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【唯編・前編】

「おーい、リト!」
彩南高校の昼休み、猿山がリトの所に駆けて来た。
「当たっちまった! 彩南遊園地、ペア2組ご招待券!」
「へー。良かったな」
「だから、な! な! リト! リコちゃん誘ってくれねーか! お前も来ていいからさ!」
「はあ!? ちょ、ちょっと……」
リトの言うことも聞かずに、猿山が唯の方に振り返る。
「あ、そう言えば古手川。お前、リコちゃんと仲良さそうだったな。お前も一緒に来ねーか?」
「え!? わ、私!?」
今度はリトの方に振り返る。
「な、リト。お前だって、古手川のことが好きなんだろ?」
「え、そ、それは……」
言い淀んでしまうリト。それに敏感に唯が反応する。
「あれー? 確かこの間、遊園地に連れて行ってくれるって言ったよね。
まさか今さら、イヤだって言うの?」
「い、いや、そうじゃなくて……」
「じゃあ、良いじゃないの。何が悪いのよ」
「だから……えっと……」
「じゃ、決まりだな! おい、リト! リコちゃんきっちり誘っといてくれよ」
「そうね。あー、楽しみ! リコさんと一緒に遊園地行けるの!
私が大好きな結城君だって、もちろん楽しみよね?」
「あ、あうあう……」
この二人を前にして、
(だから……オレとリコちゃんが一緒に行けるわけないだろーーー!!)
などとは言えるはずもないリトであった……。

とりあえず放課後、リトはララに相談してみることにした。
「な、無理だろ? そんなの」
「え? そんなの簡単じゃない! モシャクラゲ君に頼めばいいんだよ!」
「い!?」
「じゃ、御門先生に相談しに行ってみよ!」
二人は保健室の御門の所にやってきた。
「あら、ダーリンじゃない」
「だ、ダーリン!?」
艶かしい目付きでリトを見る御門。
「ねぇ、ダーリン……。私、この薬草欲しいんだけどぉ……。
取って来てくれないかなぁ……。危険度A級の星に生えてるからぁ」
「いいいっ!?」
「私のこと、好きって言ってくれたの、ウソだったのぉ……? ねぇ、お願い……」
「勘弁して下さい……。もう、さんざんイジメられましたから……」
涙を流しながらウツムくリト。
あの告白以来、男子にはイビられ、女子には陰口を叩かれ、
ルンに毎日抱き着かれては唯に叱られ、
ナナとは毎日疲れ果てるまで一緒に遊ばされて、
挙げ句の果てに今回の話である。
さしものリトの精神力も限界に達しつつあった。
「なーんだ、つまんないなあ。じゃ、薬草の話はまた今度ね」
(また今度、なんですね……)
「で、なに?」
「実は……」
リトは、さっきの事情を御門先生に話して聞かせた。
「ふーん……モシャクラゲをねえ。まあ、交渉次第では出来なくはないけど」
「ほんと? やったー!!」
なぜかララがバンザイして喜んでいる。
「なんでお前がそんなに喜ぶんだ?」
「えへへ……。モシャクラゲ君、また私に会いたいって言ってたから」
「あ……」
リトは、別れ際、愛おしげにララを見つめていたモシャクラゲの様子をふと思い出した。
御門もそんなララのことを、暖かい目で見守っていた。
「分かったよ。じゃ、そのクラゲをリコちゃんに変身させるんだな」
「それはちょっとマズいんじゃないかしら」
「え?」
「だって、その話だとリコちゃんは猿山君と丸一日付き合うんでしょ。
それって、すごくストレス溜まるんじゃない?」
「うっ……」
リトの脳裏にこの間の屋上デートの悪夢が蘇り、思わず身震いしてしまう。
「モシャクラゲはすごくデリケートな生き物なのよ。そんなストレスかけたら、前みたいに……」
「あ……」
今度は、前にモシャクラゲが来た時のことを思い出す。春菜の顔をしたクラゲが……
『気安く触らないでよ! このウジ虫』
(ひいいいいぃ!!)
「だから、結城君が女の子になって、クラゲが結城君になればいいんじゃない?」
「いっ!?」
「わー! 御門センセー、あったまいー!」
「ちょ、ちょっと! お、オレの立場はーっ!?」
「ヒーローにしてヒロイン。本当、最高の役回りよねー」
「さ、最低だーっ!!」
この世界を支配する何らかの悪意を感じずにはいられないリトであった。

そして、遊園地デート前日。
唯は明日着ていく服を選ぶため、クローゼットの前でもう2時間も悩み続けていた。
「これはちょっとセンスが古いし……これはスカートと合わないし……ああ、もうっ」
「なんだ。明日デートでもするのか」
「お、お兄ちゃん!?」
ドアの所に立っていたのは、唯の兄、遊だった。
「で、デートなんかじゃないわよ! よ、4人で遊ぶ約束してるの!」
「へー。で、その4人ってのは、お前と結城と誰だ?」
「な、なんで結城君が入ってるって決めつけるのよ」
「入ってないのか?」
「は、入ってるけど……」
少し頬を赤らめる唯。
(相変わらず、分かりやすい奴だな……)
苦笑してしまう遊。
「あと、猿山君とリコさん」
ドアのフレームにもたれていた遊がズルッと滑る。
「い、今、なんて言った?」
「だから、メンバーは私と結城君、猿山君とリコさんよ」
「結城の奴とリコちゃんが、一緒に……?」
「そうよ。なにか問題あるの?」
「な、なにかって……」
(これは、何かあるな……)
密かに悟った遊は、部屋に戻るとガールフレンドの秋穂に電話を入れた。
「ゴメン、秋穂さん! 明日、ちょっと用事が出来て……」

デート当日の朝。
リトとララは連れ立って、御門先生の家に来ていた。
「はい。ご注文のモシャクラゲ。この子でしょ」
「うんっ! 久しぶりだね、モシャクラゲくん!」
ララは嬉しそうにモシャクラゲの手を取って大喜びしている。
(本当に、嬉しそうだな……)
リトはララの様子を見て、ちょっとだけ微笑んだ。
「地球の環境に馴染めるように、私特製の栄養剤をたっぷり注射しておいたから。
前みたいにはならないと思うけど」
(御門先生の……栄養剤?)
なにか心に引っかかるものがあった。
「じゃ、モシャクラゲくん。かーっこいいリトに変身してねっ!」
ララがそう告げると、クラゲはズズ……と変形して、あっという間にもう一人のリトへと変身した。
「わーっ! リト! かーっこいい!!」
クラゲリトに抱き着くララ。
(ムッ……)
リトは少しだけ不機嫌そうにその様子を見つめていた。
「じゃ、次はリトだね。行くよっ! えいっ!」
「うわっ!?」
ララがリトを『ころころダンジョくん』で撃つと、
リトの身体は瞬く間に女の子のリコへと変身した。
「はぁ……」
なんとなく、肩を落としてがっかりしてしまうリコ。
(なんで、男のオレがデートするってのに、オレが女にならなきゃいけないんだ……)
「うふふ……。なかなか似合ってるじゃない、結城君。胸も大きいし」
「嬉しくないですよ……」
「じゃ、リコ! お洋服着替えましょ! 
私、リコのために可愛いお洋服いっぱい用意したんだよ!」
「あら、ララさん。私も用意したのに」
「えー? じゃ、色々試してみよっか」
「そうねえ……」
「もう、好きにして下さい……」
(女ってのは、どうしてこう着せ替え人形遊びが好きなんだろう……)
身体が女になっても、女心までは理解できないリコだった。

「じゃ、私も遊園地にいるから! 頑張って来てね!」
「ああ……」
ララに見送られて、遊園地前で待ち合わせている唯と猿山の元へ歩いて行く
リコとリト(モシャクラゲ)。
「おーい! リコちゃん、こっちだよ!」
「ま、待たせてごめんなさい」
猿山がリコの両手をギュッと握りしめる。
(ううっ、いきなりかよ……)
キラキラ目を輝かせて猿山がリコの顔を見つめる。
一方、唯はリトと挨拶をしていた。
「おはよう、結城君」
「おはよう、唯。今日の君は、一段と素敵だね……」
「えっ!? あ、ありがと……。き、昨日、5時間かけてお洋服選んだんだ……」
「そうだね、洋服も可愛いよ。でも、オレが言ってるのはそうじゃない」
「え……」
「君のことさ……」
「ゆ、結城君……!?」
リトは澄ました顔で手を唯の頬に当て、じっと唯の目を見つめて来た。
その様子を見ていたリコは、
(な、なんだあいつ!?)
自分だったらとても口に出来ないような歯の浮く台詞を連発するリトを見て、
リコは不安をかき立てられていた。
「オレの気持ち、もう伝えたはずだろ……」
「あ……」
唯はリトに見つめられたまま、顔を真っ赤にして硬直している。
リトがそっと、唯を引き寄せようとする。
(ま、まずいっ!?)
リコは猿山の手を振り払った。
「えっ!? り、リコちゃん?」
そして、リトと唯に向かって大声で告げた。
「さーさー!! はやく入りましょう!!」
リコは唯の手を引っ張って、遊園地の入り口へと急ぐ。
その後を追って、リトも入り口に向かった。
一人残された猿山は、リコに振り払われた手をじっと見つめていた。
「リコちゃん……」

4人は遊園地に入場した。
「さー! 何で遊ぼうかっ!」
リコが唯に大声で尋ねる。
それまで顔を赤くしたままボーッとしていた唯だったが、
「え!? そ、そうね……」
その声でようやく正気を取り戻す。
「どうしたの、唯さん?」
リコが小声で唯に耳打ちする。
「な、なんだか、今日の結城君、いつもより……それに」
唯の顔が更に赤くなる。
「私のこと、唯、って……」
「あ……」
そう言えば、確かにそう言っていた。
唯は目をリトから離せなくなっていた。
その様子に気が付いたリトが、唯に向かってニコッと微笑みかける。
「どうしたんだ、唯」
ボッ!!
音がしそうなくらいに唯の顔が沸騰していく。
「ゆ、結城君……」
リトがフッとすかした笑みを浮かべて唯の所に歩み寄って来る。
「言ったはずだろ? オレは君の愛の奴隷なんだ。だから、そんな呼び方しなくていい」
「え……」
「リト、でいいんだぜ」
「えっ……」
「ほら、試しに呼んでみてくれ。さあ」
唯は途切れ途切れのとまどった声でリトを呼んだ。
「り……り、と……」
「なんだい、唯」
「!!」
唯が興奮のあまり、目を開けたままフラッと倒れそうになってしまう。
「ゆ、唯さんっ」
慌てて唯を支えるリコ。
「こ、こらっ! リト君っ! あんまり唯さんをからかうのは止めてっ!」
リトはどこ吹く風のようにリコをあしらう。
「なんだ? 君、嫉妬してるのか?」
「し、嫉妬!?」
あまりにも見当外れな物言いにリコは面食らってしまう。
フッと笑みを浮かべると、リトはどこかへと歩き去って行った。
「……」
その様子を見て、猿山は無言で奥歯を噛み締めていた。

とりあえず、頭を冷やすために唯をベンチで休ませ、リコはリトを探しに行った。
(あいつ……一体!?)
もう一度落ち着いて、ことのなりゆきを思い出してみる。
(朝、オレに変身して、御門先生の薬を注射して……)
必死で記憶をたぐろうとする。
(あ……!)
リコはついに思い出した。御門先生に栄養剤を注射してもらったが、記憶が飛んで、
いつの間にか春菜を口説いてしまっていたときの事を。
(まさか……!)
その薬のせいで、あいつがプレイボーイに!?
しかし、そうとしか考えられない。しかも……
『たっぷり注射しておいたから』
(ま、まずい……!!)
このまま放置しておいたら、大変なことになる……!
そう確信したリコは、ダッシュしてリトを探し回る。
リトはあっさり見つかった。
道端で、見知らぬ女の子をナンパしていた。
「君、可愛いね……。オレと一緒に、観覧車に乗らないか?」
「は、はいっ……」
話し掛けられた女の子の目がハートマーク型になる。
(やっぱり!!)
なんだかんだで、周りの女の子みんなに好かれているリトの顔は、
本人の性格のためにあまり目立っていなかったが、なかなかのイケメンだった。
そのリトが今、プレイボーイとしての人格を得て、まさに水を得た魚状態になっていた。
リコは慌ててリトに駆け寄ると、ガッとリトと腕を組んで言った。
「す、すみませんっ! この人、私の彼氏なんですっ!」
「えっ」
目の前の女の子があせってパタパタと駆けて行く。
それを見て、リコがリトを叱りつける。
「こらっ! ダメでしょ! ちゃんと私達と一緒に居なきゃ!」
澄ました顔を崩さないまま、リトが返す。
「君こそ、いいのかい? 彼氏の前でそんなこと言って」
リトがリコの後ろをアゴで指し示す。
「えっ!?」
リコが振り返ると……そこには、唖然としたまま固まっている猿山の姿があった。

「リコちゃん……」
まるで、全財産を入れた財布を落としたことに気付いたような、
茫然自失の表情でリコを見つめる猿山。
「さ、猿山君っ! ち、違うのっ! これは、違うのっ!」
慌てて猿山に言い訳しようとする。
しかし、それは猿山には全く届いていないようだった。
「そっか……だから、返事、くれなかったんだね……」
肩を落として、猿山が呟く。
「そ、そーじゃなくてっ!」
リトがからかうように声をかける。
「ははっ。モテない男はつらいねぇ……」
猿山がビクッと反応してリトを睨みつける。
瞳に怒りの炎を宿し、地獄の番犬の慟哭のような声で吠える猿山。
「この野郎……もう一度言って見やがれ!!」
ダッとリトに殴り掛かる。
それを軽快なステップで交わし、タっと走り去るリト。
「フッ。男の嫉妬は見苦しいねぇ……」
「貴様ああぁっ!!」
「や、やめて! 二人とも! 私の話を聞いてーっ!!」
リコの声は誰にも届くことなく、男二人はどこかへと走り去って行った。
「な、なんでこうなるんだ……」
その場にへたり込むリコ。
こうして、リコは自分自身と猿山との三角関係に巻き込まれてしまった。

一方その頃、唯はベンチでようやく息を整え、落ち着く事が出来た。
(お、落ち着くのよ、私……。た、たった、下の名前で呼ばれただけじゃない……)
『唯』。
たった、その一言。
だけど……

『ただいま、唯』
『お帰り、リト』
『今日も素敵だね、唯』
『ありがと。リト』
『唯……』
『リト……』

(な、なに考えてるのっ! わ、私ったら……)
またまた赤くなってしまう頬を、パチパチと手で叩く。
今日のリトは、正に唯の空想の世界からはみ出して来たようなリトだった。
(と、とにかく、みんなを探しに行かなきゃ……)
唯はベンチから立ち上がって歩き始めた。

ようやく、リコは再びリトを発見した。
リトは、寂れた人影の少ない小屋の脇で、壁に背をもたれて休んでいた。
今度は周りに猿山がいないかキョロキョロ見回して確認してから、リコはリトを叱りつけた。
「こらっ! お前のせいで、えらい事になったじゃねーか!」
やれやれ、という顔でリコの声を受け流すリト。
「とにかく、行くぞ!」
ガッとリトの腕を掴んで歩き出そうとするリコ。
(ララを呼んで、なんとかしてもらわなきゃ……)
ところが。
「あっ!?」
逆にリコは、リトの腕にグッと引き寄せられてしまった。
ガッ。
リトの胸で、後ろから抱え込まれてしまうリコ。
(な、なにを……!?)
リトがリコの耳元に口を寄せ、甘美な声で囁きかけて来る。
「君、可愛いね……」
「えっ!?」
ス……。
「あっ!?」
リトは、リコの胸元に右手を差し込んで来た。

リコは、パンティは身に着けたものの、ブラジャーを着けていなかった。
せめてそこだけは、男のプライドを保っていたい……。
そんなリコの思いが、見事に仇となってしまっていた。
「君……誘ってるんだよね、これ……」
リトが二本の指でリコの乳首をコリコリと弄ぶ。
「あ……やっ……!」
リトの指に従順に反応してしまうリコ。
「君……敏感なんだね……可愛いよ……」
甘い台詞を吐きながら、ハァ……と耳に熱い息を吹き込む。
「あ……あっ……やめ……!」
だんだんと感じ出してしまい、リコの腰がガクガクと震え出してしまう。
「どうしたんだい? 危ないよ……」
リトは左手をリコのスカートに潜り込ませ、パンティの中にまでスルスルと手を差し込むと、
おぼつかなくなったリコの腰を支えるようにリコの尻を丁寧に撫で回す。
「ひゃんっ!!」
リコの身体がビクッと反応する。
「君、オレの彼女になりたいんだろ?」
「ち、ちが……」
「だって、さっき君自身がそう言ったじゃないか」
「あ……」
そう言えば、さっき。ナンパしていたリトを止めるために言った言葉。
『この人、私の彼氏なんですっ!』
(そんな……そんな……!)
そんな、いい加減な気持ちで言った台詞のために……
よりにもよって、自分自身の彼女にされてしまうなんて……!
愕然としてしまうリコ。
リトは右手の指先をバイブレーションさせて、リコの敏感な乳首を刺激してきた。
「ああああっ……!!」
腰の力が抜け、リトの左手に体重をかけてしまう。
そのリコの尻を思うがままに蹂躙するリトの左手。
「ひゃんっ……あんっ……あうんっ……!」
「フッ……」
急にリトが両手を引き抜き、左手で腰を押さえながら背中をトンと押した。
「あっ!?」
身体の力が抜け切っているリコは、押さえられた腰をリトに突き出す形で
四つん這いになってしまう。
めくれ上がったミニスカートからは、リコの白いパンティがリトに丸見えになっていた。
「可愛いパンティだね……。ビチョビチョに濡れてるのがさらにいい……」
囁きかけつつ指でパンティの濡れた部分をスーッとなぞるリト。
「あっ……ああっ……!」
リコはあられもない声を上げてしまう。
「おや? ここ、少し盛り上がってるねえ。一体なんだろう……」
その部分にパンティ越しに指先を当て、マッサージするように揉みほぐす。
「あっ……ひあああっ! あはんっ……ああんっ……!」
もはやリコは、リトにやられるがままに黄色い声を上げる人形と化してしまっていた。
「ふうん……。そろそろ、出来上がったみたいだねえ……」
リトがそう告げた後、リコの背後でジーッとジッパーを下ろす音がした。
(ま……まさか……!)
恐怖のあまり、前に這って逃げようとするリコ。しかし、
「逃がさないよ……」
リトは両手でリコの腰を押さえ、パンティを少しずらす。そして……
ペタ。
(!!)
リコの最も敏感な部分に直接当たる、柔らかな感触。それは……
(お、オレの……)
リコの全身を戦慄が駆け抜け、反射的に叫び出そうとするが、
「いや……うっ!!」
口をリトに塞がれてしまう。
「覚悟はいいかい? 今から、君を本当にオレの彼女にしてあげるから……」
(そ……そんなの……)
ついに、リトのモノがリコの柔らかな秘肉を押し広げ始めた。
(あうっ!? は、入って来る……!!)
男である自分のモノで、男である自分が、男である自分に、女にされてしまう。
(そんなの、イヤーッ!!)
リコは涙を流して、心の中で泣き叫んだ。
その叫びが通じたのか。
目の前に、救いの女神が現れた。

「結城君……あなたって人は……」
その声は、今までリコが聞いた唯の声の中で、最も悲しく、最も怒りに満ちたものだった。
しかし、それでもリトは顔色一つ変えない。
「ああ、唯。君もして欲しいのかい?」
グッ、と唇を噛み締める唯。
「見損なわないで……」
押し殺した声でそう告げると、
パンッ!!
リトの頬に強烈な平手を放った。
そして、手を地面に着いたリコに肩を貸して立たせると、
リトに背を向けて吐き捨てるように告げた。
「あなたとは絶交よ。もう顔も見たくない」
「……」
無言でそこに佇むリトを置いて、唯とリコはその場を後にした。



【唯編・後編】

再び、気分が落ち着くまでベンチに座って休んでいたリコと唯。
「大丈夫? リコさん」
「うん、なんとか……」
唯のおかげで間一髪、最悪の事態だけは避けられたものの……
(もう、何がなんだか……)
猿山はリコと自分の仲を勘違いして、目下行方不明。
唯は、自分のハレンチ姿を見てしまって、絶交を言い渡した。
(このまま行くと……うああ……!)
おそらく、二人からは一生まともに付き合ってもらえず、
周りからは蔑まれ、惨めな高校生活を送ることに……。
はぁ……。
大きくため息をついてしまうリコ。
(いっそ、本当に女になっちまおうかなあ……)
ヤケクソになって、とりとめも無い考えを巡らしてしまうリコだった。

そして、その隣に座っている唯も……
(私……なんて、バカだったんだろう……)
あの、結城君の甘ったるい優しさが。
自分のためだけに向けられている、と思ったなんて。
(最初から、おかしいと思うべきだったのよ……)
あんな、私のことを全部分かってくれる、甘過ぎる結城君なんて、おかしい。
一体、彼に何が起こったのかは知らない。
けど……
(あんな結城君なら、もう一生顔も見たくない……)
唯はもう一度、唇をギュッと噛み締めた。

考えた末、リコの脳裏についに一つのアイデアが思い浮かんだ。
早速実行に移すリコ。
「唯さん。私、ちょっとトイレに行って来るから、ここで待ってて!」
「あ、リコさん……」
タタッとトイレに駆けて行くリコ。
そして、トイレに入ると大急ぎでララの携帯電話に連絡した。
「おいっ! ララっ! 今から、オレの言う通りにしてくれっ!」
一通りララに伝え終え、ついでに用を足すことにする。
しかし……
「あ、あれっ!? ないっ!? って、あーっ!!」
迂闊にもいつもの癖で男子トイレに駆け込んでしまったリコ。
小便器の前でパンティを下ろしてウロタえているリコを、
周りの男達が不思議な顔をしてしげしげと観察していた。

「た、ただいまー……」
憔悴した様子のリコを見て、唯が尋ねる。
「リコさん、お腹の具合でも悪いの? 随分時間かかってたけど……」
「うん、ちょっと……」
リコは相変わらず慣れない女子トイレで用を足すのに思いっきり手間取ってしまっていた。
「じゃ、どうしようか」
「とりあえず二人で遊ぼうか」
「うん……」
唯が浮かない顔でうなずいた。
リコはチラリと腕時計を見る。
(オレが元に戻るまで、あと約1時間半……)
もう何度も女になっては元に戻っていたリコは、だんだんと要領を掴み始めていた。

リコと唯は、沈んだ気分を吹き飛ばすためにジェットコースターに乗ってみた。
しかし……
「……」
唯の顔は相変わらず沈んだまま。
お化け屋敷に入っても、
「ギャーッ!!」
「……」
「そ、そんなっ! これで怖がらない女の子がいるなんてっ!?」
お化け役の人がプライドを失ってしまうほど、唯の目には周りが全く目に入っていなかった。
そんな唯の様子を見ながら、リコはもう一度腕時計を見る。
(あと20分か。そろそろ……)
正直な所、元に戻る時間が正確に分かっているわけじゃない。
今すぐに戻ったりすれば、大変な事になってしまう。
そうするとすぐにでも唯から離れないといけないが、
今唯を一人で放っておくのもどうにも気が引けた。
(誰か、知り合いでもいないかなあ……)
そんなことを思いながら、辺りを見回す。
すると少し離れた場所に、ツンツン頭にサングラスをかけ、
マスクをした不審そうな人物を見付けた。
(あれは……!)
「遊さんっ!」
リコは一目でその正体を見破った。
「ごめんなさいっ! ちょっと待ってて!」
遊の元に駆け出すリコ。
「ちょ、ちょっと! リコさんっ」
いつもピンチの時に自分を助けてくれる遊。
リコはタタッと遊に駆け寄り、嬉しさのあまりおもむろにガバッと抱き着いてしまう。
「遊さん、見っけーっ♪」
「うわっ! お、お前っ!?」
変装しているつもりなのにあっさり見破られた遊は、動揺してしまう。
「バレバレですよ、それ」
「あ、そっか? まいったな」
遊はマスクとサングラスを外す。
「えへへっ♪ 丁度いい所に会っちゃった。遊さんっ」
リコは甘えるように遊に腕を組んで来る。
「おいおいっ……お前なあ」
「古手川君?」
その時。
呆然と立ちすくむ遊の前に現れたのは、昨日遊が『用事がある』と言ってデートを断った、
西連寺秋穂だった。

デートを一方的に断られた秋穂は、たまたま来た他の男からの誘いに乗り、
偶然にも遊園地でデートしていたのだった。
「あ、秋穂、さんっ……」
リコに腕に抱き着かれながら、秋穂を見つめる遊。
秋穂の隣にいる男が尋ねる。
「秋穂さん、お知り合いですか?」
秋穂は顔色一つ変えずに答える。
「うん。知り合い。ただの」
「たっ……ただのっ……」
顔面蒼白になる遊。
「古手川君、可愛くて若い彼女とデートできて良かったねー。じゃ、私達はこれで」
ニッコリと笑いながら明るい口調で掛けられる言葉が、
どうしてここまでの威圧感と戦慄をもたらすのか。
「まっ……」
声を掛けようとした遊は、立ち去って行く秋穂の後ろ姿の放つ見えないオーラにそれを阻まれた。
「あ……秋穂……さん……」
その様子をボーッと眺めていたリコが無邪気に声を掛けて来る。
「どうかしたんですか? 遊さん」
遊はふーっと肩を落として言った。
「いや、なんでもない……」

結局、リコは
「ごめんなさい! 用事が出来たんで、遊さんと一緒に待っててくれる?」
唯に告げ、どこかに走って行った。
「なんでお兄ちゃんがここにいるのよ。それも一人で」
「いや、ちょっと、観覧車で物思いに耽ろうかと思って……」
「なにそれ」
ふう、とため息をつく唯。
「ところで、唯。結城の奴はどうしたんだ」
「知らない。あんな奴」
「なんだ、すっぽかされたのか?」
「いや、会ったんだけど、もう会わない」
「ほう……」
遊は今聞いたことから状況を分析してみた。
夕崎梨子=結城リトとはさっき会ったばかり。
という事はここには結城リト本人はいないはず。
それなのに、唯はリトに『会った』と言った。
(大方、出来の悪い替え玉でも使ったのか……)
なんとなく事情を察した遊は、話を続ける。
「お前、結城のことを信じてないのか?」
「え……」
「何があったのか知らんが、お前の知ってる結城リトは、
そんなことをする奴なのかって聞いてるんだ」
「あ……」
唯は少し黙って考えてみた。
(どう考えても、結城君があんなことをするなんて、おかしい……)
「だろう?」
唯の心の中を見透かしたように遊が告げる。
「もう少し、良く考えた方が良いんじゃないか?」
「でも……でも……」
唯がとまどったように声を出す。
と、その時。
「いやー、古手川。遅くなって悪かったなー!」
精一杯の笑顔を浮かべて、結城リトがその場に現れた。

リトは、ララに連絡して男用の衣服を用意させ、変身が解けてからようやく帰って来たのだった。
「ゆ、結城君っ!!」
ポリポリと頭を掻きながらリトが言い訳をする。
「いやー、すまん。午前中ちょっと家で用事があって、遅れちまった」
「用事があったって……な、なによそれ! じゃ、じゃあ、さっき私が見てた結城君は?」
「えっ? なんだい、それは?」
リトが白々しく聞き返す。
「私、午前中にも結城君に会ったのっ!! どういう事っ!?」
「さ、さあ、なんのことか分からないなあ……」
誤魔化そうとして目が明後日の方向を向いてしまうリト。
そしてリトは、わざとらしく後ろを振り向く。
「おっ! あんな所にララがいるぞっ! ララーっ!!」
ララは嬉しそうに返事をする。
「おーい、リトー! こっちこっちー!!」
「え……ええっ!?」
ララと手を組んで歩いて来る人物。それは……
「結城君っ!? 結城君が二人っ!?」
まぎれもない、結城リトその人だった。

「ど、どーいう事なのっ! これはっ!!」
「あー、唯もリトとデートなんだー! 良かったねー!」
「私もって……な、なんなのよ、これーっ!!」
「えーっとね。このリトは、モシャクラゲ君って言って、他の人に変身できるんだよ!
だから、私今日はモシャクラゲ君のリトとデートなの!」
「モ、モシャクラゲ!?」
以前、一度高校中に大騒動を引き起こしたその名前には、唯も覚えがあった。
「さっきまで逃げ出してたんだけど、やっと見付けちゃった! エヘヘ♪」
「な、な、な……」
呆気に取られる唯。
その時、クラゲのリトがララに囁き始めた。
「ララ、愛してるよ……」
「リト♪ 私もっ」
二人はしっかりと抱き合って……
ブチューッ!!
こっちまで音が響いてくるくらい、濃厚かつ愛情に満ちたキスをした。
「ハ、ハ、ハ……!!」
人差し指を差していつもの決め台詞を吐こうとする唯だったが、
そのあまりの愛情溢れるオーラに指は折れ曲がり、言葉を失ってしまう。
キスを終えたララがニッコリ笑って告げる。
「じゃ、リト! 今日はいっぱい遊ぼーねっ♪」
「ああ、ララ。今日は一日中愛し合おう……」
「リト♪ 大好きっ♪」
濃縮された愛情オーラで辺りの空気をピンク色に染め、
スキップしながらララとクラゲリトはその場を立ち去った。

唖然としたままその場に残されたリト、唯、遊の三人。
と、遊が立ち上がって告げる。
「じゃ、オレも帰るとするか」
「お、お兄ちゃん……」
「じゃ、頑張れよ!」
バンッとリトの背中を叩いて遊は立ち去った。
(はぁ……秋穂さんになんて言い訳すりゃいいんだ……)
その背中には、どことなく哀愁が漂ってはいたが。

そしてようやくリトと唯は二人きりになった。
「……」
「……」
あまりの事態のなりゆきに茫然自失の唯が、ようやく正気を取り戻して声を出した。
「ゆ、結城君……」
「こ、古手川……」
しかし、唯はまだ訝しげな表情をしていた。
「まだ、信じられないわ……。あなたは、本当に結城君なの?」
「えっ!? オレはオレだけど……」
「証明してよ」
「証明ったって、そんなの……」
唯はキッとリトを睨みつけて告げる。
「本物の結城君なら、私のことを『唯』って呼び捨てに出来るはずよ」
「ええっ!?」
「はやく、呼んでよ」
(な、なんでそうなるんだ……!?)
唯はリトの目をじっと睨みつけていた。
リトはゴクリと唾を飲み込んだ。
「じゃ、行くぜ……。ゆ、ゆ、ゆゆゆ……」
何故こんなに……と思わされるほどの逡巡の後、
「ゆい……」
ぎこちない口調で、リトは告げた。
それを聞いた唯は、プッと吹き出してしまった。
「な、何がおかしーんだよっ」
「それでこそ結城君ね……」
「どういう意味……えっ!?」
いきなり唯がリトの胸に縋り付いて泣き出した。
「こ、古手川……?」
「えっ……えぐっ……バカ……バカ……結城君の……バカ……! 
うっ……あなたが遅刻したせいで、えうっ……私が一体、どんな思いをしたと思ってるの……!」
「古手川……」
「えーっ……えっ……えっ……バカ……バカ……バカ……バカ……バカァッ!!」
どんどんとリトの胸を叩いて泣きじゃくる唯。
リトはそっと唯の頭に手を乗せ、唯が泣き止むまでゆっくりと頭を撫でさすっていた。

しばらくの後、ようやく泣き止んだ唯は、元より一層強気な口調でリトに告げた。
「さーあ、結城君……あなたのせいで随分遅れちゃったんだから、
今日はいっぱい付き合ってもらいますからねっ!!」
「ははは……」
ジェットコースター。
「キャーッ!! 結城君のバカーッ」
「な、なんなんだ、その悲鳴はっ!?」
メリーゴーラウンド。
「ちょ、ちょっと! どこに触ってるのよ! ハレンチねっ!!」
「じゃ、なんで一緒に乗ろうなんて……」
占いコーナー。
「な……何よ、この占い! ふざけてるのっ!? もう一回やるわよっ」
「それって、意味ないんじゃ……」
クレーンゲーム。
「取って! あの猫の奴っ!!」
「それ、上の奴3つは取らないと取れねーぞ……」
お化け屋敷。
「キャーッ!! 怖いーっ!! 結城君のバカーッ」
「だから、なんで最後にそれを付けるんだ!?」

十分に楽しんだ後、最後に観覧車に乗る事になった。
「フーッ。楽しかったね」
「機嫌、治ったか?」
「うん!」
「ま、あれだけ人の事バカバカバカって叫びまくればなあ」
「何よ、不満なの?」
「いえいえ。私が悪う御座います」
「分かればよろしい」
クスッと二人で笑い合う。
「でも、まだちょっとだけ治ってないかな」
「まだ?」
唯は顔を少しだけ赤らめる。
「私のこと、まだ『唯』ってきちんと呼んでない……」
「またそれかよ……」
「な、何よ! 私にとっては大事な事なの!」
やれやれ、と頭を掻いてリトが唯に向き直る。
「分かったよ。じゃ、行くぜ」
「は、はやくしなさいよ」
唯がまた、リトの顔をじっと見つめる。
「ゆ、ゆい……」
「ダメ! ちょっとどもった!」
「ユイ……」
「何それ! 感情が込もってない!」
「UE」
「何その発音!? ふざけてるの!?」
「ったく。どうすりゃいいんだよ」
そう言われて、唯はちょっと顔を赤らめてリトに注文を付ける。
「そ、そうね……例えば、あなたが仕事から帰って来て、
奥さんに向かってただいまー、って言う時みたいに言ってみてよ」
「なんだよそれ!? そんな経験ねーよ」
「ちょっとは想像力を働かせなさい! た、例えば、私が、奥さんになってる、とか……」
「へ?」
リトがその光景を想像してみる。

『た、ただいまー、ゆ、唯』
『お帰りなさい、リト。今日は遅かったのね』
『い、いや、仕事でさ』
『じゃ、このマッチは何? スナックモモ?』
『え、あ、いや、それは、その……』
『また、そんなハレンチな所に行って!! 今月もお小遣い抜き!!』
『ひ、ひえーっ!』

「あわわわ……」
「あなた、一体何を想像してるのっ!!」
どうも、リトの想像と唯の想像では若干の食い違いがあるようだ。
「まったくもう! デリカシーのかけらもないんだからっ!」
「ふう……」
一息ついてリトが言った。
「しかし、なんだな」
「なによ!」
「今日お前、えらくハイテンションだな」
「!」
急に唯が黙り込んだ。

「古手川……?」
不審に思ったリトが声をかけると、唯は悔しそうに目に涙を浮かべて肩を震わせていた。
「誰のせいだと思ってるのよ……」
「あ……」
顔を真っ赤にして唯が叫ぶ。
「あなたがいない間に私がどんな思いをしたかも知らないで! 責任取りなさいよ!」
急に唯の目からブワッと涙が溢れ出す。
「怖かったんだから……結城君がいなくなっちゃうかと思って……」
「え……」
「えっ……もう……あんな思い……絶対したくない……えうっ……」
唯の喉から嗚咽が漏れ出し、瞳からは涙がとめどなく流れ出してきた。
「……」
リトは少し俯いて黙り込んだ後、観覧車の小さなボックスの中でスッと立ち上がった。
「え……?」
唯の肩に手を置いて、そっと優しく告げる。
「ごめんな……」
そう告げて、じっと唯の目を見つめるリト。
二人の乗る観覧者のボックスは頂上へと達し、
幻想的な夕日の色が、一人のか弱い少女を官能的な女性の姿へと変化させていた。
「オレ、何にも知らなくてさ」
「結城……君……」
リトは、全て知っていた。
自分に告白されて、悩み苦しんでいた唯を。
自分に唯と呼ばれただけで、嬉しさのあまり倒れてしまった唯を。
自分に裏切られて、絶望の淵に沈んでいた唯を。
『少しだけ……良く観察してやって欲しいんだ』
遊の言葉が頭に蘇る。
本来、自分が見るはずのなかった唯の心の奥底。
それを観てしまったリトの胸の中に、締め付けられるような愛おしさが満ち溢れていた。
「唯……」
リトの胸にあった思いが、塊となって唇から吐き出される。
そのたった1文字の言葉は唯の唇へと吸い込まれ、
唯の世界からリト以外の全ての存在を消し去っていた。
「リト……」
言葉を発した二人の柔らかな器官が、二人の言葉によって結ばれ、引き寄せられていく。
夕日の作り出す、橙色の神秘的な空間の中。
二人は静かにそっと、初めての口づけを交わした。

カタン、カタン。
絶え間なく回り続ける観覧車の作動音が二人を現実の世界へと引き戻し、
どちらからともなく唇を離す。
「……」
「……」
二人の間にわずかな静寂が訪れる。
ふと、唯が口を開いた。
「おかしいわね……」
「な、なにがだよ」
唯は訝しげな目をしてリトを睨みつけていた。
「結城君がこんなにカッコイイはずないもの。あなた、やっぱり偽物なんじゃないの?」
「な、なに言ってんだよ」
いきなり唯がスックと立ち上がり、ニッコリと微笑んだ。
「だから、もう一回調べて見るね」
「え……」
唯はリトの頭の後ろに手を回すと、今度は自分からリトに熱烈なキスをした。
「んーっ!?」
いきなりの唯の行動に面食らい、手をバタバタさせて暴れるリト。
プハッ、と音を立てて唯がリトの唇から離れ、ペロリと唇を一嘗めする。
「うん。やっぱり、本物ね。だって、こんなにカッコ悪いんだもの!」
「おいおい……」
アハハッ。二人が笑い合ううちに、観覧車は地上に着いていた。

観覧車を下りた二人は、遊園地の出口の所に立っていた。
「さーてっ。そろそろ帰るか」
「うん。でも、リコさんと猿山君、どうしたんだろ」
「あ……」
リトは思い出したように、振り向いた。
「お、オレ、リコちゃん呼んで来る! ここで待っててくれるか?」
「え? うん、いいけど……」
リトがタタタッと走り去って行く。
そして同じ方向から、今度はリコが走って戻って来た。
「お疲れ様、唯さんっ。いっぱい楽しんだみたいだね」
「う、うん……」
唯は少しポッと頬を赤らめる。
「で、どっちが良かった? 優しいリト君と、普通のリト君」
「え……」
少し考えた末に唯はニッコリ笑って結論を出した。
「私が好きなのは……優しくなくて、気が効かなくて、バカでおっちょこちょいで……
デリカシーがなくて、時間にルーズで、ハレンチで……」
リコの口の端が少しだけ引きつったようだ。
「だけど……たまにカッコ良くて……たまーに優しい、結城君、かな」
リコはそれを聞いてニッコリと笑った。
「じゃ、私猿山君探さないと行けないから、ごめんね!」
「結城君は?」
「リト君もララさんと帰るって。じゃ、また一緒に遊ぼうね」
タタタ……とリコが駆けて行く。
(ふう……)
唯が空を見上げる。
青から橙へとグラデーションを描く夕焼け空から、少しずつ光る点が浮かび上がり、
今日という長かった一日が終わりを迎えようとしていた。
唯の目に映る群青色の虚空に、リトの顔が浮かび上がる。
その顔はなぜか苦笑いをしていて、頬を冷や汗が伝い落ちていた。
(本当にもう……カッコ悪いんだから!)
唯はクスッと一笑いすると、唇を手でスッとなぞって、
満足そうな笑みを浮かべて家路に着いた。
(終)


【猿山編】

一方その頃、リコは……
「さ、猿山……」
ララの助けを借り、猿山の居場所を探り当てていた。
猿山は遊園地のとある池のほとりの草の上に座って、ボーッと水面を眺めていた。
「ねー、リト。猿山、どうしたの?」
「えっと、オレにフラレたって事になってるみたいだな……」
リコはララの方に振り向いて告げた。
「ララ、お前はクラゲを頼む。猿山はオレがなんとかするから」
「うん。じゃあね!」
そう言ってニッコリ笑ったララの方を見ると、なぜかそばにいるモシャクラゲのリトが
小さい子供の姿になっていた。
(ガキの頃の……オレ?)
ララはそのまま子供のリトと、親子のように連れ添って歩いて行く。
不思議に思ったリコだったが、今はそれどころではないことを思い出し、もう一度猿山を見つめる。
(さて……)

「猿山くんっ」
ビクン! 猿山の身体が反応し、ゆっくりとリコの方に振り返る。
「リコ、ちゃん……」
意外そうな顔をしてリコの顔を見た猿山は、もう一度水面を見つめる。
「ほっといてくれ……。君の彼氏はリトなんだろ……」
「あ、あはは……」
リコは苦笑いしながら猿山の肩に手を当てる。
「あれって、ウソ! リト君がナンパしようとしてたから、懲らしめたかっただけだよ!」
「気休めはよしてくれ……」
猿山はしんみりとした声で淡々と告げた。
「オレ、分かってたんだ。オレなんかが、リコちゃんみたいな可愛い娘と付き合えるはずないって」
「そんなことないよ?」
「オレ、そんなにイケメンでもないし、頭は悪いし、スポーツが出来るわけでもないし……
気の効いたジョークも言えないし、金もないし、ドスケベだし……」
「うーん……」
ひたすら自嘲気味になっている猿山の肩に手を当てて、ちょっと困った顔をしたリコだったが、
「そんなダメダメな奴は、池に落ちちゃえー!」
いきなりドンッ! と猿山の肩を押した。
「うわっ!?」
バシャーン!!
不意にリコに押され、バランスを崩して猿山は池に落ちた。
「リ、リコちゃんっ!?」
ビショ濡れになった猿山が池に腰を着いたまま、ワケが分からないという顔でリコを見る。
「あははっ! みっともなーい!」
あっけらかんと笑うリコ。
その笑顔を見ていた猿山の顔に、だんだんと笑みが蘇って来ていた。
「このぉ……やったなぁ、リコちゃん!」
池の水をすくって猿山がリコに水をかける。
「きゃっ! 負けないぞぉ!」
リコが池にドボンと飛び込んで猿山に水をバシャバシャかける。
「このぉ!」
「きゃーっ!」
二人はしばらくの間水遊びを楽しんでいた。

池から上がった二人。
「もー、冷たーい」
「だって、リコちゃんが始めたんだよ?」
「私に水をかけたのは猿山君じゃない!」
二人がアハハッと笑い合う。
ふう、と猿山は一息ついた。
さっきまで胸に満ちていたイヤな気分はどこかに消え去り、
爽やかなリコの笑顔そのままの新鮮な空気が取って代わっていた。
「やっぱり、リコちゃん、凄いな……」
「え?」
「なんかリコちゃんってさ、男の子みたいだね」
「そ、そう?」
リコが冷や汗をタラして苦笑いする。
「オレ、女の子って、なんだかどこかに秘密を持ってて、ちょっと怖いなって思うことが
あるんだけどさ……。リコちゃんって、そういうのが全然ないよね。
なんか付き合ってて、すっごく気持ちいいよ」
リコがキョトンとして猿山を見る。そして人差し指を唇に当てて言った。
「そうかな? 私も秘密持ってるけどなあ」
「えっ?」
「知りたい?」
「う、うん……」
「実は、私……」
ゴクリ。猿山がツバを飲み込んだ。
「男の子なのだー!」
「えええっ!?」
猿山が驚愕に目を見開く。
「ほ、ほんとに……?」
「確かめてみる?」
リコが自分のスカートを少し持ち上げて、手で股間を差し示す。
(そ、そんなことって……!?)
猿山が恐る恐る、スカートの中に手を入れる。
水に濡れたパンティに手を当て、ソレの感触を確かめてみるが……
(無い……?)
男ならあるはずのソレはそこには無かった。
「あ、あれ……? 無い、けど……?」
猿山が不思議そうな顔でリコを見る。
すると、リコは急に艶かしい声を上げた。
「あんっ……猿山君のエッチぃ……」
ボッ!!
猿山の顔が真っ赤に染まる。
「ご、ご、ごめんっ! オ、オレ、そんなつもりじゃ……」
必死で言い訳を始める猿山を見たリコが、プッと吹き出して思いっきり笑い出す。
「アハハハハッ! 冗談だよー!」
呆気に取られた猿山も釣られて笑い出した。
「アハハハハ!」
「キャハハハハ!」
猿山は笑いながら、リコをじっと見つめて考えていた。
(本当にリコちゃんって、男の子みたいに大胆で、屈託がなくて爽やかで……)
リコの水に濡れた上着のシャツを見る。
ブラジャーを付けていないリコの胸に濡れたシャツがぴったりと張り付き、
ふくよかな乳房の形がくっきりと浮き上がっていた。
(でも、すっごく女の子なんだよな……)
男の子のようで女の子のような、中性的な不思議な輝きを持ったリコ。
(リコちゃん……)
また改めて、猿山はリコの魅力に惹き付けられていた。

しばらくして二人の服が乾き、二人は遊園地の出口に向かって歩いていた。
「猿山くん、機嫌治った?」
「うん。リコちゃんのおかげでね」
ニッコリとリコに向かって微笑む猿山。
「ねえ、猿山くん。今日ね、リト君と唯さん、キスしたんだよ」
「えっ!?」
リコは悪戯っぽい目をして猿山を見る。
「私達も、する?」
「り、リコちゃん……」
「じゃ、このベンチに座って目をつむって?」
猿山は言われた通り、そばにあったベンチに座って目を閉じた。
(リコちゃん……)
ドキドキと胸を鳴らしてリコを待つ猿山。
と、唇にリコの指が当てられ、何かが入れられるような感触があった。
「ん……おわーっ!?」
猿山の口の中が火のように熱くなっていた。
リコが猿山の口に入れたのは、ララから受け取ったダークマターキャンディだった。
「どう? 炎のような熱いキスでしょ?」
クスッと笑うリコ。
「リ、リコちゃん……ひでえよ……」
「あははっ。じゃ、お口な・お・し♪」
リコはニッコリ笑って、猿山の唇にチュッと軽いキスをした。
「!!」
一瞬驚きのあまり唖然としてしまった猿山が、
「リコちゃん……!」
ポーッと顔を赤らめてリコを呆然と見つめた。
「じゃあねっ」
リコは明るく挨拶すると、タタタッと駆けてすぐに見えなくなってしまった。
「リコちゃん……」
猿山はもう一度リコからキスを受けた唇を手で撫でてうっとりとした表情を浮かべた。

「ふうっ……」
ようやく全てを終えたリコはゆっくりと歩いて家に向かっていた。
そこにララが飛んで来た。
「リトー!」
「お、ララ。クラゲはどうしたんだ?」
「あ、御門先生の所に送って来たとこ。で、猿山はどうだった?」
「んー、もう大丈夫だろ」
「ふーん……」
ララはリコの様子をしげしげと見つめた。
「リト、猿山とデートするのすっごくイヤがってたのに。なんか変わったね」
「そうかな?」
澄ました顔でリコはララに返す。
今日、唯とのデートで感じた胸のときめき。
それを猿山にも少しだけ分けてやりたくって、なんとなくあんな行動を取ってしまった。
(たまには、こんなのも悪くないかな……)
クスッと笑って、ペロッと唇を一嘗めするリコ。
「ま、いいや。はやく帰ろうぜ」
「うんっ。じゃ、また一緒にお風呂入るー?」
「もう勘弁してくれよ……」
アハハッ。リコとララは二人で笑い合いながら結城家へと帰って行った。
(終)


【モシャクラゲ編】

こぽ、こぽ、こぽ……。
小さなアワくんたちが手をつないで天井の方に泳いでいく。
ボクのいる水の入った四角いハコ。
とってもキモチのいいところ。
でも……。
『もう大丈夫だからね』
(ララお姉ちゃん……)
あのひとの笑ったカオ。
ずっと忘れられないキレイなカオ。
みんなにイジメられてたボクに一人だけやさしくしてくれた。
思い出すたびに心がポカポカする……。
(また会いたいな……)

「よし……と。これで前みたいにはならないはずよ」
やさしそうなセンセイがボクにお注射をしてくれた。
ニッコリとボクに向かって笑ってくれる。
「どう? 憧れのお姉さんにまた会えて嬉しい?」
ボク、ちょっとはずかしくなっちゃって、下をむいちゃった。

「久しぶりだね、モシャクラゲくん!」
ついにまたお姉ちゃんに会えた。
きゅっとボクの手をにぎってくれる。
お姉ちゃんのあったかい手。
ボクの手にお姉ちゃんの心が伝わってくる。
(やっぱり……ボクに会えて、よろこんでくれてるんだ……)
お姉ちゃんのキレイでやさしいカオとおんなじ。
心もとってもキレイであったかい……。
「じゃ、モシャクラゲくん。かーっこいいリトに変身してねっ!」
かっこいいリト?
あ……。
(お姉ちゃん、リトってひとが好きなんだ……)
でも、お姉ちゃんの知ってるリトって、ぜんぜんかっこよくないよね。
あっ……この時だけリト、かっこよくなってる。
これでいいのかな……。

「君のことさ……」
「ゆ、結城君……!?」
ゆいってひとにさわってみた。
ボクの手にゆいの心が伝わってくる。
(このひとも、リトのこと好きなんだ……)
この人の心もとってもやさしくてキレイ。
それにゆいって言われてとってもうれしいみたい。
じゃ、いっぱい言ってあげようかな……。

「とにかく、行くぞ!」
女の子になったリトがボクの手をギュッとひっぱった。
ボクの手にリトの心が伝わってくる。
(このひと、ボクのことキライなの……?)
ボクがララお姉ちゃんとなかよしなのがちょっとキライみたい……。
……。
ちょっとイジメちゃおうかな……。

「じゃ、リト! 今日はいっぱい遊ぼーねっ♪」
「ああ、ララ。今日は一日中愛し合おう……」
「リト♪ 大好きっ♪」
とうとうお姉ちゃんとふたりきりでデートできるんだ。
うれしいな……。
「じゃ、リト! 何して遊ぶ?」
「フッ……ララ、オレは君の好きな姿なら、何だってなれるんだぜ……」
「へー! じゃ、ちっちゃい頃の可愛いリトになれるかなぁ」
「お安い御用さ……」
さっきリトの心の中のことゼンブしらべたばっかりだから。
こんなカンジかな……。
「こ、これでどうかな、お姉ちゃん」
「リトっ!! かっわいいいいぃぃぃ!! きゃあああぁぁぁっ!!」
あっ……。
お姉ちゃん、ボクのことギュッとしてキューッとしてほっぺたスリスリしてきた……。
「お姉ちゃん……」
ボ、ボク、ちょっと恥ずかしいよ……。

お姉ちゃんボクといっしょに、お馬さんとかコーヒーカップとかカンランシャとかに乗って
いっぱい遊んでくれた。
「楽しかった? リト」
「うん! すっごく」
「うふっ。良かったね! じゃ、だっこしてあげるね」
お姉ちゃん、長いイスにすわってボクをだっこしてくれた。
「どう、リト? 気持ちいい?」
「うん。キモチいい……」
お姉ちゃんのムネ、とってもやわらかくってあったかくってキモチいい……。
目をつぶると、お姉ちゃんのムネがトクントクン言ってるのが聞こえてくる……。
ボク、とってもうれしくって、お姉ちゃんにありがとうを言いたくなった。
「お姉ちゃん、ありがとう」
「え?」
「あのとき、ボクのこと、たすけてくれて……」
「あ……」
お姉ちゃん、ボクのことやさしそうな目でじっと見てる……。
「ボク、ずっとさみしかったの。みんなボクのことつかまえて、
売ってお金にするんだって言ってイジメたり……ジッケン、ジッケンって言ってイジメたり……。
ボクにさわられたら心が分かっちゃうって言って誰もボクとお話してくれないし、
ボクはいつも他の人になってるから、ボクの言葉でお話したこともないし……」
「モシャクラゲ君……」
「ボクにやさしくしてくれたの、お姉ちゃんが生まれて初めてだったの。
ボク、すごくうれしかった……」
あっ……。
急にお姉ちゃん、うれしそうなカオしてボクのことムネにキューッとして、
あたまをいっぱいナデナデしてくれた……。
「大丈夫だよ、モシャクラゲ君。これからはずーっと一緒にいられるから!」
「えっ! 本当に!」
「うん! 私が頼んであげる!」
本当に? うれしいっ!
「やったー! ありがとう、お姉ちゃん!」
「だーいすきだよ! モシャクラゲ君!」
「ボクも! お姉ちゃんのこと、だいすき!」
お姉ちゃん、ちっちゃいリトになったボクを手で持ち上げて、いっぱいチューッ! てしてくれた。
これからも、ずっといっしょだね。お姉ちゃん!
(終)