朱理は紅蓮の野に立つ ◆Wv2FAxNIf.
眼下には、黒く蠢く亡者の群れ。
それをモニター越しに睥睨しながら、紅月カレンは操縦桿を傾ける。
先刻のように遠距離からの奇襲を避けるべく、真紅の機体の高度は極力下げ、ビルの合間を縫うように進んでいた。
「逃げ隠れしているみたいで、性に合わないわ」
「消耗は避けるべきだと、お前も納得しただろう」
カレンが独り言のように呟いた声に、同乗している男が応えた。
極めて狭いコックピットの中、操縦者に接触しないよう無理な姿勢を長時間強いているが、さして苦ではないようだ。
そんなことよりも未知の乗り物への好奇が勝る――朱理はここにきてもなお、相変わらずの様子だった。
「操縦もそろそろ疲れてきたんじゃないか?
いつでも代わってやる」
「ダメに決まってるでしょ!
紅蓮は私にしか動かせないんだから」
無駄な口論を交えつつ、進路は東へ。
東京の中心部、死体の群れの発生源と思われる方角へと向かっている。
そんな中、異変に先に気づいたのは朱理だった。
「……カレン、二時の方角だ」
朱理の指示に素直に従いつつ、カレンは街の様子を注視する。
そして、群れの流れに変化が起きていることに気づいた。
東京の中心から外側へ向け、放射状に広がるように進軍していた群れの一部が、別の目標に向けて動いているように見える。
「何かいる……?」
「分からん。が、急げ」
「いちいち偉そうなんだから!」
操縦桿をいっぱいに握り、紅蓮が速度を上げる。
赤い流星のように軌跡を残しながら、死体の群れを追い越していった。
▽
四道はひたすらに走り続けていた。
軍師として、将として華々しく活躍してきた彼にはおよそ経験したことのない逃走だった。
指揮する兵も弾薬の一つもないのでは、いかに戦い慣れた彼でも逃げる他になかったのだ。
死体の群れの速度そのものは、そう速くはない。
だが問題は、死体であるが故か彼らに疲労というものがないという点にある。
疲れを知らず、補給すらも必要としない軍勢は決して止まることがなく、四道は早々に逃げ切れないことを悟った。
息を切らして篭城に適した建物を探すが、それすら間に合いそうにない。
ここで死ぬわけにはいかないという焦りが、胸を支配する。
――千手……!
帰りを待たせている者の名を、胸中で叫ぶ。
不本意ながら拾った命を、ここで失うわけにはいかないと奮い立たせる。
そしてもう一つの名が、四道の心を支えていた。
――タタラ!!
死の間際、四道は強く思ったのだ。
もしももう一度生を得られるなら――タタラを殺す。
赤の王の敵、朱理の道を阻む存在を抹殺する。
それは千手姫を想うように強く、四道の心に刻まれていた。
窮地に立たされた今も、その信念には乱れ一つない。
背後には多数の足音が迫り、独特の臭気が鼻をつく。
篭城の暇すらないと悟った四道は唯一の武器である剣を抜き、迎え討つ覚悟を決めた。
振り返り。
剣を構え。
群れの先頭をひた走っていた亡者に一閃、剣を振り抜こうとした。
だがその亡者の真上から<赤>が降ってきた。
「それ」を正しく表現する言葉を、四道は知らない。
ただそれに近い形容が、かろうじて脳裏をよぎった。
死体の群れを薙ぎ払う巨体、目を焼くかのような鮮烈な<赤>。
「悪魔……?」
▽
「朱理、あれ!!」
街を見渡していたカレンは群れに追われている男に気づき、その方角を指した。
「助けないと――……朱理?」
同乗している男の反応がないことを訝しみ、カレンはモニターから目を離さずに呼びかけ直す。
「聞こえてる」と、この男にしては何とも覇気のない声が返ってきた。
「ぼんやりしてる場合じゃないでしょ!? こんな時に!」
「四道……」
「え?」
「本当に、あいつが……」
それは、朱理との雑談のような情報交換の中で聞いた名前だった。
名簿の中に、知り合いの名前がある。
とっくに死んだ男なのだから、同名の別人だろう――と。
そんな分かりきったことをわざわざ口にしたのは、それだけその名が特別なものだったからだろう。
そう察しても、その時のカレンはそれ以上追及することはしなかった。
「死んだって言ってた……」
「死んだ。死体も確認した。墓も建てた。
だが、あそこにいるのは……四道だ」
紅蓮を上空に留まらせ、様子を窺う。
このままではあの男は数分ともたずに群れに追いつかれるだろう。
「……大事な人だった?」
「従兄だ。部下でもあった。一緒に育った……兄みたいなもの、だったのかもしれない」
カレンが息を飲む。
そして操縦桿を握る力をより強くした。
「だったら、さっさと助けるわよ!!」
衝撃に惚けていた朱理を引き戻すように声を張る。
エナジーウイングで機体を包み、急降下させる。
カレンには兄がいた。
今はいない兄の無念を晴らしたくて、レジスタンスになった。
もしもう一度兄に会えるとしたら――
「舌、噛まないでよね!!」
急激に操縦桿を傾けられた機体は鋭角に曲がり、赤い軌跡を描きながら死体の群れへ突進した。
▽
――隙を見てハッチを開けるから、行きなさいよ。
大波のごとく押し寄せる群れを、紅蓮はまるで蟻の相手をするかのように軽々と打ち破っていく。
それを操縦するカレンは一度も朱理の方へ振り返らずに、強い口調で言った。
――大事な人なら、話したいんでしょ! しっかりしなさいよ!
最愛の従兄だった。
会いたかった。
話したかった。
だが同時に、合わせる顔がなかった。
彼が死んだ原因は、他でもなく――
――あの連中の相手なら私と紅蓮に任せて。誰にも邪魔させないわよ!
今更、彼に向かって何が言えるだろう。
朱理の思考はそこで止まり、情けなくもカレンに後押しされるまで身動きが取れなかった。
まだ何も決めてはいない。
ただ追い出されるように、朱理は紅蓮を降りた。
鎧、マント、全てが赤づくめで、下がり気味の目尻の優男と対峙する。
「……朱理なのか?」
「阿呆め、他の誰に見える」
目の前の男に向けて、朱理は反射的に憎まれ口を叩く。
近くで見てもやはり記憶の中にある姿と相違なく、戸惑いは大きくなるばかりだ。
対する四道は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに破顔した。
「ああ、どう見ても朱理だ。
少し痩せたんじゃないか?」
「誰のせいだと思ってる。
お前がいなくなってから散々だったんだぞ、オレは」
口が勝手に動く。
もうずっと話していなかった相手のはずなのに、あの頃に戻ったかのように思えた。
「錵山は死んだ。亜相もオレを裏切った挙げ句野垂れ死にだ。
オレは沖縄まで逃げる羽目になるわ、死にかけるわ、奴隷商人に売り飛ばされたことまである」
「何だそれは。ぜひ詳しく聞きたいな」
『仏の四道』と呼ばれた頃のまま、四道は目を細めて笑っている。
周囲に殺到していた死体の群れは縦横無尽に跳ね回る紅蓮によって残らず砕かれて、四道と朱理の周りだけが台風の目の中のように穏やかだった。
「朱理、あれは?」
「簡単に言えば乗り物だ。ここに来てから知り合った女が操縦している。
今は信用していい」
「そうか、それはよかった」
四道がそう相槌を打った途端、朱理の背筋が総毛立った。
「なら、気にするのはタタラのことだけでいいな」
四道は何も変わっていない。
死体の山、仏の山を築き上げる男は健在だった。
四道は和やかといってもいい調子で、タタラへの殺意を露わにする。
「朱理、あれからどれぐらい経った?」
「……オレは一つ年を取った」
「そんなものか。お前の顔つきが随分違ったから、もっと経っているかと思ったよ。
それで、タタラはまだ生き残っているんだろう?」
それは、執念と呼ぶべきものなのだろう。
四道の最期を思えば、当然あってしかるべきものだ。
「……ああ。生きてるさ。
そんなことよりお前こそ……死んでるのか?」
「生きてるとはいえないが、機会が与えられたということらしい。
もう一度、お前と走るために。
今度こそ、タタラを殺すために」
四道は決して矛先を変えない。
仏の柔和な笑みは、とうに鋭い武人のものに変わっていた。
「なぁ、朱理よ」
聞き分けの悪い子どもを諭すように、四道は続ける。
無理や無茶を言い出すのはいつも朱理で、四道はそれを支え、時に誤りを指摘して正したものだった。
子どもの頃からずっとそうだったのだ。
「オレはあの桜島で思い知ったんだ。揚羽の忠告の意味も今なら分かる。
時代はタタラを味方していた。
武器もない、力もない、負けるはずのない相手だったのに負けたのは、そういうことだ。
だから、今なら殺せる」
紅蓮が群れを蹴散らしたところでまた新たな波が襲ってくる。
それを残らず迎撃する紅蓮は、朱理の肉眼では捉えきれないほどの速度で戦場を蹂躙する。
間断なく生み出される暴風の中、四道はなおも落ち着き払っていた。
「ここはオレたちの日本じゃない。
タタラを守るものはここにはない。
オレたちはもう一度――」
「四道!!」
たまらず朱理が声を上げる。
あの頃のまま――時代に置き去りにされて、時間が止まったままの従兄の姿を見るのが耐えられなかったのだ。
言葉を遮られた四道は、呆れたように首を振った。
「……その様子だと、お前ももう知ってるんだな」
「タタラは、更紗だ。
ああ知ってる、オレだって思い知ったさ!
だが今はそんなことはどうでもいい!」
最愛の従兄の命を奪ったのは、煮え湯を飲まされ続けてきた仇敵は、朱理が心を通わせた最愛の少女だった。
それが、どうでもいいはずがない。
それによって朱理と更紗は苦悩し、今なお決着はついていない。
だが二人が抱えた矛盾は、日本にとっては重要ではないのだ。
「お前が言った通りだ四道。
時代が選んだのはタタラだ。お前じゃない。
そして……赤の王でも、ないんだ」
その一言で、四道は呆気にとられたようだった。
何度か瞬きし、ゆっくりと口を開く。
「お前が……そんなことを言うのか。
そんなことを……言えるようになったのか」
「失礼なやつだな。オレだって変わる。
……日本だって、変わろうとしてる。
変わらんのは京都でふんぞり返ってる連中だけさ」
かつての朱理は暴君だった。
欲しいものは奪い、気に入らない者は殺した。
己の愚かしさに気づいたのは、いつのことだったか。
「殺されたから殺す。奪われたから奪う。
そんな時代は……終わろうとしてるんだ、四道」
四道に説教する資格などないと、朱理自身が感じていた。
だがかつて自分がいた場所に置き去りにされた四道を止めるために、朱理は言葉を投げかける。
タタラのためではない。
更紗のためでもない。
ただかつてそうだったように、四道とともに走りたかった。
そのために、朱理は四道に一つの事実を伝える。
「お前は知らないだろうが、千手姫は身ごもっていたぞ」
「何……?」
「オレはしばらく会っていない。
だが、強い女性だ。
今頃はもう、子どもが生まれているはずだ」
四道がタタラ討伐に出る前、太宰府で過ごした最後の晩に残した子だと聞いている。
四道の子であるということは朱理にとっても我が子に等しく、いつも気にかかっていた。
「お前は生まれてきたその子に、血生臭いものを残したいか。
憎しみを、禍根を、因縁を、次の時代に残すのか!」
「オレが終わらせればいい!」
朱理の叫びにも一歩も退かず、四道が吼え立てる。
「タタラも、その仲間も、全て殺す!
タタラこそ、我が子の代に残すべきではないのだ!」
四道が、遠い。
かつては誰よりも朱理の傍にいて、どんなことでも打ち明けられた。
今はただ、平行線を辿る。
「タタラを殺したいか、四道」
「当然だ」
「それならオレは、お前を止めなきゃならないな」
朱理は剣を抜いた。
体を動かすのは好きだったが、年上の四道にはいつも剣の稽古で負けていたことを思い出す。
「お前は……オレよりも、タタラを取るのか」
「……そうだ、とは言いたくないがな」
「あの娘が、オレを殺したんだぞ!」
「それは違う!」
朱理は叫んだ。
それこそが朱理の後悔であり、四道に告げなければならないことだった。
タタラに――更紗に四道が殺せたのは、四道に隙があったからだ。
更紗と朱理が惹かれ合っていることを知っていた彼は、タタラの正体を知って躊躇してしまった。
ならばその死の責任は、朱理にある。
そうとも知らずに朱理は彼の死後も更紗と逢瀬を重ね、体を重ねた。
「お前を殺したのは……オレだろう、四道」
「違う……やめろ。
悪いのはタタラだ」
「お前はそう言うだろうな。
……だからこうするしかないんだ」
朱理が剣を向けても、四道は剣を収めたままだった。
だが四道から相手を射殺さんばかりの殺意を向けられるのは初めてで、朱理の額に嫌な汗が浮いた。
「朱理……お前は本当にそれでいいのか」
「言っておくがタタラのためじゃあないぞ。
今の日本には、あれが必要だからだ」
「お前がそれを、選んだんだな」
「くどいわ! お前もとっとと抜け!
いつまでもオレだけ阿呆みたいじゃないか!」
ただ四道を止めるだけなら――殺すだけなら、朱理が紅蓮とともにここを離脱するだけでいい。
ここに置き去りにすれば四道は瞬く間に死体の群れに襲われて、朱理が手を下すまでもなく二度目の死を迎えるだろう。
だが朱理に逃げるつもりは毛頭ない。
過去に取り残された従兄をこの上、こんなところに捨て置けるはずがない。
「オレが直々に引導を渡してやるんだ。いい加減――」
「オレは抜かないよ、朱理」
優しい声が朱理の耳朶を打ち、構えていた切っ先がブレた。
四道の鬼気迫る表情は既に、町づくりを愛した『仏』のものに戻っていた。
「お前は変わった。
変わったが……朱理のままだ。安心したよ」
蘇芳を緑に囲まれた都にしたいと、そう語った時と同じ柔らかな笑顔だった。
桜、梅、桃、楓。
棗を植え、ブドウの林をつくり、砂漠の中でも栄える美しい国。
国の真秀ろばを夢見た男の顔だ。
「そう思うか。
オレは多分、王ではないぞ。
お前が忠誠を尽くした赤の王は、もういない」
それでもいいんだと、四道は穏やかに言う。
「オレが見たかったのはお前自身だよ、朱理。
赤の王じゃない。お前だ。
お前の走る姿が見たかったんだ」
――ああ。
四道は死んだ。
時代に置き去りにされて、取り残されて、いつまでも過去に囚われている亡霊のようだ。
何もかもがあの頃のままで。
あの頃のまま――朱理の最大の理解者であり、味方だった。
「四道、オレを試したな?」
「一皮剥けてもまだまだってことだな、お前も」
いたずらっぽく笑う四道に呆れ、朱理は剣を収めた。
まだ積もる話はあるが、まずはこの場を離脱するべきだろう。
「それにしても千手とオレの子どもか……。
今度こそ、帰らなければな」
「当たり前だ。これまで苦労させた分……」
「何が起きたか」など、四道には分からなかっただろう。
四道と向かい合わせで立っていた朱理にすら、分からなかったのだから。
『四道の背後に立つ黒衣の男が、いつからそこにいたのか』。
『いつ剣を抜いたのか』。
『いつ、四道の首を刎ねたのか』。
四道の首が落下していく。
彼の体も力を失い、崩れるように傾いていく。
「ぁ…………」
朱理の喉から勝手に音が漏れた。
「逃げろ」と全身が叫んでいる。
しかし蛇に睨まれた蛙のように一歩たりとも動けず、黒衣の男は不気味に口角を吊り上げた。
黒衣。黒髪。血のように赤い瞳。そして――
――美しいだろう?
男の口が、そう動いたように見えた。
同時に男は『それ』を高く掲げたのだ。
朱理がこれまでに見たこともない、赤い刀身――
『お前がぁぁぁぁああああああああああああああああッ!!!!』
機械によって拡大された音声が辺りをつんざくと同時に、紅蓮の大きな左手が黒衣の男の顔面めがけて飛来した。
跳びすさってそれを避けた男は小さく一つ舌打ちし、さらに大きく後退する。
既に逃走する算段であることは朱理にも分かった。
『許さない!! 許さない、許さない、絶対に殺してやる!!!』
「カレン、待て! 落ち着け!!」
朱理とて冷静とはいえない。
だが完全に怒りに我を失っているカレンを前にして、踏みとどまらざるを得なくなったのだ。
『逃がさないわよ!!』
紅蓮は朱理を無視して突っ込もうとしている。
朱理とてここで男を逃がしたくはない。
だが一つの出来事が朱理の注意を奪った。
そしてそれはカレンにとっても同様である。
黒衣の男が数秒前に立っていた場所――即ち四道の死体が、目映く光り出したのだ。
その光は花火のような音と衝撃をもって空へ打ち上げられ、彼方へ消えた。
その光を、朱理はただ見送った。
「四道……」
光が飛び去った後、死体は消えていた。
黒衣の男もこの隙に乗じてとうにいなくなっており、残るのは死体の群ればかりである。
紅蓮から、すすり泣く声が木霊した。
【四道@BASARA 死亡】
▽
赤い「鎧」は、追ってこないようだった。
放送局で確保した黒い鎧とは類似点が多くあり、恐らくはこれが本来の能力なのだろう。
婁の肉体など一撫でしただけで消し飛ばしかねないほどの破壊力を有しており、早々に撤退したのは正しい判断だったと言える。
『…………』
走ってより遠くへ逃れる中、婁震戒は口を閉ざしていた。
念願の参加者を斬ったというのに、七殺天凌が沈黙していたからである。
常であれば玉が転がるような喜悦の笑いが聞けるところであり、婁も当然それを期待していた。
普段との様子の違いに、婁は黙して彼女が話すのを待った。
『……どうやら、魂魄に逃げられたらしい』
「魂魄?」
『生体魔素は食ろうてやったわ……だが所詮それはうわべだけよ。
わらわが求めるのは悲哀に、痛みに、絶望に、希望に……何もかも!
それが、滑り落ちるように離れていきよった……!』
「では、あの光は」
赤い鎧から離れるため、よく観察していたわけではない。
だがあの四道という男の死体に何かが起きていたのは確かだ。
『まだ分からん。
確かなのは、わらわの食事に邪魔が入ったということよ』
「……申し訳ございません、媛。
このような小細工があろうとは」
能面のような表情を張り付けながら、婁は内心で怒り狂っていた。
七殺天凌に血と魂を捧げ、悦ばせることこそ生き甲斐。
それを妨害されるのは、魂を踏みにじられるのに等しい。
『よい。しばし様子を見るとしよう。
腹もそれなりに満たされておるのでな』
「御意……」
煮えくり返るような怒りを抱えたまま、婁は次なる獲物を求め奔走する。
【一日目昼/目黒】
【婁震戒@レッドドラゴン】
[所持品]七殺天凌、ルルーシュの携帯電話(故障中)、蜃気楼の起動キー
[状態]健康(還り人)
[その他]
- 七殺天凌は〈竜殺し〉
- 還り人たちを通して会場全域の情報を得る。
- ルルーシュの能力についてほぼ把握
- 四道の生体魔素を得る
▽
「……もういいだろう、カレン」
「…………」
朱理が紅蓮の手に抱えられる格好で離脱した後、二人はまだ被害を受けていない建物の屋上に降り立った。
カレンは先ほどの狂乱は既に治まっていたが、代わりに大粒の涙をこぼし続けていた。
それを朱理がなだめているが、厳しく睨まれるばかりだった。
「お前が泣くことはないだろう」
「っ……だって!
朱理だって、悔しいでしょ……!」
「オレは悔しい。ああ、正直どうかしそうだ。
だがお前は関係なかっただろう?」
「でも、……朱理の、お兄ちゃんだったんでしょ!?」
部下であり、兄のようであり、幼い頃から一緒に育った四道。
その「兄」という言葉は、カレンにとって特別な響きを持っていたようだった。
「死んだと思ってて……でも、また会えて……話せて……っ!
なのにあいつが!!」
四道との邂逅は、他人事には思えなかったのだろう。
カレンは目蓋を腫らし、またはらはらと涙を落とした。
「……ありがとうな、カレン。
オレの分まで泣いてくれて」
泣きたい気持ちはあったが、そうしている場合ではないと、カレンのお陰で少しは冷静でいられた。
胸の内側は、燃えるような憎悪で満たされている。
殺されたから殺す、そんな時代は終わろうとしているのだと、どの口が言ったのか。
最愛の従兄をもう一度奪われた男は己の言葉を噛み締めながら、天を仰いだ。
――お前なら、どうするんだろうな。
こんな時なのに。
決着の時を目前に控えていたのに。
自分ではないもう一人の運命の子どもに、思いを馳せずにはいられなかった。
【一日目昼/目黒】
【紅月カレン@コードギアス】
[所持品]紅蓮聖天八極式、ポーチ、財布等
[状態]健康
[その他]
【朱理@BASARA】
[所持品]剣
[状態]健康
[その他]
最終更新:2017年05月15日 23:36