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『やぁラビ、生きていて何よりだ』
壁をぶちぬいた先にあった通路に入ったところで、今まで隠れていたネコが再び姿を現した。
相変わらずのにやついた表情だが、その目はアルトの胸に抱かれているウサギの方へと向けられている。
ラビと呼ばれたウサギはピスピスと鼻をならして猫に向かって返事しているようだった。
「…これで、女の子が一人助かるんだな?」
『そうだね、あとはラビをあの子に手渡せば、あの子がこの船に従う理由も無いよ』
レオンの問いに、ネコは心なしか嬉しそうにそう答えていた。
表情は相変わらずだが、その女の子がとても大事なのだろう。
「それにしても……この子、なんで時計ぶらさげてるの?」
今まで敵から逃げ出すのに必死で気が付かなかったが、ラビの首からひとつの懐中時計がぶら下がっている。
よく見れば毛皮にまぎれて細い首輪もされていて、そこにくっついているようだった。
『クロック・ラビ。 時間を操る力を持ったウサギだからさ。 まぁその『夢時計』はラビのご主人様がつけたものだけどね』
「…時間ですって?」
『時』能力、それはかの『聖勇者伝記』で伝えられるセイジが持ちうる特殊クラスの能力。
そんな力を、この小さなウサギ一匹が持っているという話は、とてもではないが信じられない話である。
『そんな強い力じゃない。 一時的に一人の動きを早めたり遅くしたりする程度だね、それに効力も低いよ』
「……いや、それでも凄いと思いますが……」
要するに、カーディアルト、ビショップの使う行動速度変動呪文の『スロウリィ』『クイックリィ』に相当する力を使える程度、ということだろう。
だが、『時』能力を持っている事そのものが驚きであって、その内容についてはそれほど問題では無い。


『……おや、また誰か近付いて来るね』
……そうこう話しこんでいると、ネコの言葉通り、何かが遠くから近付いてくるような音が聞こえてきた。
それも足音ではなく、何かが連続的に爆発するような……
「これは……『エンジン』の音?」
仮にも貴族の出であるクローディアは、過去何度かグランドブレイカーから持ち出されたという機械部品を目にする機会があった。
中でも、特殊な加工がされた油を使って動くと『エンジン』という動力を使った乗りものが印象に残っていて、それの修理にあたっていた<ruby>機械技師<rt>マシンナリー</ruby>に色々と聞かされたものである。
『ああ、この船が元々あった世界は、少し機械が発展した世界だったからね。 この船の中にも機械の兵士が積み込まれてるはずだよ』
「機械兵士だって!? グランドブレイカーの下層で出るってアレか!!?」
『こっちの世界の事は知らないけどね。 まぁそういうのがいるってことさ』
「……というかお前、隠れなくていいのか?」
ふとセオが漏らしたその言葉に、セオとネコ以外の全員がはっとする。
今まで戦闘に入るたびに姿をくらませていたネコが、ここまで分かりやすく近付いてこようとしている相手を前に隠れようともしていない。
『大丈夫だよ、この音は『トロイホース』のもの。わざわざあれを乗り回すのは、あの人だけだ』
全員が首をかしげる中で、ネコはただそれだけを答えて笑っていた。
『あの人』……話の流れから、味方ではないかと予想されるが……その答えは、思いのほか直ぐに明かされる事となった。


「―うわっ!?」
通路の先から、ものすごい勢いでレオン達の方へと走り来るのは、そのまま通り過ぎてしまおうかという勢いから急停止する鉄の馬――トロイホース。
そして、その背に乗っていた赤い髪をした女性はひらりと馬の背から飛びおり、アルトの方へ……いや、その胸に抱かれている、ラビの方へと視線を向ける。
「……部屋にいないからもしやと思ったが……『アイズ』を倒したのですか……?」
そして、真っ先に口から出た言葉は、『アイズ』という聞き慣れない単語。
しかし、敵か味方か確定できないこの状況ではそれは重要ではなく、レオン達は目の前の女性に対して、警戒の目を向けている。
『ルイン、アイズなんていなかったようだよ』
だが、ネコは警戒した様子もなく女性に向けて話しかけていた。
その様子を見るに、とりあえず敵では無いようだが……
「なんですって? 確かにそう報告が来たのに……」
「……おい、一人で慌てるのはいいが、自分が誰かくらい話したらどうだ?」
とにかく、状況をはっきりさせないことにはこちらは動く事が出来ない。
味方ならよし、敵ならば、戦わなければならないだろう。
「あ、申し訳ありません。 私はルイン・ハイネ、そのウサギを救い出し――アリスを解放するため、参上いたしました」
「……そのような乗り物に乗っていると言う事は、貴方はブラック・シップ側の人間ではありませんの?」
「元より、私はあなたがたの大陸に攻め入る事をよしと思っていませんでした。 ですが、反逆を行うには私だけではあまりに非力……」
「……なるほど。 それで俺達――味方になってくれそうなのが入ってきたところで、抜けてきたってワケか」
「……はい」
「でも、『アリス』って?」
『ああ、言い忘れていたね。 ラビのご主人様の名前さ。 アリス・I・ワンダーっていう女の子だよ』
「……えーっと、ちょっとまて、一度整理する」
さすがに、色々と一気に説明されて話がすこしややこしくなってきたのか、レオンはそう口にして、一度全員を黙らせる事にした。
今自分達はラビというウサギを救出して、その追っ手から逃れてきたところ。
その直後にやってきた『トロイホース』は、いわゆる異国の機械技術で作られた乗り物で、それに乗ってきた目の前のルインは、このブラック・シップに対して反逆者という位置になる存在。
その目的は、アリスという女の子を助ける為に、ラビを救い出しに来た、ということ。
「……まてよ、ルインさん」
「ルイン、で結構です」
「じゃあルイン。 『アイズ』ってなんなんだ?」
先程、ルインが自分達の元へと飛び込んできた直後に口にしていた単語『アイズ』
話の流れから、敵軍の兵士か魔物の事と推測されるが、それ以上の詳細は自分達には全く理解できていない。
今後遭遇するかもしれない存在は、出来る限り情報を仕入れておくべきだろう。
「……このトロイホース同様、機械で構成された兵器です。 ただし、アイズは純粋に戦闘用につくられたユニット、汎用機ならば問題はありませんが、高性能機は……」
「『アイズ』……か、名前からして目玉みたいな形してそうだけど……」
「……あんなふうに?」
ルインの言葉を聞き、素直に思い浮かんだ形状を口にするレオン。
するとそれに反応するかのように、イルが通路の先を指差してそんなことを呟き、全員がはっとしてそちらの方へ目を向けると、金属の体表をした目玉のような物体が3体、目の前に浮いていた。
「アイズ!!」
「――こっちにもいますわよ!!?」
そして、通路の逆側にいたクローディアの声に、再び全員が反応する。
……一行を挟みこむかのような状態で、その方向にも3体のアイズが浮遊している。
「――しまった……謀られた!?」
ラビがいた部屋に出てこなかった理由は分からないが、片方の3体は確実に部屋に配置されているはずだった高性能機。
逆側は若干能力の低い汎用機だが、アイズは属性の違う3機が揃った時にその戦闘力が格段に上昇する。
やや性能が違うとはいえ、そんなものが二組同時に現れては自分でも早々対処しきれない。

「どれでもいいです!! 両側の一体を破壊してください!! 一機でも破壊できれば、アイズの戦闘力は下がります!!」
「わ、わかった!」