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―1― お金で買えないものがある、とはよく言ったものの、ないと困るような状況の方が現実問題として多いわけで。 気持ちだけで解決出来るのならそうしたいものだが、そういうわけにもいかないという事実から、やむなく気が進まない仕事に手を出すことなど、支援士に限らずともよくある話である。 それはある日の昼下がりのリエステール。 いつものように市民や支援士たちで賑わう中央通りに開店セールと銘打ったフェア真っ最中の喫茶店の出来事だった。 『ブルーフェザー』という北部のリックテールに本店がある店なのだが、最近南部にも進出してきたそれなりに有名な店である。 まあ新店ということは物珍しさから客も多く来るもので、店側もそれなりの数のスタッフを用意しなければならず、長期雇用を見越したアルバイトに加え、オープニングスタッフのみの短期の者もそれなりに雇っているようだった。 「なんか最近仕事少ないよなぁ」 そんな店のオープンスペースに、せわしなく動き回るウェイトレス達をチェックしながらぼやく青年――支援士ギルド『ローゼンクランツ』のメンバーの一人、アースの姿があった。 当然のごとく、その対面に座るのは同じギルドの一人であるリフルである。 ギルド内でも何かといっしょにいることが多い二人だが、その雰囲気はつきあっていると言うより気のあう友人という感じだろうか。 「どこぞのギルドの集金期間って話だけどねー、普段から集金分だけ貯金しておけば、ギリギリに依頼漁らなくて済むのに」 リフルもまたぶつくさと言いながらストローでコップの中のアイスコーヒーを飲み干していく。 ……支援士は日の稼ぎが安定した職とは言えないので、実際にそんなマメな貯金ができる人はわりと少ないものなのだが。 「実家暮らしの私達には無縁な話よねー」 「しかしそろそろ北の方にも行ってみたい気もするがな」 アースのその言葉の通り、このギルド、ローゼンクランツは基本的に南部のみの活動に留まっている……まぁ稼ぎ意外の目的が少ない職業支援士というやつだろうか。 と言っても深い理由などなく、宿代や船などの旅費を考えると、わざわざ遠征するほどの事はないと考えているからなのだが。 「ま、確かにBランクになって北にも行ったことないってあんましカッコつかないわねぇ」 「そうだな、南の中級ダンジョンも飽きてきたころだし……」 かといって上級ダンジョンに踏み込めるような実力があるかどうかはあやしいのが悲しいところか。 何より戦力の中核を成していたヴィオ――今はティオと言うべきか、先日の一件から“彼女”の力がブレイザー後期レベルまで落ちたのが大きい。 「せめて力だけでも元に戻せてやれればいいんだが」 「まあそれは確かに……っと、すいませーんコーヒーおかわり」 と、話が特にまとまった様子もないのに近場を通ったウェイトレスに、一言投げかけるリフル。 真剣に話しているようでいて、実はそれほど深刻には見ていないのかもしれない。 周囲に二人に目を向けている者がいたならば、そんな感想を抱いていたことだろう。 「おや、お主らも来ておったのか」 ――そんな時、二人には聞きなれた声が聞こえてきた。 特徴的な口調、それだけでも人違いということはまずないだろう。 「エミィさん、こんにちはー」 「ああ、こんにちは」 軽く挨拶を交わすと、さも当たり前のように二人の間に腰かけるエミリア。 二人のほうも特に何か言うこともなく、そのまま次の話題にうつっていった。 「これでもカフェに出向くのは好きな方じゃからな、新店チェックはいつものことじゃ」 「へー。でもディンさんはいっしょじゃないんですか?」 「こういう場は、あやつよりも詳しい立場でいたいからのぉ」 二人には少し首を傾げた事からよくわからない感覚だったようだが、エミリア的には何かプライドのようなものがあったらしい。 とりあえずデートコースとして合格点かどうかのチェックということだろうか。 「しかし、やはりかわいい制服じゃな。リックテールの本店とは少しデザインが違うようじゃが」 「あ、行ったことあるんですね?」 「うむ、向こうでも衣装見たさに男女問わず話題にされる店じゃからな」 男女で話題の内容というかベクトルに微妙な歪みがあるのがありありと予想できそうなものだが。 ……と、リフルがなんとも言えない表情で思っていたのはまた別の話である。 ちなみに、アルバイトの募集では志望動機で一番多いが制服という隠れた事実があったりする。 「おっと、そういえばそっちも今日はティオはいないのか?」 「あ、はい。今日は用事があるとか言ってたので」 「そうか……ちょっと耳に入れておきたい話があるのじゃがな」 「え? ……ティオにってことはもしかして……」 「お待たせ致しました、アイスコーヒーのお客様」 ふと、少し真面目な顔を見せたエミリアに反応するリフルだったが、その会話は先程のリフル自身の注文によって遮られてしまった。 一瞬気まずいような空気が流れたが、気をとりなおすように軽く笑うと、リフルはすぐ横に現れたウェイトレスの方へと顔をむけた。 「はい、それあたし―――……ぅん?」 「……あ」 空気が凍る、とはまさにこういうことだろうか。 リフルのコーヒーのおかわりを持ってきたウェイトレスは……まあ当然のようにかわいいと世間でも評判なブルーフェザーの制服(南部仕様)を身につけた、スカイブルーの髪色の、リフルと大体同じ歳くらいの少女で…… 激しくどこかで見たことあるような顔をしていた。 「………では、ごゆっくりどうぞ」 妙な間を開けて、ウェイトレスはいかにも営業用のスマイルを浮かべながらそそくさと三人の前から立ち去ろうとしていた。 その瞬間の笑顔は明らかにひきつっていたが、そんなことは既に些細なことで―― 「ちょっとまて、どこかで会わなかったか?」 アースが限りなく確信に満ちた目で、ウェイトレスにそうよびかけていた。
―1― お金で買えないものがある、とはよく言ったものの、ないと困るような状況の方が現実問題として多いわけで。 気持ちだけで解決出来るのならそうしたいものだが、そういうわけにもいかないという事実から、やむなく気が進まない仕事に手を出すことなど、支援士に限らずともよくある話である。 それはある日の昼下がりのリエステール。 いつものように市民や支援士たちで賑わう中央通りに開店セールと銘打ったフェア真っ最中の喫茶店の出来事だった。 『ブルーフェザー』という北部のリックテールに本店がある店なのだが、最近南部にも進出してきたそれなりに有名な店である。 まあ新店ということは物珍しさから客も多く来るもので、店側もそれなりの数のスタッフを用意しなければならず、長期雇用を見越したアルバイトに加え、オープニングスタッフのみの短期の者もそれなりに雇っているようだった。 「なんか最近仕事少ないよなぁ」 そんな店のオープンスペースに、せわしなく動き回るウェイトレス達をチェックしながらぼやく青年――支援士ギルド『ローゼンクランツ』のメンバーの一人、アースの姿があった。 当然のごとく、その対面に座るのは同じギルドの一人であるリフルである。 ギルド内でも何かといっしょにいることが多い二人だが、その雰囲気はつきあっていると言うより気のあう友人という感じだろうか。 「どこぞのギルドの集金期間って話だけどねー、普段から集金分だけ貯金しておけば、ギリギリに依頼漁らなくて済むのに」 リフルもまたぶつくさと言いながらストローでコップの中のアイスコーヒーを飲み干していく。 ……支援士は日の稼ぎが安定した職とは言えないので、実際にそんなマメな貯金ができる人はわりと少ないものなのだが。 「実家暮らしの私達には無縁な話よねー」 「しかしそろそろ北の方にも行ってみたい気もするがな」 アースのその言葉の通り、このギルド、ローゼンクランツは基本的に南部のみの活動に留まっている……まぁ稼ぎ意外の目的が少ない職業支援士というやつだろうか。 と言っても深い理由などなく、宿代や船などの旅費を考えると、わざわざ遠征するほどの事はないと考えているからなのだが。 「ま、確かにBランクになって北にも行ったことないってあんましカッコつかないわねぇ」 「そうだな、南の中級ダンジョンも飽きてきたころだし……」 かといって上級ダンジョンに踏み込めるような実力があるかどうかはあやしいのが悲しいところか。 何より戦力の中核を成していたヴィオ――今はティオと言うべきか、先日の一件から“彼女”の力がブレイザー後期レベルまで落ちたのが大きい。 「せめて力だけでも元に戻せてやれればいいんだが」 「まあそれは確かに……っと、すいませーんコーヒーおかわり」 と、話が特にまとまった様子もないのに近場を通ったウェイトレスに、一言投げかけるリフル。 真剣に話しているようでいて、実はそれほど深刻には見ていないのかもしれない。 周囲に二人に目を向けている者がいたならば、そんな感想を抱いていたことだろう。 「おや、お主らも来ておったのか」 ――そんな時、二人には聞きなれた声が聞こえてきた。 特徴的な口調、それだけでも人違いということはまずないだろう。 「エミィさん、こんにちはー」 「ああ、こんにちは」 軽く挨拶を交わすと、さも当たり前のように二人の間に腰かけるエミリア。 二人のほうも特に何か言うこともなく、そのまま次の話題にうつっていった。 「これでもカフェに出向くのは好きな方じゃからな、新店チェックはいつものことじゃ」 「へー。でもディンさんはいっしょじゃないんですか?」 「こういう場は、あやつよりも詳しい立場でいたいからのぉ」 二人には少し首を傾げた事からよくわからない感覚だったようだが、エミリア的には何かプライドのようなものがあったらしい。 とりあえずデートコースとして合格点かどうかのチェックということだろうか。 「しかし、やはりかわいい制服じゃな。リックテールの本店とは少しデザインが違うようじゃが」 「あ、行ったことあるんですね?」 「うむ、向こうでも衣装見たさに男女問わず話題にされる店じゃからな」 男女で話題の内容というかベクトルに微妙な歪みがあるのがありありと予想できそうなものだが。 ……と、リフルがなんとも言えない表情で思っていたのはまた別の話である。 ちなみに、アルバイトの募集では志望動機で一番多いが制服という隠れた事実があったりする。 「おっと、そういえばそっちも今日はティオはいないのか?」 「あ、はい。今日は用事があるとか言ってたので」 「そうか……ちょっと耳に入れておきたい話があるのじゃがな」 「え? ……ティオにってことはもしかして……」 「お待たせ致しました、アイスコーヒーのお客様」 ふと、少し真面目な顔を見せたエミリアに反応するリフルだったが、その会話は先程のリフル自身の注文によって遮られてしまった。 一瞬気まずいような空気が流れたが、気をとりなおすように軽く笑うと、リフルはすぐ横に現れたウェイトレスの方へと顔をむけた。 「はい、それあたし―――……ぅん?」 「……あ」 空気が凍る、とはまさにこういうことだろうか。 リフルのコーヒーのおかわりを持ってきたウェイトレスは……まあ当然のようにかわいいと世間でも評判なブルーフェザーの制服(南部仕様)を身につけた、スカイブルーの髪色の、リフルと大体同じ歳くらいの少女で…… 激しくどこかで見たことあるような顔をしていた。 「………では、ごゆっくりどうぞ」 妙な間を開けて、ウェイトレスはいかにも営業用のスマイルを浮かべながらそそくさと三人の前から立ち去ろうとしていた。 その瞬間の笑顔は明らかにひきつっていたが、そんなことは既に些細なことで―― 「ちょっとまて、どこかで会わなかったか?」 アースが限りなく確信に満ちた目で、ウェイトレスにそうよびかけていた。 [[次へ>>フェアリーローズ:2]]

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