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天宮智香とジュリアと犠牲者 ■十六夜・天宮家 『父上・母上へ  智香です。元気にしておりますでしょうか。  私はとても元気にやっております。今はリエステールに向かう途中、依頼を受けてセリスの町に着ております。  とても貴重な『宝石』というキラキラとしたものを守る仕事です。  この手紙を書く昨晩は、盗賊に不意を突かれ逝かされそうになってしまいました。今思い出しただけでも、恥ずかしいです。  このような事を書いては母上は心配をなさってしまうかもしれませんが、ご安心ください。  男の方たちに手を貸していただいて、気持ちよく終えることが出来ました。  依頼の哨戒期間はもう直ぐで終わります。智香もたくさんご奉仕したいと思っております。  追記で申し訳ないですが、十六夜に戻った際、父上には未熟な智香をご指導して頂きたいと思います。                          天宮智香』  この手紙を読んだ天宮智香の母、天宮那由は、肩を大きく震わせて叫んだ 「智香! ああ、智香!! あの子ったら何をしているというの!!」  手紙を放り投げ、泣き崩れる那由に対して、天宮智香の父、天宮竜三郎は手紙を拾い上げて  智香の書いた文面に目を通した。 「あー・・・なるほどなぁ。盗賊に不意を突かれて殺されそうになった未熟さが、思い出しただけで恥ずかしい。と  んで、数人で哨戒してたんだな。仲間の男性に助けられて気持ちよく『支援士の仕事』を終えることが出来たか。盗賊は無事に捕まえたってこったろ。  もうすぐ依頼された期間が終わるからその間、手伝いたいって事だな。おい那由、あの智香だぞ? その辺が妥当なトコだろーが」  竜三郎の言葉に、那由は顔を上げ、心配そうに夫の顔を見つめた。  …確かに、自分の娘の性格を考えればそうなるが、  さすが父なのか、娘の『誤解を招く』言葉に対して、十分に順応を見せていた。 「しっかしアレだな。智香のヤツ、素でこんな手紙を、しかも天然で書けるとか…ひょっとしたら都のパブとかで働くのも合うんじゃないのか」  その、竜三郎のふと漏らした言葉を、那由は聞き逃さなかった。 「都の…パブ?」 「え? あ、いや。聞き間違いじゃないのか?」  慌てて取り繕う竜三郎に、那由は怒った顔で詰め寄る 「あなた!! 私に隠れてそんなトコに行っていたっていうの!!」 「いや違う! 仕事の話をする時に依頼者からたまたまだな…!!」  問答無用! と、妻からフライパンで思いっきり叩かれながら、竜三郎は思った。 (ああ。これも智香の性格のせいなのだろうか…)  ……もっとも、これは誤解と言うより、自業自得なのだが。 ■宝商の街セリス 酒場+宿屋 「かんぱーーい!!」  支援士の男達が、ビールにウォッカにブランデー。様々な酒を並べて飲み、そして笑っていた。  彼等は、今回の取り締まり強化期間によって出された依頼を受け、緊急的にセリスに招集した支援士達である。  それだけでなく、通常のセリスでの見張りで、現在非番になっている者たちも、興じて参加しているようである。  明日には強化期間が終了し、通常の見張り体制に戻るワケだが、支援士の彼等にとっては、まとまった収入の入ることとなる。  …酒の量を見ると、逆に赤字にならないだろうか? と心配になる気持ちもあるが。 「…」  その一角で、智香は1人で水を飲みながらサンドイッチを食べていた。  どうにもこういった馬鹿騒ぎをする事に乗れず、かといって自分だけ参加しないというのも…という、典型的な十六夜の人間の考え方になっていた。  遠くから飲み比べなどをしている男達を眺め、智香は小さな口でサンドイッチをかぷりとかじっていた。 「やあ、キミはおひとりなのかな?」  すると、1人の女性が智香に声を掛けてきた。  身のこなしは軽装で、素早さを生かした戦いをする自分と同じブレイブマスターの人だとわかる。  顔を上げれば、この哨戒期間。ともに仕事をしていた女性支援士。 「ジュリア殿!」  ぱぁ。と智香が顔を明るくして迎えるは、ジュリア・アマティであった。 「なんだか1人でつまらなそうな顔をしていたからね。一緒に盛り上がれば良いのに。どうしたの?」 「い、いえ…私はああいった雰囲気が苦手でして」 「うーん…じゃあ、ボクとお話でもしようか!」  ジュリアは、「だったら先に寝てしまえば良いのに」。と思ったが、そこまで責めるのも可哀想であったし、  機転を利かせ、話をしようと言った。 「話…ですか?」 「うん! この期間、時々キミとグループになった事もあったけど、キミはブレイブマスターで『斬』の動きが得意なんだね!」 「は、はい! もともと幼少から父に教えられたのは『斬』を中心とした動きでした…そして、竜泉道場でさらに剣術に磨きをかけさせていただきました」  智香の言うとおり、天宮竜三郎は片刃剣の性能を強く生かした『斬』の型に強みを持っており、智香自身、ブレイザーレベルの『急所狙い』程度であれば使うことが出来るが、死点突に関しては全く使うことが出来ないのである。  突の型が全く出来ない代わり、智香が述べる『竜泉改天宮流』の型では、特に『斬撃』に当たる多段斬り、襲破斬、三影双斬技などの技は錬度が高い。 「ジュリア殿は、『突』を基本にした型のようですね」 「アハハ。まあね、ボクの武器『コリシュマイド』が突に特化した剣だから、そういう動きになっちゃうカナ」  一方で、ジュリアは多段『斬り』ではなく、多段『突き』を使えたり、死点突やコークスクリュー、エアロ・スティングなど、十六夜の剣闘士が使う剣技とはまた違うオリジナルの技で、『突』の錬度を高めたブレイブマスターであった。  同じブレイブマスターでも、ここまで戦闘スタイルの変わる辺り、話に花を咲かせた要因であった。  ……もっとも、女性二人が揃って話をしているのだから、もっと女の子らしい話にすればいいのに。とも思えるが。 「それにしても、天宮流かぁ…天宮? あれ、どこかで聞いた事あるような・・・」 「?」  ジュリアの言葉に、智香は小首をかしげて頭の上に「?」マークを浮かべる。  そして、ジュリアは自分の言葉に、ハッとなって思い出した。 「天宮・・・天宮!? 支援士ランクの最大ランクのSを超えて、MS(マイスター)ランク支援士になった、天宮竜三郎のお話!!」 「え? 父をご存知なのですか!?」 「公認されたマイスターランク支援士は知られてる限りではたった3人っていうお話だよ!雲の上の話だよ! うわーー!智香凄いなぁ!!」 「はい! 私も、父のように強くて立派なブレイブマスターになりたいと思っています!!」  ジュリアははしゃいで興奮し、智香の手を取る。  智香は何のことかわからず目を白黒させたが、父が褒められて、目の前の女性が喜んでいるという状況だけは理解し、  それを嬉しく思った。  しかし、ジュリアは思うところがあった。天宮竜三郎。今では支援士を辞め、家族の為に十六夜に残り、十六夜の警備隊として勤め、『聖剣の天宮』と呼ばれているが、  当時支援士の頃の天宮竜三郎は、主に扱う依頼は魔物の討伐、戦闘。殲滅など、修羅の道を歩んでおり、己の剣の切れ味、技、強さを追求するその姿から、『魔剣の天宮』という通り名で畏れられていた。  父のように強くて立派なブレイブマスターになりたいというが、そんな『魔剣の』竜三郎の姿にはならないだろうか? 「…ねえ、智香」 「はい。なんでしょうか?」  少し落ち着いたジュリアは座りなおし、智香の性格を考えれば大丈夫であろうが、一応先輩として伝えておこうと思った。  一方で、智香は慌しそうに酒に食べ物を運んでいたウェイトレスから飲み物を貰い、それを口に含み飲んだ。 「聖剣のお父さんなら大丈夫だよね。智香が、修羅の道に行っちゃ嫌だからね? 」  その言葉に、智香の様子は、どうも押し黙ったまま、飲み物を飲んでいるようだった。 「強さを追い求めて敵や、魔物を倒すなら良いけど…人まで殺しちゃったら、戻れなくなっちゃうから、智香は智香らしく強くなっていけばいいんだからね!」  優しく諭すようにジュリアは言った…のだが、顔を上げた智香は、何故かえぐえぐと涙を流して泣いており、 &size(30){「そのようなイヤラシイ事はしたくないですうううーーーー!!!」}  ふわーーん!!! と泣きながら、宿の自分の部屋に駆けて行ってしまった。 「え!? ちょ、と!? どうしたのいきなり!?」  あまりの大声に、ジュリアはもちろんのこと、盛り上がっていた男達も何事かと、ジュリアたちのほうを見た。  そして、ジュリアは気付いた。 「これ…お酒じゃない!!?」  匂いがして、智香の飲んでいた飲み物に鼻を近づけると、透明度こそ高いが、アルコール度数が結構高めのお酒で、見た目だけでは水と酒の違いが判らなかった。  おそらく、慌てていたウェイトレスがお冷の水と間違えて出したのだろう。  ということは、先ほど泣いて走っていったのは酒に酔って泣き上戸になってしまっていたのではないだろうかと思った。 「おい・・・さっきのアレなんだったんだ?」 「あのボーイッシュな支援士の姉ちゃん、マトモそうな人だと思ったのに、まさか同性愛主義で無理やりが好きなのか?」 「え? えっ? えええ!?!」  しかし、向こうで騒いでいた男達にとって酒を飲んで。とかいう事情は知る由もなく、  言葉通りの「イヤラシイ事はしたくないです!!」という叫びどおりの意味に捉えてしまっていた。 「しかも泣いていたぞ…」 「確かに十六夜美人という感じだったけど…あんな年端も行かない少女に手を出すなんて…」  そんなヒソヒソ声が聞こえる傍らで、ジュリアは悲痛な声で叫んだ 「誤解!! 誤解だよ!! 誤解だってばあああああああああああ!!!!」 ■某所 「皆様に集まっていただいたのは他でもございませんわ」 「急にどうしたんやレイチェル」  一室に6人の少女が集い、円卓に座り神妙な面持ちをしている。  中でも、一際どんよりとした空気と共に口を開いたのは、ココに居る全員の招集をかけたレイチェル・カッパーフィールドという少女であった。  そのレイチェルの言葉を急かすように、相変わらずの独特の口調でエレニ・テオドラキスは言った。 「言いたいことは他でもございませんの…ジュリアお姉様の寵愛を受けた女子が現れたという事ですわ」 「なんやて!?」 「ほ、ほんとう・・・ですか?」 「う、うそでしょう!?」 「誰!? 誰なのよその相手って! まさかソフィア!?」 「違うわよ!! ワタシだって身に覚えないわよ!!」  そのレイチェルの言葉を起爆剤として皮切りに、ロザリー・ランベール、エレニ、ヴェロニカ・ビリアッツィ、フェリシア・アレハンドロ、ソフィア・ベルトーネ  全員が戦慄をして声を上げた。 「おだまりなさいな!! ここに居る皆様ではございませんわ!! ジュリアお姉様の寵愛を受けたのは…十六夜の『天宮智香』という少女だそうですわ」 「は、ハハ…冗談キツイでホンマ…」  ひくひくと顔を引きつらせるエレニに続いて、ロザリーは小さな声で 「き、きっとその智香さんという方から、ジュリアお姉様にコンタクトを取ったのですよね? き、きっとそうですよ」  と、まるで自分に言い聞かせ、自己暗示をするように「そうに違いない」と繰り返していた。  しかし、レイチェルは小さく首を振った後に、両手を顔に押し当て、 「そうであればどんなに良かったか!! 話によれば、お姉様が智香さんに手を上げて、智香さんが「そんなイヤラシイ事はしたくないです!」と泣かれたという話ですのよ!!!」 「うそでしょ! ジュリアちゃんがそんな事するはずないわ!!」  フェリシアが信じたくないと首をふるふるとかぶり振る横で、ソフィアは全員に向かい告げた。 「これは今度、ジュリアがこちらに来た時、十分に納得できる答えを聞かせてもらうしかなさそうよね…!!」  その言葉に、一同は頷きあい、この集会は幕を下ろした。  一方で、大陸北部に居るジュリアはまだ知らない。 「うぅ…なんだか寒気と嫌な予感が……」  南部に渡った時、恐ろしいまでの質問攻めと、誤解を解くための苦労がその身に降りかかるという事を。  天宮智香。その『誤解を招きつつ、当人が当事者とならない』能力は大陸を越える力を秘めていたのだった あとがき  二人目の犠牲者は、ジュリアさんになっていただきました!  本当は、ヴァイの兄、ヴァジル・リュークベルさんに犠牲になってもらって、リーナ先生の折檻を受けてもらおうと思いましたが、  話を纏めていく上で、ヴァジルの立ち居地をジュリアに置き換えて、一番最後のオチにジュリアの嫁同盟を持ってくると面白くなるんじゃね!?  と思い、実際に話を作っていくと思い浮かぶ思い浮かぶ(汗  と言う経緯を通り、ジュリアさんは空也さんが一身に受けた苦労を初見で受けてしまう事になるのでした  Jollyさんごめんね!!(ぁ  あと付録で、現在(※更新停止してるDCの物語が終わって、十六夜に帰った後)の智香のステータスが無かったので記しておこうと思います。 **天宮 智香(マガミヤ チカ)  名前:天宮 智香  性別:女  年齢:16歳  ジョブ:ブレイブマスター  能力:火・嵐  武器:片刃剣『天宮羽(テングウ)』(智香専用に作られた片刃剣。主に斬撃に対する威力と扱いやすさを追求している)  形見:- 所持能力  『斬』特化:『突』型の技が使えないが、『斬』の威力が高くなる。  能力『巻き込み』:対象に誤解を与えつつも、自分はその当事者にならない。というトンデモナイ能力  危なげ:ステータス減少のマイナススキル。ただし、それによりカリスマを大きく補佐し、仲間の能力を上昇させる。  急所狙い:急所を狙い攻撃をする  散空斬:空破を飛ばす  散空斬双剣:空破を二連で飛ばす  双葉:二連撃  双葉弐葬撃:二連撃後、空中での二連撃  三影双斬技:幻影を作るほどの速さで一点を三度斬る。  襲破斬:剣旋風で敵を巻き上げ、大上段から叩き斬る  止水:剣を鞘に仕舞い、抜刀の構えで止まる。動けば揺れる『気』の動きを読んで敵の技を絶対回避する  止水双斬技:止水で回避した後、左右から攻撃されたかのような錯覚を与えるほどの速さで挟み込み斬り付ける。  翔天脚天駆:斬り抜き、斬り返す際に蹴りから空中へと繋ぐ演舞コンボ。覚醒時のみ使用可  天翔空牙:剣の抜き身と共に斬撃と共に自らも跳ね、敵を上空に放り出す技。  八陣天翔:対空専用:空中に居る敵にその速さからなる斬撃で包囲し、八陣より斬りかかる  多段斬り:目に見えぬ速さの連続攻撃。現在の智香の多段回数は『六』。つまり、六段斬りとなる。  縮地法:短距離を目視不可の速度で移動する。しかし、だいたいの確率で転ぶ。そのまま池や川などに落ちる  奥義・縮地破凰連牙:縮地法から、フレアメンタルウエポンをした後、双葉を入れるコンボ。基本技の組み合わせだが、縮地の速度から斬撃の威力が上がり、存外馬鹿に出来ない  天然な箱入り娘。剣の腕だけで言うならC~B級支援士。  ゲイズとの戦いの際、ほたるより渡された片刃剣、天宮羽を抜いたことで覚悟を決め、ブレイブマスターになった。  今では竜泉道場で自らを鍛えつつ、支援士の仕事を行っている。  得意な仕事は、戦闘・護衛。  苦手な仕事は、雑務・雑用。とくに店番などやらせるのは自殺行為以外の何者でもない。  筋金入りのドジと世間知らずという点がキズ。  昔ほどでないにせよ、未だに危なっかしい印象は抜けず、それが「放ってはおけない」という心理を呼び起こすのだろうか  ところで、奥義の縮地破凰連牙では一連の流れを失敗無く出せるようになったというのに。  それの前段階。基本となる『縮地法』では、未だに転び、水のある所に落ちていくのは何故なのだろうか?
天宮智香とジュリアと犠牲者 ■十六夜・天宮家 『父上・母上へ  智香です。元気にしておりますでしょうか。  私はとても元気にやっております。今はリエステールに向かう途中、依頼を受けてセリスの町に着ております。  とても貴重な『宝石』というキラキラとしたものを守る仕事です。  この手紙を書く昨晩は、盗賊に不意を突かれ逝かされそうになってしまいました。今思い出しただけでも、恥ずかしいです。  このような事を書いては母上は心配をなさってしまうかもしれませんが、ご安心ください。  男の方たちに手を貸していただいて、気持ちよく終えることが出来ました。  依頼の哨戒期間はもう直ぐで終わります。智香もたくさんご奉仕したいと思っております。  追記で申し訳ないですが、十六夜に戻った際、父上には未熟な智香をご指導して頂きたいと思います。                          天宮智香』  この手紙を読んだ天宮智香の母、天宮那由は、肩を大きく震わせて叫んだ 「智香! ああ、智香!! あの子ったら何をしているというの!!」  手紙を放り投げ、泣き崩れる那由に対して、天宮智香の父、天宮竜三郎は手紙を拾い上げて  智香の書いた文面に目を通した。 「あー・・・なるほどなぁ。盗賊に不意を突かれて殺されそうになった未熟さが、思い出しただけで恥ずかしい。と  んで、数人で哨戒してたんだな。仲間の男性に助けられて気持ちよく『支援士の仕事』を終えることが出来たか。盗賊は無事に捕まえたってこったろ。  もうすぐ依頼された期間が終わるからその間、手伝いたいって事だな。おい那由、あの智香だぞ? その辺が妥当なトコだろーが」  竜三郎の言葉に、那由は顔を上げ、心配そうに夫の顔を見つめた。  …確かに、自分の娘の性格を考えればそうなるが、  さすが父なのか、娘の『誤解を招く』言葉に対して、十分に順応を見せていた。 「しっかしアレだな。智香のヤツ、素でこんな手紙を、しかも天然で書けるとか…ひょっとしたら都のパブとかで働くのも合うんじゃないのか」  その、竜三郎のふと漏らした言葉を、那由は聞き逃さなかった。 「都の…パブ?」 「え? あ、いや。聞き間違いじゃないのか?」  慌てて取り繕う竜三郎に、那由は怒った顔で詰め寄る 「あなた!! 私に隠れてそんなトコに行っていたっていうの!!」 「いや違う! 仕事の話をする時に依頼者からたまたまだな…!!」  問答無用! と、妻からフライパンで思いっきり叩かれながら、竜三郎は思った。 (ああ。これも智香の性格のせいなのだろうか…)  ……もっとも、これは誤解と言うより、自業自得なのだが。 ■宝商の街セリス 酒場+宿屋 「かんぱーーい!!」  支援士の男達が、ビールにウォッカにブランデー。様々な酒を並べて飲み、そして笑っていた。  彼等は、今回の取り締まり強化期間によって出された依頼を受け、緊急的にセリスに招集した支援士達である。  それだけでなく、通常のセリスでの見張りで、現在非番になっている者たちも、興じて参加しているようである。  明日には強化期間が終了し、通常の見張り体制に戻るワケだが、支援士の彼等にとっては、まとまった収入の入ることとなる。  …酒の量を見ると、逆に赤字にならないだろうか? と心配になる気持ちもあるが。 「…」  その一角で、智香は1人で水を飲みながらサンドイッチを食べていた。  どうにもこういった馬鹿騒ぎをする事に乗れず、かといって自分だけ参加しないというのも…という、典型的な十六夜の人間の考え方になっていた。  遠くから飲み比べなどをしている男達を眺め、智香は小さな口でサンドイッチをかぷりとかじっていた。 「やあ、キミはおひとりなのかな?」  すると、1人の女性が智香に声を掛けてきた。  身のこなしは軽装で、素早さを生かした戦いをする自分と同じブレイブマスターの人だとわかる。  顔を上げれば、この哨戒期間。ともに仕事をしていた女性支援士。 「ジュリア殿!」  ぱぁ。と智香が顔を明るくして迎えるは、ジュリア・アマティであった。 「なんだか1人でつまらなそうな顔をしていたからね。一緒に盛り上がれば良いのに。どうしたの?」 「い、いえ…私はああいった雰囲気が苦手でして」 「うーん…じゃあ、ボクとお話でもしようか!」  ジュリアは、「だったら先に寝てしまえば良いのに」。と思ったが、そこまで責めるのも可哀想であったし、  機転を利かせ、話をしようと言った。 「話…ですか?」 「うん! この期間、時々キミとグループになった事もあったけど、キミはブレイブマスターで『斬』の動きが得意なんだね!」 「は、はい! もともと幼少から父に教えられたのは『斬』を中心とした動きでした…そして、竜泉道場でさらに剣術に磨きをかけさせていただきました」  智香の言うとおり、天宮竜三郎は片刃剣の性能を強く生かした『斬』の型に強みを持っており、智香自身、ブレイザーレベルの『急所狙い』程度であれば使うことが出来るが、死点突に関しては全く使うことが出来ないのである。  突の型が全く出来ない代わり、智香が述べる『竜泉改天宮流』の型では、特に『斬撃』に当たる多段斬り、襲破斬、三影双斬技などの技は錬度が高い。 「ジュリア殿は、『突』を基本にした型のようですね」 「アハハ。まあね、ボクの武器『コリシュマイド』が突に特化した剣だから、そういう動きになっちゃうカナ」  一方で、ジュリアは多段『斬り』ではなく、多段『突き』を使えたり、死点突やコークスクリュー、エアロ・スティングなど、十六夜の剣闘士が使う剣技とはまた違うオリジナルの技で、『突』の錬度を高めたブレイブマスターであった。  同じブレイブマスターでも、ここまで戦闘スタイルの変わる辺り、話に花を咲かせた要因であった。  ……もっとも、女性二人が揃って話をしているのだから、もっと女の子らしい話にすればいいのに。とも思えるが。 「それにしても、天宮流かぁ…天宮? あれ、どこかで聞いた事あるような・・・」 「?」  ジュリアの言葉に、智香は小首をかしげて頭の上に「?」マークを浮かべる。  そして、ジュリアは自分の言葉に、ハッとなって思い出した。 「天宮・・・天宮!? 支援士ランクの最大ランクのSを超えて、MS(マイスター)ランク支援士になった、天宮竜三郎のお話!!」 「え? 父をご存知なのですか!?」 「公認されたマイスターランク支援士は知られてる限りではたった3人っていうお話だよ!雲の上の話だよ! うわーー!智香凄いなぁ!!」 「はい! 私も、父のように強くて立派なブレイブマスターになりたいと思っています!!」  ジュリアははしゃいで興奮し、智香の手を取る。  智香は何のことかわからず目を白黒させたが、父が褒められて、目の前の女性が喜んでいるという状況だけは理解し、  それを嬉しく思った。  しかし、ジュリアは思うところがあった。天宮竜三郎。今では支援士を辞め、家族の為に十六夜に残り、十六夜の警備隊として勤め、『聖剣の天宮』と呼ばれているが、  当時支援士の頃の天宮竜三郎は、主に扱う依頼は魔物の討伐、戦闘。殲滅など、修羅の道を歩んでおり、己の剣の切れ味、技、強さを追求するその姿から、『魔剣の天宮』という通り名で畏れられていた。  父のように強くて立派なブレイブマスターになりたいというが、そんな『魔剣の』竜三郎の姿にはならないだろうか? 「…ねえ、智香」 「はい。なんでしょうか?」  少し落ち着いたジュリアは座りなおし、智香の性格を考えれば大丈夫であろうが、一応先輩として伝えておこうと思った。  一方で、智香は慌しそうに酒に食べ物を運んでいたウェイトレスから飲み物を貰い、それを口に含み飲んだ。 「聖剣のお父さんなら大丈夫だよね。智香が、修羅の道に行っちゃ嫌だからね? 」  その言葉に、智香の様子は、どうも押し黙ったまま、飲み物を飲んでいるようだった。 「強さを追い求めて敵や、魔物を倒すなら良いけど…人まで殺しちゃったら、戻れなくなっちゃうから、智香は智香らしく強くなっていけばいいんだからね!」  優しく諭すようにジュリアは言った…のだが、顔を上げた智香は、何故かえぐえぐと涙を流して泣いており、 &size(30){「そのようなイヤラシイ事はしたくないですうううーーーー!!!」}  ふわーーん!!! と泣きながら、宿の自分の部屋に駆けて行ってしまった。 「え!? ちょ、と!? どうしたのいきなり!?」  あまりの大声に、ジュリアはもちろんのこと、盛り上がっていた男達も何事かと、ジュリアたちのほうを見た。  そして、ジュリアは気付いた。 「これ…お酒じゃない!!?」  匂いがして、智香の飲んでいた飲み物に鼻を近づけると、透明度こそ高いが、アルコール度数が結構高めのお酒で、見た目だけでは水と酒の違いが判らなかった。  おそらく、慌てていたウェイトレスがお冷の水と間違えて出したのだろう。  ということは、先ほど泣いて走っていったのは酒に酔って泣き上戸になってしまっていたのではないだろうかと思った。 「おい・・・さっきのアレなんだったんだ?」 「あのボーイッシュな支援士の姉ちゃん、マトモそうな人だと思ったのに、まさか同性愛主義で無理やりが好きなのか?」 「え? えっ? えええ!?!」  しかし、向こうで騒いでいた男達にとって酒を飲んで。とかいう事情は知る由もなく、  言葉通りの「イヤラシイ事はしたくないです!!」という叫びどおりの意味に捉えてしまっていた。 「しかも泣いていたぞ…」 「確かに十六夜美人という感じだったけど…あんな年端も行かない少女に手を出すなんて…」  そんなヒソヒソ声が聞こえる傍らで、ジュリアは悲痛な声で叫んだ 「誤解!! 誤解だよ!! 誤解だってばあああああああああああ!!!!」 ■某所 「皆様に集まっていただいたのは他でもございませんわ」 「急にどうしたんやレイチェル」  一室に6人の少女が集い、円卓に座り神妙な面持ちをしている。  中でも、一際どんよりとした空気と共に口を開いたのは、ココに居る全員の招集をかけたレイチェル・カッパーフィールドという少女であった。  そのレイチェルの言葉を急かすように、相変わらずの独特の口調でエレニ・テオドラキスは言った。 「言いたいことは他でもございませんの…ジュリアお姉様の寵愛を受けた女子が現れたという事ですわ」 「なんやて!?」 「ほ、ほんとう・・・ですか?」 「う、うそでしょう!?」 「誰!? 誰なのよその相手って! まさかソフィア!?」 「違うわよ!! ワタシだって身に覚えないわよ!!」  そのレイチェルの言葉を起爆剤として皮切りに、ロザリー・ランベール、エレニ、ヴェロニカ・ビリアッツィ、フェリシア・アレハンドロ、ソフィア・ベルトーネ  全員が戦慄をして声を上げた。 「おだまりなさいな!! ここに居る皆様ではございませんわ!! ジュリアお姉様の寵愛を受けたのは…十六夜の『天宮智香』という少女だそうですわ」 「は、ハハ…冗談キツイでホンマ…」  ひくひくと顔を引きつらせるエレニに続いて、ロザリーは小さな声で 「き、きっとその智香さんという方から、ジュリアお姉様にコンタクトを取ったのですよね? き、きっとそうですよ」  と、まるで自分に言い聞かせ、自己暗示をするように「そうに違いない」と繰り返していた。  しかし、レイチェルは小さく首を振った後に、両手を顔に押し当て、 「そうであればどんなに良かったか!! 話によれば、お姉様が智香さんに手を上げて、智香さんが「そんなイヤラシイ事はしたくないです!」と泣かれたという話ですのよ!!!」 「うそでしょ! ジュリアちゃんがそんな事するはずないわ!!」  フェリシアが信じたくないと首をふるふるとかぶり振る横で、ソフィアは全員に向かい告げた。 「これは今度、ジュリアがこちらに来た時、十分に納得できる答えを聞かせてもらうしかなさそうよね…!!」  その言葉に、一同は頷きあい、この集会は幕を下ろした。  一方で、大陸北部に居るジュリアはまだ知らない。 「うぅ…なんだか寒気と嫌な予感が……」  南部に渡った時、恐ろしいまでの質問攻めと、誤解を解くための苦労がその身に降りかかるという事を。  天宮智香。その『誤解を招きつつ、当人が当事者とならない』能力は大陸を越える力を秘めていたのだった あとがき  二人目の犠牲者は、ジュリアさんになっていただきました!  本当は、ヴァイの兄、ヴァジル・リュークベルさんに犠牲になってもらって、リーナ先生の折檻を受けてもらおうと思いましたが、  話を纏めていく上で、ヴァジルの立ち居地をジュリアに置き換えて、一番最後のオチにジュリアの嫁同盟を持ってくると面白くなるんじゃね!?  と思い、実際に話を作っていくと思い浮かぶ思い浮かぶ(汗  と言う経緯を通り、ジュリアさんは空也さんが一身に受けた苦労を初見で受けてしまう事になるのでした  Jollyさんごめんね!!(ぁ  あと付録で、現在(※更新停止してるDCの物語が終わって、十六夜に帰った後)の智香のステータスが無かったので記しておこうと思います。 **天宮 智香(マガミヤ チカ)  名前:天宮 智香  性別:女  年齢:16歳  ジョブ:ブレイブマスター  能力:火・嵐  武器:片刃剣『天宮羽(テングウ)』(智香専用に作られた片刃剣。主に斬撃に対する威力と扱いやすさを追求している)  形見:- 所持能力  『斬』特化:『突』型の技が使えないが、『斬』の威力が高くなる。  能力『巻き込み』:対象に誤解を与えつつも、自分はその当事者にならない。というトンデモナイ能力  危なげ:ステータス減少のマイナススキル。ただし、それによりカリスマを大きく補佐し、仲間の能力を上昇させる。  急所狙い:急所を狙い攻撃をする  散空斬:空破を飛ばす  散空斬双剣:空破を二連で飛ばす  双葉:二連撃  双葉弐葬撃:二連撃後、空中での二連撃  三影双斬技:幻影を作るほどの速さで一点を三度斬る。  襲破斬:剣旋風で敵を巻き上げ、大上段から叩き斬る  止水:剣を鞘に仕舞い、抜刀の構えで止まる。動けば揺れる『気』の動きを読んで敵の技を絶対回避する  止水双斬技:止水で回避した後、左右から攻撃されたかのような錯覚を与えるほどの速さで挟み込み斬り付ける。  翔天脚天駆:斬り抜き、斬り返す際に蹴りから空中へと繋ぐ演舞コンボ。  天翔空牙:剣の抜き身と共に斬撃と共に自らも跳ね、敵を上空に放り出す技。  八陣天翔:対空専用:空中に居る敵にその速さからなる斬撃で包囲し、八陣より斬りかかる  多段斬り:目に見えぬ速さの連続攻撃。現在の智香の多段回数は『六』。つまり、六段斬りとなる。  縮地法:短距離を目視不可の速度で移動する。しかし、だいたいの確率で転ぶ。そのまま池や川などに落ちる  奥義・縮地破凰連牙:縮地法から、フレアメンタルウエポンをした後、双葉を入れるコンボ。基本技の組み合わせだが、縮地の速度から斬撃の威力が上がり、存外馬鹿に出来ない  天然な箱入り娘。剣の腕だけで言うならC~B級支援士。  ゲイズとの戦いの際、ほたるより渡された片刃剣、天宮羽を抜いたことで覚悟を決め、ブレイブマスターになった。  今では竜泉道場で自らを鍛えつつ、支援士の仕事を行っている。  得意な仕事は、戦闘・護衛。  苦手な仕事は、雑務・雑用。とくに店番などやらせるのは自殺行為以外の何者でもない。  筋金入りのドジと世間知らずという点がキズ。  昔ほどでないにせよ、未だに危なっかしい印象は抜けず、それが「放ってはおけない」という心理を呼び起こすのだろうか  ところで、奥義の縮地破凰連牙では一連の流れを失敗無く出せるようになったというのに。  それの前段階。基本となる『縮地法』では、未だに転び、水のある所に落ちていくのは何故なのだろうか?

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