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―17―





「……シア……さん……?」
「……リスティ……か……」
闇に落ちていた二人の意識が戻る。
わずかに身体に残る痛みを感じつつも、閉ざされていた瞼を開き……徐々に鮮明さを取り戻していく視界に最初に映ったのは、見慣れた聖女と吟遊詩人の姿だった。
「大丈夫ですか? ……ティールの力が、思っていたより大きくて……」
リスティとシアの二人は、『ラリラル』の術で直ぐにでも治癒しきれる範囲だと思っていたが……
彼女の技の衝撃は身体の内部にまで響き、外見上のダメージ以上に、奥底に刻まれたダメージの治癒に想定外の時間がかかってしまっていた。
「ガアアアア!!」
しかし、その直後に四人の元に跳びかかる、大戦斧を振りかざすベルセルクの姿。
前線で戦うティールや、ヴァイ達で捌ききれなかった一人だろう。
「くっ……」
倒れたままの体勢からでは間に合わないかもしれないが――それでも、何も行動せずに死を待つのは問題外。
ディンは手元に置かれていた天羽々斬を握り、目の前の『敵』に向けて一撃を加えようと身体を起こそうとした……
――その直後
「グランスピネル!!」
「!?」
大地から付き出された”神の矛”に貫かれるベルセルク。
そして、その後方から現れる、白き鎧を纏う女性騎士――
「――クローディア!!」
「目を覚ましたようですわね。 ……申し訳ありません、件のクレセントの尋問に手間取ってしまい、援軍が遅れました」
「……では、私達の受けた依頼は……」
「……『精霊王のたまご』を実際に洞窟から持ち帰ったのは自分達では無く、入手した少女から強奪しようとした、という証言を得られました。 その時点でこの依頼は虚偽を交えたものとなり、無効となりますわ」
……ただ、取り急ぎその証言を得るために『司法取引』という形で、クレセント当人の減刑が取られたという事実は、クローディアの中では少々悔やまれる結果となっていた。
しかし、そこまで言えば二人が責任を感じてしまう恐れもあり、またそれを言う理由も無い。
そう考え、エミリアの問いには、ただ微笑みを浮かべて答えるだけ。
「だったら、もうあのおっさんに味方する必要も無い。 ……エミィ!」
「うむ! シア、リスティ、クローディア、感謝するぞ」
会話の間も治癒を続けていた二人に、礼の言葉をかけるエミリア。
同時に、この時点で受けたダメージはほぼ完治し、精神的にも身体的にもほぼ万全の状態に戻っている。
……今は、これ以上話こんでいる余裕も無い。 ディン達は一度頷き合うと、それぞれの武器を構え、戦闘体制に入る。
「―我が命に従い現れ出でよ冬の精 汝が司りしは大いなる四季の欠片―」
「ユキ、私達も――」
その様子を目にして、シアは一度咳払いをし呼吸を整えると、荷物の中から白銀色に光を反射するハープを取り出し奏で始めた。
同時に、シアの言葉にコクコクと反応したユキも、荷物の中から青銀色のフルートを取り出し、スッと口をつける。
『―古より謳われし勇なる者 民の称えに答える如く 力を奮い我らを導く―』
シアのハープと、ユキのフルート。 そしてその二つの音に重なるそれは、『英雄の歌』と称されるバードの聖術詩歌。
その調べが戦場を包みこんだその瞬間から、ティール達の勢いに更に拍車がかかる。
「―其の力を以って我等に害なす愚者に裁きを――ダイヤモンドスコール!!」
丁度その時、エミリアの呪文詠唱が完成し、彼女の背後から直径にして50cmはあろうかという無数の氷塊が、嵐のように降り注ぐ。
D(ディヴァイン)・フレアブレイド!!」
エミリアの呪文は巧みに操られ、他の仲間達にもうまく当たらないように調整され……ディンはその中をかいくぐるかのように立ち回り、燃え盛る神の一閃を周囲の敵に叩きこむ。
「ディン、エミィ……」
その様が目に入り、ティールはすこし表情を綻ばせる。
―それは安堵。 そして、湧き出る勇気。
「……いっけええええ!! ブレイブクロス!!!」
高まる魂の力を込めて、放たれるのは十字を描くように重ねられたブレイブソード。
その一撃は、彼女の前方に布陣するほとんどの敵を吹き飛ばしていた。
「よしっ、このまま――……  えっ!!?」
その勢いに乗り、敵軍の最奥で待つ男の下へと駆け出そうとしたその時、男が先程とは逆の腕を突き出した状態で、何かの呪文を詠唱している姿が目に入った。
……その指先にはまた別の指輪がはめられ、それは緑、紫、黒、青……と、規則正しく4色の輝きを放っている。
同時に、その点滅に呼応するかのように、ティール達の足元に巨大な魔法陣が現れる。
「――彼方なる月の加護を以って、かの者共に見えざる束縛を与えん!!」
―陣を仕掛けられてた……!?―
相手が魔術師であること、そして、ここが敵に案内された場所である事……それだけ考えれば、何らかの罠が仕掛けられている事、そしてたったそれだけの失念が、一度は有利となった戦場に大いなる危機をもたらすことも明白だった。
「くそっ! 何とか止めて……」
一瞬遅れて、ヴァイもその行動に気がついたのか、それまで相手をしていた目の前の兵士の下を離れ、男の下へと駆けだそうとする。
「ジオグラヴィティ!!」
……が、それは一瞬間に合わず、ヴァイの身体が魔法陣より外に出るその直前に、男の術式は完成していた。
足元の魔法陣が強く光り輝き、その次の瞬間――
「くっ!?」
魔法陣の上にいた全員が、敵味方を問わず地面に張り付くように吸い寄せられる。
「……重力魔法……『月』の力じゃと……!?」
時に、世の理すらも捻じ曲げる力を持つという月の力――それは、万物を大地に縛り付ける重力という力すらも操る魔法。
だが、それは『星』や『太陽』と同じくして、並の人間が習得できるような能力ではなく、今では伝説に謳われる者達のみが受け継ぐ、特殊な力とされている。
……しかし、いま自分達を地面に押し付けているこの力は、紛れも無く重力を操る『月』の力。
それほどの力の使い手が相手ならば、最初から自分達の勝ち目は薄いものだったということになる――が
「…この気配は……”エメトの……欠片”……?」
「何!?」
突如としてシアの口から出される、ある鉱石の名。
”エメト”と呼ばれるゴーレムの身体の一部である鉱石で、それは特定の属性魔法の効果を増大させる、マジックアイテムでもあった。
……かつて、ディンとエミリア、そしてティールが探し当てた”エメト・ルミナス”もまた、光の魔法触媒としての力を持ち、シアはその石の触媒としての効果の鑑定を行った事がある。
当時の感覚がまだ残っていると言うならば、彼女ほど”欠片”を選別する力を持つ人間はいないだろう。
「ほう、なるほど……かの光の欠片を見つけ出したのは、確か君達だったな」
「……まさか、『月』の元となる力の欠片を……4つ全て……?」
『月』は嵐と轟雷から派生する『天』、そして『闇』と『海』の力を統合する事で生み出される力とされている。
それらの力を持つエメトを見つけ出し、それぞれの欠片を集めてきたとなれば……魔法陣の力を借りれば、確かにこの程度の重力魔法は発動できるのかもしれない。
「御名答。 この指輪は、複数の欠片を統合し、安定して『特』クラスの力を扱えるようにした、我が研究の成果だ」
「ふん、ぺらぺらと…口の軽いヤツじゃな……」
と強がってみるものの、重力に負けて全員身体がほとんど動かない。
ただ、陣の内にいる敵兵も全て魔法に巻きこまれ、地面に押し付けられているのは幸いなのだろうか。
「そんなことはどうでもいい。 ……ククッ、最初からこの手を使えばよかったのかもしれないな」
「…何!?」
男は怪しく笑うと、悠々とした表情で魔法陣の内側に足を踏み込んでいた。
術者だからだろうか、男は重力に囚われることなく、スタスタとシアの隣……イリスの元へと歩いていく。
「……ぁう……」
見上げる位置に男が来る事で、脅えた表情に涙目を見せるイリス。
だが、男はそれに反応する様子も無く、ひょいと首根っこを掴むように持ち上げると、そのまま魔法陣の外まで抜け出して行く。
「ママ!!」
「イリス!! ……くっ……このっ……」
離れていくイリスの姿を目で追うも、身体が持ち上がらない。
「無駄だよ、いくら君の力が強かろうと、その重圧からは逃れられまい」
そんなティールの姿を、必死に暴れるイリスを吊るし上げたままあざ笑うかのような目で振り返る男。
それはティールの怒りをなおも煽り、彼女を包みこむブレイブハートの炎も、それに比例して強く、大きく膨らんでいく。
その勢いは留まることなく、彼女が今までに見せたこともない……彼女自身も、過去、たったの一度……『龍』と対峙した時にしか使っていない力。
「…何!?」
ついには、立ち昇る炎と共にわずかにその身体が持ち上がる。
「……待ちなさい…………その子は……私が守るって、決めたんだから……」
それでも重圧の力は強いのか、一歩足を進めるにも相当な時間をかけざるを得ないようで……
その間にあっけに取られて足を止めていた男が、始めて危機感に満ちた顔を見せ、急ぎ足に退却を始める。






「…………魂に、焼き刻め!!!!」






魔法陣の端まで来た所で、ティールは大きくそのハルバードを振るい……空間そのものが包みこまれているような錯覚するさえ覚える勢いの炎が、その先に集まっていく。
「――っ!! ティール、やめろ!!!」
直後、その技……いや、今の彼女の”状態そのもの”に危険を感じたヴァイが大きく叫ぶ。
だが、すでにそんな声など耳にはいってはおらず、ハルバードの切っ先に収束する炎は、さも龍のような姿をとり、解き放たれるその瞬間を待っている。





「ハウリングブレイズ!!!!!」






「ぐっ…!!?」
雄叫びのような声と共に、打ち出される灼熱の劫火。
暴れ狂うように駆け回るそれは、周囲にある木々を薙ぎ倒し、全てを焼き尽くす勢いで広がっていく。
「……くっ………はぁ………あぁ……」
だが、全く制御の利いていないその炎は、あろうことか全く関係のない方向へと向かい、男にはかすりもせずに、その一帯の木という木を焼き尽くしただけで消え去っていた。
……いや、あのまま男を巻き混んでいれば、イリスもそのまま飲み込まれていただろう。
そう考えることだけが、不幸中の幸いだったのかもしれない。
「……ぅっ……」
「ティールさん!!?」
「言わんこっちゃない……クソ!!」
最後に彼女が見せた力は、あまりにも強力すぎた。
制御可能域を超えた炎は、彼女自身の身体をも焼き、その身の奥底から深いダメージを残す。
一度は全てを凌駕するまでに広がった炎が、またたくまに消滅し……ティールは、再びその場に崩れ落ちていた。


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