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―15―





「お前等の相手は俺だ!」
「がはっ!?」
ヴァイと銀牙が周囲に群がってくる兵士達の相手をしている間に、武器を構えて一歩前に出たティールは、真っ直ぐにかつての仲間に向けて戦闘の意思を示す。
「ディン、エミィ。 ……行くよ」
向こうもこちらも、本心ではこんな形で刃を交える事など望んではいなかっただろう。
それでも、いま自分達に残されているのは”現状”という運命のみ。
状況を変えることは不可能では無いが、互いに非常にリスキーな選択肢しか与えられておらず……。
対峙する二人も、表情に難色を示しながらも黙ってそれぞれの武器を構え、ティールのその意識を受け止めていた。
「―滾るは心――燃えるは魂――我が力、内なる灯火と共に――――ブレイブハート!!」
一度はかききえた魂の炎を、再び灯し――その勢いは、明らかに先程のそれよりも増していた。
それは、かつて”エメト・ルミナス”を相手にしていた時よりも強大なものかもしれない。
「――な、なんだと!?」
後方で、男は驚愕の声を上げる。
さっきより変化している状況と言えば、彼女の背後に仲間が来たことくらいのものだ。
多少の安心感などから精神的に持ち直すことはありえるものの、”戦いにくい相手”と戦うために使ったにしては、その出力は先程と差がありすぎる。
「……吹っ切れたか、何か思いついたようですね」
その光景を目にして、シアが真剣な表情でそう口にする。
彼女もティールとの関係は長く、仲間と呼んだ相手に本気で斬りかかれるような人間では無い事は承知しているだろう。
それゆえに、目の前で燃え盛る力の大きさから、彼女の中に何かが見えているようだった。
「シャアア!!」
「くっ…シアさん!!」
……その時、ヴァイと銀牙の攻撃を免れたクレセントが一人、その手のカタールを構えて、シアの方へと駆け出していた。
「聖アルティアの祈りを以って―――裁け、悪しき心を持つ者に正義の審判を下せ」
しかし、特に慌てた様子もなく、聖光呪文の詠唱を開始すると共に、背後に隠れていたユキとイリスを押すようにしながら足を運び、その攻撃を悠々と回避し――
「――アルティレイ!!」
予想外に身軽な体捌きに空振りし、彼女の横を走りぬけて行ったクレセントに向けて、彼女の持ちうる唯一の攻撃聖術を撃ち出し――クレセントは無数の閃光の粒子の直撃を受け、そのままその場に倒れこんでいった。
「し、シア先生……今のは……」
聖光攻撃の基本呪文であるアルティレイだが、シアの放ったそれは通常のレベルをはるかに上回る閃光を放っていた。
加えて、いくら聖光に弱いというクレセントとはいえ、このような低級呪文の一撃で倒される事はほとんど無い。
「何事も修練次第で強くなれます。 バードだからと、支援だけが能ではありませんよ」
それでも、やはり自ら戦う事は気が進まないのだろうか。そう言う表情はすこし悲しそうな笑顔だったが、その言葉には妙な重みを感じさせる何かが含まれているかのようだった。




「……ぐっ!!」
……ティールはそれら周囲の動向などすでに全く意識の中に入っていないのか、完全にディンとエミリアとの戦闘に入りこんでいた。
絶え間なく撃ち込まれるハルバードの斬撃を、どうにかその手の大剣で受け続けているディン。
総合的に素早さで負けている分、反撃を入れる事もままならない状態である。
「――アイスニードル!」
「! やっ!!」
エミリアの放つ氷の槍を、あるひとつはかわし、またある一つは叩き落とし……と巧みに回避して見せるティール。
だが、その行動に意識を裂いた瞬間を狙うように、ディンの剣が彼女の体へと振り下ろされる。
「――ぁぁあ!!」
気合一声、強引に自分自身の身体を地面に投げ出すかのように転がり、その一撃を回避。
そして、武器を持たない左手で思いっきり地面を押す事で自らを跳ね上げ、空中で体制を整えて足から着地――そのまま地面を蹴り、再びディンの懐へと駆けだした。
「――――フローズンピラー!!」
大振りの一撃を回避され、ティールの接近にディンは一歩反応が間にあわない。
――だが、ティールの一撃がその身体に撃ち込まれる直前、無数の氷の柱が地面から隆起し、ディンとティールの間を遮る壁として出現する。
それは、ティール程のスピードを持っていれば、普通なら反応が間にあわずに正面から氷の壁に激突するような位置と、タイミングだった。
エミリア自身も、そのつもりで魔法を放っていたのだが――
「なっ……!!?」
ティールは氷の壁の出現位置も、タイミングも、全て分かっていたかのように地面を蹴り、せり上がってきた壁も越える勢いで、高く跳び上がっていた。
…エミリアの『フローズンピラー』は、多くの場合複数を並べて召喚する事で『壁』を作る形で扱われている。
それは敵からの攻撃を防御するためだったり、敵の行軍を塞き止めるためだったり……
「――エミィ、貴方の魔法も、クセも、承知済みだよ」
空中でにこりと笑みを浮かべたティールの口からは、そんな言葉が発せられていた。
そう、ティールは自分達の手の内をよく知る相手……この方法を使うには、相手が悪かったのだ。
「――ブレイブフィスト」
ディンの丁度背後――地面に着地する直前、全身を包んでいた炎が一斉にティールの右腕に集まっていく。
―まずい―
見るからに、危険な状況。 それを察し、身体を反転させようとしたディンだったが……
「……くっ……!?」
気が付けば、自分の胸元に燃え盛る右腕を添えられていた。
その動作は、とても攻撃の意思を感じられない、ゆっくりとしたものだったのだが……
「―――ソウルブレイク!!!」
「……あ゛っ………!?」
彼女がそう叫ぶと同時に、その手に宿っていた炎が、猛烈な勢いでディンの身体に叩きこまれた。
その一撃は、外側からの攻撃では無い。
叩きこまれた炎が全身に衝撃として広がり、一切の防御を無視して内側から肉体を破壊する……
周囲から見れば何が起こったのかすらも分からない、ティールの奥義だった。
「―…せい!!」
「ぐはっ!!」
攻撃に耐え切れず、地面へと崩れ落ちて行くディンの身体に、追い討ちをかけるように蹴りを入れるティール。
”ブレイブハート”の力か、少女の脚力とは思えない勢いで、ディンは後方で待機していたリスティとシアの目の前まで吹き飛ばされた。
「……さてエミィ。 覚悟はいい?」
腕に集中していた炎が再び全身を廻らせ、身も凍りつくような目をエミリアに突きつけるティール。
一瞬、その殺気に押されて一歩下がるエミリアだったが……
「――アイス…」
意を決し、詠唱破棄(ショートカット)による魔法を敢行しようと口を開く。
だが……
「はあっ!!」
「ぁっ……!!」
ディンと同様に蹴りを叩きこまれ、リスティとシアの元へと吹き飛ばされる。
同時に、手加減のないその攻撃で、完全に気を失わされていた。



「あっ……」
ぐったりと地面に崩れ落ちた二人を前に、リスティは言葉を失う。
―友達じゃなかったの?―
―なんで、ここまでできるの?―
「……聖アルティアの祈りを以って―――聖女の癒し手、その指先より淡き白の救いを――」
そんな想いが心の中を駆け巡り……ふと気が付けば、その手は二人の身体へと添えられ、その口は癒しの奇跡の聖術の詠唱を行っていた。
「彼の者にお むく………  っ!?」
……しかし、高位の治癒聖術であるラリラルの詠唱は、背後から伸びてきた手に口を塞がれ、制止させられる。
―敵が………!?―
そんな思考が働き、恐怖に身を振るわせるリスティ。
だが、振り返って目に映ったその手の主の姿は、その予想を大きく外すものだった。
「だめよ、リスティ」
「……シア先生!!? なぜですか!!? ……ディンさんもエミィさんも、悪い人じゃないのに!!!」
「……それでも、今はだめ……だめなの……」
「っ……」
――悲痛な表情だった。
シア自身も、彼女達をこの場で癒してあげたいのだろう。
……それすらも許されないこの状況に、リスティは行き所のない怒りと、いままでにない程強い悔しさを感じていた

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