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貴族家の会食に使われるものほどではないが、十人くらいは席につけそうな広いテーブル。 多人数が同じ家屋で暮らしているがゆえに必要となる、大型の家具だ。 「…………」 その内の一席に腰かけ、出されたお茶と菓子を口にするベティ。 そして対面する席に座るのは、このギルドの長、ティール・エインフィード。 外見的には鏡でもそこにあるかのように瓜二つな二人だが、それぞれがとっている態度には、大きな違いがあった。 「もうちょっと肩の力抜いたらどうかな。せっかくのお茶もおいしくないよ」 「あ、はい……」 きわめて自然体なティールと、言い知れぬ緊張感に包まれているベティ。 目の前の、自分によく似た少女を警戒しているわけではない。 ただ、本能よりも深いどこかで、この相手と自分の間に何かを感じていた。 「……ティール、あなたの噂はよく聞いてるけど……」 二人の横ではアリスとイリスが、二人の間の緊張感を感じているのか、子供なりに緊張した面持ちでその様子を見つめ――― また少し離れたところでは、アルとワルツ、そしてこのギルドに雇われているというメイドのマナが、何かを話し込んでいた。 「その、何て言えばいいのか……」 そんな周りの状況からは半ば隔絶された空気の中で、ベティは普段より重く感じる口を開いた。 「私達は本当に“他人”なのか――聞きたいのは、そこ?」 「―――!?」 対して、ティールの方はどこか余裕がある様子でコトリとティーカップを置くと、微笑みを浮かべながら、全て見透かしたかのようにベティの言葉を続ける。 当然のように驚くベティだったが、ふと思い当たる。 もしかしたら、相手も同じものを感じていたのでは、と。 「まあ、血筋やそういう意味では私達は他人に違いないよ」 さすがに、それは分かっていた。 相手の出生や家族構成が謎とはいえ、自分の家とは無関係なのは明白である。 第一、双子だったとしても片方を捨てる理由もないし、そんなことをすれば後継ぎ問題以前に貴族家としての品性を問われてしまう。 「……でも、あなたも魂の力の使い手なら、感じているはず。私達の魂の波長は、限りなく同じだということに」 「……魂の波長……?」 「魂の揺らぎを力に変える者は、他者の魂の揺らぎにも敏感なもの。特に、私やあなたのように、魂の力を持つ者は揺らぎそのものが大きいからね。 互いに“そう”だと言うのなら……」 言いたいことは、何となく通じていた。 そう言われてみれば、ティールの中から感じられる気配は、自分が魂の共振を使うときに現れる感覚によく似たものを感じさせられる。 「まさかとは思っていたけど、この世界に私の“並列存在”がいるとはね……」 「……並列存在……?」 聞き慣れない単語だった。 ようやく相手の言っていることが理解できた段階で、間髪入れずに次の理解を求められる。 理解が追い付かない間に次を提示させられるよりはマシだが、なにやら狙ってそのタイミングで問いを投げかけられているような気もしてくるベティだった。 「断言はしないけど、あなたは私の、そして私はあなたのパラレルな存在だと思う」 「パラレルって……」 はっきり言って、突拍子がない。 何となく言いたいことは通じるが、どうにも情報が足りないためか、言葉の理解がついていかないのだ。 「……私が異世界から来た者だって話、聞いたことある?」 「え? それはまあ……」 それは彼女に関する噂の中でも、最も有名な話の一つだ。 事の正否を確かめることは出来なかったが、まさかそれについて話してくれると言うのだろうか。 「並列存在と言うのは、世界を隔てた別の場所にいる、自分と全く同質の魂を持った存在のこと。 世界と魂という広域の概念で言えば、“魂の双子”とでも言える相手」 「―――!」 「以前、元の世界に帰りたくて躍起になってた時期があってね、たまたま見つけた本が『異世界論』 ……この世界は、他の世界から時々ものが落ちてくることもあるからだろうね、そんな本を書いた人がいたのは」 「……ティールは、その本を信用してるの……?」 「全てを鵜呑みにしてるわけじゃないけど、私自身が異世界から落ちてきた身であること、そして目の前にいるあなた…… 少なくとも、『並列存在』というものは信用してもいいと思ってるよ」 「…………」 なんと言ったものか、言葉が見つからなかった。 彼女の言葉を肯定するならば、目の前にいるのは、ある意味“異世界の自分自身”ということになる。 だったら……いまここにいる自分はなんなのか、自分は本当に自分なのか…… 冷静になってみれば無茶苦茶な考えが、自分の中に生まれ始めているのがわかった。 ……ただ外見が似ているだけと言うならここまで混乱することは無かっただろう。 だが目の前の彼女はから感じる気配は、自分のものと限りなく同一。 僅かな波長の違いは確かにあるのだが、ここまでくると…… 「……深く考える事ないよ」 と、そこに至ったところで、ティールがその思考を止めるように一言投げ掛ける。 まるで、思考の渦から救い出すように。 「魂の質が同じでも、あなたと私じゃ持っている思い出も、経験も全く別のもの。 外見が同じだからって関係ない、あなたはあなたの人生があって、私は私の人生がある ……今は、たまたまそれが交差したに過ぎない、あなたは、あなた以外の何者でもないんだから」 「…………ティール……」 敵わない…… 心からそう思わされたのは、初めてだった。 同じ歳で、同じ外見……同質の魂を持っていても、歩んできた人生の密度の差を、思い知らされた気分だった。 ……同時に、彼女と自分は別物だとも、感じさせられる。 それが、劣等感からくるものだということが、何より悔しさをかきたてるものだったのだが。 ――その時、ふとフローナでアルに聞かされた言葉が思い出された。 ティールのこの全てに達観しているような物言いは、大切な人との別れの為ではないのだろうか。 同時に、そんな考えも浮かんではきたが…… 「何?」 正直、ベティには身近な人達が全て居なくなるなどという状況など想像もつかず、自分がそうなったとしても、どんな気持ちになるかもわからなかった。 自分が想像もつかない世界を生きてきた”自分”。 それを追求するような気は、とてもではないが起こらなかったのだ。 [[<前へ>鏡合わせの少女―夢の国より―:6]]
貴族家の会食に使われるものほどではないが、十人くらいは席につけそうな広いテーブル。 多人数が同じ家屋で暮らしているがゆえに必要となる、大型の家具だ。 「…………」 その内の一席に腰かけ、出されたお茶と菓子を口にするベティ。 そして対面する席に座るのは、このギルドの長、ティール・エインフィード。 外見的には鏡でもそこにあるかのように瓜二つな二人だが、それぞれがとっている態度には、大きな違いがあった。 「もうちょっと肩の力抜いたらどうかな。せっかくのお茶もおいしくないよ」 「あ、はい……」 きわめて自然体なティールと、言い知れぬ緊張感に包まれているベティ。 目の前の、自分によく似た少女を警戒しているわけではない。 ただ、本能よりも深いどこかで、この相手と自分の間に何かを感じていた。 「……ティール、あなたの噂はよく聞いてるけど……」 二人の横ではアリスとイリスが、二人の間の緊張感を感じているのか、子供なりに緊張した面持ちでその様子を見つめ――― また少し離れたところでは、アルとワルツ、そしてこのギルドに雇われているというメイドのマナが、何かを話し込んでいた。 「その、何て言えばいいのか……」 そんな周りの状況からは半ば隔絶された空気の中で、ベティは普段より重く感じる口を開いた。 「私達は本当に“他人”なのか――聞きたいのは、そこ?」 「―――!?」 対して、ティールの方はどこか余裕がある様子でコトリとティーカップを置くと、微笑みを浮かべながら、全て見透かしたかのようにベティの言葉を続ける。 当然のように驚くベティだったが、ふと思い当たる。 もしかしたら、相手も同じものを感じていたのでは、と。 「まあ、血筋やそういう意味では私達は他人に違いないよ」 さすがに、それは分かっていた。 相手の出生や家族構成が謎とはいえ、自分の家とは無関係なのは明白である。 第一、双子だったとしても片方を捨てる理由もないし、そんなことをすれば後継ぎ問題以前に貴族家としての品性を問われてしまう。 「……でも、あなたも魂の力の使い手なら、感じているはず。私達の魂の波長は、限りなく同じだということに」 「……魂の波長……?」 「魂の揺らぎを力に変える者は、他者の魂の揺らぎにも敏感なもの。特に、私やあなたのように、魂の力を持つ者は揺らぎそのものが大きいからね。 互いに“そう”だと言うのなら……」 言いたいことは、何となく通じていた。 そう言われてみれば、ティールの中から感じられる気配は、自分が魂の共振を使うときに現れる感覚によく似たものを感じさせられる。 「まさかとは思っていたけど、この世界に私の“並列存在”がいるとはね……」 「……並列存在……?」 聞き慣れない単語だった。 ようやく相手の言っていることが理解できた段階で、間髪入れずに次の理解を求められる。 理解が追い付かない間に次を提示させられるよりはマシだが、なにやら狙ってそのタイミングで問いを投げかけられているような気もしてくるベティだった。 「断言はしないけど、あなたは私の、そして私はあなたのパラレルな存在だと思う」 「パラレルって……」 はっきり言って、突拍子がない。 何となく言いたいことは通じるが、どうにも情報が足りないためか、言葉の理解がついていかないのだ。 「……私が異世界から来た者だって話、聞いたことある?」 「え? それはまあ……」 それは彼女に関する噂の中でも、最も有名な話の一つだ。 事の正否を確かめることは出来なかったが、まさかそれについて話してくれると言うのだろうか。 「並列存在と言うのは、世界を隔てた別の場所にいる、自分と全く同質の魂を持った存在のこと。 世界と魂という広域の概念で言えば、“魂の双子”とでも言える相手」 「―――!」 「以前、元の世界に帰りたくて躍起になってた時期があってね、たまたま見つけた本が『異世界論』 ……この世界は、他の世界から時々ものが落ちてくることもあるからだろうね、そんな本を書いた人がいたのは」 「……ティールは、その本を信用してるの……?」 「全てを鵜呑みにしてるわけじゃないけど、私自身が異世界から落ちてきた身であること、そして目の前にいるあなた…… 少なくとも、『並列存在』というものは信用してもいいと思ってるよ」 「…………」 なんと言ったものか、言葉が見つからなかった。 彼女の言葉を肯定するならば、目の前にいるのは、ある意味“異世界の自分自身”ということになる。 だったら……いまここにいる自分はなんなのか、自分は本当に自分なのか…… 冷静になってみれば無茶苦茶な考えが、自分の中に生まれ始めているのがわかった。 ……ただ外見が似ているだけと言うならここまで混乱することは無かっただろう。 だが目の前の彼女はから感じる気配は、自分のものと限りなく同一。 僅かな波長の違いは確かにあるのだが、ここまでくると…… 「……深く考える事ないよ」 と、そこに至ったところで、ティールがその思考を止めるように一言投げ掛ける。 まるで、思考の渦から救い出すように。 「魂の質が同じでも、あなたと私じゃ持っている思い出も、経験も全く別のもの。 外見が同じだからって関係ない、あなたはあなたの人生があって、私は私の人生がある ……今は、たまたまそれが交差したに過ぎない、あなたは、あなた以外の何者でもないんだから」 「…………ティール……」 敵わない…… 心からそう思わされたのは、初めてだった。 同じ歳で、同じ外見……同質の魂を持っていても、歩んできた人生の密度の差を、思い知らされた気分だった。 ……同時に、彼女と自分は別物だとも、感じさせられる。 それが、劣等感からくるものだということが、何より悔しさをかきたてるものだったのだが。 ――その時、ふとフローナでアルに聞かされた言葉が思い出された。 ティールのこの全てに達観しているような物言いは、大切な人との別れの為ではないのだろうか。 同時に、そんな考えも浮かんではきたが…… 「何?」 正直、ベティには身近な人達が全て居なくなるなどという状況など想像もつかず、自分がそうなったとしても、どんな気持ちになるかもわからなかった。 自分が想像もつかない世界を生きてきた”自分”。 それを追求するような気は、とてもではないが起こらなかったのだ。 [[<前へ>鏡合わせの少女―夢の国より―:6]]     [[次へ>>鏡合わせの少女―夢の国より―:8]]

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