団くらいなら用意できるよ」
とりあえず、ペースにのってしまうと周囲に有無を言わせない勢いがついてしまうことの多いらしい彼女。
満面の笑みで宿泊を勧めるその顔に、二人には逆らう気すら起きる事はなかった。

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