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白いつばさの旅日記・13」(2013/03/13 (水) 00:23:58) の最新版変更点

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<p> </p> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">  クローディアと軽く打ち合わせてから一度別れ、ティラが一応ではあるが動けるようになると、ライト達は一度リエステールへと戻ってきていた。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">  とくに荷物があるわけでもないので今すぐ北へ、と行きたいところだが、そう簡単に事が進むわけではないのが現実である。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">  今回の件が教会の耳にまで届いたところで、ライトはリエステールの教会に呼び出された。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「お忙しい司祭サマが、俺みたいな泥臭い一般人になんの様だ?」</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「報告は聞いている」</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> ライトの皮肉には取り合わず、グレーゼン司祭は言った。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">  二人が相対しているのは教会内にあるグレーゼン司祭の執務室だ。立ったままのライトとは違い、執務室の豪華な椅子の背もたれに体を預けている。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">  老齢に差し掛かろうとしている髪には白いものが目立ち、相貌には皺が深く刻まれているが、老い衰えている印象はまったく受けない。熊のような体躯に加え、相貌に深く刻まれた皺が人を威圧するような異様な迫力を生み出していた。硬質な目付きも同様だ。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">  一般に司祭と聞いて連想できる容姿とはまるでかけ離れた大男を見ながら、こんな男がよくも司祭などという地位につけたものだとライトは内心で思う。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ティラ副司祭が危険に晒されたと聞いたが、どういうことか説明してもらおうか」</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">  有無を言わせぬ高圧的な科白に、ライトはへらへらと軽薄な笑みを浮かべながら答える。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 「説明も何も、支援士なんていう仕事柄なら危険があるのは当然だと思うが?残念ながら椅子でふんぞり返っていれば金が懐に入ってくる司祭サマと違ってあっちこっちかけずり回らなきゃいけないもんでな。つーか報告聞いてるんなら別に聞く必要ないだろ」</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そんなことを聞いているのではない」</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 不機嫌を隠さずにグレーゼンは鋭い双眼でライトを睨め付ける。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 「ティラ副司祭がどのような立場にいるのか貴様はわかっているのか?あの娘を危険から守るのが護衛騎士である貴様の役目だろう。わざわざ危険に晒すためにどこの馬の骨とも知らん貴様を彼女の護衛騎士にした訳ではないぞ」</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「うるせーよ、バーカ」</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 捲し立てる司祭に、ライトは軽薄な笑みを崩さずに言った。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 「別にあいつの護衛騎士にしてくださいなんて頼んだ覚えはねえよ。立場がどうのこうのとお前らがうるせぇから仕方なく頼まれてやっただけだ」</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 「……あまり調子に乗るなよ。私がその気になれば貴様の任を解いて、副司祭から引き離すことだってできるんだからな」</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> グレーゼンの脅し文句にライトは両手を広げる。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そんなことを勝手にしていいのか司祭サマ。あいつの機嫌を損ねることになるぜ」</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">  返された言葉にグレーゼンはフンと鼻でせせら笑いながら言った。椅子の背がギシリと鳴る。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 「確かにあの娘の不興を買うと少々面倒なことになるが、正当性はこちらにある。多少喚かれても特に支障はない」</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 「なるほどねぇ。教会内部は今日も相変わらずってことか。まぁ騎士なんて片っ苦しい肩書き降ろされてもあいつから離れる気は毛頭ないけどな」</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「減らず口を叩くのは勝手だが、いつか後悔することになっても知らんぞ」</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">  その科白には無言で肩を竦めて見せるのみで済まし、ライトは言葉の応酬に飽きたかのように欠伸をした。その無礼な振る舞いにグレーゼンの眉が僅かに釣り上がる。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 「―――それで?要件がそれだけならもう帰っていいか?枯れたジジイの愚痴に付き合ってやっても一銭の得にもならねーんだけど」</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「……待て」</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">  面倒くさそうに部屋を後にしようとしたライトの背を、司祭の威圧的な声が呼び止める。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">  呼び止められたライトは、露骨な溜息を司祭にも聞こえるような大きさでわざとらしく吐いてから、気だるそうに振り返った。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">  その一連の態度に今度こそ明確に眉を寄せて嫌悪の表情を浮かべながら、グレーゼンは再び口を開く。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 「この私が、貴様のような教養も碌に身につけていない下賤な屑と話すためだけに、わざわざ呼んだとでも思っているのか?本来なら貴様みたいな薄汚い者となど口も聞きたくないわ。……本題は別のことだ」</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 入れ、と司教が合図を送ると、部屋の扉の奥から一人の騎士が姿を現した。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">  二十代半ばぐらいだろうか。筋肉質とは言い難い痩躯からは、騎士というよりも教会の聖職者と言った方が合っているような雰囲気を漂わせていた。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 「貴様の今回の失態で、教会内で貴様の護衛騎士としての能力を疑問視する声が上がった。よってティラ副司祭にはこちらからもう一人護衛をつける」</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">  声に応じるようにその騎士が軽く会釈をするのを大した興味もなさそうに眺めてから、ライトはグレーゼンに向かってにやりと口端を釣り上げる。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そいつはまぁご苦労なことで」</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">  皮肉が多分に含まれた科白と共に人を小馬鹿にしたような笑みを見せる男に、今度はグレーゼンも口元を歪ませてみせる。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 「ふん、そのふざけた態度が何時まで続くのかが見物だな。……話は以上だ。私は貴様等のような野蛮人と違って忙しいのだよ。さっさと失せたまえ」</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ライト、遅いなぁ……」</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">  リエステール教会の入り口からほど近い場所に設置されたベンチに座りながらティラは退屈そうに呟く。隣に座る少女は昼間の陽気に誘われて、うとうとと船を漕いでいた。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">  教会の一階広間などは普通に一般にも開放されているし、ティラも一応は副司祭の肩書を持つれっきとした教会関係者である。別に入れない理由などはない。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">  しかし教会外では殆ど知られていないが、自分の特殊な立場のせいで教会上層部には顔が知れ渡っている。さらに副司祭の肩書もあって教会内で知らない者は殆どいないような状況だ。居心地の悪さは尋常ではないので出来れば教会の中には極力入りたくない。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> そんな理由で、ティラはこうして外で暇を潰していたのだった。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「……別に、私が望んだ事じゃないのにね」</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">  ぼそりとそんなことを洩らす。しかし独り言のつもりだったのだが聞こえてしまっていたらしく、隣で船を漕いでいた少女が「がおー?」と寝ぼけ眼でこちらを見上げながら首を傾げていた。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あ、ううん。なんでもないですよ?それにしてもライトは遅いねー」</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">  そう笑ってごまかしてながら教会の入り口へと視線を向ける。するとその先でよく見知った黒尽くめの姿が教会から出てくるのを目撃した。いてもたってもいられずに横にいる少女と一緒に走り寄る―――途中で、足を引っ掛けて盛大に顔面からすっ転んだ。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「へぶっ!?」</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">  顔が地面に激突するのと同時に結構大きな音が周りに響く。痛みに悶えていると、上から呆れた声が降ってきた。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「まったく、なにやってんだよお前は」</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">  そう言いながら手を差し伸べられて助け起こされる。うっかり包帯を巻いた右手を差し出してしまったのだが、ライトは包帯の巻かれていない手首をそっと握って助け起こしてくれた。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> そのさり気ない気遣いにはにかみながら、ティラは改めて前を向いた。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「えへへ、ライト、お帰りなさ―――」</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;">  しかし最後まで続くはずだった言葉は、ライトの後ろに立つ見知らぬ男を見た途端に口の中で萎んでしまった。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> こちらのその反応に気にした様子も無く、男がライトの前へ踏み出す。</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 「お初にお目にかかります。本日よりティラ副司祭様の護衛騎士として任じられましたロズワルド・エルシュートです」</div> <div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 名を名乗りながら、男は優雅に一礼して見せた。</div>

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