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―プロローグ―




日も沈み、月や星の全てが雲に覆われ顔を隠し、その大地を雨が叩く鉱山の町モレク。
いつもならば、酒場はたとえ外が暗くなろうとも人は多く、昼間と変わらぬ喧騒を見せるのが常だったが、雨天の夜ということもあるのかほとんど客らしい客はおらず、マスターがコップを磨く音だけが妙に大きく響いていた。
比較的荒っぽい人間が多いこのモレクで、ここまで酒場が静まりかえるのはむしろ珍しい。
だが、ただ一人で静かに飲む客と、静寂の中でグラスを磨く自分……これはこれで味のある空間かもしれないな、と、マスターは時々考えていた。
「……ん…?」
そんな時、ふと誰かの足音が耳に入り、外と内をつなぐ扉へと目を向ける。
間もなくしてその扉は、キィ…と言う音と共にゆっくりと開いていった。
その向こうから現れたのは、一人の小柄な少女。
雨に打たれて全身くまなく水浸しで、ぽたぽたと床に水滴が絶え間なく落ちて――いや、流れていくと表現した方がいいかもしれない。
「…………」
マスターは特別驚くわけでもなく、ただ観察するようにその少女の様相を眺めていた。
身長は130cmは無い、首から足首にかけて黒くなんの装飾も無いワンピースを身につけ、その上に袖の無い白いコートのようなものを羽織っている。
まぁ、少女と呼べる歳かもしれないが、14歳前後の程度の子供だろう。
―だが、そう考えると一つ気になる部分が彼女の中にはあった。
「…う……っ……」
「―!」
その事を考えようとした丁度その時、突然少女の足から力が抜け、そのまま酒場の床へと崩れ落ちていった。
思考の中に入りこみかけていたマスターは一瞬反応が遅れたものの、慌てるようにしてカウンターから飛び出し、少女の元へと走り寄る。
店の中にいたわずかな客もそちらの方へと注意を向け、静かだった酒場の空気は、また別なものを含ませた静けさへと変貌を遂げていた。

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