• 3.5フレーバー

    それは、私がいつものように、息子のために不死身料理の試作を作っていた時だった。エリスが倒れたと聞き、私は取るものもとりあえず、彼女の元に駆け付けた。寝所で横になる彼女の顔は、かつての面影も無い程に、ひどくやつれ果てていた。

    「エリス、どうしたの!? …いったい何があったの!?」

    エリスの侍女の話によれば、ここ数年、エリスは黄金の林檎を穫り行くと言っては、何日も戻らないことが、幾度もあったという。おそらく、その無理が祟ったのだろう…林檎穫りの帰りに、道に倒れているところを侍女が見つけたとのことだった。しかもその際に、やっとの思いで手に入れた最後の林檎を失くしてしまったそうで、その無念も加わり、枕も上がらぬほどに弱りきってしまったらしい。

    「そんな――エリス……ごめんなさい…」

    私は、何も分かっていなかった――いや、分かろうとしていなかった。あの、たくさんの黄金の林檎を手に入れるために、そうまでしてくれていた、彼女の気持ちを…。

    エリスの手を握ると、彼女はうっすらと笑みを浮かべ、弱々しく握り返してくれた。私は喉が詰まりそうになるのをなんとかこらえて、声を絞りだした。

    「…エリス、私のためにこんなにボロボロになるまで……それだというのに、私は息子を不死身にすることばかり考えて……全部、私のせいだわ…」

    エリスは首を振った。しかし彼女の手からは、ゆるゆると力が失われていく。

    「そうだわ…エリス、これを!」

    私は、持っていたバスケットを開くと、その中身を取り出した。

    「これは不死身料理の試作――あなたの林檎で作ったアップルパイなの…!」

    エリスの体がこわばったのが分かった。優しい彼女は、息子の為に作ったこの貴重なパイを、自分が食べるわけにはいかない――そう思ったのだろう。でも、でも違うの…これは、今、あなたにこそ食べて欲しいの……いいえ、どうか食べてちょうだい!

    私は、身を引くエリスを構わず抱きかかえ、アップルパイを彼女の口に押し込んだ。ところが、彼女は元気を取り戻すどころか、ガタガタと震え、悶えだしたのだ。

    「どうしたの!? エリス!?」

    エリスは大きく呻きを上げ、体の震えはどんどん激しさを増してゆく。私は恐ろしくなって、震えるエリスの体をただただ抱きしめるしかできなかった。

    「どうして!? 不死身料理のはずなのに…! まさか、また失敗……!? どうしよう…もう林檎は無いのに……どうしよう…エリスが…死んじゃう!!」

    絶望が私を押し潰そうとしたその時だった。

    ――バンッ!!!

    寝所の扉が力任せに開け放たれ、エリスの侍女が息せいて駆け込んできた。彼女は私の腕からエリスを奪い取ると、エリスの口元に何かを差し出した。それは、黄金に輝く果実――エリスが失くした黄金の林檎だった。そうだ…これがあれば……!!

    私は侍女の手から黄金の林檎をもぎとり、叫んだ。

    「エリス! 待ってて! 今すぐ料理を作り直してくるから!」

    その瞬間、エリスは目を見開き、バネのように跳ね起きると、私の手から林檎を石火の如く奪い取り―――放り投げた。

    黄金の林檎は、流星のようなきらめきと共に、遥か彼方に消えてゆく。

    突然のことに、私はただ茫然と林檎の描く美しい軌跡を眺めるしかなかった。そして気付いた――エリスが“立っている”ということに。

    「エリス!? …元気に…なったの…?」

    エリスは我に返ったようにゆっくりとこちらを向くと、いつもの彼女らしい、少し皮肉めいた微笑みを浮かべてくれた。彼女は何か言いたげだったが、私は構わず彼女を思い切り抱きしめた。

    「よかった…! 本当に…本当に!!」

    エリスは私を押しのけ、再び何か言葉を口にしようとする――きっと、黄金の林檎を失ったことについて、謝ろうとしてくれているのだろう。私は彼女の唇を指で遮った。

    「…いいの、もういいのよエリス」

    エリスは不思議そうに私を見つめ返した。それもそうだ。私はそれを、あんなにも際限なく欲しがっていたのだから。でも――

    「私が間違っていたわ。いくら息子のためとはいえ、エリスを苦しめるようなものに、頼ってはいけなかったのよ。だからもう――黄金の林檎はいらないわ」

    驚いたように目を見開くエリス。私は、彼女の手を握りしめて言った。

    「息子を不死身にする方法は、他にもあると思うの。そう、この広い世界を探せばきっと他にもあるはずよ! そうね…『創世主』の力を宿したあの“紅い石”なんてどうかしら? うん、きっといけるわ! そうと決まればさっそく出発しなきゃ!」

    自分を信じ、強い意志を持ち続ければ、いつかきっと願いはかなう――私はそう信じてきた。でも、そうではなかった。私は、こんなにも私を思ってくれる友達の支えがあったからこそ、その意志を保ち続けることができていたのだ。だから――

    「――だから、もちろんエリスも一緒よ! あなたとわたしは親友だものね♪」
    身長
    1.58[meter]
    体重
    息子への愛でいっぱいよ
    目標
    不死身の息子
    使命
    不死身料理の完成
    味見
    味より質よ!
    テイスター
    ネーレウス
    keypot -- (名無しさん) 2016-07-11 02:22:15
  • 考察以外を修正しました -- (名無しさん) 2016-09-23 22:01:04