「チャプター4.天乃の重み」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

チャプター4.天乃の重み」(2007/04/09 (月) 18:32:50) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

―4― 「ふむ……なるほど」 特に断る理由も無い、という事で、ホタルは二人を連れて工房へと戻り、ここ数か月の間に自分が作った、試作品も含めた数本を持ち出し……そして基本的に珍しいもの好きという性格から、一般人よりは目の利くらしいエミリアは、その一本一本を感慨深げに眺めていた。 「……悪いな、名品とか呼ばれてるのに目がないやつで」 「いえ。 『片刃剣』というだけでありがたがる人とは違うようですし」 その光景を呆れつつもどこか慣れた調子で眺めるディンと、少し調子を崩されつつも、少し微笑むような表情を浮かべ、そう答えるホタル。 「……やっぱり多いのか? 名前だけでありがたがるやつって」 「形だけ見て質を見ない。 そういった方は、ナマクラでも『片刃剣』と言うだけで満足して帰っていきます」 後に”ナマクラでも早々折れる事は無いですけど”と付け加え、あまり笑っているとは思えない表情で笑うホタル。 何か嫌な思い出でもあるのかもしれない。 「……まぁ、そういう意味だとエミィは大丈夫だろう。 性格はああだが、知識と目は保障できる」 「そうですか。それならば、むしろ有り難いです」 そんな調子で話しこむ間に、ふと視線をエミリアの方へと戻すと……何か感じるものでもあったのだろうか、その目は、先程見せていた”ただ珍しいから見たい”というような好奇のものというより、真剣味を帯びたものにかわっていた。 「ん……これは………天乃の剣…?」 そんな中で、ぽつりとそんな一言を漏らすエミリア。 すると、思い出したかのように他の数本にも目を向け始めた。 「アメノ?」 「……片刃剣の鍛冶師の名家、名工ムラクモの技を継ぐ一族…………モレクで一度だけ、天乃の剣を見たことがあったが、この剣、全てが天乃の技で作られたものじゃ! ……まさかホタル、お主……刀匠、天乃一族の者か!?」 そこまで叫ぶように口にしたかと思うと、目が覚めたように、ホタルの方へと目を向けるエミリア。 ……知識で劣るディンも、その様子から『天乃』という名がとてつもない名声をはらんだ名だと言う事は察することはできた。 その瞬間のホタルは少し驚いたような表情をしていたが、すぐに表情を冷静なものへと戻し、咳払いを一つすると、ゆっくりと口を開いた。 「……はい、御察しの通り、私が18代目天乃家頭首”天乃ほたる”です。 ……先代は今、モレクで剣を打っていると聞きます、エミリアさんがモレクで見たという剣は、恐らく我が父、シエンのものでしょう」 ―十六夜の者は、ファミリーネームを先に、ファーストネームを後につけて呼ぶ文化が存在する。 最も、その文化は十六夜の中だけのもので、最近では町の中でも普通にファーストネームを先につけるという形が定着しつつある。 ……それでもこの場で、外の人間に対して”天乃ほたる”という正式な名を名乗るのは、なにか大きな意味が込められているのかもしれない。 「なるほど……ならば、居間で口にしかけた”クウヤ”という人間は”空”の字……”竜泉”の者じゃな? 天乃と竜泉は関係が深いと聞くからの」 ”空也”そして”竜泉”の名がでたその一瞬、ホタルは表情をわずかに崩していた。 天乃の名を継ぐ意味……そして、クウヤの真意……それは今の自分が持つ、最大の悩みの元。 今自分の手の中にある一刀……持ち出しては来たものの、彼女に見せてはいない……クウヤに突き返された剣を、無意識に強く握りしめていた。 「……よく、御存知で」 それでも、なんとか表情を取り繕い、答えるホタル。 「知る者は知る事じゃからな。 かの天乃の者と知り合えて、光栄じゃ」 そんな様子に気付いているのかいないのか、エミリアは本当に嬉しそうな顔でそう口にしている。 自分は天乃を継ぐに足らない……そう言われた事もあり、ホタルは少し複雑な気分になりながらも、微笑み返した。 「しかし十六夜の刀匠を女性が継ぐとは、珍しいのでは?」 「はい。 ですが父は、継ぐに値する技を身につけているのなら、性別など関係は無い……そう言って、私に技を託してくれました」 「そうか。 女を理由に技を否定しない……中々好感が持てる父君じゃな」 そう言って、再び笑顔を見せるエミリア。 ホタルもその言葉が嬉しかったのか、強張っていた表情を少し緩める事が出来た。 ……が、しかし……それも、次の瞬間には崩れ去る事となる。 「……ところで、さっきから少し気になっておったのじゃが……」 「はい?」 「……その剣、さっきから妙に強く握っているようじゃがどうかしたのか?」 「……え?」 「……さっきから、血管が浮き出ておるぞ」 「―!!?」 反射的に、剣を握る手に目を向けるホタル。 「おいエミィ、あんまり深入りするな」 その行動から何かを察したのか、ディンは少し厳しい目をしてエミリアを窘めようとする。 ……だが、ホタルはそんなディンに向けて、力無くうなだれたようにしながらも、首を横に振る。 ”別に構わない”……そういう意味を込めて。 [[<<前へ>チャプター3.ひとやすみ]]     [[次へ>>>チャプター5.依頼破棄?]]

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: