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それはララが結城家に来る少し前の話し

まだ肌寒い春先の朝
スヤスヤと寝息を立てる兄を起こさない様にと、美柑はそぉ~~っと部屋に入って来た
「リト? 起きてる?」
リトは無反応。そればかりか寝返りをうって声から遠ざかる始末
美柑のほっぺがぷくぅっと膨れる
「もう!」
腰に手を当てながら美柑はそのかわいい口を尖らせた

今日は春休みということもあり、美柑の学校は休み。リトはあと一週間足らずで高校に上がる
ので、卒業休みといったところか

お日さまの日差しが気持ちいい朝、こんな日は外に出かけるに限る
そう思った美柑はリトを誘って買い物にでも行こうかと兄の顔を窺いに来たのだ
それなのに────

「……」
ジーッとリトの寝顔を見つめる事、十数秒
一向に起きる様子のない兄に、次第に美柑の目は半眼になっていく
(なによリトのヤツ! せっかく……せっかく私が久しぶりに一緒に出かけてあげようって思ったのに!)

そう、思い返せばリトと一緒にどこかにお出かけなんて本当に久しぶりの事
小さい時はそれこそ毎日のように一緒に遊んで、どこまでもどこまでもずっとくっ付いていたのに
大きくなるにつれて次第にその距離は広がり、今では夕飯の買い物ぐらいしか一緒に出かけなくなってしまった

「…………はぁ~…」
誰も見ていない事をいい事に美柑の口から溜め息がこぼれる
それはとても寂しそうでいて、悲しそうでいて
リトを見つめる美柑の瞳がゆらゆらと揺れ動く
と、その時
「う…んん、美……柑…」
寝返りをうちながら自分の名前を呟くリトに、美柑の小さな体がビクンと震える
(も、もしかして…起きちゃった…とか)
思わずその場で固まってしまう美柑
逃げ出すことも体を背けることもできず、ただただ、リトの顔を凝視する事しかできない
兄妹なのだがら別に緊張なんてするはずがないのだが
五秒…十秒…二十秒……
いくら待っても何も起こらない状況に美柑は眉をひそめた
「ひょっとして…」
そぉ~っと兄の顔を覗き込むと、リトはまだ気持ちよさそうに眠っていて
美柑のコメカミがピクピクと動く
「このォ…バカリト…」
思わず手が出そうになってしまうが、ふと気づく
リトはまだ寝ていて、だけど自分の名前を呼んで……
ハッと気付いた瞬間、美柑の可愛らしいほっぺが真っ赤に染まる
「も、もしかしてリトのヤツ、私の夢を見て…」
いったいどんな夢を見ているというのか?
気になる。すごくすご~く気になる
「うぅ…どんな夢見てるってゆーのよ」
リトは本当に気持ちよさそうに、夢の続きを見ているのか、時折、口元に笑みを浮かべ
ながらスゥスゥと寝息を立てている
そんなリトの気持ちよさそうな顔を見ていると、怒った顔もふっとやわらかくなる
美柑は両肘をベッドに乗せると、リトの顔を横からじっと見つめた
「まったく! 何勝手にひとの夢見てるのよ?」
怒っているでも困っているでもない美柑の声
どこまでもうれしそうで、そして、うれしそうに笑っていて
美柑はそっとリトに体を寄せた
「まったく……休みなのにいつまで寝てんのよ? そんなんだからカノジョの一人もできないんでしょ?」
片膝を乗せたベッドがギシっと小さく軋む
「ホント、誰かこのダメ兄をもらってくれる人いないのかなァ」
美柑は眠っているリトの唇にゆっくりと顔を近づけていく
「だけど…もし…もしそんな人がこれからもいないんだったらさ…」
唇と唇が触れそうなほどの至近距離
美柑は頬を染めながらぽそっと呟く
「…私がなってあげてもいいよ? カノジョに……ねェ? お兄ちゃん…」
少しの沈黙の後、美柑はゆっくりとリトから顔を離すと、むぅっと頬を膨らませた
「って何言ってんの? バカじゃないの私っ!!」
美柑は逃げる様にベッドから降りると、そのまま部屋を出て行ってしまった

「う…ん…」
リトが目を覚ました時、時刻はもうお昼前だった
重い体を引きずる様に布団から這い出たリトの目に、一枚の手紙が映る
「ん? 何だ…」
眠い目を擦りながら読み上げていくと
そこには見慣れた字でこう書かれていた

『リトへ
あんたいつまで寝てる気よ? せっかく買い物に付き合ってもらおうと思ってたのに全部パァじゃん!
バツとして、ここに書いてあるモノみんな買ってきて! いい? わかった?』

どう見ても怒ってる様子な妹にリトは眉を寄せた
「何だよこれ…! つーか買い物とかオレ知らねーって!!」
なんだか一人取り残された様なリトは溜め息を吐きながら、それでも渋々買い物にいく準備をするのであった