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「ただいまー。あー、ハラへったァ。」
お腹を擦りながらキッチンに入ってくるリト
「おかえりー」
「今日のメシって何?」
「今日はカレイの煮付けと、お豆腐だよ」
トン、トン、トンとまな板の上で包丁が軽快なリズムを奏でる
煮付けに添えるゴボウを包丁で切りながら、美柑は鼻歌交じりに応えた
「ふ~ん」
リトは気のない返事を返すと、弁当箱をテーブルの上に置いてリビングに戻っていく
「ただいま~美柑♪」
「おかえり、ララさん」
リトと入れ違うようにキッチンに入ってくるララ
「今日のゴハンって何?何?」
リトとまったく同じ事を聞くララに、美柑は小さく笑った
「今日はララさんの好きなおサカナだよ」
「わァー♪」
満面の笑みを見せるララに美柑もうれしそうに笑う
ララは美柑の隣に行くと、ひょいっと横からまな板を覗き見た
「ん?」
「ん~、やっぱり美柑ってすごいんだね」
「え?」
「いつもおいしいゴハン作ってくれるし、毎日違うメニューだしさ」
「そ、そんなコトないよ」
照れくさいのか、顔を赤くしながらそわそわする美柑
「メ…メニューだってかぶっちゃう時あるよ!まァ、気をつけてはいるけどネ」
「大変じゃないの?毎日」
「え…」
美柑を見つめるララの目はどこまでも純粋だ
(もしかして……気を使われてる?)
少しすると美柑はまな板に向き直った
「…正直、タイヘンかな」
小さくぼやく様に話す美柑
「でもね……一度もイヤって思ったことはないよ!」
「どーして?」
「だって、ララさんやリトがおいしいって言ってくれたらうれしいよ!それだけでも十分かな」
「ホントに?」
「うん!それに料理の腕も上がるし!一石二鳥って感じ!!」
「いっせき…にちょー?」
頬に指を当てて難しい顔をするララ
「地球の言葉で、一つの行動で二つ同時に得しちゃうってコト!」
「へ~」
「…ねェ、ララさん」
「ん?」
「ララさんも作ってみる?」
「え?」
美柑はテーブルに置かれたリトの弁当箱を取り上げた
「リトのお弁当。最近、あいつすごく食べるのよ!食べ盛りか知らないけど」
「お弁当…リトの?」
「そ!やってみる?」
ララは弁当箱を手に取ると、美柑と弁当箱を交互に見つめ、そして笑顔で答えた
「うん!がんばってみる!!」


次の日の学校
昼休み、ララから屋上に来てと言われたリトは言われたとおり屋上へとやって来た
「ハラ減ったー」
鉄柵にもたれながら力なく項垂れるリト
今日はどういうワケか美柑から弁当を貰ってないので、お昼はまだ何も食べてはいない
美柑曰く
『昼休み楽しみにしてるといいよ』
ぐぅ~
と、お腹の虫が鳴った
「ったく、美柑のヤツ、何考えてんだ…」
リトがそうやって愚痴っていると、屋上入口からララがやって来た
「おまたせーリト!!」
「おせーよ」
ララの遅めの登場に半眼になるリト
「えへへ、ゴメンね」
本当に申し訳なく思っているのか、ララはいつもの笑顔を浮かべている
ただ、今日はその笑顔がいつもより少し違う様に見える
リトは頬を指で掻きながら、どこかそわそわしているララを見つめた
(ララのヤツ、どーしたんだ?)
ララは後ろでに何かを隠しながら、その場に座った
「とりあえず、リトも座って」
「お、おう」
ララはリトの前に来ると、後ろ手に隠していた物を見せる
「じゃーん!!」
「へ?」
目の前のソレに目が点になるリト
「何コレ?」
「ん?お弁当だよ!今日は私が作ってきたんだ♪」
「弁当って……ウソだろ?」
目の前のソレは、いつもの弁当箱よりも数倍大きい入れ物に入っていて
しかも、箱と蓋の間から何やら怪しいケムリがモクモクと出てきている
「リトのために頑張ったんだよ」
「へ…へー」
リトの額にはすでに冷や汗が浮かんでいる
(…マジかよ)
ララはニコニコ笑いながらリトの隣に行くと、さっそく弁当の蓋を開けた
(げ…)
中から溢れ出して来たのは紫や緑色をしたナニか
ララはソレをスプーンで掬うとリトの口元に持ってくる
「ほらリト、あーん」
「……」
「ん?もっと小さくしたほうがいい?」
「そーじゃなくて」
ララを見るリトの目は半眼で、どこか怒気を帯びている
「何コレ?」
「え?何ってお弁当だよ」
リトはもう一度、目の前のスプーンに乗ったプルプルしたゼリー状の何かを凝視する
(…弁当って……)
「あれ?リトって嫌いな物あったっけ?」
リトは深い深い溜め息を吐く
「…そーいう問題じゃねーよ。お前コレちゃんと味見したのか?」
プルプルしている何かは、しばらくすると突然ブクブクと泡立ち始める
リトの顔がますます蒼白になっていく
「味見?してないよ!だって食べちゃったら、リトの分なくなっちゃうでしょ?」
「お前…」
「それよりさ、食べて!食べて!」
ぐいぐいスプーンを押し付けてくるララに、リトはあからさまに顔を歪めた
鼻に付く強烈な匂い、今やゼリーでもない液体状になっている何か
(こ、こ、これはシャレになんねー)
リトは思わず腰を浮かして逃げる態勢に入ってしまう
「リト♪あーん♪」
目の前には目をキラキラさせているララ
リトはゴクリと唾を飲み込んだ
「リト♪」
「……」
しばらくスプーンを見た後、決心したリトは口を開けてソレを飲み込んだ
「わぁ♪どう?どう?おいしい?」
「……」
リトは何も答えない。そればかりか、スプーンを咥えた瞬間から何だか固まってしまっている
「リト?」
気になったララがリトの頬を指で突くと、リトはそのまま白目を向いて仰向けに倒れた
「リトっ!?」
急いでリトを覗き込むララ
何度も呼ぶララの呼び声もむなしく、リトはそれから数時間目を覚まさなかった

そして、夕方の結城家
大事を取って御門先生に診てもらう事になったリトはララに先に帰る様に言った
何度も一緒にいると言い張るララだったが、なんだか怒ってる様子なリトにそれ以上なにも言えず、一人家に帰って来た
玄関のドアの前。ララはドアの取っ手を握りしめながら、俯いたまま動こうとはしなかった
手が動かないし、頭がぼーっとしてしまってうまく考える事もできない
「リト…」
リトのために
そう思って作ってみたものの、結果は散々どころか、逆にリトを怒らせてしまい
ただ喜ぶ顔が見たかっただけなのに
ララはドアを開けると「たたいま」と小さな声で呟いた
「おかえりー!」
リビングの奥からパタパタと足音が聞こえてくる
「ララさん、どーだった?」
美柑はおたまを片手に玄関に駆け寄ると、帰ってきたララに真っ先に成果を聞く
ララの顔は浮かない
「え…ララさん?」
実は昨日、美柑は途中までしかララの料理を見ていなかった
他の家事もある美柑に付きっきりで教わる訳にもいかず、途中からはララ一人で頑張ったのだ
靴も脱がず玄関に立ったままのララの様子に、美柑はみんなわかってしまった
「ま、まァ、誰にだって失敗はあるよ!私だって最初から…」
「…そーじゃないんだ」
「え?」
ララは靴を脱ぐと家に上がる
「ララさん?」
俯くララはいつもより悲しそうでいて、けれど真剣な目になっている
「私…全然わかってなかった」
ララは俯きながらぽつりぽつりと呟く
「お弁当を作れば喜んでくれると思ってた。だけど、それは間違ってるんだよね?」
「……」
「誰かを喜ばすコトって、ホントはすごく大変なコト。すごく難しいコトなんだよね」
ララは俯いていた顔を上げると、美柑に向き直る
「私決めた!今度はちゃんと頑張って、ホントの意味でちゃんと作りたい!だから美柑、私にお弁当の作り方教えて?」
「ララさん…」
その真剣な気持ちに、美柑は笑顔でウンと首を振った



次の日の朝
「ララ、早くしろよ」
「待ってリト!」
キッチンから慌ててララがやってくる
「ゴメンね!ちょっと待ってて」
ララはリトから隠れる様に後ろを向くとカバンを開けた
その手は何かを庇うようにギコチない
(ララ?)
カバンに何やら荷物を入れているララの隣では美柑がにやにやと笑っている
「何だよ?」
「別に」
わざとらしく顔を背ける美柑
「お前な…」
「お待たせ!早くいこ」
いつもの様ににっこり笑うララと、ニヤっと笑う美柑に不思議そうな顔をするも
リトはララと一緒に玄関を出て行く
「ガンバってね!ララさん」
その後ろ姿に美柑は小さくエールを送った

昼休みの屋上
リトはララと一緒に屋上に来ていた
昨日の事もあって、強くは言えないリトは複雑な思いで座っていた
ララは少し緊張気味に弁当を取り出と
リトの前に弁当を置き、サッと手を後ろに隠した
手を後ろに隠しながら、えへへと笑うララ
「手、どしたんだ?」
「ん~ん。何でもないよ!それよりリト」
「あ、ああ」
どこか腑に落ちないが、リトは弁当を手に取る
昨日の事もあって、中々蓋に手がいかない
(って、何キンチョーしてんだオレ)
リトは思い切って蓋を開けてみる
その隣では、ララがじっとリトの顔色を窺っている
「お…」
本日のメニュー
形の崩れたタマゴ焼き・タコに成りきれていないタコさんウインナー
焦げたミニ目玉焼きにミニハンバーグ
少し色の悪いポテトサラダ
「コレ…お前が作ったのか?」
「うん」
リトは弁当とララの顔を何度も交互に見つめる
リトの頭の中には昨日のアレがチラついていた
「どう?」
「どうって言われてもな…」
リトは箸を持つと、ハンバーグを挟み、口の中に入れた
「う…」
口の中に広がるのは、ソースの味と、まだ半生状態の玉ねぎの味
続いてタコさんウインナー
「ん…」
「リト?」
モグモグした後、何も言わずタマゴ焼きを口に入れるリト
「お!」
リトの一挙手一投足が気になって仕方のないララは、身を乗り出す様にリトを見つめている
「どうリト?おいしい?」
その声は不安でいっぱいだ
リトは目玉焼きを頬張りながら、そんなララを可笑しそうに見つめる
「そんなに見られると気になって食えねーって!」
「だって…リトなんにもゆってくれないんだもん」
ララは座りなおすとムッと頬を膨らませた
「オレの事よりお前も弁当食えよ」
ララは頭に手をやると、少し笑いながら話す
「私の忘れちゃったんだ」
「え?」
リトは思わず箸を止めた
「忘れたってウチに?」
「ん~ん。作るの忘れちゃったんだ…えへへ」
「作るの忘れたって……お前何やってんだよ?」
「だって、リトのために一生懸命になってたら自分の事すっかり忘れててさ…」
ララは言い難そうにゴニョゴニョ話すが、最後は笑って誤魔化した
「……」
リトはじっと弁当を見ると、スッとそれをララに差し出す
「え?」
「一緒に食おうと思ってさ。もう食べたのもあるけど」
「リト…」
「それに、こーゆーのは一人より誰かと食う方がうまいだろ?」
赤くなった顔をそらしながら少しぶっきらぼうに話すリト
一瞬驚いた後、ララは今日初めて本当の意味で笑顔を見せた
「うん!」

学校の帰り道
隣を歩くララの顔は終始ほころんでいる
弁当の中身は残らずキレイになくなったし、なによりリトと一緒に食べた事がうれしかった
そんなララを横目で見ながらリトは小さく溜め息を吐く
切り傷や絆創膏が何枚も張られたララの手
白くて柔らかい手が今はとても痛々しい
(オレのためか…)
昨日遅くまでララが起きていた事をリトは知っていた
一生懸命がんばってくれていたことも
ララなりに必死に隠しているつもりでも、ウソを付けない性格がみんな筒抜けにさせている
リトはララの隣に並ぶと、頬を指で掻きながら言い難そうにぼそぼそ呟く
「あ、あのさ、また、作ってくれねーかな?弁当」
「え?」
思ってもいなかったリトの言葉にララは目を丸くした
「え…でも」
昨日の事もあるが、今日リトが弁当の感想を何も言ってくれてない事が、ララはずっと気になっていた
今日もダメだと思った
「うまかったよ!タマゴ焼き」
「え…」
「他はもうちょいって感じだけど。その……好きだよオレ、お前の作ったタマゴ焼き」
ララは思わず足を止めた
「だからまた食べたいなって思ってさ」
「リト…」
リトの顔は夕日に照らされて真っ赤になっている
そしてララも
胸にじわっとリトの言葉が染み込んでいく
それは、驚きよりも、うれしさよりも、もっともっと大きくてすごい気持ち
ララの顔が満面の笑顔に変わる
夕日に照らされたその笑顔は、いつもよりもキレイで可愛くて、リトの心をドキドキさせた
「リト、ありがとう」
「別にオレは…」
そっぽを向くリトの手を取るとララは駈け出した
「お、おいララ!?」
「今はなんだかこうやって走りたいんだ♪」
リトはチラリとララの横顔を見つめた
その顔は本当に幸せいっぱいの笑顔で
リトもつられてクスっと笑った
「いっせきにちょーだね?リト♪」
「は?」
「だって、リトにおいしいって言われて、また作ってって言われたんだよ?いっせきにちょー♪」
「いや……なんか違うぞそれ…」
リトのつっこみを余所に、どこまでも笑顔なララだった