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「……セオ……いやリム、とりあえずややこしいから、せめて初対面の相手には名前の訂正はするようにして欲しいのじゃ」
幽霊船の内部の案内を終え、全員揃って船の甲板へと集まるエミリア達。
最初にイルから”セオ”という名前を受け、数十分前に毎度の事らしい”カイン”という船長の呼び間違いを受け流し、その本来の『カイン』から彼の本名は”リム”であると聞かされた一同は、とりあえずここから先なんと呼んでおこうか、という議題の元に話こんでいた。
そのメンバーはその当人であるセオとイル、”レアハンターズ”ことエミリア、ディン、”黒の錬金術師”のカネモリとその仲間のジュリア、エンリケ……そしてレオン、クリス、アルトの三人と、女性のパラディンナイトと彼女が率いる数名のレンジャーナイト部隊。
……総勢15名前後という、普段少人数のチームで行動している彼らにとっては、めずらしいほどの大人数の集会となっていた。
「呼びやすいように呼んでくれるのが一番気楽なんだが……」
「それは有り難い申し出かもしれませんが、各自で呼び方が違えば混乱を招きかねませんから……」
彼は船長の呼び違いに慣れていたためか、訂正をあきらめる事も多くなった、とも言っていた。
一同には船長と彼がどの程度の期間の関係なのかまでは分からないものの、そこまで諦めがつくほどの帰還そう言われてきたのなら、習慣づいても仕方ないだろう、という結論に達していた。
しかし、今はそういう問題の議論では無い。
「私はずっとセオって呼んでたから、そのままの方が呼びやすいけど……」
「それだったら、俺もだな。 最初にそう聞いたもんだから」
「同意見です」
「……私も同じだけど」
「右に同じ」
と、イルの一言に続くかのように、レオン、クリス、アルト……そしてエミリアと、次々と『セオ』に票が放り込まれる。
この時点で、それまで面識そのものはあまりなかったカネモリ一行と女性パラディンナイトの一行はあまり口を挟む余地も無く、その様子を眺めていたディンが、”じゃ、『セオ』で決まりでいいのか?”と口を挟むと、満場一致で決まったようだった。
……が、
「でも、名前と言うのは個を定義するための最大にして最高の『言霊』。 私達ネクロマンサが呼び出す書物の悪魔も、その悪魔の『<ruby>真名<rt>まな</ruby>』を知る事で始めて召喚が可能になるのに……」
アルト自身は悪魔召喚を習得してはいないが、個を定義するという真名が意味する重要さは、考え方の一つとして根付いているようだった。
「……そういわれても、かなり今更なんだけどな……」
……しかし、本人はどうやら船長の呼び違えとイルの名づけにより、自分の名前に対する感心が多少薄まっている様子だった。
「個の定義、か……我々マージナルが求める『理』の命題の一つに『個と全の定義』があるが……」
「それは、私達アルケミストにも同様の命題です。 『全』無くして『一』はあらず、また『一』無くして『全』はない」
「まぁここで我々の考え方を披露しても仕方が無いし、そっちの理屈は今は関係ないじゃろう。
……『セオ』という名と『リム』という名。 その両方が、今のお主という存在を定義する言葉に他なるまい」
「……難しい事言ってるけど、要するにどっちの名前で呼ぼうとセオはセオに変わりないって事だな?」
「ま、まぁそういうことじゃが……ディン、もう少し空気を呼んではくれぬか? せっかくかっこいいところを……」
狙ってる時点であんまりかっこよく無い気がするが……エミリアのセリフを耳にしてディンはそう思ったが、それ以上つっこむとまたどつかれかねないと思い、その一言は心の奥底に封印して置く事に決めた。 
「じゃあ今まで通り『セオ』でよろしく頼む」
「うん、よろしく、セオ」
どんな話でも収まるところに収まるものらしい。
結局いつも通りの調子に戻ったセオとイルの様子を見て、周囲もやれやれとばかりに一息つけた。
「……あ、名前と言えば、お主の名前まだ聞いておらぬな?」
と同時に、エミリアが女性パラディンナイトに向かって、思い出したかのようにそう一言。
これまでゴタゴタと色々なことが押し寄せるように起こっていたために、互いに名乗る暇すらなかったようだった。
ブラック・シップへの侵攻までおよそ一時間。
後のためにも、呼び名くらいははっきりさせて置くべきだろう。
「はい。 私はクローディア・プレスコット……プレスコット騎士隊の統率を任されています」
「プレスコット? ……って、確か南部の貴族の名前じゃない?」
「ええ、恥ずかしながら……私の名が家名の汚点とならないよう、日々研鑽を積ませていただいてますわ」
その二つ名に違わぬ白い肌にすこし赤みが差しこみつつも、クローディアはそう答える。
戦場に舞う白き姫。 戦いの中でも淑女の気品を失わない彼女は、時に『白麗の戦姫』と呼ばれる。
―二つ名も『言霊』のうちじゃがな―
二つ名とは、その者の姿を如実に現した名である事が多い。
そしてそう呼ばれた者は、それに従うかのように、その名に相応しき姿に成長するという。
一種の強迫観念、と言えばそれまでだが、名前と言うものの影響はやはり大きいのかもしれない。
エミリアはそう思い、『セオ』のことについても少しだけ頭で整理をしなおした。
……が、セオと言う本名とは違う名前が与える影響は、彼の場合それほど大きく無いように感じるのも確か。
やはり本人がそれでいいと言う以上、あまり深入りしないほうがいいだろう。
結論はやはりそこへ行き着くようだった。




「……あれ、船長が出てきたよ?」
と、そんなこんなで一同がのんびりと休息時間を満喫していると、幽霊船からリューグナー船長と、先ほどまでその名前が話に上げられていたカイン・テオドール本人が現れた。
「何か用ですか?」
「ああレオン殿。 これからの予定を教えていただけるかな。 できればこっちがどう動けばいいかも教えてくれればありがたいのだが」
「そうだな……そっちの船は直接戦闘に参加はできないから、怪我人の確保をしてくれるんだったな?」
「そうですな」
「だったら、海上を走り回ってそうしてくれ。 ただ敵艦に近付き過ぎるとそっちまで攻撃が行きかねないから、位置取りは注意してくれよ」
「わかった。 ではそのようにしよう」
船長とテオドール氏は、それだけ確認すると幽霊船の中へと戻って行った。
……船長の顔が、終始なにかに脅えているような調子だったのは気のせいにしておいたほうがいいのだろうか。
「……さて、と……周りに味方の船も集まってきたようだし……纏めて接近すれば敵の攻撃も分散される。 あとは進入経路だな」
二人が奥へと去るのを確認すると、周囲の海上の状況を確認しつつ、作戦を練り始めるレオン。
……改めて見ると、最初に伝令役として出していたクローディアの部下のレンジャーナイトも大半が戻ってきている。
進入できそうな場所と言えば、敵が兵隊を送り出すための小船を出す部分と、船の内部に待機しているだろう魔者達を、外へ出すための出入り口。


「……よし。 魔物の排出口から進入するか!」
多少危険な手段になるが、これだけの人数がいれば、魔物の群れに突っ込むという多少の無理は通るだろう。
レオンはそう決めると、他のメンバーに向けてその旨を伝えた。