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支援士という職業は、戦士として熟達してくるほど受ける依頼にも幅が出来、自由に選ぶ事が出来る。
一般的な考えはそんなところであるし、実際に強ければ高額な依頼も難なく受ける事が出来ることも事実。
ただ、ランク、と言う形で格分けされた依頼の中で、AランクやSランクともなれば、支援士側に受ける受けないの選択権はなく、よほど不当な依頼内容であるか、依頼者がブラックリストにでも乗っていない限りは、例え気が進まなくとも支援士はその依頼を受けなければならない。
……今のこの二人は、まさにそんな状況に置かれていた。


「ディン、エミィ。 これは、そこの男の依頼なの?」
一瞬驚愕の表情を見せたティールだったが、次の瞬間には冷静に状況を分析し、目の前のかつての仲間に向けて言葉を放つ。
相手が相手ならわざわざ問いただすようなことは無いのだが、ディンとエミリアの二人はティールにとって思い出深い存在で、自分からあのような相手に手を貸す人間にも思えない。
……そんな理由からの、質問だった。
「……うむ、『虹彩の魔鳥の捕獲』……いや、『奪還』の依頼と聞いてきたが」
「……『奪還』? 『強奪』の間違いじゃないの?」
エミリアの言葉を聞き、再び訝しげな表情を浮かべて二人への『依頼主』である男へと目を向ける。
男は特に動揺した様子もなく、黙って怪しい笑みを浮かべているだけだった。
「はぁ……私を強盗に仕立て上げて、取られたモノを取り返すって名目で依頼したわけだね」
自分が奪おうとしたモノをこっちが奪ったように振舞うとは、いかにも悪どい相手が考えそうな方法で……
ティールはまったく反省の色を見せないその様子を見て、溜息を漏らすと共に、思った事をそのまま口にしていた。
「誤解の無いように言うけど、拾ってきたタマゴを奪おうとしたのはそっちの方。 私は、そんな強盗みたいなことはしてないよ」
ただ真剣な表情で、目の前の二人に言葉を向けるティール。
だが、男はその言葉に怖じた様子などカケラも見せることなく、ティールに向けて呼びかける。
「ふん、人間誰しも自分に不利な事は否定するものだ。 貴様のその言葉を裏付けるものはあるのか?」
「私も、あなたに同じ言葉を返すよ。 ……しかしまぁ、厄介な事をしてくれたものだね」
先程男が発した言葉を聞く限りでは、彼は支援士側に拒否権のないAランクの依頼として、エミリアとディンにティールと戦うことを要請している。
A以上の依頼とは、多くの場合それ以降の支援士としての活動に影響が出てくるもので、放棄ともなれば内容に関わらず信用そのものを大きく損ないかねない。
友人に手をかけるか、今後の支援士として生活か――そんな二者択一。
恐らく、悪評を広めて今後の依頼を奪う程度の工作なら、目の前の男の力ならたやすいのだろう。
「……ディン、エミィ。 よく聞いて」
純粋な他人事ではないが、どちらを選ぶのか考えるのはディンとエミリア自身のもので、口出しできる事は何も無い。
それでも、ティールは一言かけておきたい言葉があった。
「ここで攻撃されても、私はあなた達を恨まない。 でも、あの子の『親』として……簡単に、やられはしないから」
手に握るハルバード『飛龍』を構え、鋭く貫くような目で二人の姿を見据える。
……その瞳が表すものは、完全なる敵意と、大きな悲哀。
決して刃を向けたくなかった相手へ、槍を向ける事の苦しみ。
その気持ちは、二人にとっても同じものを抱いているが……決意の強さは、彼女に敵うようには到底思えなかった。
「……おいオッサン、あんたが俺達を選んだ理由は分かった」
その姿を見て、ディンはひとつの結論に達する。
……それは、以前から僅かながら理解していたはずの事だったのだが……
「ほう?」
「ティールにとって戦いにくいだろう俺達を引っ張り出して、動揺を誘うつもりだったんだろう」
「……」
黙して語らず。
しかし、ディンは言葉を止めようとはしない。
「けど、それは筋違いだ。 アイツはその程度で揺らぐような相手じゃない」
普段は飄々とした様相を見せているが、おそらく彼女は自分で自分をどこまでも追い込むタイプの人間。
そして、あらゆる選択に対して深く葛藤しながらも、即座に優先すべき答えを選び出す精神の持ち主。
実際に自分達が彼女の事を見てきた時間はそれほど長くは無いが、この程度の選択をする覚悟は、『家族』を失ってなお生きていくという決断をした時から、常に背負い続けてきたのだろう。
――選ばなければ、また大切な何かを失ってしまうから。
「……ふん、それはどうかな? 目に見えた動揺は無くとも、揺らぎは確実に精神を蝕む」
そんな言葉をかけられたにもかかわらず、男は全く動じた様子もなく、むしろ嘲笑を浮かべてそう答えていた。
そして、ゆっくりとその右腕を持ち上げ……パチンッ! と弾き、同時に、周囲に陣取っていた男の配下がティールに向けて駆け出していく。
「―滾るは心――燃えるは魂――我が力、内なる灯火と共に――」
そんな中で聞こえてくるのは、耳にするのも懐かしい『魂の言葉』。
自身の中に内在する力を解放する、この世界において、彼女にだけ許された能力――

「――ブレイブハート!!」

その全身を渦巻くような青白い炎が包みこみ、黒真珠のような瞳が、藍晶石の輝きを映し出す。
同時に、向かい来る兵士達をなぎ倒すようにハルバードを振るい、そのまま一気にディンの足元まで詰め寄り、その刃を突き付けた。
「くっ……!?」
とっさに剣を盾にする事で受け止めるが、その勢いに僅かに弾き飛ばされそうになる。
「手を出さないならそれもよし。 ……でも、かかってくるなら本気で来て」
「ティール……」
「貴方達がどれだけ強くなったか、見てあげる」
最後に、にこっと笑みを浮かべて、背後から飛びかかってきた兵士に一撃加え、頭上の太めの木の枝を足場に、包囲網の端に跳び去っていく。







「……エミィ……」
「……私はお主の判断に従う」
「いいのか?」
「確かに、ティールに命を救われたのは私かも知れぬが……本当の意味で”救われた”のは、おぬしの方じゃろう?」
「――!?」
「ま、いずれにせよ私達の目的は”時間稼ぎ”じゃ。 ……あの状態のティールを、寄せ集めの兵士でどうにかできるとも思わぬし……簡単に終わられても、困るだけじゃしな」
「……」

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