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X・WORLD 平行世界、という言葉がある。 それは、全体として同じような様相を見せながら、何かが違う世界。 確かに見覚えがあるのに、いつも歩いているはずの場所なのに、そこがまるで別の場所のように感じる事があれば……もしかしたら、貴方はそんな世界に迷い込んでしまったのかもしれない。 「はあっ……はぁ……!」 一人の少女が、走っていた。 わけもわからず太陽の下を、ただ必死に走っていた。 振り返ってはいけない。振り返る暇もない。 止まれば殺される。後ろにあるものが信じられない。 そんな感覚に狩られ、とにかく足を動かす。 「なんでっ、こんなこと……!」 自分が何をしているのか、なぜこうなったのか……それすらも分からない。 今朝家を出るまでは、いつもとおなじだったはずなのに。 毎日のように歩く通学路。 そこには自分と同じ学園に通う学生達が沢山いて、そんな中に混ざって今日の授業への憂鬱を口にしたり、気のはやい放課後の計画を練っていたりしていたはずだった。 ……しかし、ふと気が付けば周囲には誰もおらず、見慣れたはずの景色は得体の知れない違和感で満ちている。 そしてその次の瞬間に嫌な気配を感じ、ふと背後を振り向いて……彼女は、”ソレ”を見てしまった。 身体の大きさは大の大人より少し小さい程度で、腕も足も少し細い。 その全身は緑色の鱗で覆われていて、その手にはややぼろっちい剣が、そして胸には金属の胸当てがつけられている。 それだけでもこの現代社会に似つかわしく無く、なによりも気味が悪かったが……恐る恐る視線を上げた時、目に入ったその顔は……トカゲそのものだったのだ。 「トカゲ人間!? そんなのっ……現実に、いるわけ……ない……っ!!」 頭を抑え、息を切らしながらも、自分に言い聞かせるようにそう叫ぶ。 しかし、背後から聞こえる複数の足音が、その存在がそこにいるコトを如実に証明していた。 「ていうかっ、なん、で……剣振り回して、追いかけて来るの……っ!!?」 あんな化け物に対して言葉が通じるなんて思っていない。 ただ、黙って走り続けるのに耐えられなかった……叫んで気を逸らさなければ、恐怖に潰れてしまいそうだった。 もう、どれだけ走ったか分からない。 町の端までは来てるのではないかと思っても、確かめる余裕が無い。 ――そんな時だった。 「ぶっ!!?」 ”何か”に当たった。 例えるなら、壁。 まっ平らな壁に思いっきり衝突したような衝撃を受け、その場に背中から倒れ込む。 何事かと思って改めて目の前に目を向けても、そこには壁などはなく……むしろ、何もなかった。 そう、”何もない”空間が、そこにあっただけ。 「な、なにこれ……」 わけがわからずにその空間に手を伸ばすと、直前にぺたり、と見えない壁に当たってしまう。 そしてその壁の向こうには、文字通り何もない、まるで何かに切り取られたように、真っ白な世界が広がり、空を見上げてみても、この場所で青空が途切れ、白い世界が広がっていた。 「……あっ……」 呆気にとられて立ち尽くしていると、チャキッ、と、背後から金属的な音が耳に入る。 あまりに現実離れした状況が続いて思考が止まっていたが、今はトカゲ人間に追われているところだということを思い出した。 「…………う、ぅあ……」 見えない壁に背を当て、ジリジリと近付いてくる3匹のトカゲ人間と向かい合う。 ……気味が悪い、恐い、見たくない。 けれど、恐怖のせいかそこから目をそらせない。 ――そして、そこから数秒ほど間を置いて……トカゲ人間が、大きく剣を構えて少女に襲いかかった、その時だった。 「――断罪の炎よ! アルテナフレア!!」 「っ!!?」 突如として燃え広がる、純白の炎。 見る者の目を奪うかのような神聖な光を放つその炎は、一瞬にして目の前にいた三体のトカゲ人間を焼き払い、そのまま少女の周囲を囲み込む壁のように展開する。 その白炎の壁の向こうには、炭になる前に炎から逃れたらしいトカゲ人間が、こちらに向かって睨みを聞かせていた。 「クリア! 大丈夫!?」 「……え?」 ……直後、耳に入ってきたその声には、少女――クリアは聞きおぼえがあった。 毎日のように学園の教室で顔を合わせる、何かと破天荒で賑やかな女教師。 それでいて多くの生徒から慕われている一方、校長の悩みのタネなんじゃないかとも囁かれている…… 「エルナ先生!!?」 「…なんか、余計な事考えて無かった?」 「……い、いえ、そんなことないですとよ……?」 若干をそらしながら、とりあえずそう答えておく。 まあ、言っても言わなくても結果は同じような気がするのはいつものことなわけで―― 「……というか先生、その服どうしたんですか?」 それよりも気になったのは、今エルナが身につけている服装だった。 どこかで見た事あるような気がしたが、よく思い返してみれば、以前文化祭の劇の中で着ていた、ファンタジー調のシスター衣装。 いくらエルナでも、往来をこんな服で出歩くのは考えづらい。 「え? ……ああ、これは――」 ―TIME OUT― 「……あ、やばっ」 「……ん、今の…………って、ええ!!?」 突如、どこからともなく聞こえてきた機械的なその声。 ……その一瞬の後、エルナの着ていた衣装が光の糸のようになってほどけていき、そのまま少し空中を踊ったかと思えば、エルナの目の前に、一つのちいさな塊になるかのように集まっていく。 シスターの服が消えた後にはなんということのない普段着が現れ、そしてつい一瞬前まで彼女の衣装だったはずの光の塊は、一つの携帯電話と化してエルナの手下に収まっていた。 「な、ななななななななななぁぁーー!!?」 「あーもう! 驚いてる暇じゃないわよ!! クリア! あなた携帯は!? てかメール読んでないの!!?」 そして、直後までと態度は一転して、大慌てでまくしたてるようにクリアに呼びかけるエルナ。 しかし、生憎ながらあまりに突拍子も無い状況が続きすぎたせいか、彼女は冷静にその言葉を判断することはできない状態で…… 「ちょっ、この状況で持ち物検査ですか!? ていうかそもそもウチは携帯持ち込みOKじゃっ!!?」 ――いや、ある意味この上なく冷静に、かつ微妙に間違った方向で解釈してしまったようだ。 「落ち着いて、気持ちは分かるけどテンパりすぎよ! いいから火が消える前に携帯出して!!」 「は、はひ……」 火、というと今二人を護るように取り囲んでいる白炎の壁のことだろう。 あまりのエルナの勢いに逆に落ち着きを取り戻し、ごそごそと制服のポケットから自分の携帯を取り出す――と、次の瞬間にはエルナはそれをひったくるように受け取り、ものすごい勢いで何かの操作を始めた。 「ちょっと先生何を!?」 「説明してる時間は無いわ。 アルテナフレアの壁ももうそろそろ限界だろうし――よし、ちゃんとダウンロードされてるみたいね。 設定なんてしてるヒマないからデフォルトでシステム起動っ……!!」 「だ、だから何の話ですか!? ていうかシステムって!!?」 「いいから持って、そのままボタン押して!」 頭の判断が全く追いつかず、なにがなんだかわからないまま突き返された携帯を握るクリア。 色々とつっこみたいところはあるものの、もはやどこからつっこんでいいのかもわからず……そして、エルナのあまりの必死さに、思わず言われた通りに決定キーを押していた。 ―SKILL TRACE SYSTEM ON. TIME COUNT 120sec ・・・・・・START― 「……きゃあっ!?」 その次の瞬間、また同じような音質の声と共に、その携帯が先ほどのエルナのそれを逆再生したかのように光の糸に拡散して、クリアの身体を包み込む形で集まっていく。 「へー、外から見たらこんな感じなんだ」 そんな尋常ではな状況にもかかわらず、再びのんきな顔でその光景を眺めるエルナ。 恐らく先ほどの状況からみても、彼女は一回以上はこの中にいたのだろう。 「あ、けっこう可愛い衣装ね。 似合うわよー」 「うぅ……だから何がですか…………って……えええええっっ!!!??」 光の糸がその形を成し、発光が収まっていく中、未だに混乱気味の表情のままのクリアが地面にへたりこむようにしていたが、エルナのセリフに反応するように視線を自分の身体に落とすと――ー 元々着ていたはずの制服が跡形もなく消え去り、変わりに白と黒をメインにした、膝丈スカートのドレス風の衣装にすりかわっていた。 勿論、制服の下にこんなもの着てくるはずはないし、そもそも上に何かを着られるようなデザインでは無い。 「な、何……、ホントに何が起こって……」 そうして、再び混乱の海に意識が落ちようとしたその時だった。 トスッ、という音を立てて、目の前に何か棒状のものが落ちてくるのが目に入る。 「け……剣っ!?」 ――さもガラスのように向こう側の景色が透き通り、そして蒼色の澄んだ輝きを放つ刀身。 その輝きに不思議と心が惹かれるなにかを感じ、一瞬身取れてしまったが…… 「って、もう15秒経ってるじゃない! クリア、ぼーっとしてないでその剣で戦いなさい!!」 そんな感慨を覚える時間すらも許さず、エルナの指示が耳に飛びこんでくる。 はっと我に帰って見れば、周囲を取り囲んでいた炎の壁もほとんど消え去り、トカゲ人間達も自分達の方へと足を進めようとしていた。 「た、戦えって言われても……あたし、剣どころか竹刀すら握った事……」 「絶対に大丈夫よ。 ――言っとくけど、この一言は気休めじゃないわ。 その剣を持てば分かるはずよ」 「…………」 見えたのは確信に満ちた表情。 いつもスチャラカな態度で、彼女の言動は見てる側は本気か冗談か迷わされるものだが…… この瞬間だけは、根拠も何もなくても、信じてもいいと心の底から思う事が出来た。 元々、それだけの信頼は寄せられる先生なのだから。 「じゃ、じゃあ……い、いきます!!」 どうせ、このまま『壁』に追いつめられた状態じゃ殺されるのを待つだけだろう。 だったら、ムチャクチャに振り回してでも抵抗してやる……そう思い、その剣を手に取った、その瞬間―― 「―――ス……トラ……スティア……?」 その名が、脳裏に浮かびあがり…… そしてそれが、今手に握っている剣の名であることも、同時に理解できた。 「……やれるっ!」 まだ細かい事は分かっていない。 しかし、不思議とそれまで感じていた恐怖は消え、逆に溢れるように自信が湧きあがってくる。 目の前の相手なんて、敵じゃ無い――と。 ---- 「――で、先生。 この状況やら、さっきのあたしの姿のこと、知ってるんですか?」 それから二分後。 ストラスティアと呼ばれる剣を手にしたクリアの働きによって、三匹のトカゲ人間は手も足も出ずに殲滅されていた。 携帯のプログラムとやらによる変身時間の制限は二分程度らしく、今の一言を口にする数秒前に、クリアは元の制服姿にもどり、光に消えた携帯もその手の中に収まっている。 「知ってるも何も……あなたの携帯にもメールきてるはずよ? この空間に入り込んだ時点で」 「……メール?」 そういえば、さっきそんな事を言われた気がする……と、握っていた携帯を開き、受信メールの画面を開く。 と、そこには見覚えの無いアドレスから送られた、一通のメールが確かに入っていた。 「……えーっと……」 ---- 始めまして。 私はこの世界の紡ぎ手の代理人です。 この世界は、あなたがたの住む世界をベースに構築されたパラレルワールド――『境間の世界』と呼ばれる場所で、『学園』を中心にしたこの町の一定範囲がその世界の全てです。 町ひとつが異空間に切り出され、外に出る事が出来ない――と仮定すれば分かりやすいでしょうか? この世界には『バグ』と呼ばれる異形の生物が住み、人間を襲います。 道具や武器の使い方次第では普通の人間の力でどうにかできるモノも多いですが、多少強いものになれば対抗することすら難しいでしょう さて、そこでこの世界に飲み込まれてしまった皆さんには、強力な戦闘能力を使う事ができる力を配布しています。 その力を使うための――いわゆる変身に使われる道具は、あなたがたが持っている携帯電話です。 携帯のデータフォルダ内に、『スキルトレースシステム』という項目が増えていると思いますので、戦う必要がある際にはそれを実行してください。 能力の使い方については、システム起動時に使い手が自動的に『理解』できるように設定してありますのでご心配なく。 ただし、変身には一定の制限が在ります。 それぞれの携帯電話ごとにX・P(クロスポイント)という数値が設定されていて、その数値一回につき二分間、変身を持続させる事が出来ます。 なお、最大数は9回で、時間の経過でも自動的に回復していきますが、他にも様々な要因で回復させる事が出来ます ……ちなみに、他人の携帯電話でも変身はできますが……その際は、その携帯の中にあるデータを元に変身する事になるので、自分のスタイルとは全く違うスタイルの戦闘を要求されることもありえます。 あと、変身時の衣装もその携帯のデータが使われますので、外見を気にする方は、特に他人の携帯のデータを使う際はご注意下さい。 次に、キャプチャーシステムの説明です。 この世界にある物質は、リンクシステムとは別に入れておいたプログラム『マテリアルキャプチャー』で、データ化して携帯内に『保管』できます。 データ化した物質は物理的な重さは無く、どこにでも持ち運べますが……質量に比例して、携帯の容量を大きく圧迫します。 携帯にキャプチャーして持ち歩くか、普通に持ち歩くかはそちらの判断で行ってください そして細かいヒントになりますが、この世界は異世界との壁も少し薄く、異世界の道具――いわゆる剣や盾、レトロな感じの爆弾といった、ファンタジックなアイテムが落ちている事があります。 ゴミ箱やタンスの中などにまぎれこんでる事があるので、ちょっと調べてみるといい事があるかもしれません。 また、この世界に入った時点で、元の世界におけるアドレス張などのデータは消えています。 話したい相手の番号やメールアドレスを知っていても、ある条件を満たさなければ通話もメールのやり取りもできませんので、ご注意下さい。 さて、私から教えられる内容はここまでです。 この世界のゆがみに巻き込んでしまった事をお詫びいたします。 みなさん、『バグ』の猛攻を掻い潜り、元の世界への扉を探しあててください ---- 「……これ……何のゲームの話?」 「現実よ。 少なくとも、今ここに立っている私達にとってはね」 「…………」 ……少なくとも、このメールの内容のいくつかは既に証明されている。 まず一つ目。 変身能力は自分とエルナの両方が使ったため、真実であり、『能力』の使い方も、確かにあの剣を持った瞬間に……ごく基本的な部分は理解できた。 これはただの直感でしかないが、あの変身には恐らくもっと強力な技とか能力が隠されているような気がする。 話をもどして、二つ目。 切り離された世界というのは、ここから先には何も見えず、進むことも出来ないということから、真実であると考えられる。 そして三つ目…… メールアドレスや電話番号、受信フォルダ、送信フォルダ内の一切のデータが、消した覚えも無いのに消滅している事。 それらを複合して、冷静に判断した結果……エルナのその一言には何も言い返す事が出来ず、黙り込むしかなかった。 「あと……どうやら携帯で連絡を取れるようになる条件って言うのは、”直接会うこと”みたいね」 「……ですね。 なんかいつのまにかエルナ先生の名前だけ、アドレス張に入ってます」 ……アドレス張に誰の名前ものっていないなどと言う状況は、中等部に入って携帯を買って貰ったばかりの時以来だった。 正直、それだけでも全てから孤立させられたような気分になり、かなりの寂しさを感じさせられる。 「……それにしても、なんであたし達なんでしょうか?」 とにかく、そんな寂しさから逃げるために、クリアは話題を逸らすことにした。 実際、こんな理不尽な目にあわされる理由は気になる、ということもあるだろう。 「文面から察するに、どうやらこの代理人とやらも意図してなかった……事故ってところかしらね」 「……はた迷惑にも程があるわよもー…………そりゃ、ファンタジーとかそういうのに夢みたこととかあるけど……まさかこんな形で叶っちゃうなんて……」 はぁ……と、気付けば思いの他深い溜息が漏れていた。 さすがに落ち着いてきたとはいえ、あまりに常識ハズレな展開が続いたために精神的に大きな疲れが出始めているのだろう。 「ま、クヨクヨしててもしかたないわね。 まずは仲間を捜しましょ」 「……仲間?」 「そ。 見る限りだと、変身回数は私もクリアも二回しか残って無いでしょ? とにかく、誰かが一人でも変身できる状態を維持しないと、危ないじゃない」 「……確かに、そうですね」 人数がいれば、それだけ戦力も増えると言うこと。 そして戦力が増えれば、誰かが変身を温存するという行動に出る事が出来る。 至極当たり前の理屈だが、この場でそれに気がつけたのは幸いだったかもしれない。 「…………はぁ、夢であって欲しい……」 変化の無い日常に少し飽きていた、という事実はあるものの、実際にこんな異常事態に巻き込まれてみれば、楽しむ以前に心配事しか頭に浮かばない。 無事に帰りつけるのか、その扉とやらはドコにあるのか……そもそも、本当にそんな出口があるのだろうか? そんな事を思いながら、クリアはもう一度深い溜息をついていた。 ----
X・WORLD 平行世界、という言葉がある。 それは、全体として同じような様相を見せながら、何かが違う世界。 確かに見覚えがあるのに、いつも歩いているはずの場所なのに、そこがまるで別の場所のように感じる事があれば……もしかしたら、貴方はそんな世界に迷い込んでしまったのかもしれない。 「はあっ……はぁ……!」 一人の少女が、走っていた。 わけもわからず太陽の下を、ただ必死に走っていた。 振り返ってはいけない。振り返る暇もない。 止まれば殺される。後ろにあるものが信じられない。 そんな感覚に狩られ、とにかく足を動かす。 「なんでっ、こんなこと……!」 自分が何をしているのか、なぜこうなったのか……それすらも分からない。 今朝家を出るまでは、いつもとおなじだったはずなのに。 毎日のように歩く通学路。 そこには自分と同じ学園に通う学生達が沢山いて、そんな中に混ざって今日の授業への憂鬱を口にしたり、気のはやい放課後の計画を練っていたりしていたはずだった。 ……しかし、ふと気が付けば周囲には誰もおらず、見慣れたはずの景色は得体の知れない違和感で満ちている。 そしてその次の瞬間に嫌な気配を感じ、ふと背後を振り向いて……彼女は、”ソレ”を見てしまった。 身体の大きさは大の大人より少し小さい程度で、腕も足も少し細い。 その全身は緑色の鱗で覆われていて、その手にはややぼろっちい剣が、そして胸には金属の胸当てがつけられている。 それだけでもこの現代社会に似つかわしく無く、なによりも気味が悪かったが……恐る恐る視線を上げた時、目に入ったその顔は……トカゲそのものだったのだ。 「トカゲ人間!? そんなのっ……現実に、いるわけ……ない……っ!!」 頭を抑え、息を切らしながらも、自分に言い聞かせるようにそう叫ぶ。 しかし、背後から聞こえる複数の足音が、その存在がそこにいるコトを如実に証明していた。 「ていうかっ、なん、で……剣振り回して、追いかけて来るの……っ!!?」 あんな化け物に対して言葉が通じるなんて思っていない。 ただ、黙って走り続けるのに耐えられなかった……叫んで気を逸らさなければ、恐怖に潰れてしまいそうだった。 もう、どれだけ走ったか分からない。 町の端までは来てるのではないかと思っても、確かめる余裕が無い。 ――そんな時だった。 「ぶっ!!?」 ”何か”に当たった。 例えるなら、壁。 まっ平らな壁に思いっきり衝突したような衝撃を受け、その場に背中から倒れ込む。 何事かと思って改めて目の前に目を向けても、そこには壁などはなく……むしろ、何もなかった。 そう、”何もない”空間が、そこにあっただけ。 「な、なにこれ……」 わけがわからずにその空間に手を伸ばすと、直前にぺたり、と見えない壁に当たってしまう。 そしてその壁の向こうには、文字通り何もない、まるで何かに切り取られたように、真っ白な世界が広がり、空を見上げてみても、この場所で青空が途切れ、白い世界が広がっていた。 「……あっ……」 呆気にとられて立ち尽くしていると、チャキッ、と、背後から金属的な音が耳に入る。 あまりに現実離れした状況が続いて思考が止まっていたが、今はトカゲ人間に追われているところだということを思い出した。 「…………う、ぅあ……」 見えない壁に背を当て、ジリジリと近付いてくる3匹のトカゲ人間と向かい合う。 ……気味が悪い、恐い、見たくない。 けれど、恐怖のせいかそこから目をそらせない。 ――そして、そこから数秒ほど間を置いて……トカゲ人間が、大きく剣を構えて少女に襲いかかった、その時だった。 「――断罪の炎よ! アルテナフレア!!」 「っ!!?」 突如として燃え広がる、純白の炎。 見る者の目を奪うかのような神聖な光を放つその炎は、一瞬にして目の前にいた三体のトカゲ人間を焼き払い、そのまま少女の周囲を囲み込む壁のように展開する。 その白炎の壁の向こうには、炭になる前に炎から逃れたらしいトカゲ人間が、こちらに向かって睨みを聞かせていた。 「クリア! 大丈夫!?」 「……え?」 ……直後、耳に入ってきたその声には、少女――クリアは聞きおぼえがあった。 毎日のように学園の教室で顔を合わせる、何かと破天荒で賑やかな女教師。 それでいて多くの生徒から慕われている一方、校長の悩みのタネなんじゃないかとも囁かれている…… 「エルナ先生!!?」 「…なんか、余計な事考えて無かった?」 「……い、いえ、そんなことないですとよ……?」 若干をそらしながら、とりあえずそう答えておく。 まあ、言っても言わなくても結果は同じような気がするのはいつものことなわけで―― 「……というか先生、その服どうしたんですか?」 それよりも気になったのは、今エルナが身につけている服装だった。 どこかで見た事あるような気がしたが、よく思い返してみれば、以前文化祭の劇の中で着ていた、ファンタジー調のシスター衣装。 いくらエルナでも、往来をこんな服で出歩くのは考えづらい。 「え? ……ああ、これは――」 ―TIME OUT― 「……あ、やばっ」 「……ん、今の…………って、ええ!!?」 突如、どこからともなく聞こえてきた機械的なその声。 ……その一瞬の後、エルナの着ていた衣装が光の糸のようになってほどけていき、そのまま少し空中を踊ったかと思えば、エルナの目の前に、一つのちいさな塊になるかのように集まっていく。 シスターの服が消えた後にはなんということのない普段着が現れ、そしてつい一瞬前まで彼女の衣装だったはずの光の塊は、一つの携帯電話と化してエルナの手下に収まっていた。 「な、ななななななななななぁぁーー!!?」 「あーもう! 驚いてる暇じゃないわよ!! クリア! あなた携帯は!? てかメール読んでないの!!?」 そして、直後までと態度は一転して、大慌てでまくしたてるようにクリアに呼びかけるエルナ。 しかし、生憎ながらあまりに突拍子も無い状況が続きすぎたせいか、彼女は冷静にその言葉を判断することはできない状態で…… 「ちょっ、この状況で持ち物検査ですか!? ていうかそもそもウチは携帯持ち込みOKじゃっ!!?」 ――いや、ある意味この上なく冷静に、かつ微妙に間違った方向で解釈してしまったようだ。 「落ち着いて、気持ちは分かるけどテンパりすぎよ! いいから火が消える前に携帯出して!!」 「は、はひ……」 火、というと今二人を護るように取り囲んでいる白炎の壁のことだろう。 あまりのエルナの勢いに逆に落ち着きを取り戻し、ごそごそと制服のポケットから自分の携帯を取り出す――と、次の瞬間にはエルナはそれをひったくるように受け取り、ものすごい勢いで何かの操作を始めた。 「ちょっと先生何を!?」 「説明してる時間は無いわ。 アルテナフレアの壁ももうそろそろ限界だろうし――よし、ちゃんとダウンロードされてるみたいね。 設定なんてしてるヒマないからデフォルトでシステム起動っ……!!」 「だ、だから何の話ですか!? ていうかシステムって!!?」 「いいから持って、そのままボタン押して!」 頭の判断が全く追いつかず、なにがなんだかわからないまま突き返された携帯を握るクリア。 色々とつっこみたいところはあるものの、もはやどこからつっこんでいいのかもわからず……そして、エルナのあまりの必死さに、思わず言われた通りに決定キーを押していた。 ―SKILL TRACE SYSTEM ON. TIME COUNT 120sec ・・・・・・START― 「……きゃあっ!?」 その次の瞬間、また同じような音質の声と共に、その携帯が先ほどのエルナのそれを逆再生したかのように光の糸に拡散して、クリアの身体を包み込む形で集まっていく。 「へー、外から見たらこんな感じなんだ」 そんな尋常ではな状況にもかかわらず、再びのんきな顔でその光景を眺めるエルナ。 恐らく先ほどの状況からみても、彼女は一回以上はこの中にいたのだろう。 「あ、けっこう可愛い衣装ね。 似合うわよー」 「うぅ……だから何がですか…………って……えええええっっ!!!??」 光の糸がその形を成し、発光が収まっていく中、未だに混乱気味の表情のままのクリアが地面にへたりこむようにしていたが、エルナのセリフに反応するように視線を自分の身体に落とすと――ー 元々着ていたはずの制服が跡形もなく消え去り、変わりに白と黒をメインにした、膝丈スカートのドレス風の衣装にすりかわっていた。 勿論、制服の下にこんなもの着てくるはずはないし、そもそも上に何かを着られるようなデザインでは無い。 「な、何……、ホントに何が起こって……」 そうして、再び混乱の海に意識が落ちようとしたその時だった。 トスッ、という音を立てて、目の前に何か棒状のものが落ちてくるのが目に入る。 「け……剣っ!?」 ――さもガラスのように向こう側の景色が透き通り、そして蒼色の澄んだ輝きを放つ刀身。 その輝きに不思議と心が惹かれるなにかを感じ、一瞬身取れてしまったが…… 「って、もう15秒経ってるじゃない! クリア、ぼーっとしてないでその剣で戦いなさい!!」 そんな感慨を覚える時間すらも許さず、エルナの指示が耳に飛びこんでくる。 はっと我に帰って見れば、周囲を取り囲んでいた炎の壁もほとんど消え去り、トカゲ人間達も自分達の方へと足を進めようとしていた。 「た、戦えって言われても……あたし、剣どころか竹刀すら握った事……」 「絶対に大丈夫よ。 ――言っとくけど、この一言は気休めじゃないわ。 その剣を持てば分かるはずよ」 「…………」 見えたのは確信に満ちた表情。 いつもスチャラカな態度で、彼女の言動は見てる側は本気か冗談か迷わされるものだが…… この瞬間だけは、根拠も何もなくても、信じてもいいと心の底から思う事が出来た。 元々、それだけの信頼は寄せられる先生なのだから。 「じゃ、じゃあ……い、いきます!!」 どうせ、このまま『壁』に追いつめられた状態じゃ殺されるのを待つだけだろう。 だったら、ムチャクチャに振り回してでも抵抗してやる……そう思い、その剣を手に取った、その瞬間―― 「―――ス……トラ……スティア……?」 その名が、脳裏に浮かびあがり…… そしてそれが、今手に握っている剣の名であることも、同時に理解できた。 「……やれるっ!」 まだ細かい事は分かっていない。 しかし、不思議とそれまで感じていた恐怖は消え、逆に溢れるように自信が湧きあがってくる。 目の前の相手なんて、敵じゃ無い――と。 ---- 「――で、先生。 この状況やら、さっきのあたしの姿のこと、知ってるんですか?」 それから二分後。 ストラスティアと呼ばれる剣を手にしたクリアの働きによって、三匹のトカゲ人間は手も足も出ずに殲滅されていた。 携帯のプログラムとやらによる変身時間の制限は二分程度らしく、今の一言を口にする数秒前に、クリアは元の制服姿にもどり、光に消えた携帯もその手の中に収まっている。 「知ってるも何も……あなたの携帯にもメールきてるはずよ? この空間に入り込んだ時点で」 「……メール?」 そういえば、さっきそんな事を言われた気がする……と、握っていた携帯を開き、受信メールの画面を開く。 と、そこには見覚えの無いアドレスから送られた、一通のメールが確かに入っていた。 「……えーっと……」 ---- 始めまして。 私はこの世界の紡ぎ手の代理人です。 この世界は、あなたがたの住む世界をベースに構築されたパラレルワールド――『境間の世界』と呼ばれる場所で、『学園』を中心にしたこの町の一定範囲がその世界の全てです。 町ひとつが異空間に切り出され、外に出る事が出来ない――と仮定すれば分かりやすいでしょうか? この世界には『バグ』と呼ばれる異形の生物が住み、人間を襲います。 道具や武器の使い方次第では普通の人間の力でどうにかできるモノも多いですが、多少強いものになれば対抗することすら難しいでしょう さて、そこでこの世界に飲み込まれてしまった皆さんには、強力な戦闘能力を使う事ができる力を配布しています。 その力を使うための――いわゆる変身に使われる道具は、あなたがたが持っている携帯電話です。 携帯のデータフォルダ内に、『スキルトレースシステム』という項目が増えていると思いますので、戦う必要がある際にはそれを実行してください。 能力の使い方については、システム起動時に使い手が自動的に『理解』できるように設定してありますのでご心配なく。 ただし、変身には一定の制限が在ります。 それぞれの携帯電話ごとにX・P(クロスポイント)という数値が設定されていて、その数値一回につき二分間、変身を持続させる事が出来ます。 なお、最大数は9回で、時間の経過でも自動的に回復していきますが、他にも様々な要因で回復させる事が出来ます ……ちなみに、他人の携帯電話でも変身はできますが……その際は、その携帯の中にあるデータを元に変身する事になるので、自分のスタイルとは全く違うスタイルの戦闘を要求されることもありえます。 あと、変身時の衣装もその携帯のデータが使われますので、外見を気にする方は、特に他人の携帯のデータを使う際はご注意下さい。 次に、キャプチャーシステムの説明です。 この世界にある物質は、リンクシステムとは別に入れておいたプログラム『マテリアルキャプチャー』で、データ化して携帯内に『保管』できます。 データ化した物質は物理的な重さは無く、どこにでも持ち運べますが……質量に比例して、携帯の容量を大きく圧迫します。 携帯にキャプチャーして持ち歩くか、普通に持ち歩くかはそちらの判断で行ってください そして細かいヒントになりますが、この世界は異世界との壁も少し薄く、異世界の道具――いわゆる剣や盾、レトロな感じの爆弾といった、ファンタジックなアイテムが落ちている事があります。 ゴミ箱やタンスの中などにまぎれこんでる事があるので、ちょっと調べてみるといい事があるかもしれません。 また、この世界に入った時点で、元の世界におけるアドレス張などのデータは消えています。 話したい相手の番号やメールアドレスを知っていても、ある条件を満たさなければ通話もメールのやり取りもできませんので、ご注意下さい。 さて、私から教えられる内容はここまでです。 この世界のゆがみに巻き込んでしまった事をお詫びいたします。 みなさん、『バグ』の猛攻を掻い潜り、元の世界への扉を探しあててください ---- 「……これ……何のゲームの話?」 「現実よ。 少なくとも、今ここに立っている私達にとってはね」 「…………」 ……少なくとも、このメールの内容のいくつかは既に証明されている。 まず一つ目。 変身能力は自分とエルナの両方が使ったため、真実であり、『能力』の使い方も、確かにあの剣を持った瞬間に……ごく基本的な部分は理解できた。 これはただの直感でしかないが、あの変身には恐らくもっと強力な技とか能力が隠されているような気がする。 話をもどして、二つ目。 切り離された世界というのは、ここから先には何も見えず、進むことも出来ないということから、真実であると考えられる。 そして三つ目…… メールアドレスや電話番号、受信フォルダ、送信フォルダ内の一切のデータが、消した覚えも無いのに消滅している事。 それらを複合して、冷静に判断した結果……エルナのその一言には何も言い返す事が出来ず、黙り込むしかなかった。 「あと……どうやら携帯で連絡を取れるようになる条件って言うのは、”直接会うこと”みたいね」 「……ですね。 なんかいつのまにかエルナ先生の名前だけ、アドレス張に入ってます」 ……アドレス張に誰の名前ものっていないなどと言う状況は、中等部に入って携帯を買って貰ったばかりの時以来だった。 正直、それだけでも全てから孤立させられたような気分になり、かなりの寂しさを感じさせられる。 「……それにしても、なんであたし達なんでしょうか?」 とにかく、そんな寂しさから逃げるために、クリアは話題を逸らすことにした。 実際、こんな理不尽な目にあわされる理由は気になる、ということもあるだろう。 「文面から察するに、どうやらこの代理人とやらも意図してなかった……事故ってところかしらね」 「……はた迷惑にも程があるわよもー…………そりゃ、ファンタジーとかそういうのに夢みたこととかあるけど……まさかこんな形で叶っちゃうなんて……」 はぁ……と、気付けば思いの他深い溜息が漏れていた。 さすがに落ち着いてきたとはいえ、あまりに常識ハズレな展開が続いたために精神的に大きな疲れが出始めているのだろう。 「ま、クヨクヨしててもしかたないわね。 まずは仲間を捜しましょ」 「……仲間?」 「そ。 見る限りだと、変身回数は私もクリアも二回しか残って無いでしょ? とにかく、誰かが一人でも変身できる状態を維持しないと、危ないじゃない」 「……確かに、そうですね」 人数がいれば、それだけ戦力も増えると言うこと。 そして戦力が増えれば、誰かが変身を温存するという行動に出る事が出来る。 至極当たり前の理屈だが、この場でそれに気がつけたのは幸いだったかもしれない。 「…………はぁ、夢であって欲しい……」 変化の無い日常に少し飽きていた、という事実はあるものの、実際にこんな異常事態に巻き込まれてみれば、楽しむ以前に心配事しか頭に浮かばない。 無事に帰りつけるのか、その扉とやらはドコにあるのか……そもそも、本当にそんな出口があるのだろうか? そんな事を思いながら、クリアはもう一度深い溜息をついていた。 ---- 各キャラ残りX・P |クリア|2回| |エルナ|2回|

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