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突入」(2007/04/10 (火) 09:04:57) の最新版変更点

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「あったよー。 さっき開けた穴だけど」 再び妖精の姿に戻ったソールが、接近したブラック・シップの壁にそって飛びまわり、進入するために適当な入り口が無いかを探していた。 彼女が探索役に任じられた理由は、飛行能力に加えてその小さな身体とスピード、機動性によるクレセント顔負けの隠密性の高さと、万一偵察中に敵と遭遇しても斬り返せる前衛としての能力を見込まれた、といったところだろう。 とりあえず進入口として使えそうな場所が見つかったのか、手はず通りに全身の発光を強め、船の方へと指示を飛ばす。 「……さっき開けた穴って……」 ソールの声を聞き、露骨に嫌そうな顔をするマーニ。 それはそうだろう、その穴はセーに吹っ飛ばされて体当たりをさせられたその結果にできたものなのだから。 「ふふふ……予定通り」 「……いや、たまたまでしょ。 どう見ても」 なぜか自慢気に気取るセーだったが、まだ回復しきっていないのか声にいつもの調子が感じられなかった。 ヒミンが疲れた顔で答えるが、結果的に進入路の確保が出来たのだから、文句らしい文句は無いと言えば無いものの、腑に落ちないものは拭い切れない。 「……堅苦卓絶……今が夜だったら、容赦してないのに……」 「マーニもそれはもういーから……ここまで来たら一蓮托生、どのみち今の私達だけじゃどうしようもない相手なんだし」 さすがに状況にも慣れてきたのか、セレスティアガーデン一行と鉢合わせた当初より胃痛はマシな状態だったが、後の戦闘まで引きずるような状況は望んではいない。 ひとまずマーニをなだめつつ、周囲の状況を確認するヒミン。 「……とにかく、さっきのあなた達の攻撃で周囲の敵はほぼ掃討。 けど、あと少しもすれば他の場所から穴を埋めに寄ってくるわ」 「……確かに、ヒミン殿の言うとおり、開いた穴は他で埋めてくるのは当然だろう。 取り急ぎ体制を整え、突入するのが上策だな」 さすがに魔物の壁を突っ切ってきただけに、こちらもそれなりに消耗している。 だが、当初の予定では進入口を発見次第突入する予定だったのが、天の三妖精とセレスティアガーデンの者達の働きで、多少体制を立て直す時間ができたのは運が良かった。 今、クウヤの門下生達は受けた傷に包帯などの応急処置を施し、手早く突入準備を進めている。 「あ、そういえばマーニちゃん。さっき『夜だったら』って言ってたけど、あれはどういう……?」 そんな中で、”はい”と手を上げてリリーがマーニに質問を向ける。 それに対してマーニはいちど”ん?”と考えるような間を開けた後に、口を開く。 「私は『月』の妖精だから、月が見える夜のほうが大きい力を使えるの。 昼間じゃ『アルテミス』も一度に一発が限界だけど……」 「あ、あの光の矢……」 シルエラは、敵を自動的に追い回し、貫いていたマーニの魔法の矢を思い返していた。 その威力だけでなく呪文詠唱の短さもあいまって、彼女の主力の魔法である事が伺われる。 「夜なら、『アルテミスレイズ』――一度に百発近くは撃てる」 「百発……!?」 複数の矢を同時に射る事が可能になるだろうということは予測がついていたが、その予測より一ケタ上の数字が出てきたことにさらに驚く一同。 マーニは別に大した事じゃない、とでも言うかのような涼しい顔を見せていた。 「でもマーニ、それは消耗も大きいでしょ? 『可能』と『余裕』は違うよ」 「分かってる。 普段は同時だと10発前後しか使わないし」 そこまで答えるマーニの表情は、やはり終始すまし顔だった。 「でもすごーい……って、ちょっとまって。 それじゃあソールちゃんは……」 ―そしてそれだけの話を聞き、ふと別な事に思い当たるリリー。 その視線は、言葉通りに今度はソールの方へ向けられるが、彼女はいつの間にか再び人間の姿に戻っていた 「うん?」 まだ妖精の姿のままかと思っていたのか、一瞬拍子抜けするリリー。 しかし、そこで気にしていても始まらないので、とりあえず話を続ける事にする。 「あ、えっと……ソールちゃんは『太陽』だから、やっぱりお昼に?」 「うん、ソールはマーニと逆で、今みたいな太陽の時間になら全力を出せるよ」 「……ただ、ソールは私と違って前衛のセイクリッド。 『サンライズエッジ』や『リラレイズ』とかの太陽の力は夜になるとほとんど使えなくなるけど、他の基本的なセイクリッドの技はそのまま残る」 「まぁ細かい制限まであげるとキリがないんだけど、ソールの場合はそれくらいの差だと思ってくれればいいよ」 元々前衛にとってのメンタルの消耗とは、『エレメンタルウェポン』系やその他の特殊効果を伴う技くらいのもので、実際の影響はそれほど高くは無い。 時間によって大きく力を左右されるのならば、ある意味前衛を選んで正解だったのかもしれない。 「ちなみに、私の場合は昼夜問わず力を使えるけど『自分の時間』の二人よりは弱いのよ」 「え? 星だから、マーニちゃんと同じ夜じゃないの?」 「うーん……星ってさ、太陽の光に負けて見えないだけで、昼でも空の上にちゃんと存在してるから」 どことなく苦笑するかのように答えるヒミン。 そして黙って話を聞く一同に向けて、さらに言葉を続けて行く。 「昼は太陽の裏、夜は月に従う……けれど、星はいつでも空の上にある。 ……ま、弱いって言っても一般的な人間よりは強い自信はあるしね」 そこまで言った後には、ヒミンはにこっと微笑みを浮かべていた。 最後に少し挑発的なものも含まれていた気もするが、『どっちつかず』なりの精一杯の強がりなのだろう。 一同は、とりあえず流しておく事に決めた。 そして数分が経ち、別の『壁』から開いた穴を埋めに来た魔物の軍勢が押し寄せてくるのが見えた。 クウヤは大きく手を上げて船上の者達の注意を引き、高らかに宣言する。 「――そろそろ時間も限界だな、総員! 突入開始!!」

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