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「戦闘訓練がしたいだぁ?」  酒場でカウンターの席に座り、冷を飲んでいたヴァイに向かって、マスターはそう声を出した。  その声は酒場の外にまで聞こえたというが、それだけ驚いたということだろうか。 「依頼を受けて仕事をするお前さんが依頼をしたい。と言い出したから何かと思えば…いったいどういうことでぇ?」 「ああ。前々から思っていたんだ。オレは以前、エメトの欠片を集めたネクロマンサから切り札を使われて手も脚も出なくなった。そんな状況で誰がリスティを護る? そういった特殊な状況をある程度予測し、切り抜けられる術を得たいってな。ちょうど運よく連続で貴族出の依頼を達成する事が出来たんだ。実入りがあった以上、この経験は買っておきたい」 「ふむ…」  訓練依頼というのは珍しくはなかったが、ヴァイの口からここまで言葉が出たことに、マスターは感心をしていた。 (やれやれ。前までのヴァイなら『自分の身を護るのは自分。死んでも自分の責任だ』とか言ってたのによ。いっちょ前になりやがって。これもリスティちゃんのおかげなんだろぉなぁ)  一人うなずき、マスターは「よっしゃ」と言った。 「気に入った。ヴァイ、依頼主にはワシの方から色をつけて報酬を出そうじゃねぇか…まっ、あんまり多く色つけちまうとアイツに怒られちまうけどな」  マスターは厨房を親指で差して、おどけたように肩をすくめ、ヴァイに依頼書を渡す。 「依頼期間はヴァイの予定資金が尽きるまで。ブレイブマスターを相手とした模擬戦闘。後は特筆すべきことがあれば書いておいてくれねぇか」 「そうだな…純粋な実力比べでも訓練になるだろうから構わないが、少し特殊な戦い方をする相手だとなお良いな。あとは、ランクの高い低いは問わない」 「?? どういうことでぇ?」  ヴァイの言葉に、マスターは疑問をなげかける。  純粋に強くなるのであれば、それこそ半歩先に居る実力を持った相手と組み手をした方が良いだろう。  しかし、ランクの高い低いを問わない。というのはどういうことなのか。   「例えばだ。今でこそティールの戦い方は理解している。戦闘において相手がより強ければ、魂の力を解放し、自分の肉体を飛躍させる『覚醒』の類を切り札として持っている。しかし、ティールの事を何も知らず、交戦する事があったとすれば?」 「…なるほど、『覚醒』の前と後による実力の違いからペースを乱される可能性が高い。ってぇことか。そりゃあワシみてぇに実力でゴリ押しするタイプとはちげぇなぁ」 「ああ。だけど、もちろん純粋な力比べでも構わない。それでも訓練にはなるからな」  そういった旨を依頼書に記入し、ヴァイは書類をマスターに渡した。 「よっし!わかったぜぇ。 依頼が入ったら連絡入れっから、あとは都合つく時間を報告しながらいつも通りの仕事をしてくれや!」 「でしたら、僕がお相手いたしましょうか?」 「あん?」  マスターとヴァイの横で、駐屯していた青年が二人に向かい声をかけた。  年齢としては、ヴァイよりも2~3下だろうか? 「タキア。おめぇまだBランク支援士だろぉが、冥氷剣の名前くらいは知ってるだろ。大丈夫なのか?」 「ええ。ヴァイさんさえ宜しければですが。丁度ヴァイさんの希望した条件にピッタリだと思いましたので」 「…何者なんだ?」  ヴァイはマスターに聞いたつもりだったが、タキアと名乗った青年は、ヴァイに近づいて握手を求め手を差し出した。 「タキア・ノックスと言います。ヴァイさんの事は幼馴染のスウリ・ティコルチアから聞かされていますよ」  そう言って、冗談交じりに苦笑いを浮かべたのだった。 「あんのガキの知り合いか…」  ヴァイも手を握り返し、同じく苦笑いを浮かべる。  名前の出たスウリ・ティコルチアとは、リスティの友人でアルティア事件後も変わらずリスティと接した数少ない友人の一人である。  勝気で曲がった事を好まない点は良いのだが、思い込みの激しいバカ。という印象がヴァイにとっては強すぎて、付き合い方において頭をかかえる一人である。  というのは、リスティを誘拐した犯人。という認識を未だに持っており、顔を合わせるたびに絡んできて微妙に痛い程度の威力のパンチをかましてくるのだ。  目の前の青年も、ある事無い事スウリから聞いているのだろう。 「誤解なさらず、スウリがバカな事くらい理解していますので、あいつのいう事を真に受けてはいませんよ」 「そ、そうか…」  ヴァイは内心『マトモそうなやつで助かった』と思った。どうにも自分の知ってる教会関係者はキテレツな性格の人が多い 「ところであまり見かけない顔だな。Bってことは勤めてそれなりに経ってるだろうに」 「確かにヴァイさんと仕事が少々異なりますから、こうして挨拶する事も今までなかったかもしれませんね。  僕は主に、冒険者がダンジョンに潜る際に、その支援としてパーティに入る符術弓師(アポリオン)なんですよ」 「アポリオン…!」 「ああ。タキアはダンジョン探索支援メインの支援士でぇ。アポリオンというジョブも珍しいし、確かにヴァイの言う条件にはピッタリかもしれねぇなぁ」  マスターの言葉にタキアは一つ大きくうなずいた。 「ええ。元々アポリオンは弓で栄えている『シュヴァル』と、古来から独自の文化を創ってきた『十六夜』の魔術的な力を持った『符』を組み合わせたジョブです。主に符術を使った支援を多用しており、アポリオンがアルティア様と協力体制にあったことから、教会とも友好です。アポリオンの精神とアルティア様の『弱きものを護る』精神は通じるところがあります」 「う、うーん…だが、十六夜とアルティア教か。そう聞くと悪いヤツが居るようなジョブとは思えないが…そういう相手が敵に回る事はあるのか?」  義理高い十六夜に、アルティア教会が組み合わさっていれば、ヴァイも当然としてそう思った。  だが、タキアは首を小さく振り、少々怒気を含んだ声で告げた。 「しかし、十六夜の人だからと言ってすべてが良い人ではないですし、アルティア教だからといえフォーゲンのような人物も居ます。私欲の為に道を踏み外すアポリオンももちろん居ます」 「ヴァイ。ワシからも推すぜ。アポリオンの戦闘経験なんぞ無かっただろ? 戦って損はしないはずだぜ」 「……よし、判った。タキア。宜しく頼む」  マスターとタキアの言葉にヴァイはうなずき、タキアと訓練をする事とした。 リエステール外 少し出たところの草原 「ではヴァイさん。よろしくおねがいします」 「ああ」  お互いの獲物である、弓と剣…もちろん、弓は矢じりを落としたものであり、剣はフェルブレイズではなく、刃落としをした模造刀だ。・・・を手に取り、お互い構える  当たれば痛いだろうが、相当打ち所が悪くない限り死にはしない。 「ヴァイさん…一つだけ注意と言うか忠告ですが」 「なんだ?」 「少々手加減をしなければ危ないと思いますよ」 「…はぁ?」  タキアの謎の助言に、ヴァイは疑問の声を漏らした。  手加減しなければ危ないとは・・・・いや、そりゃあ本気で叩き切るつもりはないが、それでも全力で挑まなければ訓練にならない。 (ああいや…そういうことか?)  恐らく、タキアの伝え方が少しおかしかっただけで、『手加減をしてくれなければタキア自身が危ない』ということだろうか。  マスターはタキアがBランク支援士と言っていたし、アポリオンということは、弓のジョブ。丈夫さで言えばそう高くないのだろう 「判った。善処はするが、場合によっては本気でいかせてもらうぞ」 「・・・判りました。では始めましょう」  その言葉を合図に、タキアは弓を真上に大きく放った。  その矢が風を切り、地面に突き刺さったところで、タキアは弓を引き、ヴァイに放った。  開戦の合図に、ヴァイはさすがブレイブマスター。弓を難なく回避し、距離をつめようとする。 (さあ。アポリオン…どんな戦い方をする?)  タキアは距離をつめるヴァイに矢を向ける。  ヴァイは剣を用いたかく乱する動きで、弓の標準をずらす。  だが、タキアの弓はヴァイの動きを追いながらも、その目線はどこか違うものを追っている事に気付いた。 (どこを見ているんだ?)  距離を詰め、一足一刀の間合い。一太刀で懐に入れる距離に居ながら、言いようのない予感がヴァイに走っていた。  だが、その距離は弓においては既に矢の間合い。タキアは矢を放った。 「一枚符! 影結い!!」 「!」  刺さったのはヴァイ・・・の影。  その一瞬、素早かったヴァイの動きがガクンと止まる。 「くっ!!」  だが、一枚符の影結いは、一瞬動きを止めて符が消えた。  直後にヴァイは転がり、弓矢の軌道から逃れる (危なかった…! ああいう技も使うと言うのか…!)  だが、次にタキアが放った矢はヴァイに向けてではなく、ヴァイの止まった隙をついて、草原の地に向かって放っていた。 「五枚符! 守護方陣!!」 「ちっ…!」  すぐに剣での一撃を繰り出したが、少し遅かった。  ギン!!と激しい音がなり、タキアの前にある見えない壁に一撃を防がれてしまった。  だが、 「っ! さすが『冥氷剣』というだけはありますね・・・! 動きを止めてなおここまで速い…!」  タキアのほうの守護方陣も完全に間に合ったと言うわけではなかった。  フェルブレイズはタキアの守護方陣に食い込み、ヒビを入れていた。 「二枚符! 月華!!」 「……ふっ!」  短い会話もそこそこに、タキアは銀閃の走る弓を放ち、それはヴァイの居たところで弾けた。  それをヴァイは『動けばゆれる気の流れ』を読み、『止水』の型から回避をし、最小限の距離を取る。 (現状、タキアの護りにはヒビが入ってるが…五枚符・守護方陣か…! 通常の攻撃で砕くなら1回。  タキアに攻撃を叩き込むのに1回。だが、とても連撃が間に合うとは思えない…!  余り時間をかけてられない…! アレを砕きながらタキアに攻撃をしかけるならば…!) 「はあっ!!」  ヒュォっと、冷気が包む。  タキアはそれに気付き、威嚇のつもりか矢を放つが、矢を見切れ、かつ一足一刀の間合いに居たヴァイには当たる術なく全て避けられていた。  タキアに敗因があるとすれば、それは守護方陣の完成の遅れ。そして、守護方陣のデメリットである『方陣の中から動けない』ということ。そして、相手に一番良い間合いを取らせたことだろうか。  そうヴァイは考え、その銘を以った奥義を使う。 「タキア! これで終わりだ!」  タキアの周りに吹雪が現れ、その足から頭に向かい凍らせる。  その『冥氷剣』の一撃。  だが、 「終わりです―――十枚符!! 魂爆術!!」 「な…!!」  そう宣言し、完全に凍るより先に放たれ、ヴァイの立っていた直ぐ下の地面に刺さった矢  そして、そこから符がヴァイを囲むように飛び出し、包み込んだ。  まず襲ったのは違和感。いつもであればそのまま切りかかっていたのだが、その力が全く出せない。  吹雪も、氷も、手ごたえがなくなり、完全に止まっていた。 「がぁああ!!!」  直後襲ったのは、強烈な『力』。  この技は間違いなく知っている。紛れもない、『冥氷剣』。自分の『力』だ。  飛ばされ、地面に伏したヴァイに、矢じりの無い弓を頭に合わせ、タキアは告げた。 「僕の、勝ちですね」 「くっ・・・・」 「あれは一体何だったんだ…?」  座り、弁当のサンドイッチをお互いに食べながら、ヴァイはタキアに聞いた。 「そうですね・・・・まずは、僕の忠告どおりに手加減をしていただいてありがとうございました。  質問の答えですが、あの技はアポリオンであればほぼ間違いなく覚えているでしょう。十枚符・魂爆術(こんばくじゅつ)。  また、魂縛殺と言われています」 「魂縛殺・・・」  タキアの言葉に、オウム返しでヴァイは呟いた。 「この術は、相手の力。すなわち、魂に対して効果を表します。  相手がより強い力を引き出し、より強い力で攻撃をすれば、その全ての力が自分に還ってくるという技です」 「…反射。なのか?」 「いいえ。正確に言えば暴発。でしょうか。人は誰しも力を働かせる時、魂を動かします。その力を放つ前に相手の中で爆発させてしまう。という術です」  タキアの説明に、ヴァイは掘削爆弾を戦闘で使う前に手の中で爆発される。というイメージを持った。 「なので、通常の斬撃程度では少々腕に痛みが走る程度で大した効果はありません。  しかし、奥義や大魔法を放つ時は、魂の力はとても大きくなります。その時に、この技を使うのがアポリオンの戦いではとても効果的なのです。  影を結い、守護を固めることで、相手に奥義を使うことを誘導させます。相手としては、守護内に居る相手と長期戦は不利と考えるので屠りに来る事はとても自然な考えですからね」 「…なるほどな。アポリオンと戦う時は、奥義を控えた方が良い。と言うわけか」  ヴァイの言葉に、タキアは一つ頷いて 「はい。控える、というよりも、使ってはいけない。というレベルの認識を持った方が良いと思います。  僕達アポリオンは、ブレイブマスターやニッドホッグ、ベルセルク、マージナルなど魔法を使う系統にはとても強いですが、  一方で、レンジャーナイトやパラディンナイト。また、魂の力に縛られない道具を多用するクリエイターや、カーディアルトやジャッジメント。クリシュナなどの回復術を持っている相手は苦手としています」  サンドイッチを食べ終わったタキアは立ち上がり、パンパンとパン屑を払った。 「ヴァイさん。依頼抜きにしても模擬戦は僕の為にもなりました。恐らく守護方陣が間に合ったのは、ヴァイさんがアポリオンという戦い方を知らなかったおかげだと思います。影結いを切り抜け、守護方陣を張れなければ、僕は何も出来ないまま負けていたと思います。僕ももっと速く符術の展開を出来るように努力しようと思いました」  ありがとうございました。と一つ大きく頭を下げるタキアに対して、ヴァイは握手を求めて手を差し出した 「いや。俺が負けたのは事実だ。良い勉強になった…また依頼で一緒になることがあれば、頼む」 「はい。こちらこそ」  タキアはヴァイと握手を交わし、そのまま別れた。 「さてと…」  ヴァイは一つ伸びをして、ギルドへと向かう。  護るべき大切な者が、今頃はお腹を空かせて待っているだろうな。と思いつつ 戦績 1戦 0勝 1敗 0引き分け 過去対戦者 タキア・ノックス:冥氷剣を十枚符・魂縛術で暴発され、敗北してしまった。 あとがき というわけで、ヴァイの戦闘訓練の話でした。 名目としては、最初の方でマスターと話でしていたように、特殊な戦い方をするキャラクターでも構いませんし、 また、単純な力比べでも構いません。 本当は一番最初にカネモリのアルケミストの戦い方を相手に展開しようと思ったんですが 「あれ? ヴァイってカネモリと知り合いだったっけ?」 という疑問符に行き渡り、知らないのに知ってる風に書いたり、また、知ってるのに初めて会うように書くのもおかしいよな。 と思い、今まで出番の無かった未登場キャラのタキア・ノックス君に出てもらいました。 この話題では、ヴァイに華を持たせてくれてもうれしいですし、また、ヴァイを特長ある戦い方で攻めても構いません。 皆さんのキャラクターで、戦闘シーンがそういえばあんまり生かせないな…とか、 気軽に戦わせて見たいな。みたいなのがあれば、是非にご利用くだされば嬉しく思います 最後にこの話題を書く上で一つお願いがあるのは、最後に戦績の更新と過去の対戦者の記録を残していただければ幸いでございます。 では、みなさまのご参加をお待ちしておりますね!('ヮ')ノシ
「戦闘訓練がしたいだぁ?」  酒場でカウンターの席に座り、冷を飲んでいたヴァイに向かって、マスターはそう声を出した。  その声は酒場の外にまで聞こえたというが、それだけ驚いたということだろうか。 「依頼を受けて仕事をするお前さんが依頼をしたい。と言い出したから何かと思えば…いったいどういうことでぇ?」 「ああ。前々から思っていたんだ。オレは以前、エメトの欠片を集めたネクロマンサから切り札を使われて手も脚も出なくなった。そんな状況で誰がリスティを護る? そういった特殊な状況をある程度予測し、切り抜けられる術を得たいってな。ちょうど運よく連続で貴族出の依頼を達成する事が出来たんだ。実入りがあった以上、この経験は買っておきたい」 「ふむ…」  訓練依頼というのは珍しくはなかったが、ヴァイの口からここまで言葉が出たことに、マスターは感心をしていた。 (やれやれ。前までのヴァイなら『自分の身を護るのは自分。死んでも自分の責任だ』とか言ってたのによ。いっちょ前になりやがって。これもリスティちゃんのおかげなんだろぉなぁ)  一人うなずき、マスターは「よっしゃ」と言った。 「気に入った。ヴァイ、依頼主にはワシの方から色をつけて報酬を出そうじゃねぇか…まっ、あんまり多く色つけちまうとアイツに怒られちまうけどな」  マスターは厨房を親指で差して、おどけたように肩をすくめ、ヴァイに依頼書を渡す。 「依頼期間はヴァイの予定資金が尽きるまで。ブレイブマスターを相手とした模擬戦闘。後は特筆すべきことがあれば書いておいてくれねぇか」 「そうだな…純粋な実力比べでも訓練になるだろうから構わないが、少し特殊な戦い方をする相手だとなお良いな。あとは、ランクの高い低いは問わない」 「?? どういうことでぇ?」  ヴァイの言葉に、マスターは疑問をなげかける。  純粋に強くなるのであれば、それこそ半歩先に居る実力を持った相手と組み手をした方が良いだろう。  しかし、ランクの高い低いを問わない。というのはどういうことなのか。   「例えばだ。今でこそティールの戦い方は理解している。戦闘において相手がより強ければ、魂の力を解放し、自分の肉体を飛躍させる『覚醒』の類を切り札として持っている。しかし、ティールの事を何も知らず、交戦する事があったとすれば?」 「…なるほど、『覚醒』の前と後による実力の違いからペースを乱される可能性が高い。ってぇことか。そりゃあワシみてぇに実力でゴリ押しするタイプとはちげぇなぁ」 「ああ。だけど、もちろん純粋な力比べでも構わない。それでも訓練にはなるからな」  そういった旨を依頼書に記入し、ヴァイは書類をマスターに渡した。 「よっし!わかったぜぇ。 依頼が入ったら連絡入れっから、あとは都合つく時間を報告しながらいつも通りの仕事をしてくれや!」 「でしたら、僕がお相手いたしましょうか?」 「あん?」  マスターとヴァイの横で、駐屯していた青年が二人に向かい声をかけた。  年齢としては、ヴァイよりも2~3下だろうか? 「タキア。おめぇまだBランク支援士だろぉが、冥氷剣の名前くらいは知ってるだろ。大丈夫なのか?」 「ええ。ヴァイさんさえ宜しければですが。丁度ヴァイさんの希望した条件にピッタリだと思いましたので」 「…何者なんだ?」  ヴァイはマスターに聞いたつもりだったが、タキアと名乗った青年は、ヴァイに近づいて握手を求め手を差し出した。 「タキア・ノックスと言います。ヴァイさんの事は幼馴染のスウリ・ティコルチアから聞かされていますよ」  そう言って、冗談交じりに苦笑いを浮かべたのだった。 「あんのガキの知り合いか…」  ヴァイも手を握り返し、同じく苦笑いを浮かべる。  名前の出たスウリ・ティコルチアとは、リスティの友人でアルティア事件後も変わらずリスティと接した数少ない友人の一人である。  勝気で曲がった事を好まない点は良いのだが、思い込みの激しいバカ。という印象がヴァイにとっては強すぎて、付き合い方において頭をかかえる一人である。  というのは、リスティを誘拐した犯人。という認識を未だに持っており、顔を合わせるたびに絡んできて微妙に痛い程度の威力のパンチをかましてくるのだ。  目の前の青年も、ある事無い事スウリから聞いているのだろう。 「誤解なさらず、スウリがバカな事くらい理解していますので、あいつのいう事を真に受けてはいませんよ」 「そ、そうか…」  ヴァイは内心『マトモそうなやつで助かった』と思った。どうにも自分の知ってる教会関係者はキテレツな性格の人が多い 「ところであまり見かけない顔だな。Bってことは勤めてそれなりに経ってるだろうに」 「確かにヴァイさんと仕事が少々異なりますから、こうして挨拶する事も今までなかったかもしれませんね。  僕は主に、冒険者がダンジョンに潜る際に、その支援としてパーティに入る符術弓師(アポリオン)なんですよ」 「アポリオン…!」 「ああ。タキアはダンジョン探索支援メインの支援士でぇ。アポリオンというジョブも珍しいし、確かにヴァイの言う条件にはピッタリかもしれねぇなぁ」  マスターの言葉にタキアは一つ大きくうなずいた。 「ええ。元々アポリオンは弓で栄えている『シュヴァル』と、古来から独自の文化を創ってきた『十六夜』の魔術的な力を持った『符』を組み合わせたジョブです。主に符術を使った支援を多用しており、アポリオンがアルティア様と協力体制にあったことから、教会とも友好です。アポリオンの精神とアルティア様の『弱きものを護る』精神は通じるところがあります」 「う、うーん…だが、十六夜とアルティア教か。そう聞くと悪いヤツが居るようなジョブとは思えないが…そういう相手が敵に回る事はあるのか?」  義理高い十六夜に、アルティア教会が組み合わさっていれば、ヴァイも当然としてそう思った。  だが、タキアは首を小さく振り、少々怒気を含んだ声で告げた。 「しかし、十六夜の人だからと言ってすべてが良い人ではないですし、アルティア教だからといえフォーゲンのような人物も居ます。私欲の為に道を踏み外すアポリオンももちろん居ます」 「ヴァイ。ワシからも推すぜ。アポリオンの戦闘経験なんぞ無かっただろ? 戦って損はしないはずだぜ」 「……よし、判った。タキア。宜しく頼む」  マスターとタキアの言葉にヴァイはうなずき、タキアと訓練をする事とした。 リエステール外 少し出たところの草原 「ではヴァイさん。よろしくおねがいします」 「ああ」  お互いの獲物である、弓と剣…もちろん、弓は矢じりを落としたものであり、剣はフェルブレイズではなく、刃落としをした模造刀だ。・・・を手に取り、お互い構える  当たれば痛いだろうが、相当打ち所が悪くない限り死にはしない。 「ヴァイさん…一つだけ注意と言うか忠告ですが」 「なんだ?」 「少々手加減をしなければ危ないと思いますよ」 「…はぁ?」  タキアの謎の助言に、ヴァイは疑問の声を漏らした。  手加減しなければ危ないとは・・・・いや、そりゃあ本気で叩き切るつもりはないが、それでも全力で挑まなければ訓練にならない。 (ああいや…そういうことか?)  恐らく、タキアの伝え方が少しおかしかっただけで、『手加減をしてくれなければタキア自身が危ない』ということだろうか。  マスターはタキアがBランク支援士と言っていたし、アポリオンということは、弓のジョブ。丈夫さで言えばそう高くないのだろう 「判った。善処はするが、場合によっては本気でいかせてもらうぞ」 「・・・判りました。では始めましょう」  その言葉を合図に、タキアは弓を真上に大きく放った。  その矢が風を切り、地面に突き刺さったところで、タキアは弓を引き、ヴァイに放った。  開戦の合図に、ヴァイはさすがブレイブマスター。弓を難なく回避し、距離をつめようとする。 (さあ。アポリオン…どんな戦い方をする?)  タキアは距離をつめるヴァイに矢を向ける。  ヴァイは剣を用いたかく乱する動きで、弓の標準をずらす。  だが、タキアの弓はヴァイの動きを追いながらも、その目線はどこか違うものを追っている事に気付いた。 (どこを見ているんだ?)  距離を詰め、一足一刀の間合い。一太刀で懐に入れる距離に居ながら、言いようのない予感がヴァイに走っていた。  だが、その距離は弓においては既に矢の間合い。タキアは矢を放った。 「一枚符! 影結い!!」 「!」  刺さったのはヴァイ・・・の影。  その一瞬、素早かったヴァイの動きがガクンと止まる。 「くっ!!」  だが、一枚符の影結いは、一瞬動きを止めて符が消えた。  直後にヴァイは転がり、弓矢の軌道から逃れる (危なかった…! ああいう技も使うと言うのか…!)  だが、次にタキアが放った矢はヴァイに向けてではなく、ヴァイの止まった隙をついて、草原の地に向かって放っていた。 「五枚符! 守護方陣!!」 「ちっ…!」  すぐに剣での一撃を繰り出したが、少し遅かった。  ギン!!と激しい音がなり、タキアの前にある見えない壁に一撃を防がれてしまった。  だが、 「っ! さすが『冥氷剣』というだけはありますね・・・! 動きを止めてなおここまで速い…!」  タキアのほうの守護方陣も完全に間に合ったと言うわけではなかった。  フェルブレイズはタキアの守護方陣に食い込み、ヒビを入れていた。 「二枚符! 月華!!」 「……ふっ!」  短い会話もそこそこに、タキアは銀閃の走る弓を放ち、それはヴァイの居たところで弾けた。  それをヴァイは『動けばゆれる気の流れ』を読み、『止水』の型から回避をし、最小限の距離を取る。 (現状、タキアの護りにはヒビが入ってるが…五枚符・守護方陣か…! 通常の攻撃で砕くなら1回。  タキアに攻撃を叩き込むのに1回。だが、とても連撃が間に合うとは思えない…!  余り時間をかけてられない…! アレを砕きながらタキアに攻撃をしかけるならば…!) 「はあっ!!」  ヒュォっと、冷気が包む。  タキアはそれに気付き、威嚇のつもりか矢を放つが、矢を見切れ、かつ一足一刀の間合いに居たヴァイには当たる術なく全て避けられていた。  タキアに敗因があるとすれば、それは守護方陣の完成の遅れ。そして、守護方陣のデメリットである『方陣の中から動けない』ということ。そして、相手に一番良い間合いを取らせたことだろうか。  そうヴァイは考え、その銘を以った奥義を使う。 「タキア! これで終わりだ!」  タキアの周りに吹雪が現れ、その足から頭に向かい凍らせる。  その『冥氷剣』の一撃。  だが、 「終わりです―――十枚符!! 魂爆術!!」 「な…!!」  そう宣言し、完全に凍るより先に放たれ、ヴァイの立っていた直ぐ下の地面に刺さった矢  そして、そこから符がヴァイを囲むように飛び出し、包み込んだ。  まず襲ったのは違和感。いつもであればそのまま切りかかっていたのだが、その力が全く出せない。  吹雪も、氷も、手ごたえがなくなり、完全に止まっていた。 「がぁああ!!!」  直後襲ったのは、強烈な『力』。  この技は間違いなく知っている。紛れもない、『冥氷剣』。自分の『力』だ。  飛ばされ、地面に伏したヴァイに、矢じりの無い弓を頭に合わせ、タキアは告げた。 「僕の、勝ちですね」 「くっ・・・・」 「あれは一体何だったんだ…?」  座り、弁当のサンドイッチをお互いに食べながら、ヴァイはタキアに聞いた。 「そうですね・・・・まずは、僕の忠告どおりに手加減をしていただいてありがとうございました。  質問の答えですが、あの技はアポリオンであればほぼ間違いなく覚えているでしょう。十枚符・魂爆術(こんばくじゅつ)。  また、魂縛殺と言われています」 「魂縛殺・・・」  タキアの言葉に、オウム返しでヴァイは呟いた。 「この術は、相手の力。すなわち、魂に対して効果を表します。  相手がより強い力を引き出し、より強い力で攻撃をすれば、その全ての力が自分に還ってくるという技です」 「…反射。なのか?」 「いいえ。正確に言えば暴発。でしょうか。人は誰しも力を働かせる時、魂を動かします。その力を放つ前に相手の中で爆発させてしまう。という術です」  タキアの説明に、ヴァイは掘削爆弾を戦闘で使う前に手の中で爆発される。というイメージを持った。 「なので、通常の斬撃程度では少々腕に痛みが走る程度で大した効果はありません。  しかし、奥義や大魔法を放つ時は、魂の力はとても大きくなります。その時に、この技を使うのがアポリオンの戦いではとても効果的なのです。  影を結い、守護を固めることで、相手に奥義を使うことを誘導させます。相手としては、守護内に居る相手と長期戦は不利と考えるので屠りに来る事はとても自然な考えですからね」 「…なるほどな。アポリオンと戦う時は、奥義を控えた方が良い。と言うわけか」  ヴァイの言葉に、タキアは一つ頷いて 「はい。控える、というよりも、使ってはいけない。というレベルの認識を持った方が良いと思います。  僕達アポリオンは、ブレイブマスターやニッドホッグ、ベルセルクなどの守りより攻めが得意な系統や、マージナルなど魔法を使う系統にはとても強いですが、  一方で、レンジャーナイトやパラディンナイト。また、魂の力に縛られない道具を多用するクリエイターや、カーディアルトやジャッジメント。クリシュナなどの回復術を持っている相手は苦手としています」  サンドイッチを食べ終わったタキアは立ち上がり、パンパンとパン屑を払った。 「ヴァイさん。依頼抜きにしても模擬戦は僕の為にもなりました。恐らく守護方陣が間に合ったのは、ヴァイさんがアポリオンという戦い方を知らなかったおかげだと思います。影結いを切り抜け、守護方陣を張れなければ、僕は何も出来ないまま負けていたと思います。僕ももっと速く符術の展開を出来るように努力しようと思いました」  ありがとうございました。と一つ大きく頭を下げるタキアに対して、ヴァイは握手を求めて手を差し出した 「いや。俺が負けたのは事実だ。良い勉強になった…また依頼で一緒になることがあれば、頼む」 「はい。こちらこそ」  タキアはヴァイと握手を交わし、そのまま別れた。 「さてと…」  ヴァイは一つ伸びをして、ギルドへと向かう。  護るべき大切な者が、今頃はお腹を空かせて待っているだろうな。と思いつつ 戦績 1戦 0勝 1敗 0引き分け 過去対戦者 タキア・ノックス:冥氷剣を十枚符・魂縛術で暴発され、敗北してしまった。 あとがき というわけで、ヴァイの戦闘訓練の話でした。 名目としては、最初の方でマスターと話でしていたように、特殊な戦い方をするキャラクターでも構いませんし、 また、単純な力比べでも構いません。 本当は一番最初にカネモリのアルケミストの戦い方を相手に展開しようと思ったんですが 「あれ? ヴァイってカネモリと知り合いだったっけ?」 という疑問符に行き渡り、知らないのに知ってる風に書いたり、また、知ってるのに初めて会うように書くのもおかしいよな。 と思い、今まで出番の無かった未登場キャラのタキア・ノックス君に出てもらいました。 この話題では、ヴァイに華を持たせてくれてもうれしいですし、また、ヴァイを特長ある戦い方で攻めても構いません。 皆さんのキャラクターで、戦闘シーンがそういえばあんまり生かせないな…とか、 気軽に戦わせて見たいな。みたいなのがあれば、是非にご利用くだされば嬉しく思います 最後にこの話題を書く上で一つお願いがあるのは、最後に戦績の更新と過去の対戦者の記録を残していただければ幸いでございます。 では、みなさまのご参加をお待ちしておりますね!('ヮ')ノシ

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