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―8―





この世で一番性質の悪いもの、と聞かれたら人間と答える。
理性を持つがゆえに欲望ももち、欲望を持つがゆえに秩序を乱す。
その秩序もまた人間が作ったものであり、世界そのものに定められた原初の秩序は忘れ去られていく。
……そして怨恨を残して死んでいった者は、理という秩序をも超え、生者へ仇なす存在へと変わる。



「はああ!!」
ディンの振るう太刀が、一体の鎧武者の首を刎ね飛ばす。
だが、生ける屍(リビングデッド)に近い存在らしい鎧武者は、何事もなかったかのようにその手に握っている古びた片刃剣を掲げ、斬りつけてきた。
「―全てを貫く槍となれ アイスニードル!!」
だが、刃がディンの身体に触れようとしたその瞬間、後方から打ち出された氷の槍が鎧武者の腹部を貫き、一瞬遅れて、撃ち抜かれたその鎧武者は、空気に溶けるようにして消滅していった。
「ディン、こいつらは魔法……いや、メンタル付加の攻撃は通用するみたいじゃ!」
その様子を確認したエミリアはそう呼びかけ、その言葉を受けたディンはエミリアに向けて一瞥すると、特に何か声をかけるわけでもなく別の鎧武者へと向かっていく。
「ディヴァイン・フレアブレイド!!」
そして放つのは、炎の力を宿した神の一閃。
威力自体は雪原というフィールドそのものに宿る『氷』の力におされ気味だが、物理的な勢いもプラスされ、その一撃で鎧武者の一体は消え去っていった。




「……これが……魔物との戦い……」
その渦中で、ディンの後衛に立つエミリアのさらに後ろで、呆然とした目でその戦闘を眺めるホタル。
武器を作る事はあっても、時折クウヤとその門下生の訓練を見る事はあれど、自身が直接戦場に赴いたことなど皆無に近い彼女には、実戦と言う世界はまさに異世界のような存在だったのかもしれない。
「……そういえば、太刀は合わないって言ってたな……」
それは十六夜を出るその前に、太刀を手にしたディンが素直に口にした一言。
彼が本来扱う剣は、地面に突き立て、影に隠れる事でそれ自体を盾とできそうなほど、『横』に広さをもつブロードソード型の両手剣。
その癖が出ているのか、それほど横の広さを持たない太刀にも関わらず、時折そういった構えを取る様子が見え隠れしている。
「…でもすごい、あれって相当重いはずなのにあれだけ振り回せるなんて……」
それには力に優れるパラディンナイトだから、という理由もあるかもしれないが、どちらかというと、力に技を加えることで、まるで軽々と振るうような形で戦うことができているのだろう。
―彼の戦い方は、守りの際には剣すらも盾とし、攻める際には力と技をもって敵を斬り伏せる……速さと技を要する普通の片刃剣では合わず、力と技をもって扱う太刀だからこそ上手く戦えている。
……ただ、それでも全体的に染み付いているらしいクセが、太刀を扱うには微妙な歪を作りだしているようだった。
「……そっか……剣……ううん、武器は使い手の戦い方に合ってこそ、使い手にとって最高の武器になるんだ……」
考えてみれば、それは当たり前のことだ。
力より早さに重きをおいたブレイブマスターは、超重量の戦斧を扱えない。
近接で戦闘するはずのパラディンナイトが、弓を持っても使いこなせない。
……人にはその人に合った武器のスタイルが存在する。
剣にしても、重さや間合い、柄の握り、そして形状……いくらでも、使い手のクセが影響する要素は考えられる。
……これは天乃の一族として目指すものとは違うかもしれない。
しかし、武器は使い手がいてこそ武器となり、使い手が自在に振るうことが出来てこそ、”最強”の武器に近付く事が出来る
「うん……少し、分かった」
それは父親の贋作、というクウヤに言われた言葉が、ホタルの中で意味を得た瞬間だった。
そしてその言葉と共に、彼が言い聞かせたかっただろうもう一つの意味も、確かに自分の中で理解する事もできた。

……………………

「しまっ……ホタル!」
「―!?」
……それは、意識が思考の海に潜りこんでいたまさにその瞬間だった。
ディンの叫ぶような声によって現実に引き戻され、同時に視界に映った光景。
それは、一体の鎧武者が高々と片刃剣を掲げ、自分に向けて振り下ろそうとしている瞬間だった。
今度こそ、エミリアの呪文も間に合わない。
―最後の最後でも……クウヤさんの言葉に気付けて、よかったのかな……?―
迷いが晴れたおかげだろうか、未練がないと言うことは出来ないが、死に落ちるかもしれないという絶望の中で、不思議と心は落ち着いている。




「――極意・空牙舞風閃!!」
……刹那、彼女らの元に吹き荒れる一陣の風が舞い降りた。

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