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ティールの放った2発の魂の槍、その二つは、真っ直ぐにアリスの座る浮遊椅子に向かって走っている。
トランプ兵士を間に召喚して防ごうにも、今の位置からではその一歩前に二つの槍は到達するだろう。
座っている浮遊椅子も、移動速度は全くもって期待できない。
「――!」
ここに来て、今まで終始寝惚け眼だったアリスの瞳が、大きく見開かれる。
「アリス様……」
アルの声が聞こえると同時に、魂の槍は宙を舞う椅子……その浮遊ユニットである両脇の翼を貫き、なお勢いを残したまま飛んでいき、そのままホールの天井の一部を破壊していた。
その一瞬の後……浮遊能力を奪われた椅子は急激に落下を始め、ティールはその着地点となるであろう場所に走り出す。
「―ブレイブフィスト―」
そのままハルバードを左手に持ち替え、開いた右手に全身を駆ける魂の炎を集める。
そしてそれを青白く光るグローブのような形状で固定し、そのまま落下してきた椅子の、丁度アリスの身体がある部分目掛け、文字通り燃え盛る拳をもって渾身の一撃を叩き込んだ。


「――……えっ!?」
だが、その拳に人の身体を殴った、という手ごたえはなく、あるのはやわらかい椅子の背もたれを貫いたという感触だけ。
目を向けても、椅子の上に青いエプロンドレスの少女の姿は無かった。
「……ウソだろ……?」
一瞬戸惑うティールの耳に、背後から味方の誰かの声が入り込む。
目を向けると、なぜか動きを止めているトランプ兵士と、呆然と先ほどまで椅子のあった空中を眺める仲間の姿。
――まさか。 そう思い、同じように上空へと目を向けるティール。
「――!!」
……そこにいたのは、球体を描くように舞う無数の青白い光の羽根に包まれたアリスの姿。
心なしか、彼女自身も淡く光を放っているようにも映るが……
「”おはようございます” ……アリス様」
呆然とするティール達を尻目に、ゆっくりと地面に降り立つアリス。
その足が床につくと同時に、彼女を包んでいた羽根は空気に溶けるように消えていった。
それと同時に、この閉鎖されたホールのどこから持って来たのか、アルがトレイに乗ったティーポットとティーカップを取り出し、ポットの中のダージリンティーをカップに注ぎ、アリスに手渡している。
「ありがとう、アル。 ―――うん、やっぱり貴方のお茶が一番美味しい」
アリスはにっこり笑ってカップを受け取ると、一度香りをかいだ後に紅茶を口に含んだ。
その目は、今までのように寝惚けたものではなく、またその口調も今までとくらべてはっきりとしたものにかわっていた。
「……ティールさん、だったっけ?」
「―! う、うん……」
「今のは、この『そよ風のドレス』の力なの。 私も少し力を使わないといけないけど、少しの間、ゆっくりだけど空を飛ぶ事が出来る、お母様からの贈り物……」
社交界ではお決まりの挨拶をするかのように、ドレスのスカートの裾をかるくつまみ上げながらそう口にするアリス。
……つまりは、落下する途中で椅子から飛び上がり、ティールの一撃をかわしたということになる。
恐らく直前に完全に目を覚ましたのかもしれないが、即座の判断であの攻撃を回避できるということには、全員驚きを隠せない。
「それより、ティールさん、いくつ?」
「え? 14だけど……」
そんなこちら側の驚きなど気付いていないのか、アリスは笑顔のままティールに言葉を投げ掛けていた。
まだ物事を受け入れやすい年頃だからだろうか、ティール自身は周囲ほど驚いてはいなかったのか、少し戸惑いながらもその質問には素直に答えていた。
「そっか。 わたしより二つ上なんだ……いいなぁ」
「まぁ、歳なんて勝手にとってくものだし」
「……ティールさんも、だいじな人を殺されちゃったの?」
「――!」
その言葉には、ティール本人だけでなく、背後で状況を眺めていた全員が大きく反応を見せた。
――ただ、やはりティール本人の動揺は大きかったのか、その手はわずかに震え始めている。
「そっか……わたしも、この船の人達に、お母様やお父様……お姉様も……」
「……」
「わたしとアルだけは、アルカナの力が使えるからって、助けて貰ったけど……おんなじ顔してるね、わたしとあなた」
どことなく悲しげな微笑みを浮かべながら、アリスはそう口にする。
待機するようにその後ろで立っているアルも、表情にこそ出していないが、悲しみをこらえているのだろう……握ったその手に、わずかに血管が浮き出ているようだった。
「アルとラビは、私に残った最後の家族だから……絶対に、死んでほしくない。 だから……」
「……ゴメン、それは私も同じ。 居場所のなくなった私を受け入れてくれたこの世界、渡すわけにはいかないの」
互いに譲れないものを背負って……引いた方が、何よりも大切な物を失ってしまう。
このチェスボードの上の戦いは、どちらが勝っても、何かが失われてしまう……そんな戦いなのだ。
「……わかった……ごめんなさい、ティールさん。 変なこと聞こうとして」
「ううん、私も同じ事言おうとしてたから」
二人そろって、”あははは”と声に出して笑い始める。
その様は仲のいい姉妹のようで……しかし、なにより悲しい空気をも纏っていた。
「……私、目が覚めちゃったから……ホントに、本気でいくよ」
「うん、そうしてくれたほうが、私も気が楽だよ」
そして、ひとしきり笑った後、互いに真剣な面持ちに変わり……アリスはその手を高らかに上げると、周囲を舞っていた全てのカードが、それぞれのマークに応じた赤と黒の光を放ち始め……
そして、ティールもまたハルバードを構え、全身に滾る魂の炎を、意識の上で高め始めていた。



「―契約の元にアリスが命ず アルカナの52騎士よ 我が力となれ―」
「―滾るは心――燃えるは魂――我が力、内なる灯火と共に―」



その光景を目にし、後ろで傍観者と化していた一同もそれぞれの武器を構え始める。
「……まさか……52体全部!!?」
だが、それは”戦闘が始まる”という事に対してよりも、アリスの周囲で輝く、52枚のカードに向けられての構えだったのかもしれない。
―ふと、突入前にネコが口にしていた言葉が思い出された。





『―出でよ アルカナ・ナイツ!!』
『―ブレイブハート!!』