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「待機を駆ける風精、ここに集いて流るる不可視の翼を我に――」 シュヴァルの門の前で、乗馬用の馬につけるような鞍と、足掛けのようなものが取り付けられた箒にまたがり、その目にゴーグルを取り付ける青年が一人。 始めてこの光景を見る人がいれば、”何をしているんだ?”とばかりに一瞬足を止めてしまうだろうが、この町……いや、大陸北部においてその姿はそれほど珍しいものではなく、周囲の人間達は特に関心を示す様子は無かった。 「エアリース・グライド」 詠唱を終えた青年が、最後のその一言を口にした瞬間、周囲の空気の流れが変わる。 彼自身から、いや、彼の足元から吹き上がるような風が巻き起こり、その身体を箒ごと重力の束縛から解放し――地面から数十センチという高さではあるが、確かに彼は宙に浮いていた。 「《&ruby(イグニッション){始動}》」 そして第二の掛け声と同時に吹き上がる気流がさらにその姿を変え、その場に一瞬の爆風を巻き起こし、次の瞬間に彼は箒と共に空中を滑り出し、周囲の者達がまばたきする間に街道の彼方へと飛び去っていってしまった。 SKY RIDER’S ―Bloom vs Board― 手紙や物品の配達――と言えば、支援士としては最も基本的な仕事であり、それなりに熟練した者でもそれを請け負う事は珍しくは無い。 とはいえ、やはり支援士の仕事としての華やかさには欠けるせいか、どうせ受けるなら、と他の以来が優先されているのが現実で、多くの場合は初心者の支援士か、届け先の町で用がある、といった者達が中心になっていた。 まあ、それでも物事はうまく回っているので、これはこれでバランスは取れているのかもしれない。 ――リックテール西街道 「おらぁどけぇぇぇえええ!!!」 そんな乱暴な叫び声と共に走り抜けるつむじ風――もとい、ゴーグルをつけ、風を纏う箒に乗った青年。 空気抵抗を減らすためか、全身をほとんど箒に密着させるような体勢にあり、その姿はまさに『矢のように』という言葉を体現しているかのようだった。 彼が通り抜けたところには、街道に出てきていたらしい魔物が数体。 人間の足では到底不可能な高速域での移動中なだけに、その目には魔物の姿は明確に残されていなかったが、南北問わずによくいるコボルトの集団だったように思える。 一歩間違えれば正面衝突……主にダメージを受けるのは箒の柄の先で突かれるコボルトのほうになるだろうが、この速度域でぶつかれば自分への衝撃もそれなりに大きなものではあるし、相手にする気が無い限りわざわざ体当たりする必要も無い。 そこまで考えていたかどうかは不明ながら、スレスレの位置を難なく走りぬけた彼の技量は、きっと大した物なのだろう。 「―――ん?」 ……そして、衝突を避けた際の体勢のズレを立て直し、再びリックテールへの道を進もうとした、その矢先の事だった。 視界の端に、ほんの一瞬ではあるがまた別のコボルトの集団に囲まれた馬車がひとつ。 一見でわかる情報を纏めると、その馬車は人を運ぶためのものではなく、行商馬車。 また支援士を連れている様子は無く、『雇っても襲われることなんて稀だ』と高を括っていた商人のものだと判断できた。 「……ちっ、あのままだと集団リンチだな」 恐らく、今すれ違ったコボルトの一団もその状況に目をつけて強奪に加わるだろう。 少なく見積もっても、その行商人の馬車にはコボルトの二~三集団分が持ち運べるぐらいの物資はある。 人間の物資を奪い、知能が低めのわりに同族の間では妙に連携が強い魔物がコボルト。 間が悪ければ、手がつけられないほどの集団で襲ってくることも少なくは無い。 「急ぎの配達中だが……仕方ねぇっ!」 襲われる危険性はいつでもありえるというのに、確立が低いというだけで支援士を雇わなかった行商人にも非はあるが、目の前で襲われているのを見てスルーするほど彼は非情ではなかった。 箒の先端を大きく振り、馬車を取り囲むコボルト達が正面に来るように軌道を切りかえる。 ――『&ruby(ライドブルーム){箒乗り}』型のマージナルの場合、両手が塞がるために箒そのものを杖として使えるように加工されている場合が多い。 彼の場合もその例に漏れず、その箒の先端には魔法の杖に使われている加工がなされていた。 状況に気付いてから切り返しまでで、さらに数十Mほど目標との距離が開いてしまったが、彼にしてみればその距離こそがベストの間合い。 「猛し紅をまとう火精、我が下に集いて連なる槍となり――」 箒に乗せた風のメンタルを維持したまま、炎のメンタルを解放する。 複数のメンタルの同時使用、と言えば属性合成魔法が一般的ではあるが、こうして完全に分けたまま複数属性を同時に使う技術はそれなりに高位のスキル。 この場合は、空中の高速移動に加えて、炎の攻撃魔法を同時に使おうという試みであり―― 「眼前を遮る者共に、焦熱の閃きを! ラピッド―ファイアランス!!」 彼にしてみれば、最も使いなれた攻撃手段だった。 目標が目前まで迫ったところで、馬車を取り囲むコボルトと同じ数の炎の槍を箒の先端から撃ち出す。 それらは正確に目標の身体を貫いていき、個々が地面に倒れ伏すのと重なるようなタイミングで、彼はその場を走りぬけた。 ライドブルームの戦闘方法とは、高速で飛びまわりつつ離れた距離から詠唱の短い魔法を放ち、そのまま速度を落とさずに駆け抜け――再び距離をとって方向転換、そして最初に戻る、という一撃離脱を繰り返すのが基本スタイル。 「くそっ!! 二発――撃ちもらしたか!!?」 それはあくまで高速の世界に居続けるという事であり、動体視力と瞬間判断力は一般のマージナルよりも強く要求され……勿論普通のマージナルと同じ戦い方もできるのだが、それは個々人のこだわりもあるので、状況に応じて戦闘方法を切りかえるものがいる一方、あくまで前述の戦い方にこだわる者もいたりする。 彼がそのどちらか、ということはこの場では明言しないが、駆け抜ける一瞬で『二発は当たっていなかった』という事実を確認したのは大した物である。 「間に合いやがれっ!!」 ちらりと一瞬横に目をやると、さっき離れた所にいた一団も近付いてきている。 一度駆け抜けてしまえば数秒後にはかなりの距離が開いてしまうこの戦法。 箒を降りて慎重に狙いをつけようにも、箒から降りて駆け寄るような時間的余裕は無い。 とにかく急げとばかりに、旋回を終えると同時に呪文の詠唱を開始、狙いは詠唱中につければいい――そう思い、詠唱のために口を開こうとした時だった。 「――…… … ・ ・ ・ … …」 「…なっ!!?」 ”車輪が無く、代わりに翼のような飾りがついたスケートボード”という表現がしっくりくるだろう板に片足を固定し、馬車の上空数Mの位置を、重力に逆らうように頭を下にして舞う一人の少女。 距離がありすぎて何を口にしていたのかは聞こえなかったが、確かに、その姿はその目に映っていた。 「… ・・・!!」 その少女が最後に一言何かを口にすると、彼女の手から降り注ぐようにして現れた無数の巨大なツララが、近付いてくるコボルトも含めた全ての敵を貫いていく。 一瞬遅れてその場に舞い戻ってきた頃には、馬車の周囲に息をしている魔物の姿は残されておらず、そこには腰が抜けたように呆然と立ち尽くす行商人と、ライドブルームの青年。 そして―― 「クゥ!! こいつ、余計なことしやがって!!!」 「――リュー、貴方は摘めが甘いのよ」 ――青年の同業者であり、ライドボードの少女の三人だった。
「待機を駆ける風精、ここに集いて流るる不可視の翼を我に――」 シュヴァルの門の前で、乗馬用の馬につけるような鞍と、足掛けのようなものが取り付けられた箒にまたがり、その目にゴーグルを取り付ける青年が一人。 始めてこの光景を見る人がいれば、”何をしているんだ?”とばかりに一瞬足を止めてしまうだろうが、この町……いや、大陸北部においてその姿はそれほど珍しいものではなく、周囲の人間達は特に関心を示す様子は無かった。 「エアリース・グライド」 詠唱を終えた青年が、最後のその一言を口にした瞬間、周囲の空気の流れが変わる。 彼自身から、いや、彼の足元から吹き上がるような風が巻き起こり、その身体を箒ごと重力の束縛から解放し――地面から数十センチという高さではあるが、確かに彼は宙に浮いていた。 「《&ruby(イグニッション){始動}》」 そして第二の掛け声と同時に吹き上がる気流がさらにその姿を変え、その場に一瞬の爆風を巻き起こし、次の瞬間に彼は箒と共に空中を滑り出し、周囲の者達がまばたきする間に街道の彼方へと飛び去っていってしまった。 SKY RIDER’S ―Bloom vs Board― 手紙や物品の配達――と言えば、支援士としては最も基本的な仕事であり、それなりに熟練した者でもそれを請け負う事は珍しくは無い。 とはいえ、やはり支援士の仕事としての華やかさには欠けるせいか、どうせ受けるなら、と他の以来が優先されているのが現実で、多くの場合は初心者の支援士か、届け先の町で用がある、といった者達が中心になっていた。 まあ、それでも物事はうまく回っているので、これはこれでバランスは取れているのかもしれない。 ――リックテール西街道 「おらぁどけぇぇぇえええ!!!」 そんな乱暴な叫び声と共に走り抜けるつむじ風――もとい、ゴーグルをつけ、風を纏う箒に乗った青年。 空気抵抗を減らすためか、全身をほとんど箒に密着させるような体勢にあり、その姿はまさに『矢のように』という言葉を体現しているかのようだった。 彼が通り抜けたところには、街道に出てきていたらしい魔物が数体。 人間の足では到底不可能な高速域での移動中なだけに、その目には魔物の姿は明確に残されていなかったが、南北問わずによくいるコボルトの集団だったように思える。 一歩間違えれば正面衝突……主にダメージを受けるのは箒の柄の先で突かれるコボルトのほうになるだろうが、この速度域でぶつかれば自分への衝撃もそれなりに大きなものではあるし、相手にする気が無い限りわざわざ体当たりする必要も無い。 そこまで考えていたかどうかは不明ながら、スレスレの位置を難なく走りぬけた彼の技量は、きっと大した物なのだろう。 「―――ん?」 ……そして、衝突を避けた際の体勢のズレを立て直し、再びリックテールへの道を進もうとした、その矢先の事だった。 視界の端に、ほんの一瞬ではあるがまた別のコボルトの集団に囲まれた馬車がひとつ。 一見でわかる情報を纏めると、その馬車は人を運ぶためのものではなく、行商馬車。 また支援士を連れている様子は無く、『雇っても襲われることなんて稀だ』と高を括っていた商人のものだと判断できた。 「……ちっ、あのままだと集団リンチだな」 恐らく、今すれ違ったコボルトの一団もその状況に目をつけて強奪に加わるだろう。 少なく見積もっても、その行商人の馬車にはコボルトの二~三集団分が持ち運べるぐらいの物資はある。 人間の物資を奪い、知能が低めのわりに同族の間では妙に連携が強い魔物がコボルト。 間が悪ければ、手がつけられないほどの集団で襲ってくることも少なくは無い。 「急ぎの配達中だが……仕方ねぇっ!」 襲われる危険性はいつでもありえるというのに、確立が低いというだけで支援士を雇わなかった行商人にも非はあるが、目の前で襲われているのを見てスルーするほど彼は非情ではなかった。 箒の先端を大きく振り、馬車を取り囲むコボルト達が正面に来るように軌道を切りかえる。 ――『&ruby(ライドブルーム){箒乗り}』型のマージナルの場合、両手が塞がるために箒そのものを杖として使えるように加工されている場合が多い。 彼の場合もその例に漏れず、その箒の先端には魔法の杖に使われている加工がなされていた。 状況に気付いてから切り返しまでで、さらに数十Mほど目標との距離が開いてしまったが、彼にしてみればその距離こそがベストの間合い。 「猛し紅をまとう火精、我が下に集いて連なる槍となり――」 箒に乗せた風のメンタルを維持したまま、炎のメンタルを解放する。 複数のメンタルの同時使用、と言えば属性合成魔法が一般的ではあるが、こうして完全に分けたまま複数属性を同時に使う技術はそれなりに高位のスキル。 この場合は、空中の高速移動に加えて、炎の攻撃魔法を同時に使おうという試みであり―― 「眼前を遮る者共に、焦熱の閃きを! ラピッド―ファイアランス!!」 彼にしてみれば、最も使いなれた攻撃手段だった。 目標が目前まで迫ったところで、馬車を取り囲むコボルトと同じ数の炎の槍を箒の先端から撃ち出す。 それらは正確に目標の身体を貫いていき、個々が地面に倒れ伏すのと重なるようなタイミングで、彼はその場を走りぬけた。 ライドブルームの戦闘方法とは、高速で飛びまわりつつ離れた距離から詠唱の短い魔法を放ち、そのまま速度を落とさずに駆け抜け――再び距離をとって方向転換、そして最初に戻る、という一撃離脱を繰り返すのが基本スタイル。 「くそっ!! 二発――撃ちもらしたか!!?」 それはあくまで高速の世界に居続けるという事であり、動体視力と瞬間判断力は一般のマージナルよりも強く要求され……勿論普通のマージナルと同じ戦い方もできるのだが、それは個々人のこだわりもあるので、状況に応じて戦闘方法を切りかえるものがいる一方、あくまで前述の戦い方にこだわる者もいたりする。 彼がそのどちらか、ということはこの場では明言しないが、駆け抜ける一瞬で『二発は当たっていなかった』という事実を確認したのは大した物である。 「間に合いやがれっ!!」 ちらりと一瞬横に目をやると、さっき離れた所にいた一団も近付いてきている。 一度駆け抜けてしまえば数秒後にはかなりの距離が開いてしまうこの戦法。 箒を降りて慎重に狙いをつけようにも、箒から降りて駆け寄るような時間的余裕は無い。 とにかく急げとばかりに、旋回を終えると同時に呪文の詠唱を開始、狙いは詠唱中につければいい――そう思い、詠唱のために口を開こうとした時だった。 「――…… … ・ ・ ・ … …」 「…なっ!!?」 ”車輪が無く、代わりに翼のような飾りがついたスケートボード”という表現がしっくりくるだろう板に片足を固定し、馬車の上空数Mの位置を、重力に逆らうように頭を下にして舞う一人の少女。 距離がありすぎて何を口にしていたのかは聞こえなかったが、確かに、その姿はその目に映っていた。 「… ・・・!!」 その少女が最後に一言何かを口にすると、彼女の手から降り注ぐようにして現れた無数の巨大なツララが、近付いてくるコボルトも含めた全ての敵を貫いていく。 一瞬遅れてその場に舞い戻ってきた頃には、馬車の周囲に息をしている魔物の姿は残されておらず、そこには腰が抜けたように呆然と立ち尽くす行商人と、ライドブルームの青年。 そして―― 「クゥ!! こいつ、余計なことしやがって!!!」 「――リュー、貴方は摘めが甘いのよ」 ――青年の同業者であり、ライドボードの少女の三人だった。 ---- [[次へ>>>Stage1:二人の日常]]

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