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 「…おい、ありゃナンだ!? 船か?」
「あぁ。でもなぁ、あんな形の船、しかもあんなにたくさん!
俺ぁ長年漁師やってるが、今まで一度も見たことねぇぞ!?」
大陸北部の港町・ルナータ。
その東に開ける洋上に姿を見せたのは、黒い船体の大艦隊。
不気味な威圧感を漂わせる船の建造様式は、この世界で普及している
いずれのタイプのものにも符合しない。
〈ザワザワザワザワ…〉
いつの間にか野次馬連中でごった返しとなった岸壁に向かって、大艦隊から
上陸用の小舟が次々と送り出されてゆく。
…黒船から降り立つ異国の民とは、どのような人々なのだろうか?
「物共よ、小癪(こしゃく)な奴等を殲滅するのだ!」
『キシャァァーーーッッッ!!!』
なんと! 小舟から降りてきたのは、褐色の肌の異人に統率された
おぞましい魔物どもの軍勢ではないか!?
〈ドン! ヒューッ…… ドグワッ!!〉
異形の軍勢の上陸に合わせ、黒船からも艦砲射撃が開始された!
『ギャァァアァァ~~~~~ッッッ!!!!』
ほんの一時(いっとき:約2時間)前まで悠久の平和に包まれていたルナータは、
一転して阿鼻叫喚の地獄絵と化したのだった。

 「…!〈ピクッ〉」
「どうした、リスティ?」
「ヴァイさん。…たった今…、アルティア様からの啓示があったんです!
『ついに「大侵略」が始まりましたよ』
って。」
「…何だ? その『大侵略』ッて??」
「あの…、聖十字騎士団が魔物の軍勢と戦っていた時代、騎士団を統率しておられた
アルティア様が、ひとつの予言をなされたんです。
 『魔物の脅威がひとまず去り長い平和が続いた後
 風が時代の流れを変えて十余年を経た頃
 東の海を越えてふたたび魔物の軍勢が攻め寄せる
 七色の宝玉を手にした黒い人の王に率いられて』
と。」
「………。」
「本来なら、教会の偉い方々にしか伝えられていない予言なんですけど…」
「『例の事件』のせいで、お前もそれを『知ってしまった』ッてわけか…?」
「…はい。」
眼光鋭い青年剣士の問い掛けに、銀のロザリオを握りながらうなずく
聖職者の少女。
「…まったく、とんでもない時期に『喚び出されて』しまったな。」
「えっ!? どういうことですか?」
この世界と全く異質の服装をした少年の方に向き直り、彼の肩に右手を置く
青年剣士。
「いいか。これからこの世界の魔物やゲイズとやらの手下以外にも、
新たな敵がお前たちを襲うだろう。
…だが、どんなことがあってもその子の手を離すな。
…絶対に、護り抜くんだ。」
「…セイジ……。」
「テイルちゃん……。」
少年の左手は、彼よりもさらに幼い少女の右手を握り締めている。
…彼女の幼気(いたいけ)な瞳は、自らが召喚した異界の少年を見上げながら
かすかに潤んでいた。

 「…奇跡の力を授けられたビショップともあろうお方が、たかが知れたアルケミストの
浅知恵を借りに直参なされるとは、どういう了見なのでしょうか、ケルト神父?」
「…カ、カネモリさん……。」
「カネモリ! いくら何でもそりゃ言い過ぎだよぉ!」
「…と申したいところですが、
エルナさんに近しき方とあっては無下にお引き取りいただくわけにも参りませんね。
…ジュリアにも叱られてしまいましたことですし★」
「そうよ! 『大侵略』はこの世界全体の存亡に関わる一大事なんだから、
教会だの錬金術師だの小ッちゃなコトで対立なんてしてらんないわ。
…やっぱり、わたしとジュリアちゃんがいっしょに来て正解だったわねぇ…。」
ここはリエステール、道具屋通りに面した錬金術師の工房。
その一室で、錬金術師とふたりの聖職者、そして女剣士がひとつの卓を囲んでいる。
「『予言』によると、魔物の軍勢を率いているのは『人の王』らしいんですが、
人間が魔物を自在に操るなどということは可能なんですか、カネモリさん?」
「…この古文書をご覧下さい。」
「ナニこれ!? こんな古代文字なんて、ボク読めないよぉー!」
「大丈夫よ、わたしが読んであげるから。えっと……
『直径6インチのオパールに禁呪の法を10億ビット(魔法などの容量を示す単位)
注ぎ込んだものは「征魔の珠」となり、それを手にする者はいかなる魔物や悪魔
さえも意のままにできるであろう』
…だって。」
「そういうことですよ。
この世界には征魔の珠が作られた記録は残っていませんが、
海の向こうにあるかもしれない異国なら、あるいは…。」
「ところでケルトさん、今『黒船』との戦いはどーなってるのかな?」
「アルティア教会の精鋭ジャッジメント部隊や守備警団の数部隊、そして
Sランク・Aランク支援士をありったけ投入しているけど、戦況は一進一退だって
僕は伝え聞いてるよ。」
「…おそらく大軍をぶつけ合っている限り、勝ち目はないでしょう。
…しかし、この作戦なら……」

「…エミィ、フローナに戻るぞ」
白いジャケットアーマーを纏い、160cmはある大剣を背負ったパラディンナイトの青年は、マスターから手渡された分厚い帳簿をのあるページを眺め、血の気の引いた表情で、相棒であるマージナルの少女に呼びかけた。
「ディン、どうしたのじゃ?」
「いいから、マスター、この依頼説明してくれ」
青年―ディンは帳簿の中の1ページを開いたままカウンターの上に置き、その中にある一つの依頼を指差していた。

『大陸北部を攻撃中の黒船に潜入し 6インチ大のオパール球を探し出して破壊
 成功報酬ひとり当たり10万フィズ 詳細は依頼者まで』

マスターは、神妙な顔つきで知りうる限りの説明を始める
「ああ…書いてある通り、今は<ruby>北部の港<rt>ルナータ</ruby>が、海の向こうから来たって言う黒船に攻撃されている。
今は教会に自警団も総力戦、AとSランクの支援士も総動員らしいが……戦況は一進一退ってところらしいな」
「ふむ…なるほど。 ルナータが落ちれば今度はフローナ、というわけじゃな?」
「ああ、海へ出る拠点を潰されれば、こっちから向こうへ攻め入るのは困難だ。 だからこそ港を先に潰してるんだろう」
「……そういえば、お前達はフローナ出身だったな……」
ディンとエミリア、普段はあまり見せない、神妙な顔つきを見せる二人に、ただそれだけの言葉をかけるマスター。
故郷が潰される…それはつまり、家族や古い友人達の危険もはらんでいる。
「マスター、この依頼…Bランクの私達でも受けられるか?」
「エミィ……こんなの、受ける受けられないは関係ないだろ。 行くぞ!」




―港町フローナの港。
この町では、まだ黒船の存在を直接確認する事はできない。
だが、北部のルナータが潰されれば、次は自分達だろう、という恐怖は確実に民衆の心を蝕んでいた。
「まいりましたね………」
一匹のフロストファングと、小さな少女を連れた一人の<ruby>吟遊詩人<rt>バード</ruby>は、運行休止となった船着場の前で立ち尽くしていた。
―本来なら、連れの二人の里帰りで十六夜へ向かうため、もう船に乗っているはずだったのだが……
「………うん、大丈夫よ、ユキ。 まだ大陸には攻め込まれていない……十六夜は、貴方の故郷は、まだ大丈夫」
バード―シアの服にしがみつき、出ない声で必死に何かを訴えるユキ。
手話で話せることも忘れ、ただただ涙を流していた。
その様子を見つめるフロストファングの銀牙も、どこか悲しげな眼を見せている。
「……自警団はナイトを総動員、教会はジャッジメントもカーディアルトも、ビショップも引っ張り出して全面戦争状態……
それなのに貴方は、なぜここにいるの?」
「―……ティール…」
皮肉ぶった言い回しで現れたのは、黒衣を纏ったハルバード使いの少女……一部で<ruby>子龍<rt>パピードラゴン</ruby>と呼ばれる支援士のティールだった。
「……銀牙は、私達の仲間である以前に、一匹の魔物です……
……敵が持つとされる『制魔の宝珠』……魔物の意思と関係なく操る力……今は影響下になくとも、行けばこの子も囚われるでしょう
私は、この子を傷付けたくは無い……」
「そう……」
優しい笑みを浮かべながら、銀牙の顔を撫でるシア。
その微笑みには、最悪の未来を見据えた、深い悲しみが宿っているようだった。
「……だったら、貴方は大陸で二人を守っていて。 シアの『聖歌』の力なら、例え大陸まで『宝珠』の力が及ぼうとも、銀牙ひとりくらいなら、その影響から守れるかもしれない」
「……もしかして……行くつもりなのですか?」
「いろんな人と出会って、せっかく守りたいものも見えてきたのに……あんな船に、全部奪われるのは嫌だ」
「…ティール…」
「大丈夫。 残された人に課せられる苦しみは分かってる。
……貴方や、私が出会った人達が、私の無事を願っている限り……絶対に、生きて帰ってくるから」
「…………支援士達を送る船はあちらです。 …貴方に、アルティア様の御加護があらんことを」


 『大陸北部を攻撃中の黒船に潜入し 6インチ大のオパール球を探し出して破壊
 成功報酬ひとり当たり10万フィズ 詳細は依頼者まで』
「…わざわざリエステール(みなみ)からリックテール(こっち)に依頼投げてくるなんて
珍しいね。どうする、セオ?」
「イル…。黒船の奴等をどうにかしたいのは、俺だって同じ気持ちだ。
けれど…、魔物の軍勢かいくぐってあのバケモノじみた軍艦(フネ)に潜入ッて…なぁ。
…ルカ、お前はどう思う?」
「キュイィ……」
リックテールの酒場で、依頼帳簿を前に思案する支援士ふたりと幼竜一頭。
「セオさん、イルさん。請けましょうよ、この依頼!」
「そうだぜ、悩んでるなンてお前たちらしくないぞ!」
『…ライ、フェイ!?』
力強くその言葉を口にしたのは、赤い幼竜を従えた魔法使いの少年。
「…僕が前に『サラバンドの書』を探す依頼を出したとき、あなたたちは
『命を懸けて人の夢をかなえるのが支援士だ』
と仰ったではないですか。
『あの黒船を撃退したい』と、たくさんの人たちが願っているはずです。
今こそ命を懸けて、みんなの願いを…夢をかなえましょう!
…もちろん、僕も一緒に戦います。
みんなが力を合わせれば、きっと黒船だって追い払えますよ!!」
…………………………。
「そうだな。いっちょやッてやるかー!」
「…ふふっ、ライももう立派な支援士だね♪」

 〈コンコン!〉
「…カテリーナか? 入れ。」
「エルンストさ…いえ、伯爵様! 失礼します。」
リックテールの酒場から遠く離れた貴族たちの居住区。
それら邸宅のひとつ。その一室にひとりのメイドが入ってゆく。
豪華な造りの椅子に腰掛けて彼女を呼んだのは、まだ二十歳(はたち)にも満たない青年。
端正な顔立ちではあるが、彼の青い瞳はどこか虚ろで、目前のどこにも
注意が向けられていない。
「…カテリーナ。お前を呼んだのは他でもない。
僕を『例の黒船』まで連れて行ってほしいのだ。」
「伯爵様! カークリノラースの討伐はどうなされるのですか!?
…伯爵様の父上様・母上様・姉上様のお命を無残に奪い、その上
伯爵様のお目まで見えなくしてしまった忌々しき魔物を打ち倒し、
今は亡きご家族の敵を取るための旅は…」
「目的を履き違えるな。
…僕は私怨のために戦うのではない。
目の光を失ったこの身でも、立派に『貴族の義務(ノブレス・オブリージュ)』を
果たせることを示すために戦うのだ。
…その相手は、別にカークリノラースでなくとも良い。
今差し迫っている黒船の脅威を払えば、その目的はじゅうぶん果たせるのだ。」
「…エルンスト様……。」
「…カテリーナ。何度も尋ねるが、お前は自分の身を自分で守れるのだな?」
「はいっ、もちろん大丈夫ですよ!」
主君よりも5歳ほど年上の彼女はロング・スカートの裾を少しばかりたくし上げ、
両足のふくらはぎに固定された二振りのショート・ソードを確かめる。
…その姿が、彼の目には映っていないことに気付いているのかいないのか?
「…よし。それではまず、支援士の集う酒場に行こう。
詳しい話は、そこで聞けるということだからな。」
貴族の青年は、メイドにその手を引かれて椅子から立ち上がった。

 「…大王様、あともう少しでございますな。」
「うむ。もう少し兵を進めれば、この大陸の魔物も我が力となる。
…そのとき、我の望み『世界制覇』はまたひとつコマを進めるのだ!」
黒船艦隊の中、ひときわ巨大で多くの武装を備えた旗艦(フラッグ・シップ)。
その甲板の上で、褐色の肌の青年が白髪の臣下を跪(ひざまず)かせて
異形の軍勢の進撃ぶりを見守っている。
…彼の右手の上で、掌よりも大きなオパールの宝玉が妖しい七色の光を放っていた。