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――屋上に風が吹き抜ける。
そう感じたのは、屋上に来て、一人の女性を見てからだった。
その女性は手すりに掴まり興味無さ気に遠くの方を眺めている。
俺は暫くその恒景を見ていた。というよりも見入っていた―――。

彼女が俺に気づいたのはもう一度風が吹いて、みだれた髪を整えようとした時だった。
彼女は一瞬呆然として俺を見ていたが、俺が笑顔を見せると口元を緩ませた。
俺が歩み始めると、彼女はまた街の方を見始めた。
…照れ隠し…なのだろう。

隣に立つ。
距離は人一人分。
そして会話も無しに、俺も遠くの方を眺めてみた。
…秋の夕暮れ時。こうしていると心が穏やかになってくる。詩が何個か出来そうな感じだ。
この街の風景に率直な感想を述べると、彼女が俺の方を見た。

「…ここは、私の唯一の気止めの場。結構気に入ってる所だ。」

彼女の名は九条凛。俺の一つ上の先輩。兼…大事な人…。

「だが、君が来た所為で気止めどころではなくなってしまったな…」

凛はそう言うと俺に近づいてきた。即ち距離は無い。
黒く美しくしなやかな髪が、俺の肩に乗る。念入りに手入れをしているのがよく分かる。
そして漂ってくる凛の甘く清らかな、大人の香り。
抱き寄せるとより一層刺激が強くなる。…凄く良い意味で。

「―――――………………ぇ、ぇっと…」

消え去りそうな声音。
抱き締めてから少しの時が経った時に凛が口ごもりながら言った。
と言っても、俺には凛が何をして欲しいのかぐらい分かる。
大抵凛がこうなると、凛は決まって「おねだり」をするのだ。
勿論…「おねだり」とは…。

「…っ!な、ど、どこを触って…ちょっダメ…」

…?
反応が思ったのと違う。
凛は息荒く真っ赤な顔になりながら俺に向かって「変態!」と言ってきた。
一様傷つくが、「ケダモノ」よりは幾分マシだろう。

「違うのかだって?違うに決まってるだろう!……え?そうじゃない!
…こんな所じゃなければ別に…ってそういう話をしてるんじゃなくてっ。」

慌てる凛を他所に、俺は腹を抱えて笑った。
凛は俺の行動に?マークを浮かべる。
本当に凛はからかいがいがあるなぁといつもながらに思った。


俺は凛の髪を優しく掻き分けるように弄った。
少しだけ凛は萎縮する。
そして俺は凛の黒く沈殿している目を見つめた。
凛の瞳に写るのは目の前にいる俺だけ。しかし恥ずかしかったのかすぐに目を伏せる。
付き合ってから分かる凛の本当の性格。男性が少し苦手で羞恥屋。
でも俺はそんな彼女を抱きしめ髪を触っている…。
たまにだが凛が俺を受け入れてくれていると思うと嬉しくなる。
それもこんなに美人で可愛くて可憐で…今当たっている胸も…。何かと優越感だ。
――暫くして、凛は俺の胸に預けていた顔を上げ口を開いた。

「…リト。先程の事なんだが……」

先程の事とはさっき俺がスルーした凛の「おねだり」のコト。
凛をからかったが本当は承知している。
もう充分遊んだし…俺もそろそろ凛を感じたいと思っていた処だ。…無性的な意味で。
俺は凛のはみでている前髪を手で掬い、もう片方で頬を擦った。
当然滑らかでスベスベのフェイス。ここまで完璧なのかと毎度驚かされる。
徐々に近づき、そしてお互いの髪が触れ合う。
凛は一生懸命息を整えて、俺を瞳に写すのを止めた。

「……んむ―――――――――」



―――…屋上に冷たい風が吹きぬける。
もうすっかり辺りは暗くなり部活をやっている生徒も校門を出ていく。
俺と凛の甘い一時も終わっているが、寒いので体は密着させたままだ。

「…リトといると時が経つのを忘れてしまうな。というより早い」

同意。そして俺はもう遅いし寒くなったから帰ろうと即した。
凛もそうしようと言っているのだが、身体の方は正直なようだ。
…確かに、あれだけキスを重ねていれば離れるのは名残惜しいのだろう。

「……申し訳ない…。もう少しだけ…このままで…」

分かってはいる。
凛に一度だけでも甘えさせるとこうなるコトぐらい…。
“今まで女らしい生活をしてこなかった”“主人をずっと守ってきた”
そんな凛なのだから“甘え”を求めるのは必至だ。
当然彼氏の俺はそれに期待以上に応えてやりたい……。
だから俺は“好き”だと言う。続いて“大好き”と。意地悪なくらいに言う。
こんなコトをすれば凛はますます俺に甘えるようになるだろう。今日までそうやってきた。
凛はさすがにもう人には見せられないくらい紅潮し俺の胸に顔を擦り付けてくる。…いや、最高に可愛いよ。
すると、照れはピークを過ぎたのか、凛の固く閉ざされた口元が緩む。そして―。

「……わ、私…私だって!どーしようもないくらい君の事が好きだ!好きで好きで堪らないくらいにっ!」

…やられた。グッときた。全部持ってかれた。
こういうのを世間的にバカップルと言うのだろう…。凛は硬直していた。
そしてまた恥ずかしさ故に顔を埋める彼女の髪に口を当てる。そして思う。
            
           ―幸せ―   ただ、それだけのコトを―。