【哭】アンダーテイカー(R)
基本情報
名前 【哭】アンダーテイカー
種族 不死
ジョブ ディフェンダー
召喚コスト 30
<タイプ> 魔人
タイプ ミュータント
HP 400
ATK 40
DEF 40
覚醒
超覚醒
アーツ
CV

アビリティ
召喚 なし
覚醒 なし
超覚醒 魂を削り君を討つ
攻撃力が上がる。ただし、自身が戦場に出ている間、防御力が徐々に下がる。
アーツ 君に捧げる僕の印
【STIGMATE】自身と範囲内の自使い魔1体(降魔、魔神を除く)を消滅させ【紋章】を作る。
この紋章は、戦場にいる自ユニット全ての攻撃力を上げ、自ユニット全ての防御力を下げる。
この能力は、自身が超覚醒していないと使用することができない。
消費マナ なし
効果時間 永続
wait時間 ?秒
最近修正されたバージョン Ver3.511 [2017.03.07]

ステータス
状態 HP ATK/DEF
召喚 400 40/40
覚醒 450 60/60
超覚醒 500 210/120〔超覚醒直後〕
210/110〔超覚醒後10秒経過〕
210/1 〔超覚醒後120秒経過〕

DATA・フレーバーテキスト
+ Ver3.?
Ver3.?
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イラストレーター
フレーバーテキスト
|
『昏い鎖は、誰が墓に』

 『エリオット・マーカス・ジュニア』――ぼくは、この名前が好きじゃない。

 自分の名前ではあるのだが、その三分の二がこの世でもっともきらいな男の名であり、のこりが「そいつの血を引いている」というおそろしい事実をしめしているからだ。
 そもそも、あんなやつが自分と同じ名を子につけようとする神経が分からない。
 ごくふつうの幸せな家なら、その幸福や自分の歩いてきた人生の価値を受けつがせる意味をこめて、子供に自分と同じ名をつけることもあるのだろう。貴族にそういった名づけ方をするやつらが多いのは、きっとそういった理由からだと思う。
 けれど、ぼくの家には当てはまらない。まったく当てはまるはずがない。

 ぼくの家は墓だった。それは言葉通りの意味で、この見わたすかぎり――半エーカーほどの墓地こそがぼくの家であり、世界だった。
 つまり、ぼくの父親は『墓守』で、ぼくは死体が埋まった庭で遊び、冷たい墓石に囲まれて育ったのだ。 
 母親はいない。いたらしいがおぼえていない。あの男が言うには、“ぼくの家の庭”の南にあるハシバミの木の下に埋まっているらしい。
 小さなころは、べつに自分が不幸だとは思っていなかった。しかし大きくなって、通りを楽しそうにふざけあいながら通学する自分と同じ歳ごろの子供たちの姿と、彼らがぼくに向ける、自分たちとはちがうものを見るような目を見た時に、そのことに気づかされた。 
 そのとき少し悲しい気持ちにはなったけど、それは一時のことですぐに気にならなくなった。
 人づきあいがほとんどなかったせいで、他人にどう思われるとかはぼくにとってどうでもいいことだったし、それに、物心ついたころから“死”と暮らしてきたことがぼくをささえてくれていたからだ。

 死は平等で、誰にでもおとずれる。

 ぼくを笑ったあの子らも、いつもオンスをごまかすイジワルな肉屋の親父も、貴族でさえも、みんな死ねばきれいに同じ死体になって土の下だ。それを管理して守るのはぼくらであり、どんな偉いやつらでも結局はぼくらの世話になるしかないのだ。そう思えばいくらか気も楽になった。
それに『墓守』がいやしい仕事だとも思わない。中にはそういう風に思うやつもいるのだろうが、辛い一生を終えた人を、まぶしい光がとどかない土の下に横たえて、安らかな眠りにつかせるのはいいことだと思っていた。
 かれ葉やクモの巣を取りはらって、そんな人たちが眠る土の上をきれいにしてやるのは気持ちがいいし、墓に模様を彫りこむ仕事もきらいではなかった。“文字”はまだ彫らせてもらえなかったけど……。
 だから、ぼくが汚くてけがらわしいと思うのは、じゅんすいにあいつ――父親じたいのことだった。

 あいつは死をあざ笑っていた。
 “平等におとずれる眠り”ではなく、“人を土カスにするもの”としか思っていなかった。
 そうやって『墓守』であることを、自分自身でいやしいものに落としこんでいたんだ。
 だから仕事もほとんどぼくにやらせて飲み歩いてばかりいた。

「ジュニア、お前はオレの減らねぇ財産だ。財産は主人を幸せにするためにある。だからお前はオレが喜ぶことをしろ」

 酒くさい息をぼくに吐きかけながら、口グセのようにしょっちゅうそんなことを言っていた。
 しかし、そんな風に日の高いうちから飲んでいられるなんて、そんなに『墓守』はもうかるのか、というともちろんそんなことはない。まっとうにやっていたって、日々のパンを買うのもせいいっぱいくらいだ。
 つまり、あいつは“まっとうではない”やり方で金をかせいでいた。

 あいつは――死体を売っていた。
 安らかに眠る死体を掘りかえしては、医者やどこぞの大学、怪しげな団体に売りつけて金をかせいでいたのだ。とくにある“結社”からはかなりひいきにされていて、買い手にはまったく困らなかった。
 その中でも、一度にたくさんの死体を欲しがるあの“女魔術師”は不気味だった。一度、そんなにいったい何に使うのかと聞いたら、「気に入った魂の入れものにする」というようなことを言っていたっけ。だから、そいつには何だかんだと理由を付けて、できるだけ売らないようにしていた。
そんな金で生きなきゃならないことがいやだったし、“それしか知らないから”という理由で、やはりそれを手つだっている自分もいやだった。
 そうやって、あいつと同じ名前で、同じ仕事をして、あいつの用意した同じ人生を歩く――すごく、いやだ。
 ひょっとしたらあいつは、死んで死体になっても汚らしい魂だけぬけ出してぼくの体を乗っとり、そのまま生きつづけようとしているんじゃないだろうか? だから同じ名前をつけたんじゃないだろうか? そう考えるとおそろしくてたまらなかった。
 だから、ぼくは深く深く、ふだんより三倍くらい深く埋めることにした。

 埋める――そう、あいつは先週、とつぜん死んだのだ。
 原因が何かはわからない。ただその日、あいつは昼になっても起きてこなかった。
 ほうっておいたのだが、次の日になっても起きないので、少しさわってみたら土と同じ冷たさになっていた。そこで、ああ、死んだんだな、と思った。

 そうして今、僕はあいつを埋める墓を掘っている。
 べつにあいつに安らかな眠りを与えたいわけじゃない。たださっきも言ったとおり、魂だけ出てこられても困るし、あんなやつにも死は平等だ。だからぼくは平等に埋めなければならない。
 この墓地はぼくの家だと言ったが、正しくは教会の持ちもので――さびれていて、もう誰も祈りにすら来ないけど――ぼくらのための区画なんかはもちろんない。なので、やっぱりハシバミの木の近くに埋めることにした。
 広がりまくった木の根がすごくじゃまだったけど、ていねいに取りのぞいて深く深く掘っていった。とちゅう、もしかしたら“母親”が出てくるかも、と思ったが、そんなこともなく、ひたすら掘り下げていった。
 そのうち土を投げ上げることもむずかしい深さになったので、オケに土をためて、ハシゴで地面に上がってはそれを引き上げなければいけなくなった。それを何度もくり返す。一人ではかなりきつい作業だった。ほかの日課のことを考えると、とうてい1日では終わらないだろう。

――死んでまでこんな苦労をさせるなんて、本当にあいつはいやなやつだ。

 そんな風にモヤモヤとしながら、ふと手を止めて穴の底から上を見上げた。
小さな四角い窓から見える汚い雲――この街でよく見る、ただ灰色なだけの空――なんだか、とてもさびしい気分になった。
 穴の底で、一人――。
 一人にはなれていたし、父親が死んだからってさびしくなんてなかった。けど、こうしていると、なぜだか世界から切りはなされてしまった気がして――本当は死んでも安らかな眠りとかなくて、ただこんなさびしさがつづくだけなんじゃないかと――

「これ、誰のお墓?」

 とつぜん、その窓に小さな顔があらわれた。 
 影になって顔はよく見えないが、声からすると女の子にちがいない――のだが……やはり、ぼくに話しかけているのだろうか。

「……誰?」
「答えたいけど、このまま下を向いて話すのは疲れるかな。上がってきてよ」

 とまどった。そもそもだ、友だちもおらず、学校にも行ったこともなく、父親以外に人と話すことじたいあまりなかったぼくが、「どけ」とか「じゃまだ」とかではなく、こんな風に見ず知らずの誰かに話しかけられることなどはじめてなのだ。
 何かイタズラをしかけられるのだろうか? でも、女の子がぼくなんかをからかってどうする? 近所のチンピラれんちゅうならいざ知らず……。けれど無視してこの場を去ろうにも、やはり上がって穴を出るしかないのだ――下を向いてそんなことをつらつら考えていると「どうしたの?」とか、「はやくぅ」とか、「まだぁ?」といった声がつぎつぎ降ってきた。
 ぼくはいたたまれなくなって、おそるおそるハシゴをのぼってみた。
 穴から顔を出すと、女の子が近くの墓石の上にちょこんと座り、「やっと出てきた」と、にこにこ笑ってぼくを見ていた。

 身なりが、とてもいい。
 肩のあたりがふくらんだ、街では見かけないきれいな白いドレスを着ている。歳はぼくと同じくらいで――ぼくは自分の歳がわからないのだけれど――おそらく18歳くらいだろうか、ふわりとやわらかそうな、少しクセのついたブロンドの髪に、丸くて大きなグリーンの瞳が印象てきだった。

「………あんたは、誰?」
「質問は私のが先。ねぇ、それは誰のお墓なの?」

 女の子はなつっこい笑みをうかべたまま、まだ穴に半分体を沈めたままのぼくをじっと見つめてたずねた。ぼくはなぜそんなことを聞きたいのか分からず口ごもったが、彼女の有無を言わせない視線に押されて、つい、答えてしまった。

「ぼくの……父さんの」

 かくすつもりはないのだけれど、勝手と言えば勝手に敷地に穴を掘っているので、少しバツが悪かった。

「あら……」

 けれど彼女は、

「……ごめんなさい」

 と、ひどくすまなそうに顔をくもらせた。

「ううん。それであんたは……」
「君、ここの人でしょ?」
「そうだけど……」
「私ね、あなたのお父様にお墓をお願いしていたの」
「……お墓? 誰の?」
「私がお願いしたんだから、もちろん――」

 悲しそうに眉を寄せたまま話していた彼女が、座っていた墓石から飛びおりた。スカートがふわりと焼きたてのパンみたいにふくらんで、そして、

「“私”のよ」

 と、なんともかわいらしい笑顔で、そう言った。

「ほら、あれがそうじゃないかな?」

 彼女が指さした先には、彫りかけの墓石がころがっていた。
 そういえば、最近あいつがめんどくさそうに彫っていたっけ。
 ぼくは穴からはい出ると、石に彫られた文字を見る。
 まだ彫りが浅くて読みづらかったが、そこには『Rudien Vare』と彫ってあるように見えた。

「るでぃあん……べーる……?」

 たどたどしくぼくがそう口にすると、彼女はぷっとふき出して、

「“ベール”……確かにそう見えるね。うん、そっちの方がいいかも。花嫁さんみたいだし――そうよ、私はルディアン。今日は“メッセージ”が出来たから届けに来たの。続きは――君が彫ってくれるの?」

 と、何やら文字の書かれたメモをさし出した。

「ごめん……ぼくはまだ字を彫らせてもらったことなくて……」
「なら私のお墓が初めての作品になるんだ。気持ちを込めて彫ってくれると嬉しいな」
「だからその……教会や仕事で聞く言葉くらいならわかるんだけど……ぼくは字が読めないし、書けないんだ」

 彼女――ルディアンは、「まぁ」と再び眉を寄せるとメモをしまい、

「なら、教えてあげる」
「え……?」
「私が字を教えてあげる。だから君が彫って」
「でも……」

 言いよどむ言葉をさえぎるように、急にぼくに顔を近づけた彼女は、

「お父様にはまだ言ってなかったんだけど――実はね、あの前金以外支払うお代が無かったの。完成までには何とかするつもりだったのよ? でも、私たちがこうして会えたのはすごく幸運。つまりね、お代の代わりに君に字を教えてあげる。そうすれば君も初めての作品を作れるわけだし、それでいいことにならないかな?」 

 そう言って、またイタズラっ子のような、あのなつっこい笑みを浮かべた。


 それから、ルディアンは週に二回、月曜と水曜、まれに土曜日も墓地に来て、僕に字を教えてくれた。
 小さな獣の声と、たまに墓参りに来た人のすすり泣く声が聞こえるだけだった暗い墓地に、ふつりあいな彼女の明るい笑い声が加わって、僕の世界は変わった。
 彼女は、本当によく笑った。
 教えながら笑い、それを上手く理解できず、僕が困って髪の毛をねじるようにいじる仕草を見ては笑った。
 とくに、『文字当てクイズ』に正解すると飛びはねてよろこんでくれて、回答をまちがえると、そのまちがえ方がおかしいとまたお腹をかかえて笑っていた。
 けれど、ぜんぜんいやな感じはしなくて、僕もたまにつられて笑うようになった。

 僕が笑うと、

「あ、今笑ったでしょ?」

 と、隠れてしたイタズラを見つけて勝ちほこってるみたいに笑い、

「私、エリオットの笑う顔好きだな」

 そう言ってくれた。

 エリオット――彼女は僕をそう呼んだ。あいつを知っているのに、けっして僕を“ジュニア”とは呼ばなかった。

「そう……なの?」
「うん。なんだかクニャっとして、とってもチャーミング。あ、『チャーミング』は教えたっけ?」
「……うん」

 彼女は僕のことをよく見てくれていて、僕の話さない、それまで僕が聞いたことのないたくさんの言葉を教えてくれた。
 たくさんの文字が読めるようになると、彼女は本をかしてくれた。
 本は、世界のさまざまことと、たくさんの“気持ち”を教えてくれた。

「僕は、君の笑顔も……」

 僕が感じているこの気持ちは――

「……チャーミングだと思うよ」

 “恋”と呼ぶのだということも。

 そんな日々がふた月ほど過ぎ、ルディアンが改めて、あの時僕に渡そうとした彼女の墓に刻む“メッセージ”のメモをくれた。


『魂が、愛するお姉様と共に永久に在らんことを。お姉様の魂を奪った全てに憎悪を込めて』


 僕はもう、その文字を読むことができた。
 こんな若い女の子が自分の墓を作りたいというのも変な話なのだが、そのメッセージがそれ以上に異常なものであることを、今の僕は理解できていた。
 僕の困った顔を見て、彼女もまた、困ったような笑みを浮かべた。

「嫌になった?」
「ううん。彫るよ。約束だからね」

 僕がそのメッセージを彫っている間、彼女はゆっくりと自分のことを話してくれた。

 彼女の家は地主貴族で、彼女の姉はそこそこ名の知れた女優だったらしい。
 ルディアンにとって姉は憧れであり、崇拝すべき象徴で、

「ほら、私ってこんな感じで変わってるでしょ? だから両親や使用人たちにも呆れられちゃっててね。こんな私を愛してくれたのはお姉様だけだったの」

 心酔と呼べるほどに愛を注いだ存在だった。

「お姉様は完璧だったわ。綺麗で、お芝居も歌も上手で、笑顔がとっても素敵なの――ひと目見れば、誰もがお姉様に首ったけになったわ。だけどそんなことは少しも鼻にかけないで、私だけなく、誰にでも優しくて……」

 そこまで口にして、姉のことを嬉しそうに語る笑顔が歪んだ。

「でも、ある男がそんなお姉様を壊したの」

 そいつは、彼女の姉があるサロンで出会った貴族の男だという。
 彼女の姉は、その男と恋に落ちた。

「あの男は駄目――『美を愛する』とかうそぶいて、お姉様の“本当”を見ようとしない……お姉様の美しさと、名声しか見ていなかった」

 そんな男の為に彼女の姉は舞台を降り、家にも帰らなくなり、そして――

「――いなくなったわ。何処にもいなくなったの。探して探して、必死に探して、市内中、貧民街も、下水道にだって入ったわ……そしてわかったの――お姉さまが、“遠い場所”に行ってしまったって」
「だから……ルディアンは死にたいの?」
「ううん。でも、この体からはいなくなる」

 僕は――奇妙な顔をしていたと思う。

「やめられないの?」
「もう、約束しちゃったもの」
「誰と?」
「悪魔とよ」

 彼女はそう言って笑った。
それがどういう意味なのか、きっと比喩というやつなんだろうけど、難しい言葉や文字の正しい意味をやっと学んだばかりの僕では、まだ理解できなかった。
 寂しそうだけど、やはりとても可愛らしい笑顔だった。
 そしてその笑顔は、彼女の決心がとても固いものだということを、僕にひしひしと伝えてくれていた。
 だから僕は少しでも彼女と一緒に居ようと、ゆっくり、ゆっくり、文字を彫った。
 彼女はそれをじっと見ていてくれて、それでも残る文字は少なくなっていき――最後の一文字を彫り終えたとき、僕は思い切って聞いてみた。

「やめられないならさ、そうする前に街を出ないか?」
「……街を?」
「うん……僕、街の外を見てみたいんだ。外の、いろんな風景を見てみたい――できれば、君と一緒に」
「………」
「それが素晴らしかったら、もう少し、この世界にいたくならないかな?」

 僕は、言っている内にどうにも不安な気持ちになって、

「えと……すぐに決めなくてもいいんだ。もしその気になったら、三週間……ううん、二週間後でもいい、月の無い夜にもう一度ここに来て欲しい。旅に必要なお金はいっぱい用意するよ……それまでには……」

 次第に声が小さくなり、下を向いてしまった。

 彼女は、

「そうね」

 少し悩むようにして、

「考えてみるわ」

 そう、鼻の頭に少し皺を寄せた、あの笑みを浮かべてくれた。


 その後の二週間、僕はがむしゃらに金をかき集めた。
 墓守の仕事もいつもより多くやったが、当然そんなものでは足りない。だからと言って、仕事にあぶれる者たちが多くいるこの街で、都合よく日雇いの仕事があるわけでもなかった。

 だから僕は、死体を売った。
 あのいやらしい目をした医者に頭を下げて、“結社”の奴らにも「役所にバラされたくなかったら」と脅すようにして売りつけた。
 あの女魔術師にも、「これが最後だ」と好きなだけ買わせてやった。

 罪悪感は――無くなっていた。
 結局、やはり僕はあいつの“ジュニア”なのかもしれない。
 でももはやそんなことはどうでも良かった。
 どうでも良くて――他に、何も考えられなくなっていた。


 そうして瞬く間に日々は過ぎ去り、僕はランプを手に、月が雲に隠れて真っ暗になった墓地を歩いていた。
 虫の鳴く音や風が葉を揺らす音、僕の足音、カンテラの金具がきしむ音――暗闇がそれらの輪郭をくっきり際立たせていたが、何よりもはっきりと聞こえていたのは、僕の心臓の音だった。

 あれから三週間以上経っていた。
 月の無い夜は、これで四度目。
 不安にぎゅっと唇を噛みながら、ただ見回るような振りをして墓地の中をぐるぐると歩き回る。

 どこにも――いない。
 手の平に汗を感じ、シャツの裾を握る様にして何度も拭く。
 オークの木の裏、墓石の陰、様々な場所にカンテラの光を当ててみても、あってほしい影は無く、そこにあるはずの影がただ当たり前に落ちているだけだった。
 お腹のあたりがくぅっと持ち上がる感じがして、なんだかとても悲しくなってくる。

「……ルディアン……ルディアン……」

 思わず、口から洩れていた。

「なぁ……お願いだよ……」

 一度見た同じ場所を何度も回り、そして今日も終着点である、父親を埋めたハシバミの木の前に着いて、僕は目を見張った。
 その傍の墓石の影が、いつもより大きかった。
 僕はカンテラを高く持ち上げてそこを照らし、ただただ、ゆっくりと息を吐いた。
 息と共に強張った緊張がすぅと抜けて、夜風に当てられて冷たくなっていた顔に温かな血が通う感じがした。


「やっぱり、その笑顔は好きだな」


 そう言った彼女は、

「チャーミング……かな?」

 初めて会った時のように墓石に腰を掛けていた。

「そうね。私も笑顔になっちゃうほど」
「……なら、僕はいっぱい笑うよ。ずっと、何度でも」
「ずっとは疲れちゃうんじゃない?」
「ううん、ずっとさ。僕が悪魔になって、君と約束する」
「何それ」

 彼女を照らすランプの優しい明かりが、

「でも、そうなら私もずっと楽しいかも」

 その愛くるしい笑顔にあてられたように仄かに揺れた。

「僕らは、ずっと笑っていよう」
「そうだね――そうなったらいいな」

 僕はランプの明かりを消した。

 そのまま静かに、誰にも見つからぬよう温かな暗闇に包まれながら二人で墓地を出て、

 そして――


 僕らは、殺されたんだ。



 * * * *

 いつぶりだろう。笑みが、こぼれそうになった。
 顔を伝う雨粒が、小鼻のあたりに浮かびかけた皺に沿って流れるのを感じる。

「……笑うな……笑うな……笑うな……」

 しかし僕は、それをぐっと押し殺した。

 “あれから”どれくらい経っただろうか。
 僕は、ある男を探していた。
 僕らを殺した奴じゃない。
 そいつらは、もう殺した。
 僕らを殺したのは取引をしていた“結社”の雇ったチンピラだった。
 不法な手段で死体を集めていたことを口外されたくなかった“結社”は、僕が金を集めて雲隠れしようとしていると思い、あの凶行に及んだらしい。
 殺した――不思議に思うだろうが、僕が手ずからやった。

 そう、僕は生きている。
 街灯の明かりに照らされた、この灰色がかった緑色の肌――今ある僕の“生”が果たして本当の命なのかと問われれば、僕自身としても甚だ疑問ではある。だが、とにかく、僕は殺された後に“蘇った”のだった。
 僕が探していたのは、僕をそのように“蘇らせた男”――。
 件のチンピラの命を解体しながら聞き出したそいつは、やはり“結社”の人間で、『魔療術』という怪しげなまじないを使う“赤い髪の男”ということだった。

 そいつが何故そんなことをしたのかは分からない。
 だが理由なんかどうでもいい。ただ僕は、なんとしてもそいつを探し出し、彼女を――ルディアンの命を取り戻したかった。
 では、彼女は死んでしまったのかというと、それもそうではない。
 そうではない筈だ。
 彼女は、僕が常に、片時も放さずにいるこの“棺”の中で静かに眠っている。
 僕はそれこそ物語に出てくる悪魔のような姿になってしまっていたが、それはきっと死と復活に際し、名前と一緒に父親の罪を引き継いでしまったからに違いない、そう解釈していた。

――けれど、彼女は……。

 僕はそっと棺の蓋を撫でて、再び街灯の明かりへと目をやった。
 橋の傍の街灯――煙る雨の中にぼんやりと浮かんだその明かりの下に、まだ“そいつ”は立っていた。
 降り続く雨を呆けたように見上げ続けているそいつは、僕が言うのも何だが、とても奇妙な恰好をしていた。やけにクラウンの高いハットに、機械でできた大きな右腕、そして、ここらではめったに見ない――赤い髪。
周囲の石畳には、男の髪の色をまま映したような赤黒い水たまりが広がり、雨の波紋を描いている。
 水たまりを染めているのは――すぐ傍に倒れている男たちの亡骸から流れ出るそれと、機械の腕の爪から滴り落ちる、赤――。
 最近この辺りで“赤い髪の殺人鬼”が現れるという噂を聞いて張っていたのだが、どうやらあれが件の男で間違いないようだった。

「……おい」

 声を掛けた。やけにかすれた声が出た。
 男は――気付かないのか、まだ雨を見続けている。
 期待なのか、不安なのか。長い間探し続けた男かもしれないそいつを前に、僕の中で何かが熱く渦を巻いた。

「おい…お前だよ……そこのお前だ!!」

 声が雨音を越え、人気のない通りに響き渡った。
 少し遅れて、男が首だけを傾け、こちらを見た。
 本当に生きているのか――死体ばかり相手してきた僕をしてそう思わせる、世界の全てに目を向けることを止めたような、そんな目をしていた。
 僕は街灯の下に立ちすくむそいつにゆっくりと近づいていく。
 暗がりから出て僕の異形が露わになっても、そいつは眉ひとつ動かさず僕を見続けた。

「お前が……僕らを生き返らせたのか?」

 その質問に、男は無言で僕の体を見回した後、ゆっくりと口を開き、

「……すまない。色々忘れてしまっていてね……。見たところ、それは『魔療術』により人体を錬成した結果のようだが、霊子のバランスが崩れているね。それで“極端な形”を形成してしまっている……だとしたら、かつて不慣れな私がそれを行った可能性は高いと思う」

 虚ろな目で、淡々とそう告げた。

「ならお前に――」
「――その前に聞かせて欲しい」

 男がゆらりとこちらに体を向けた。

「君は、“悪人”かな?」
「……どういう意味さ」
「答えて欲しい」
「どうだろうな。見た通り、もう人なのかすら分からないよ」
「人を殺したことは?」

 続く質問に反して男の目は虚ろなままで、そう、変に“自動的”な感じがした。
 そんなことを聞いてどうする? お前だって、殺人鬼の癖に。

「……あるよ。そうすべき奴らをね」
「そうか……なら」

 男は目を伏せ、大きな機械の腕を見た。

「これから私は、君を殺すようだ」

 男の体が赤い稲光に包まれ輝いた。
 同時に男が視界から消え――いや、すぐ真横に稲光を纏った男が――5ヤードはある距離を、それこそ瞬きの間に……!
 巨大な腕が振り上げられ、その爪の間から冷たく光る赤い瞳が見えた。
 しかし――それは僕に振り下ろされることなく制止する。
 男の腕には、幾重にも闇のように黒い“ヒダ”が絡まっていた。
 それは、僕の“鎖”――僕を囚える戒めで、誓いで、僕がこの体になったと共に手に入れた、昏い力――。

「なるほど……」

 男は機械の指をギシギシと動かして、それが解けないことを確認すると何やら呟いた。
 同時に空気を焦がす音と臭いを巻き上げて、男を中心に凄まじい雷光の嵐が吹き荒れ、僕の鎖を消し飛ばした。

「そんなっ……!」

 こんなことは初めてだった。僕もまた嵐に吹き飛ばされ、もんどりうって地面に叩きつけられる。手には――棺がなかった。

「ルディアンっ……!!」

 慌てて顔を上げると、彼女の棺は男のすぐ傍にあり、振り下ろされた男の爪の形に合わせて、蓋が醜くひしゃげていた。
 その隙間から、滑らかな白い腕と、少し癖のついたブロンドの髪が垂れ下がっている。
 血に、熱を感じた。
 流れているのかも疑わしい、この灰緑の肉の下に。

「……てぇめええええあああ!!!」

 雄叫びか、慟哭か、棺の蓋と一緒に僕の心の蓋が外れ、その下に、ずっと孤独に溜め込んでぐらぐらと黒く煮詰め続けていたものが一気に噴き出した。
 口の形をした穴から叫び漏れる声と共に、僕はありったけの昏い闇を男に叩きつけた。
 しかし男は――先程までの力はいったいどこに行ったのか、避けるでも防ぐでもなく、再びただ立ち尽くし、それを全て受け入れていた。
 腕を、足を、体のいたる箇所を、僕の“鎖”が貫いている。
 なのに、男はそんなことにはまるで気付いてすらいないように、

「……この人は……」

 目を見開いて、ただ一点を見つめていた。

「この人は……誰だ」

 棺から覗く、ルディアンの顔を。

「お前が、知ってどうする……」
「……いや、誰でもいい……この人は、何故“動かない”……?」
「いいから……彼女から離れろよ!!」

 鎖を握り、強く引き絞る。
 男を貫く鎖から、赤い飛沫を伴って勢いよくそれが体の内を滑る感触が伝わってくる。
 しかし男は、棺に手を掛けたまま動かない。

「……わからないよ……お前がこんな風にしたんだろ?」

 本当に、あれからどれくらい経ったのか――それでも彼女は棺の中で目を閉じ、あの夜と同じ白いドレスを着て、“あの日のままの姿”を保っていた。

「でも……彼女は、もう笑わないんだ」

 鎖を引く僕の手が止まる。

「だから、僕も笑わない」
「これを私が……?」

 男がギリリと音が鳴る程に強く棺の縁を掴む。

「そんなわけはない……このような“技術”は知らない。けどもし“それ”が可能だというなら……いや、違うのか…私は既に“それ”を知って……」

 そして、僕の目を見て、

「――お願いだ。この人を、僕に助けさせてくれないか?」

 そう、言った。
 男の顔は、何故か苦渋に満ち満ちて歪んでいたが、いつの間にか、その目には生者の光が浮かんでいるように見えた。

「初めから、お前にはそうさせるつもりだったさ……けど、なんでそう思った」
「頭に、“そうしなきゃならない”と響くんだ……そうすれば、ずっと思い出せない、私の大切な“何か”がきっと救われる……そんな気がして……」
「……本当に、できるのか?」

 僕は立ち上がり、鎖を男から引き抜いた。そして男に近づくと、ルディアンの棺をそっと引き寄せて抱え込んだ。
 男は棺の中のルディアンを見ながら、考え込むように目を細めた。

「……霊子の状態からすると、その人は死後かなりの時間が経過している。しかし、死蝋化しているわけでもなく、その肉体は完全に維持されているようだ。その人の施術を私がしたというのなら、それは人体の修復まで。魂が死を自覚して肉体を離れたのであれば、処置なくして肉体がこれほど持つことはない……」
「なら、なんで僕らは……」
「残っている私の記憶を分析して――という前提になるが、結果として、私は肉体の再生に成功しても、魂を定着させて人を生き返らせることは出来なかった筈だ……もし君が私の手によって生き返ったのだというのなら、それはそもそも君の魂が命から乖離しておらず、皮一枚で“死んでいなかった”というだけだろう。君に“君の魂”があるのなら、今の私の技術であれば君の体を元通り“人の形”に整えることだってできる。しかし、この人は確かに死んでいる……死んでいるのに、“存在している”んだ」
「つまり……どういうことさ?」
「この人の魂は、死を自覚することなく肉体を離れ、“生きているのと変わりなく”どこかに存在しているんだ。『生きた魂の保管』、その在処と方法が解るのであれば――」

 男は普通の方の左手を震える程に握りしめながら、

「この人が蘇る可能性は、ある」

 はっきりとそう言った。

 可能性――そんなものを無暗に信じる程、人生に恵まれてはいない。
 現実はいつも僕を打ちのめしてきた。確かなことは、彼女が未だ眠り続けている目の前の現実のみ――依然、僕らは闇の中なのだ。
 なのに――その言葉に、僕の体は黒いものをすっかり吐き出し切ったように力を奪われて、膝を着いた。

「“魂の……入れ物”か…」
「もしかして、心当たりがあるのかい?」

 こいつを信用したわけではない。
 そもそも僕は、彼女以外に人を信用したことがない。
 こいつが裏切るようなそぶりを見せたら、僕の鎖は躊躇なくこいつを貫き殺すだろう。
 いつもだ。いつも世界は僕に残酷で、死だけが全てに平等なはずだった。
 なのに今や死ですらも、僕らに平等を与えてはくれない。
 平等なものなんか、何も無い。
 僕の糞みたいな人生に、僕らを守るものは、何も無いんだ

「――あるよ。“女魔術師”がいるんだ」
「……詳しく、話を聞かせてくれないか? 私はエドワード・ジキル――さっきはすまなかった。けど、“アレ”は私の意志ではどうしようもなくてね……またああなったら、遠慮なく君の“鎖”でやってくれ」

 どうせそうなら、やけに疲れた顔で、困ったような笑みを浮かべているこいつに賭けてもいいかもしれない。
 何に背いたって、何を利用したって――

「ああ、そうさせてもらうよ。僕は……エリオット――しがないアンダーテイカー(墓掘り人)さ」

 また彼女と笑い合える日に、一歩でも近づけるのなら。


 to be continue

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考察
不死の根元マジシャンが、ジョブ違いで参戦。今回は30コスのスティグメイト可能なディフェンダーである。
召喚時点のステータスは40/40と普通。超覚醒するまでは無茶はできない。

超覚醒するとATKが上がるのだが、その数値はなんと210。
もはや30コスのATKではない暴力的な数値は、攻める際にも防衛の際にも強力に刺さる。
しかし、その数値がデメリットなしに発動するわけもなく。
デメリットはこれまた強力なもので、10秒毎にDEFが10ずつ下がっていく。120秒後には1になる。
アビリティではDEF自体は上がらないので、ただでさえ低いDEFがさらにガンガン下がっていく。

真価はスティグメイトにあり、その効果は自分の使い魔全てのATK40上昇とDEF10低下である。
DEFが下がるのは問題だが、種族はもちろん、根元や降魔や主力と関係なしに打点を上げるのは非常に強力。

序盤は防衛や荒らしで旬の時間を暴れまわり、旬が過ぎたら主力の強化に尽力するといったデザインの、ある意味無駄がないカード。

Ver3.511 [2017.03.07~]にて、「君に捧げる僕の印」の攻撃力上昇値が+30から+40に上方修正された。

キャラクター説明
本文


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  • 防御ダウンは-10では? -- 名無しさん (2017-01-20 16:17:12)
  • 動画で確認してみました。防御は-10ですね。訂正しておきます。皆様、情報ありがとうございます。 -- 名無しさん (2017-01-24 14:32:54)
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最終更新:2020年02月21日 13:25