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プロローグ




河川の町ミナル。
午後に差し掛かり、午前中降り続けていた雨も収まりを見せ、まばらになりはじめた雲の隙間から、太陽の光が降り注いでいた。
……そして、その光を背に受けるかのように立ってみれば、そこには天空に広大な橋をかけるかのようにそびえる虹の姿。
その光景に、だれもがふと立ち止まり、子ども達は楽しげにそらを見上げながら走り回っている。
そんな、いつもとは少し違う雨上がりの水の都……彼女達は、そんな町の片隅で、例に漏れず天空の架け橋を見上げていた。

「<ruby>雨雲<rt>スキュー</ruby>は<ruby>大地<rt>イェルズ</ruby>に恵みを降ろし、隠れし<ruby>太陽<rt>ソール</ruby>表れ出でて、生み出されしは天の架け橋……
<ruby>天地を繋ぐ橋<rt>ビフレスト</ruby>も、今ではただの見世物。 でもまぁ、それはそれで善哉善哉」
町の外れの一本の木の上で、そんな事を口にしながら虹を見上げる妖精が一人。
彼女は、太陽の光の中でなお、夜空に光る星々のようにキラキラと瞬く光の粒を纏っている。
スキュー・イェルズ・ソール・ビフレスト……これは彼女がもといた国に存在していた神話の上で使われていた言葉で、今では知識としてのみの言葉であるものの、彼女はこうして時折歌うようにしてその言葉達を口ずさんでいた
「諸行無常、有為転変。 ……どんな世界でも変わらないものはない、人の意識も同じこと」
「あれ、マーニ。 まだ月の時間じゃ無いけど、出歩いて大丈夫なの?」
そんな彼女に話しかけるのは、月のように淡く穏やかな光を纏った妖精、マーニ。
その顔はぱっと見表情が乏しいようにも見えるが、彼女なりの感情表現はあることはあるらしい。
「……確かに力は半分くらいしか使えないけど、飛び回るには問題ないよ」
それでも、彼女の事をよく知る者でもなければ、その違いを見分けるのは至難の技である。
相変わらずのその表情を目にし、星をまとう妖精―ヒミンは、軽く苦笑してしまった。
「それよりヒミン、星の巡りはどうなっているの?」
しかし、マーニはそんな彼女の様子も構わずに言葉を続ける。
ヒミンも特に言う事は無かったのか、黙ってその一言をうけて、まだ高々と太陽が昇っている空を眺め始める。
「――ふぅん、マーニのカンって、ホントに鋭いね。 ……乱と和の巡りが混同してる」
それでも、その空に確かに何かを見たのか、ヒミンは困ったようにそう口にしていた。
「……合縁奇縁、意味深長。 どちらに転ぶかまでは、わからないのね」
「星の巡りは運命を示す。 だけど、その下を歩む者次第で、いくらでも変わるものだからね」
「そうね。 ……それにしても、こんな昼間からよく星が見えるわね」
「まぁ……昼間は日の光に飲まれて、普通にしてたら見えないけれど、星はいつでも空の向こうで瞬いているからね
……っていうか、人にやらせといてそんな言い草は無いと思うんだけど……」
やれやれ、と溜息をついて、もう一度北の空に浮かぶ虹へと目を向ける。
もし虹のふもとというものがあるのなら、今目の前にある虹のふもとは、東は港町フローナ、西はオース海岩礁洞穴といったところだろう。

虹のふもとには、宝物が埋まっている。
誰が言い出したかわからないが、虹にはそんな伝説があると聞いた事がある。
……ただ、今回ばかりはそれはただの伝説ではなく、本当に何かがあるような気がしてならなかった。



「……ソールも呼んでおいた方がいいかもね。 ちょっと、大きな事が起こりそうだから」