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―7― カノンの大魔法を前に、思わず目を閉ざしてしまっていた。 地面に倒れこんでしまった今、もはやその攻撃範囲から逃げ出すような時間は残されていない。 いくら魔法に耐性を持っているマージナルといえども、目の前に迫っていた雷撃はそれすらも貫通する威力がある事は、見るからに明らかな事。 ……結局、最後まで足を引っ張ったまま終わるのか…… そう思うと、悔いても悔いきれない想いで、涙が出そうになるのを感じた。 「―――……ん…?」 ……しかし、目前まで迫っていた一撃は、いくら待てども来る事は無かった。 何事か起こったのだろうか? それだけを思いつつ、恐る恐る閉じていたまぶたを開いていく。 ――そうして最初に目に映ったのは、予想だにしない人物だった。 「やっほー。 エミィちゃん」 「―――あ、アウドムラ!? こ……ここは……」 思いっきり目を見開いて身体を起こしつつ、確認するかのように周囲の景色を見渡す。 目に入るもの全てが水晶のごとき透き通った輝きを放つ大部屋……まぎれもなく、もはや見慣れた景色の一つとなった、氷昌宮のホールだった。 「戦闘中にぼーっとしてるなんて、殺されても文句言えないわよ」 改めて目の前に立つ女性に目を向けると、いかにも ”やれやれ”とでも言いたげな表情で、そんな事を口にしていた。 それに対しては、自分は何も言えない。 実際、考える事ばかりに気を取られ、戦闘そのものに集中できずにいたのは事実だから。 ……それは、相対していた、カノンにも気付かれていたことだ。 「……ま、それはさておき……時間はそんなに作れないわ。 &ruby(ここ){精神世界}は現実と時間の流れが違うとはいえ……ね」 「…………」 確かに現実の時間で考えると、5秒としない間に降り落ちる雷撃は自分の元に到達するだろう。 どこかで現実と繋がりつつも、時間すらも隔離された&ruby(ファンタスマゴリア){精神の世界}。 それが、この氷昌宮も含めた精霊宮が存在する世界なのだ。 「だから、単刀直入に聞くわ。 あなたはいったい”どう在りたいの”?」 「どう……”在りたい”…?」 人の在り方……生き方とも言い換えられる。 それは職業やジョブといったもので縛ったり、決められたりするものではない”心の姿”。 力と守りに優れるはずのパラディンナイトが、守りを捨てて『速さ』を求めたり…… 魔法に秀でるマージナルが、近接戦闘に特化した力を得ていたり…… 投げ武器に頼らないという、前代未聞に型破りなフェイタルスキルも存在しているという。 ……それは、周囲が認知しているジョブの姿に囚われず、自分の求める姿を追い求めた一つの形。 ”在り方”というものは、極端に言えばそれだけのものなのだ。 「『そんなの、望んで……』 さっき、あなたは言いかけた。 この続きは、『いない』かしら?」 「…………」 「童話のお姫様……多少の違いはあるけど、”そう”あるのも後衛であるマージナルやカーディアルトも一つの道。 無力感に病むことは無い」 確かに、今までも自分は守られつつ魔法で援護する戦い方だったし、それで上手くいっていた。 けれど、最近は何をしても上手くいかない。 出来ていたはずの事が、出来なくなっている それに加え、同職を目指すイリスの成長はめざましく……それは喜ぶべき事なのだが、近い未来に、自分は必要なくなるのでは、という懸念も生まれていた。 「何も深く考える必要は無い。 かつての自分は……いえ、自分達はどうだったのか……今のように、前衛の騎士様に守られているだけだった?」 「……かつての、私達……?」 ……思い返せば、それこそディンと自分の二人きりで旅を始めた頃にまで遡る事になる。 ブレイブソードとしても、ウィッチとしても未熟だった頃は、フィールドの雑魚にすら苦戦を強いられていた。 それでも、自分の詠唱を彼が守り、彼の隙を自分の魔法で支える……そんな当たり前のチームワークで、上級職となってからもうまくやってきていた。 「…………」 感じるのは、たとえようの無い無力感。 ティールに、イリス。 そしてヴァイとリスティというメンバーを迎え、チームとしての強さはより堅固なものとなった。 けれど、その堅固な力は……自分の魔法による支援を必要としない程に感じ、どこかで自身の存在意義を否定する気持ちが生まれていた。 ……そんな中で、同じ後衛なのに治癒という絶対的に必要を求められる力を持つリスティに、羨望を覚えた事もある。 「………………」 そこまで考え、ふと気付く。 リスティは、自分の”攻撃力”をうらやましいと考えた事は無いのだろうか? ……彼女は自分の役割に強い誇りを持っているが、きっと、それは否だろう。 ディンも、ヴァイも、自分には無い”速さ”と”守り”への未練を考えた事もあるだろう。 「思い出しなさい、自身の役割と、自分の想いを」 必要とされないという想いに覆い隠されていた、本来の自分の戦い方…… ただ考えも無く撃つだけではなく、前衛の騎士達と呼吸を合わせ、要所で魔法を放ち、最大限の効果を得る。 ……かつては、本来自分を守る立場にあるはずの騎士を突き飛ばしてまで、自分で敵の攻撃を受けた事もあった。 「……私は……」 その時は、何を考えていた? 彼と交わした約束は、一体どんなものだった? 「……守られるだけは……並んで……一緒に……」 ”エメトの欠片”を拾ってきたあの時、彼に向けて思いっきりぶちまけた想い。 共に支え、共に護ろうと誓った約束…… 「聞こえないわ、もっとはっきり」 今の自分の姿は、その約束に背いている。 彼の後ろを全力で支えようと言った、自分の言葉に…… 「…………私は、守られてるだけのお姫様なんかじゃない!! 皆と並んで、一緒に戦いたい!!」 自分でも、驚くほどの大声だった。 それはずっと抱えてきた、些細な願い事……少し考え方を変えれば、すぐにでも叶う小さな希望。 ……ただ一声叫んだだけなのに、全身にひどく強い疲労感がのしかかるのを感じる。 しかし、それは決して悪い物ではなく、胸の奥底に使えていた何かが零れ落ちたような、爽快感も交えたものだった。 「……え……?」 そんな中で、頭の上に何かを乗せられたような感覚を覚えた。 欠けていたものが満たされたように……それでいて、まだ見ぬ自身の底が見えてくるような、強い力…… 「……&ruby(クリスティオンクラウン){氷昌の冠}……?」 「これが何を意味するかは、何も言わずとも『解る』はず。 お戻りなさい、在るべき場所へ」 顔を上げると、どこまでも深い優しさを携えた微笑みを見せるアウドムラの姿。 エミリアはコクリと頷くと、心を落ち着けるように、静かに目を閉じた――― [[<<前へ>チャプター6.紫電の双剣]]
―7― カノンの大魔法を前に、思わず目を閉ざしてしまっていた。 地面に倒れこんでしまった今、もはやその攻撃範囲から逃げ出すような時間は残されていない。 いくら魔法に耐性を持っているマージナルといえども、目の前に迫っていた雷撃はそれすらも貫通する威力がある事は、見るからに明らかな事。 ……結局、最後まで足を引っ張ったまま終わるのか…… そう思うと、悔いても悔いきれない想いで、涙が出そうになるのを感じた。 「―――……ん…?」 ……しかし、目前まで迫っていた一撃は、いくら待てども来る事は無かった。 何事か起こったのだろうか? それだけを思いつつ、恐る恐る閉じていたまぶたを開いていく。 ――そうして最初に目に映ったのは、予想だにしない人物だった。 「やっほー。 エミィちゃん」 「―――あ、アウドムラ!? こ……ここは……」 思いっきり目を見開いて身体を起こしつつ、確認するかのように周囲の景色を見渡す。 目に入るもの全てが水晶のごとき透き通った輝きを放つ大部屋……まぎれもなく、もはや見慣れた景色の一つとなった、氷昌宮のホールだった。 「戦闘中にぼーっとしてるなんて、殺されても文句言えないわよ」 改めて目の前に立つ女性に目を向けると、いかにも ”やれやれ”とでも言いたげな表情で、そんな事を口にしていた。 それに対しては、自分は何も言えない。 実際、考える事ばかりに気を取られ、戦闘そのものに集中できずにいたのは事実だから。 ……それは、相対していた、カノンにも気付かれていたことだ。 「……ま、それはさておき……時間はそんなに作れないわ。 &ruby(ここ){精神世界}は現実と時間の流れが違うとはいえ……ね」 「…………」 確かに現実の時間で考えると、5秒としない間に降り落ちる雷撃は自分の元に到達するだろう。 どこかで現実と繋がりつつも、時間すらも隔離された&ruby(ファンタスマゴリア){精神の世界}。 それが、この氷昌宮も含めた精霊宮が存在する世界なのだ。 「だから、単刀直入に聞くわ。 あなたはいったい”どう在りたいの”?」 「どう……”在りたい”…?」 人の在り方……生き方とも言い換えられる。 それは職業やジョブといったもので縛ったり、決められたりするものではない”心の姿”。 力と守りに優れるはずのパラディンナイトが、守りを捨てて『速さ』を求めたり…… 魔法に秀でるマージナルが、近接戦闘に特化した力を得ていたり…… 投げ武器に頼らないという、前代未聞に型破りなフェイタルスキルも存在しているという。 ……それは、周囲が認知しているジョブの姿に囚われず、自分の求める姿を追い求めた一つの形。 ”在り方”というものは、極端に言えばそれだけのものなのだ。 「『そんなの、望んで……』 さっき、あなたは言いかけた。 この続きは、『いない』かしら?」 「…………」 「童話のお姫様……多少の違いはあるけど、”そう”あるのも後衛であるマージナルやカーディアルトも一つの道。 無力感に病むことは無い」 確かに、今までも自分は守られつつ魔法で援護する戦い方だったし、それで上手くいっていた。 けれど、最近は何をしても上手くいかない。 出来ていたはずの事が、出来なくなっている それに加え、同職を目指すイリスの成長はめざましく……それは喜ぶべき事なのだが、近い未来に、自分は必要なくなるのでは、という懸念も生まれていた。 「何も深く考える必要は無い。 かつての自分は……いえ、自分達はどうだったのか……今のように、前衛の騎士様に守られているだけだった?」 「……かつての、私達……?」 ……思い返せば、それこそディンと自分の二人きりで旅を始めた頃にまで遡る事になる。 ブレイブソードとしても、ウィッチとしても未熟だった頃は、フィールドの雑魚にすら苦戦を強いられていた。 それでも、自分の詠唱を彼が守り、彼の隙を自分の魔法で支える……そんな当たり前のチームワークで、上級職となってからもうまくやってきていた。 「…………」 感じるのは、たとえようの無い無力感。 ティールに、イリス。 そしてヴァイとリスティというメンバーを迎え、チームとしての強さはより堅固なものとなった。 けれど、その堅固な力は……自分の魔法による支援を必要としない程に感じ、どこかで自身の存在意義を否定する気持ちが生まれていた。 ……そんな中で、同じ後衛なのに治癒という絶対的に必要を求められる力を持つリスティに、羨望を覚えた事もある。 「………………」 そこまで考え、ふと気付く。 リスティは、自分の”攻撃力”をうらやましいと考えた事は無いのだろうか? ……彼女は自分の役割に強い誇りを持っているが、きっと、それは否だろう。 ディンも、ヴァイも、自分には無い”速さ”と”守り”への未練を考えた事もあるだろう。 「思い出しなさい、自身の役割と、自分の想いを」 必要とされないという想いに覆い隠されていた、本来の自分の戦い方…… ただ考えも無く撃つだけではなく、前衛の騎士達と呼吸を合わせ、要所で魔法を放ち、最大限の効果を得る。 ……かつては、本来自分を守る立場にあるはずの騎士を突き飛ばしてまで、自分で敵の攻撃を受けた事もあった。 「……私は……」 その時は、何を考えていた? 彼と交わした約束は、一体どんなものだった? 「……守られるだけは……並んで……一緒に……」 ”エメトの欠片”を拾ってきたあの時、彼に向けて思いっきりぶちまけた想い。 共に支え、共に護ろうと誓った約束…… 「聞こえないわ、もっとはっきり」 今の自分の姿は、その約束に背いている。 彼の後ろを全力で支えようと言った、自分の言葉に…… 「…………私は、守られてるだけのお姫様なんかじゃない!! 皆と並んで、一緒に戦いたい!!」 自分でも、驚くほどの大声だった。 それはずっと抱えてきた、些細な願い事……少し考え方を変えれば、すぐにでも叶う小さな希望。 ……ただ一声叫んだだけなのに、全身にひどく強い疲労感がのしかかるのを感じる。 しかし、それは決して悪い物ではなく、胸の奥底に使えていた何かが零れ落ちたような、爽快感も交えたものだった。 「……え……?」 そんな中で、頭の上に何かを乗せられたような感覚を覚えた。 欠けていたものが満たされたように……それでいて、まだ見ぬ自身の底が見えてくるような、強い力…… 「……&ruby(クリスティオンクラウン){氷昌の冠}……?」 「これが何を意味するかは、何も言わずとも『解る』はず。 お戻りなさい、在るべき場所へ」 顔を上げると、どこまでも深い優しさを携えた微笑みを見せるアウドムラの姿。 エミリアはコクリと頷くと、心を落ち着けるように、静かに目を閉じた――― [[<<前へ>チャプター6.紫電の双剣]]     [[次へ>>>チャプター8.氷昌の冠]]

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