シーモア、一策を講じる ◆Wv2FAxNIf.
今のティーダにとって、シーモアは脅威足りえないはずだった。
倒す都度復活と強化を果たし道を阻んでくるシーモアは厄介ではあったが、ティーダの成長速度はそれを遥かに上回る。
まして最強武器の一角のアルテマウェポンを手に入れた後となっては、軽く一蹴してしかるべき相手である。
不完全とはいえ大技エース・オブ・ブリッツも決まり、本来であればとうに決着がついている戦いだ。
だがシーモアはまだ立っている。
どころかまだこれからとでも言うように、余裕の表情を浮かべている。
「グアドサラムでもこうはいくまい。
まるで私の為に用意されたかのようだ」
人とのハーフではあるが、シーモアはグアド族だ。
その土地に異界を擁する彼らは幻光虫の扱いに長け、幻光虫で構成される魔物を使役した戦いを得意とする。
幻光虫で満たされた異界で真価を発揮する種族と言える。
その部族を治める長であるシーモアにとって、この「東京」は考えうる限りで最高の環境だった。
仮初めの住民たちは幻光虫で形作られ、死人(しびと)のように街中を徘徊している。
彼らを消滅させればさせるほど気体中の幻光虫の濃度は高くなり、シーモアの一部として吸収される。
そして魔物を活性化させる空気が、この土地にはあった。
それがニル=カムイという土地と酷似したものであることは、ティーダもシーモアも知るよしもない。
唯一気付く可能性のあるスアローもそうした知識に疎く、気付くことはなかった。
「ここで死ねば、苦しみから解放される。
父親を殺すことに悩むこともなくなるのだ。
私はお前もお前の父親も救ってやろう」
「いちいち!! うるっせえっての!!!」
「ちょっと、僕がちっとも会話についていけてないんだけど!
何でそんな物騒な話をしてるのかな!?」
ティーダと並ぶスアローはこの状況でなお緊張感がない。
或いは「持てないのではないか」とさえ、ティーダには思えた。
シーモアは未だスアローに関心を見せる様子はなく、会話の矛は絶えずティーダへ向いている。
「私が父ジスカルを殺めた時もそうだった。
あの男も、過去に己が犯した罪に苦しんでいたのだ。
私はそれを解放したまでのことで――」
「いい加減――」
ティーダがシーモアの言葉を遮ろうとして、止まる。
一瞬、陽光が遮られたのだ。
シーモアに斬りかかろうとしていたティーダが咄嗟に後退すると、幻光異体めがけて影が落ちた。
黒髪の青年が建物の屋上から飛び降り、剣を突き立てていた。
青年は幻光虫を散らしながら剣を引き抜き、ティーダの隣りへと飛び退る。
「親を殺すとか殺したとか、ここにきてから嫌な話ばっかさ!
俺っちが加勢してやっから、とっとと片付けるさ!」
「誰だよあんた! 助けてくれるのか!?」
「俺っちは黄天化。助ける理由は、俺っちが気に入らねえからさ!」
破壊された幻光異体はシーモアの体力を吸い上げ、瞬く間に元の形状を取り戻す。
そしてすかさず全体魔法のファイアを放った。
アルテマウェポンのカウンターアビリティが発動するのは個人に向けられた魔法のみであり、三人はまともに攻撃を受けてしまう。
「ッ、あいつのこと嫌いだってんなら、気が合いそうだな!
このまま一気に三人で――」
「あ、僕は下がるよ」
「はぁ!?」
「剣があと二本しかないんだ。いやー、援軍がきてくれてよかった!」
スアローは悪びれもせずに、本当に戦線から退いてしまう。
この男の剣の事情を知っているティーダでも絶句する呑気さである。
「あの兄さんがスアローってのかい?」
「ん、そう言ってたっス」
「へぇ……ま、後で確認するさ!」
ヘイスガ、クイックトリックによる加速。
ティーダの戦法はスアローが抜けても変わらない。
例え周囲の幻光虫を取り込んで強化されるとしてもそれは無限ではないはずだ。
それ以上の速度で倒せばいいと、ティーダの剣は勢いを増していった。
▽
シーモアはここまでの応酬で、ティーダの武器が持つアビリティを確かめていた。
回避カウンターと魔法カウンター。
ティーダ個人に向けた攻撃は尽く回避され、斬撃によるカウンターが行われる。
加速したティーダに更なる手数を与えることになるため、シーモアが得意とする連続魔法は逆効果である。
ブレイクによる石化も防具によって弾かれているようだ。
そうなればシーモアは当然、戦法を変える。
ティーダを無視し、新たに加わった天化という青年へ連続魔法を集中させる。
天化の身体能力がいかに高くとも、ティーダのように武器や防具のアビリティがなければ魔法の回避は不可能である。
ティーダが援護としてバファイを初めとした耐性魔法を使用しても、幻光異体の全体魔法とデスペラードなら解除できる。
攻撃に集中する分シーモア自身もダメージを受けはするが、周囲の幻光虫で回復することで一方的に天化を消耗させていく。
更に耐性魔法を使わせ続けることでティーダの手数を削り、結果として防御を兼ねた攻撃となった。
「きったねえ……そんなに俺が怖いかよ!」
「安い挑発はよせ。
だが私はお前も救ってやらねばならない。
この私と幻光異体が相手をしてやろう」
ティーダは耐性魔法の他にも白魔法を獲得しており、天化の傷もある程度回復させてしまう。
周りの死体を使い切れば不利になるのはシーモアの方であり、どこかでアルテマウェポンを突破しない限り勝機はない。
故にシーモアは斬りかかってきたティーダと天化に、幻光異体の全体魔法をぶつける。
そしてその勢いで正面の建物の一階へ叩き込んだ。
連続魔法でサンダーを打ち込む。
対象はティーダでも天化でもなく、建物の支柱だ。
これまでにティーダに躱された魔法はこの建物に集中させていたので、下準備は既に終わっている。
傍に人が通れるような大きさの窓や出入り口がないことは確認済み、叩き込んだ入り口は幻光異体が塞いでいる。
「ご自慢の武器も、これでは役に立つまい?」
建物が崩壊する。
回避カウンターも魔法カウンターも発動しようがない大質量が、二人の頭上に降り注いだ。
▽
「やばっ……」
天化は体を起こし、人の体ほどもある石片が落ちてくるのを躱しながら走る。
使えそうな窓や扉はない、逃げ道があるとすれば正面の幻光異体。
強引に突破する他にない。
できなければ死ぬだけだ。
隣りにいるティーダも考えは同じようで、目が合い、頷き合う。
「負けてたまるか」という負けん気は、天化の中に常にある。
だが同時にそれで周囲を見失わない程度の冷静さも併せ持っている。
この時も間に合わせる為の道筋を見極めようとしていた。
幻光異体に剣を届かせるまでの歩数、それを越えた後のシーモアを掻い潜るのに必要な時間。
その計算の最中、天化とティーダの目の前に上階の壁が落ちてきた。
それが視界と道を同時に塞ぐ、致命的な数秒の空白を生む。
死んだ母と、どこにいるのかも分からない父と、故郷の兄弟たちの顔が浮かんでしまう。
天化とティーダはそこで、闇に飲み込まれた。
▽
「だからやめておけばよかったんだ、あの馬鹿……!」
ルルーシュは息を切らしながら階段を駆け下りていた。
制止を振り切って飛び出していってしまった天化への悪態は尽きない。
とはいえ隣りの建物が倒壊したとあっては、ルルーシュも動き出す他なかった。
(考えろ、俺がやるべきこと……あの剣を手に入れる為の最善手を……!
まずは現状の確認だ、あのシーモアとかいう化け物はまだ俺の存在に気付いていない。
そしてあの連中は――)
途中階の窓から、ルルーシュは様子を窺う。
崩れ去った建物による粉塵で地上は白く染まっている。
時間が経つにつれてそれが晴れていき、影が見えてきた。
「……何だ、生きてるじゃないか」
生きていればまだ利用できると、ルルーシュは笑う。
この笑みにそれ以上の理由はないと、己に言い聞かせながら。
「仮は返してもらうぞ。
この俺を巻き込んだんだからな」
シーモアの立つ広場。
倒壊した建物。
周囲の建築物の位置関係。
魔法の威力。
残った三人の戦闘力。
ルルーシュが導き出す答えは――
▽
シーモアは顔を顰めていた。
相手にしていなかったイレギュラーによって計画を崩されたのだから、それも当然だろう。
「使いたくなかったんだけどなぁ」
倒壊した瓦礫の下から出てきたのは、漆黒の塊だった。
影そのものが形を成したようなそれが解けると、ティーダ、天化、そしてスアローが姿を見せた。
崩落が始まった時、スアローは残る二本の剣のうちの一本で外壁を叩き壊した。
細い剣で分厚いコンクリートの壁を崩す、常人には到底成し得ない行動である。
そして瓦礫の前で動きを止めていた二人を、〈黒の帳〉で包んでやり過ごしたのだった。
「頼りねえ兄さんかと思ってたのに、あんたやるなぁ」
「いやぁ。たまには働かないと怒られるからね」
悠長な会話がシーモアの神経を逆撫でる中、ティーダが剣を構え直す。
「これで、仕切り直しだ……!」
【一日目昼/渋谷(東部)】
【スアロー@レッドドラゴン】
[所持品]両手剣×1
[状態]軽傷、魔素を消費
[その他]
【ティーダ@FFX】
[所持品]アルテマウェポン
[状態]MPを消費
[その他]
【シーモア@FINAL FANTASY X】
[所持品]不明
[状態]シーモア:異体、死人
[その他]
【ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[所持品]なし
[状態]七殺天凌に魅了されている
[その他]
【黄天化@封神演義】
[所持品]莫邪の宝剣、鑚心釘
[状態]左脇腹に傷、軽傷
[その他]
- ルルーシュの「俺を助けろ」ギアス使用済み(効果が継続しているかは不明)
- 婁の宣戦布告を目撃
015:望まぬ再会 |
スアロー・クラツヴァーリ |
- |
ティーダ |
シーモア |
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア |
- |
黄天化 |
最終更新:2017年11月20日 00:56