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―16―






「貴様等! 何をしている!!」
倒れ伏したディンとエミリアに向けて、男の怒る声が響く。
その二人は、敵であるティールの戦意を削ぐための大きなウエイトを占めていた……はずだった。
「無駄だよ。 意識の飛んだ相手に、あなたの声が届くはずも無い」
しかし何を思ったのだろうか、ティールは突如として与えられたその枷を振りきり、何の躊躇も無く二人を気絶させるレベルの攻撃を撃ち込んでいた。
「がはっ……」
「……ティール、こっちも終わったぞ」
同時に、この時点で周囲を取り囲むように布陣していた兵士達も、ヴァイ達の参陣により掃討されている。
どさりと地面に崩れ落ちる最後の一人を尻目に、一同は武器を構えたままティールの周囲に集まっていった。
「……Aランク以上の依頼は『放棄』こそ許されていないけど、『失敗』の例なら過去にいくらでも存在する。 二人はやられこそしたものの、放棄は宣言して無かった……よね?」
そんな中で、クスっと笑みを浮かべながら、そう口にするティール。
……その瞬間、後方で倒れている二人の傍にいたリスティが、はっと顔を上げていた。
理屈の上だけの話ではあれど、互いに最も被害を少なくする行程を、ティールは導き出していたのだ。
「……ふん、屁理屈を」
とは言っても、支援士の評判などというものは『依頼主』がどういう風に捕らえるかが大きく影響するもので……事実上、大した解決にはなっていないだろう。
しかし、二人が倒れた事で、この場を乗り切る上で最も大きな障害は取り除かれたといえる。
「ま、いずれにしても……これで私が力を抑える理由も無くなった。 ……二人やイリスのためにも、この場であなたを逃がすわけにはいかない」
少しづつ、ティールの表情から笑顔が消えていく。
その笑顔は『確認』の言葉を口にする際に浮かべただけのものだったが、それがどれだけ彼女の怒りを覆い隠していたのかは、時間が経つごとに周囲に満ちていく威圧感だけで十分察する事が出来た。
「これが、最後の忠告……大人しく自警団にでも投降して。 そうすれば、私は貴方に手は加えない」
ブレイブハートの炎を収めつつも、男の方へと威嚇するようにハルバードを突き出し、完全に笑顔の消えた無表情のままそう口にする。
……しかし、男はそれに屈する姿勢を見せるどころか、にやりと口元を歪め、怪しく笑いだしていた。
「くくっ……こちらの手駒はもう残っていないと思っているのか…?」
「……なに?」
思わず、周囲に目を向け何か隠れているのかと探し回るが、目に入るのはまばらに生えた木と倒れている敵兵のみ。
この状況では木の影に兵を隠すのも難しく、一見すれば伏兵というものは無いように思えるが……
「少々危険を伴うゆえ、出来れば使いたくは無かったが……」
「―!?」
そう口にしながら、男は腕を突き出す。
……その指先には、妙に見る者の目を引く輝きを持つ、一つの指輪をはめ……それが、ここ一帯を包みこむような強烈な光を放った。



「―――な、何…!?」
その光は、一瞬の内に収まっていた。
しかし、周囲の状況に変わった様子は無く、ティール達の身体にもダメージらしいダメージは無い。
ただのはったりか?
……そう思った時だった。
「――こいつら、まだ動くか!?」
周囲で倒れ伏していた敵兵が、次々とその身を起こし始めていた。
ヴァイは確かに自分の手で致死とも言えるダメージを与えた者もいた事を記憶していた。
……しかし、起き上がらない兵士など一兵もおらず、全員どこか虚ろな瞳をしてはいるが、それぞれの武器を持って立ち上がっていく。
「……ユキ、イリス。 私から離れないで……」
この状況からただならない気配を感じ、そっと背後の二人に手を差し出すシア。
せめて、町の自警団に一時預けて来るべきだったかもしれない……と、その行動と共に悔やまれる。
「なんだろう……すごく、嫌な感じ……」
同時に、リスティがふとそんな言葉を口にし……その言葉には、その場にいた全員が同意した。
どうにも兵士達の様子が先程と違い、とても正気のようには見えない。
……しかし、リスティの傍で倒れている二人はそんな様子も無く、未だに倒れたままである。
「……まさか……何か手を加えられてる?」
”手を加えられている”というティールのその言葉には、言葉通りに”洗脳”や”改造”といったなんらかの人為的なものが施されているという意味を込められている。
「クク……さすがに鋭いな。 肉体の限界の力を引き出せるよう、我が配下の兵には術式を施してある。 意識は消え残るのは闘争本能のみ――まぁ、私には危害が及ばぬようにしているがね」
「――そんな!! あなた何をしているか分かっているのですか!!?」
周囲の兵達に目を向けながら再び怪しく笑う男と、その言葉を耳にして激昂するシア。
……リスティは、その横で何も言えず……目にわずかに涙を浮かべ、その身体を震えさせていた。
そしてヴァイとティールもまた、無言ながらその怒りを露にさせている。
「……いずれにしても、貴様等には消えて貰うのみだ。 やれ!!」
「「オオオオオオオオオ!!」」
男の声に従い、兵士達は大きく雄叫びを上げる。
だがそれは人間的なそれではなく、狂った獣のような叫び声のようだった。
「――シア! リスティ! 二人を治して!!」
一瞬周囲を見回し、何かに気付いたような表情を見せた後、突如としてティールはそう叫ぶ。
「え? ……はい!!」
「……わかりました!」
彼らが弱みを握られていると言う状況は変わらず、下手をすれば余計な手間が増える可能性もあるのではと、多少の危惧を感じたシアだったが……
リスティの即決の意思に従い、共に二人に向けて治癒聖術の詠唱に入った。




「……はああああああああ!!」
そして、ティール達が戦闘へと突入したその時……
その戦場へと駆け込んで来る、純白の鎧を纏い、一振りのハルバードを手にした女性の姿が、彼女達の目に映っていた。


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