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「……朝、か………」

 

目覚めとともにオレの身体を襲うどんよりとしただるさ
頭が重い
目が腫れ上がるように痛い
声を出してみると喉の奥もガラガラに涸れている
カーテンの隙間から見える空は今にも泣き出しそうに曇っている
まるで今のオレの気分を現してるみたいだ
そうか、思い出した
オレは昨日泣いてたんだ
だからこんなに暗い嫌な気持ちなんだ
疑問が晴れ少しだけ楽になる
でも…

 

「なんで…?どうして泣いてたんだっけ…」

 

今度は別の、もっと重要な(気がする)疑問
オレは自分がどうして泣いていたのか、なぜそれを思い出せないのかわからない
春菜ちゃんにフラれたわけでもレンのバカと喧嘩したわけでもヤミに殺されそうになったわけでも春菜ちゃんにフラれたわけでもない
それなのになんで泣いてたんだ?
思い出そうとしても記憶に穴が開いたみたいに思い出せない
何か大事な……そう、忘れちゃいけない大切なものを失ってしまったような気がする
それはいつも近くにあったはずなのに
いつもオレのそばにいてくれたはずなのに
オレは……何もしてやれなかったいや、何もしてやらなかったんだわかってたはずなのに
失う怖さをオレは知ってたはずなのに
オレは失ってしまったんだ
大事な“何か”を……

 

ふと別の部屋に繋がるドアに目をやる
クローゼットの扉
部屋と呼ぶには明らかに狭すぎるそれを、なぜ「部屋」と呼んだのか自分でもわからない
それでもそのドアを見ると、なぜだか無性に寂しさが込み上げてくる
その「部屋」が大切なもの…?
いや、違う
近いような気もするけど明らかに違うとわかる
しかし全く関係ないとも言えない確かにあいつはそこにいたから

 

「あいつ……?」

 

オレは自分の言葉に疑問を抱く
オレが失ったものは、人…?
誰?名前は?どこにいる?
何もない空間に問い掛けても、返ってくるものは何もない
オレはただ一人、部屋の中で啜り声をあげた

 

 


「リト!かーえろっ♪」

 

放課後まだ生徒の多い教室で、元気にリトの名前を呼ぶララの声
いつもと変わらぬ明るい声に、リトは少しけだるそうに返事をする



「んー?あぁ…そーだな」
「あれ?なんかリト元気無いねー。そーゆー時はこの『バーサーカーDX』で…」
「それはやめろ!」

 

いつだかネズミを暴走させたスプレーを取り出そうとしたララをリトが止める
あまりにもいつものこと過ぎてリトもすっかり慣れてしまったようだ
ララはというと残念そうにスプレーをしまっている
どこまでが本気なのか、いや全部本気なのであろう
「帰るぞ」と不機嫌そうに席を立つリトにララが「待ってー!」と着いていく
これもいつものこと
まさかあんなことになろうとはリトもララも想像していなかった

 

話は変わるが、リトの父・才培は連載を三本も抱える超売れっ子漫画家だ
濃い作風と凄まじい作業スピードに定評があるらしい
それでもやはり三本の連載というのはキツイらしく、息子であるリトにヘルプを求める事が多々ある
時にそれは深夜まで及ぶこともあり、そういう時は大抵翌日の健康状態に影響を及ぼすものだ
それは今回も例外ではなく、昨日才培に漫画を手伝わされたリトは軽い頭痛と疲労感に見舞われていた
保健室に寄ろうとも考えたが、またあの時(週刊少年ジャンプ2008年04・05合併号参照)のようなことになっては堪らないと、我慢することを決め込む
そのせいかいつもよりずっと不機嫌なリトに、ララはなんとか元気を出してほしいと試行錯誤を重ねる(リトとしては放っておいてほしいところなのだが)

 

「リトっ!この『ごーごーミサイルくん』に乗れば気分爽快、嫌なことも忘れられるよ!」
「乗るかっ!」

 

「リトー!『こんこんスノーくん』で雪降らせるから一緒に雪だるま作ろっ!」
「お前それでこの前吹雪にしただろ…」

 

「む~、それじゃこれはっ!」
「げッ、お前それは…!」

 

ララが取り出したそれは、ソフトボールくらいの大きさの丸い物体
リトはそれに見覚えがあった

 

「へへ~、これは『どんどんハナビくん』って言って、ここを押すと…」
「ば、バカやめっ…!」

 

カチッ

 

リトの制止もむなしくボタンを押すララ
次の瞬間その球体は激しい音と光とともに火花を散らす

 

ドンッドドンッ!

 

「いったァ~…うーん、押してから爆発するまでが短すぎるみたいだね…作り直さな…きゃ…!?」
「………」

 

思わず言葉に詰まるララが見たものは、どす黒いオーラを放つリト
度重なるララの常識を越えた行動に、とうとう勘忍袋の緒が切れる

 

「あの…リト……ごめ…っ」
「~~~ッいい加減にしろっ!!いつもいつもいつもいつも!くだらない発明ばっかりしやがって!!オレをおちょくんのも大概にしろよ!!」
「そ、そんなつもりじゃ……」
「とにかく!今後一切発明品なんて使うな!ペケ以外!」
「っ……!」

 

俯いて黙り込んでしまうララ
いつものリトならここで少し言い過ぎたと反省するところなのだが、徹夜続きで疲れているそんな余裕はない
おまけにさっきの花火で体中が痛い
リトの機嫌はララが見てきた中でも最悪だった

 

「…帰るぞ」
「あ、あのリトっ!」

 

さっさと歩き出そうとするリトにララが声をかけようとする
が…

 

「その…本当にごめんなさ」
「いいからもう黙っててくれ…疲れた……」

 

振り返りもせずにリトが告げる
ララの胸に鈍い痛みが走る

 

――疲れた――

 

その言葉が意味するものは、徹夜による身体の疲れだけでなかった
――お前と話すのが、もう疲れた――

 

そうリトは言った
言葉にはせずとも、ララに伝わる
悪いのは自分、そんなことは百も承知だ
それでも好きな人に、大好きなリトにここまで突き放されてしまってはさすがのララも沈んでしまう
謝ることすら許されないのでは、ララにはどうしたらよいのかわかるはずもなかった
ただ気まずい時間だけが流れてゆく
と、そこで思い出したようにリトが立ち止まる

 

「あ…やべ、そういや親父に予備のトーン買ってくるように言われてたんだっけ…ララ先帰ってろ」
「え…ぁ……うん……」

 

――私も一緒に行く!――

 

いつもならそう言えるのに
どんな時もリトと一緒にいたいのに
冷たく言い放つリトに、返事をする以外返す言葉が見つからない
なにか自分の全てを拒絶されているような気がした

 

「ごめ……んね…」
「………」

 

何も言わず歩き出すリトに、ララはただ立ち尽くすだけだった

 

 

「ただいま…」
「おかえりー遅かったね…って、どうしたの?その格好」

 

帰宅したリトを出迎えた美柑が見たのは、制服ではない見慣れぬジャージ姿の兄
顔や手には所々火傷のような傷痕が見える

 

「どうもこうもあるかよ…ララの発明品のせいで火傷するわ制服は汚れるわ…親父のとこ行くついでにクリーニング出して来たんだよ」

 

明日が土曜日なのは不幸中の幸いである

 

「ふぅん…それはそれは、大変だったね」
「まったくだよ……あいつのすることなんていつもロクなことになりゃしねー」
「はは…まァでもいいじゃない、ララさんだってリトのためにやってるんだろうし」
「…はァ?」

 

ギロッと睨み付けるリトの視線にビクッと固まる美柑
機嫌が悪いことが妹の美柑にもわかる

 

「オレのためオレのためって…少しでも役に立ったことあるかよ!?迷惑しかかけてないだろアイツは!!」
「ちょ、ちょっとリト落ち着いてよ…大体私に言われても…」
「……悪い……」

 

確かに関係のない美柑に当たり散らすのは見当違いだと反省するリト
だがそれで腹の虫が治まるわけではない
怒りと疲労でまともな思考能力を失ったリトは、ついに言ってはいけない心にもない一言を言ってしまう

 


「…ララが来なきゃ……こんな目に遭うことも無かったのに……」
「…っリト!」

 

美柑の視線はリトに向いていない
その背後にあるもう一つの別の影
美柑の様子に気付き振り返ったリトの目に映るのは、その大きな瞳いっぱいに涙を溜めた…ララの姿
いつもの笑顔は消え失せただ茫然と立ち尽くしている