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―11―





「十六夜を出る前にはまた顔を出すのじゃ」
「―ま、オーロラが見れるまではいつくことになりそうだしな。 それまでは、たまに来てもいいか?」
ディンが天羽々斬を受け取り、数分談笑した後……4人はそろって工房の外へ出て、ディンとエミリアは宿へと、ホタルとクウヤはその見送りという形で、対面するように並んでいた。
「ええ、ぜひ来てください。 お茶くらいなら出しますので」
ホタルはにこりと笑って、目の前の二人に向けてそう口にする。
たったの数時間程度の冒険だったけれど、その中で得たものはなによりも大きいもの。
それだけに、彼女はまるで命を救って貰ったかのような大きな恩を二人に感じていた。
「……エミリアさん、次に会う時は、ホタルと呼んでください。 貴方たちとは、これからも仲良くしたいから」
「ん、そうか。 では、わたしの事もエミィでよいぞ? むしろそっちの方が呼ばれなれてるからのぉ」
「はい。 ……えっと、エミィ……さん……」
「……ま、今はそれでよしとするかの」
あはは、と苦笑気味な微笑みを浮かべ、ホタルのその様子を見つめるエミリア。
……たった一つとはいえホタルの方が年上であるという事実を、いまのこの二人の構図から感じ取る事ができる人は、いないかもしれない。
「エミィ、そろそろ行くぞ」
「うむ、そうじゃな。 ではホタル、クウヤ、また会おうぞ」
「はい、お元気で」
「また」
ディンに促され、軽く手を振りながら遠ざかって行くエミリア。
ホタルとクウヤは、その二人の姿が見えなくなるまで見送ると……互いに気を取り直すかのように一度深呼吸を行い、真剣な面持ちで向かい合う。
この先に何を言うべきか、そして何を言われるのか、それは互いにすでに理解していた。








……工房の中、いつかあったように二人は向き合い、その中でクウヤは一振りの片刃剣を手にし、ホタルはその様子を神妙な面持ちで見つめている。
その剣は、先程天羽々斬と共に仕上げた、クウヤのための剣。
先日否定されたものと比べられると、見てくれこそ近いものなのだが……
その刀身の輝きを見つめるクウヤの表情は、以前と同じように真剣なものでありつつも、どこか安心したような空気を交えた穏やかなもの。
しかし、ホタルはその様子を察しつつも表情を崩さず、ゆっくりと口を開く。
「名を継ぐことは、技を継ぐこと。 しかし技を継ぐ事は、先代を真似る事ではありません。 技を受け継ぎより高みに至ること……それが、私に課せられた役目です」
クウヤは黙って彼女の声に耳を傾け、ホタルはその意図を知ってか知らずか、ホタルは間を置かずにさらに言葉を紡いで行く。
「……先日、魔物との戦いを見て知ったこと……それは、使い手の数だけ武器の形があるということ。
剣だけを見ても、間合い、重さ、握り……それら全てを使い手の癖に合わせて打つ事ができるのならば、使い手にとって最高の剣となる」
「……なるほど、手にした瞬間に感じたものはそれか……」
ひとしきり頭の中の言葉を口にした時、クウヤが呟くような声でくちにしたその言葉が耳へと入り込む。
ホタルは”感じたもの”という言葉に、良い意味と悪い意味、両方の可能性を思い浮かべ、さらに表情をこわばったものへと変えていた。
「『これは私の剣だ』…… 柄を握ったその瞬間、そう思わされたのは始めてだ」
「……」
「実戦で、私の戦いを見たのは一度きりだろう。 だが、たとえ剣の形と、使い手関係に気付いていたとしてもそれだけでここまで私の形にあったものを打つことの出来る刀工はそうはいない」
「……ありがとうございます」
「私は、名に囚われない貴方だけの『天乃』の姿を見つけてほしかった。 その心配は、杞憂に終わったようだな」
そう口にしながら、クウヤは今までの表情を崩し、笑顔を見せる。
……先代にして父であるシエンとは違う、ホタル自身の形。 求めていたものは、ついに実を結んだ。
ホタルも、その変化につられるように微笑みかけたが、それを押さえ込むようにして真剣な表情を保ち、クウヤのその言葉への答えを口にしていた。
「クウヤさんの言葉がなければ、私はこの先も成長することはありませんでした。 ……感謝いたしております」
「気付く事が出来たのは、貴方自信の力だ。 私は何もしていない」
「ですが……っ!」
「……それより、この剣の銘は何とする? 今ならば『天之』と刻むことになんの不足もない」
どうあっても、クウヤに対する感謝の感情は収まりがつかないらしいホタルに、落ちついた調子で話を切り替えるクウヤ。
ホタルは一瞬呆けたように言葉を止めたが、その言葉の意図を察したのか、ほんの少し微笑むと、何かを決意したような表情で、口を開く。
それは、自らが求めるものに気がつき……そして、自身の未熟さを知ったその時から決めていたこと。
「銘は、刻みません。 いえ、刻めません」
今この場で銘を刻む事は簡単だが、果たして本当に自分はその域に達しているのだろうか。
答えは否。 そう考え至る事によって、その言葉を口にする事になんの躊躇いもなかった。
「『無銘』……と?」
「私は、今出発点に辿りついたばかりです。 私の形を、私が納得するその日まで……その剣に『天之』の銘は刻みません。
その剣は『竜泉』が……クウヤさんが生涯使い続ける剣です。 いずれ打ち直し、その時こそ我が銘を刻みましょう」

―静寂。

はっきりとそう答えた顔にあるものは、何事にも屈しない信念に満ちた瞳。
……そう言われては、自分から言える事など何もない。
少し残念そうなものを交えつつ、クウヤはただそう思うだけだった。
―十六夜の刀工は、その使い手たる武人と同様に、生涯をかけて剣の道へと挑む。
彼女が、竜泉の剣に『天乃蛍』の銘を刻む時はいつになるのか……それは、見守り続けてきたクウヤにも、彼女自身にも決して分からない。
それが辿りつけぬ境地であるのならば、生涯『無銘』のままであるという可能性もあるだろう。
だが……
「―承知した。 私はこの『無銘の剣』と共にその時を待つとしよう」
クウヤは剣を鞘に収め、改めて、その一刀を受け取る意思を見せる。
それは彼女への戒め。 ……そして、共に道を歩もうとする意思の現れ。
その行為に、ホタルはただ一言……こう答えた


「―――はい!」