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「38.3度・・・・これは完全に風邪ね」
体温計を見ながら溜め息を吐く美柑
「まったくバカは風邪ひかないって迷信だったみたい」
「うるせー・・・」
力なく返すリトはガンガンする頭を押さえて早々に部屋に引き上げて行く
「ねェー、なんか持って行ってあげようか?」
階段下から顔だけ覗かせて気をつかう美柑にもリトは手の平をひらひらさせて否
定するだけ
(なによ・・・・これでも心配してあげてるのに)
ふてくされた美柑はBGMがわりにつけていたテレビに向き直ると
ぷらぷらと動かしている自分の小さな足を見ながらある一人の男の子を思う

『大丈夫か美柑?』
小2の時インフルエンザで倒れた自分に朝まで付きっきりで看病してくれた
慣れない手つきでおいしくないごはんを作って洗濯もしてくれた
両親共働きのため2人しかいない広い家の中でそのやさしさにどんなに救われた

手をずっと握ってくれたその温もりにどんなに癒されたか

いつの間にか胸に抱きしめたクッションにもギュッと力が入ってしまう
「は!?・・・私やばい・・・かも」
美柑は頭をふるふるさせ思い出を振り払うとおもわず見上げた天井をじっと見つ
める
時刻は夕方を少し過ぎた6時
「はぁ~しょうがない。なにか作ってあげるとするか」
美柑はソファーから立ち上がるとスーパーに買い物に出かけた

それから数時間後
「あ~しんど。ったく風邪なんて何年ぶりだよ。オレがしっかりしないと!この
ままだとあいつに・・・・」
兄妹二人暮らし。自分がダウンしたらその分小さな妹に負担がかかるとリトなり
に健康には気をつかっていたのだが
「それにもう美柑を泣かすわけには・・・・」
幼い時の思い出がリトの脳裏によぎっていく、と
「誰を泣かすって?」
「うわぁ美柑!!?おまえいつの間に」
扉のところで大きなお盆を手にかかえながら美柑が立っていた
「ちゃんとノックはしたんだけど。まっどこかの誰かは妄想の世界に入り込んで
いたみたいだったから気付かなかったんじゃないの?」
半眼でリトを睨みつけるとなにも言わずベッドの隣の机にお盆をのせる
「ごはん作ったから食べて」
本日のメニューはブリ大根・ネギのみそ汁・野菜とささみの雑炊
美柑が土鍋の蓋を開けると中からなんともいえないおいしそうな雑炊の匂いが湯
気と共にたちこめるそれは熱で体力を消耗していたリトのお腹を刺激するには十
分すぎて
おもわずリトのお腹の虫がぐ~っとなる
「なんだ意外と元気そうじゃん」リトの反応に顔をほころばせると美柑はてきぱ
きと準備を始める
「なぁこれって量多くないか?」重い体をゆっくり起こすとリトはどうみても一
人分以上ある料理に首をかしげる
「えっなんで?もうっ!じっとしててよリト!」
リトに上着を着せ服が汚れないようにタオルを膝にかけてやる
「・・・・私もここで食べるからいいの」

「いや、うつるから下で食べてこいよ」
「うるさいなァ。リトが寂しくならない様に一緒に食べてあげるんだからありが
たく思ってればいいの」
美柑はこの話しはもう終わりと言わんばかりに手を合わせる
「いただきます」
「・・・いただきます」
それでもリトは自分の雑炊を器に取り分ける妹の顔を見ながら内心うれしく感じ
ていた
風邪でダウンしてるとはいえいつもよりやさしい感じの美柑に一人感動する
そんなリトの鼻においしそうな匂いが流れてくる
「なに一人でにやにやしてるの?熱でついに頭おかしくなっちゃった?」
「う、うるせー////」
リトは内心を暴かれた動揺からか美柑の手から器を急いで取り上げると美柑の静
止も待たずに熱々の雑炊を口に運ぶ
「あっちっっ!!!」
「やっぱり・・・・まったく!」美柑は溜め息を吐くと濡れタオルでリトの口元
を拭いてやる
「ほらこれで大丈夫でしょ?」
リトの赤くなった口を冷やすとその手から器を取り、ウッド調のスプーンに盛っ
た雑炊を自分の口に近づける
「ふ~ふ~ふ~・・・・よしっ!ほらリトあ~ん」
「・・・・・」
「・・・・・」
リトに食べさせようと腕を伸ばした姿勢のまま固まる美柑と、困惑気味のリト
「・・・・へ?」
「あっ・・・////」
耳まで真っ赤になった美柑は器をリトにつき返すとそのまま下を向き料理を食べ
ていく
沈黙が続き変な空気と雰囲気に包まれながらも二人はただ黙って箸を動かしてい

「ふぅ~うまかったよ美柑」
後片付けをしている美柑にいつもと同じ調子の声がかかる
「そ、そんなの当然でしょ。腕が違うんだから腕が」
得意げな顔をする美柑にリトはくすっと笑う
「ああわかってるよ、だからまた作ってくれなありがとう美柑」
リトの笑顔を真正面から受けると美柑はぷいっと顔そらしそのままなにも言わず
廊下に出てしまう

それから2時間後
ぼーっとしていたリトの耳にドアがノックされる音が聞こえる
「リトぉ~生きてる?」
「なんだよ?」
ドアの隙間から顔だけ覗かせている美柑を半眼で睨むとうっとしそうな感じの声
をかける
「なによそれ?せっかく私が苦しんでいるリトに差し入れを持ってきてあげたの
に」
後ろ手に箱を持ちながら美柑が部屋にはいってくる
「なんだよ差し入れって?」
美柑は得意げな顔をするとリトに箱を差出し中身を見せる
ひんやりとした空気と甘い匂いが箱から流れてくる
「サー○ィワンのアイスクリームセット、風邪の時は冷たくて甘い物も喉にいい
でしょ?」
アイスよりも美柑の気遣いにリトの顔もほころぶ
「なんか調子よくないリト?」
「ま、まあいいだろ。それより早くたべようぜ」
色とりどりのアイスに目移りしているリトに美柑はアイスを一つわたす
「え?いやオレチョコよりもこっちのキャラメルの方がいいんだけど・・・」
「いいからリトはこっち」
無理矢理差し出されたチョコをしぶしぶ受け取るリト
けれど舌で一舐めしただけで口に広がる甘さと冷たさでリトの不満も吹き飛ぶ
「うまいなこれ!冷たくて喉の奥もなんか気持ちいいし」
「ねえリト?」
「なんだよ?」
アイスを頬張りながら軽く聞き返すリトだったが美柑の真剣な表情に口が止まる
「どうしたんだよ美柑?そんなマジな顔してさ」

「体大丈夫なの?」
「な、なんだよ急に?まあ頭はガンガンするし体はだるいけどな喉はおまえが持
って来てくれたアイスで結構・・・おい美柑?」
美柑はリトの言葉を最後まで聞かずに身をよせていく
「お、おい?」
その小さな体のぬくもりが自分に伝わる距離まで近づいた時リトは思わず目を瞑
ってしまう、と
額に少し冷たくて暖かいそしてやわらかい感触が伝わる
「ふ~ん熱はちょっと下がった感じかな?けどまだまだ高いしってリト!?」
「えっ!?ああ」
目を開いたリトの目に美柑の冷たい目線が突き刺さる
「はぁ~今までリトの変態さは色々見てきたけどまさかここまでとはね実の妹を
意識しちゃうなんてね。変態ねリト」
美柑の氷点下の声にリトもさすがにうろたえる
「いやだってお前が紛らわしいことするからだろ?////」
「紛らわしいって常識で考えればわかるじゃない?」
美柑の容赦ない正論に押し黙ってしまう
そんなリトをあきれと侮蔑のいりまじった目で見下すとポケットから袋を取り出

「はい薬。ホントは食後に飲むものだったんだけど忘れてたから今飲んで」
「おまえそんな大事なこと・・・・うっぅぅ」
リトの勢いも今の美柑の顔を見ればどんどん下がっていく
そんな美柑の目線から逃れるように顔を背けると渡された薬を急いで喉に流し込

それからもまた美柑の罵りと繰り返される頭痛とに悩まされながらリトは徐々に
深い
眠りへと落ちていった

深夜2時過ぎ
夢の中今だ熱い体の一部に熱とは違うなにかやさしい感じの暖かさに気付きリト
は目を覚ます
暗がりの中しっかりと布団に包まっている自分とその手をギュッと握っている影

リトは慌てて上体を起こす
(美柑っ!?)
喉まで出かけた声を無理矢理飲み込むと冷え切った体の美柑に布団をかけてやる
「まったくお前まで風邪ひいたらどうするんだよ?」
その声は非難のそれではなくやさしい温もりに満ちた声
リトの手が寝息をたてる妹の綺麗な黒髪をやさしく撫でていく
「んっ・・・・うん」
リトの手を握る指にギュッと力がはいりその目にうっすらと涙が滲んでくる
美柑の頭を撫でながらリトの脳裏に小さい頃の思い出が甦る

まだリトが小学生だった頃今日みたいに風邪でダウンした夜
小さい妹は苦しむ兄のそばでおろおろしていた
なにかしたい――――おにいちゃんを助けたい―――
けれど熱で息を荒げるリトのそばで幼い美柑はただ見守ることしかできなかった
リトにご飯を食べさせ寒くならない様に布団をかける母親の姿をじっと見つめて
いる
その目から大粒の涙がぽろぽろあふれてくる
『ねえおにいちゃんいなくなっちゃうの?おにいちゃんだいじょうぶだよね?』
目から涙をいっぱいこぼしリトにすがりつく美柑
『ひっく・・・おにいちゃんいなくなちゃやだよぉ・・ぐすっひっぐ』
風邪の事がよくわからず寝込んだ兄のそばでただ泣きながらおろおろする美柑の
頭を
やさしく撫で大丈夫よと微笑む母親
夜遅くになっても、泣き疲れて眠い目をこすりながらも美柑はリトのそばを離れ
ようとはしなかったただ大好きなリトのそばにいたい。大好きなおにいちゃんの
そばに美柑はリトの手をキュッと握り締めるとその大きな目に強い意志を宿して
リトを見つめる
『あのねあたしなんでもできるようになるからね。ごはんもつくるしせんたくも
するよ
だからおにいちゃんゆっくりねててね。それで早くげんきになってまた遊んでね
あたしがおにいちゃんをよくするから』
美柑はリトの手を握り締めながら何度も何度も呟く

その日から美柑は少しつづ変わっていった
母親の後をずっとついて行きその言葉を行動を目に焼き付けていく最初は見よう
見真似
皿を落とし割ること十数枚。焦がした真っ黒な魚にちゃんと切れていない大きさ
の違う野菜
洗濯機に服を詰め込みすぎて動かなくさせること数回
だけどリトも母親もそんな美柑を叱りはするけど決して止めようとはしなかった
日に日に女の子に成長していく小さな妹をリトは心の中で誇らしく感じていた
そして母親が仕事で家を出て行く時
リトと美柑の小さな二人だけの生活が始まった
美柑が家事をリトが美柑を支えそして助けるそんな持ちつ持たれつな生活

美柑の髪を撫でながらリトの回想は続いていく
すると眠っていた美柑の目から涙がこぼれてくる
「リトぉ・・・・心配しないで・・・私が・・絶対治して」
夢の中でもリトの看病をしているであろう美柑にやさしく笑いかけると
リトは人差し指で涙をふき取り美柑をギュッと抱きしめた

美柑がベッドの中で目を覚ますと時計は朝の10時を少しまわっていた
「あれ?私寝ちゃって・・・・ん?リトっ!?」
まだ寝ぼけている頭をフル回転させると美柑はリトを探しきょろきょろする
私が寝ているのはリトの布団・・・じゃあリトは・・・どこ?
美柑は慌ててベッドから飛び降りると急いでドアを開け1階に下りる
2階の物音に台所から顔を覗かせているリトを見つけると美柑は駆け寄る
「リト熱は?大丈夫なの?」
リトは美柑の手を取ると自分の額にもっていき笑いかける
「大丈夫だって!ほらな?熱下がってるだろ?」
美柑はリトの言葉だけでは信じられず顔や首回りをぺたぺた触っていく
「あっ・・・ホントだ」
「だろ?」
美柑は昨日からの疲れなのか安心からなのかその場にぺたんと座り込む
「はぁ~まったくリトのくせに心配ばかりかけて・・・んっ!?」ぶつぶつ文句
を言う美柑の頭をリトは力いっぱい撫でる
「いっ痛いってリトっ!」
「おまえのおかげだよ美柑。ありがとうな」
文句を言いかけた声が喉の奥に消えていき目を丸くすると、美柑は慌ててリトの
手を払いのける
「そんなのあたりまえでしょ。それにこのままリトに倒れられたままじゃもっと
困るし」ぷいっと背けた美柑の顔は少し赤くなっていた

「なんてことがちょっと前にあったんだぜ」
沙姫はリトの話しを聞き終えるとリトを押しのけ美柑に抱きつきその頬に頬ずり
する
「まあっ!とっても可愛いですわよ美柑」
「痛い痛いって沙姫さんちょ・・やめっ・・リトっ見てないでなんとかしてよっ

「まあ普段は生意気なヤツだけど可愛いところもちゃんとあるんだよな」
美柑は沙姫の腕からなんとか脱出すると息を荒げリトを睨みつける「だけどもう
心配はいりませんわよリト。あなたが倒れた時には今度は私が看病いたしますわ

胸を張って自身満々にいう沙姫にリトは顔を歪める
「ホントに大丈夫なのかよ・・・・」
「それってどういう意味ですの?」
(また始まった)
毎度二人のケンカに美柑はすっと立ち上がると台所に向かう

「まったく痴話喧嘩なら外でやってよね」
冷蔵庫からジュースを取りながら美柑は一人ぶつぶつ文句を言い始める
「だいたいリトってなんでもかんでも話しすぎるのよね。この前もペラペラと・
・・・」
溜め息を吐きながらコップに映った自分を見つめながら美柑はさっきの会話を思
い出す
『あなたが倒れた時には今度は私が看病いたしますわ』
「私・・・もう、必要ないのかな・・・リト・・・・」
思わず俯いてしまった目から涙がこぼれそうで美柑は慌てて顔を上げる、とそこ

「どうしたんですの?美柑?」
美柑を後ろから抱きしめながらいつのまにか沙姫が立っていた
「沙姫さん!?な、なんでもないのっ!なんでも」
美柑は袖で目をこすると気丈にふるまう
そんな美柑を抱きしめながら沙姫は一呼吸おいてゆっくりと話し始める
「リトはね、私といる時によくあなたのことを話しますわ。『美柑の料理はおい
しんだ』
『あいつすげえ妹なんだぜ』って」
「なにそれ?ただのシスコンじゃない・・・」
「ふふ、確かにそうかもしれませんわね。だけど私はそんなあなた達がうらやま
しいですわ」
「えっ?」
沙姫は腕に力を込めるとその艶やかな黒髪にやさしくキスをする
「私がどんなにリトを思ってもどんなに近くにいてもきっとあなた達二人に敵わ
ないものがあると思いますわ。それが兄妹というものでしょう?」
「・・・・・・」
「ねえ美柑、一つだけお願いがありますわ」
「・・・・お願いって?」
「あなたのリトへのがんばりを少し私にもわけてくれません?」
美柑は沙姫の言葉に一瞬言葉をつまらせる
だってそれは―――――
「ダメ?」
・・ダメじゃない・・けど・・けど・・・
「美柑?」
「・・・リトってさいつも鈍くさいし、バカなことばっかやってるしさ、エッチ
で間抜けで頼りなくていつも・・・いつも・・・」
美柑の小さな体が沙姫の体の中で震えその腕をギュッと掴む
「だけど・・だけど・・私はそんなリトが・・・・」
美柑は沙姫に向き直るとその顔に笑みを浮かべにやっとと笑いかける
「あいつ苦労すると思うよ、いいの沙姫さん?」
沙姫は無言で頷くとじっと美柑を見つめる
「ふ~ん、じゃあ共同戦線といこっか?」
「ええ、お願いしますわ美柑」
沙姫の笑顔にそっぽをむくとバツが悪そうにコップのジュースを一気に飲む
「それにしても沙姫さんってたまにはいいこと言うのね」
「それって褒められてるんですの?」
沙姫は一瞬睨みつけるとすぐに笑顔になり美柑の手を取り歩き出す「まあいいで
すわ。それよりもこれから色々と教えてほしいですわね」
「教えるってなにを?」
沙姫は腕を組んで少し考え込む
「そうですわね・・・まずは料理ですわ」
「得意料理ってなにかあるの?」「・・・とりあえず野菜の切り方から教えてく
ださらない?」
「うわっ何ソレ?ウザそー」
二人は仲良く?リトのいるリビングに戻っていった