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野盗たちを撃退してから2日。トートとミリエラの2人は無事にリックテールの門をくぐる事が出来た。
整然とした街路には多くの人がごった返し、またあちこちの店では各地からの交易品や大陸南側から運ばれてきた多くの物で埋め尽くされていた。
トートはその大きさと活気にただただ目を見張ることしか出来なかった。今まで十六夜を出たことは無いトートにとっては全てが新鮮だったのだ。


「トート、トート!聞いていますか?」
ミリエラの呼ぶ声に気付き、トートはようやく自分が呼ばれていることに気が付いた。
「あ、あぁ、ゴメン。それで?」
「トートはこれからどうするか予定はありますか?」
トートが特に無いと答えると、ミリエラは頷いた。
「それなら私の家に行きませんか?まだ助けてもらったお礼をしていませんから・・・」
「そんな、お礼なんていいよ!あれはオレが勝手に首を突っ込んだだけなんだから。」
必死になって辞退するトートではあったが、ミリエラはどうしてもと食い下がる。とうとうトートも折れ、ミリエラの家に招待されることになった。


ミリエラは流石にリックテール出身だけあり人の波を器用に掻き分けて進むものの、初めて来たトートはそうもいかない。
人とぶつかりそうになるのを何とかかわしつつ、ミリエラからはぐれないように進むのに精一杯でとても街並みを観察することはできなかった。
ある程度進むと道を歩く人が少なくなっていることに気がついた。それと同時に周囲の建物が大きく立派な屋敷であることも目に付く。どうやら上流階級の貴族が住む高級住宅地のようだ。道を間違えたのかとミリエラを見やるもその様子も無い。疑問符を浮かべながら歩いているうちに一軒の屋敷に着いた。
「着きました。ここが私の家です」
なんともなしに言うミリエラに、トートは困惑を隠せない。
「あのさミリィ、ミリィの家ってもしかして貴族なのか・・・?」
トートの質問を聞いたミリエラはしばしポカンとした表情を浮かべていたが、突然何かに思い当たったように声を上げた。
「あっ、まだ私のフルネームを言ってませんでしたね!私はミリエラ・リム・リンシュタイン。リックテールを統治している守備警団のうちの1つ、リンシュタイン家の娘なんです。」
開いた口が塞がらず、トートは呆然と立ち尽くした。
「別に隠すつもりは無かったのですが・・・。貴族というと畏まってしまう人も多いのでなるべく名乗らないようにしていたんです。」
「そ、そうだったんだ・・・。」
驚きは隠せなかったものの、ミリエラが貴族だからといってもそれが敬遠する理由にはならなかった。そもそも十六夜から出たことの無いトートには貴族というのはあまり馴染みの無いものだったのだ。十六夜では権力者とは村の長老のような存在がいるだけでそれでさえ高圧的な態度は取らず、どちらかというと話し合いをする時のアドバイザーのような存在で親しまれているからだ。
「オレはミリィが貴族だったからって気にはしないけどな。確かにこんなデカイ家に住んでるのには驚いたけど・・・」
そんな会話の後にトートは屋敷の中へ案内され、応接室へと通された。ミリエラは両親に事情を説明するといって出て行ったきりしばらく戻ってこない。その間、トートはやや居心地の悪い気がしていた。まず広い。20畳はあろうかというほどの部屋の中には豪華な家具が設えており、壁には剣、槍、斧など様々な武器が飾られていた。



トートが辺りを見回しているうちにミリエラとその両親と思しき人物が入って来た。
父親の方は立派な体格をした壮年の男性で、体中から活力が漲っている。母親のほうはミリエラのようなおっとりとした表情のなかに確かな気品と知性が感じられた。
トートと向かい合うように3人が席に着く。
「この度は娘を助けてもらったそうだね。私はエリック・ドゥル・リンシュタイン。リックテール守備警団のレンジャーナイト部隊の副隊長をしている。こちらは妻のエレノアだ。」
エリックが紹介すると隣に控えたエレノアが優雅に会釈する。
「ところでトート君はこの街は初めてだそうだね?まだ部屋などは借りていないのだろう?」
「ええ・・・、まぁ・・・。」
トートが頷くのを見て、エリックは懐から重たげな袋を出す。どうやら中身は相当な量のお金のようだ。
「娘を助けてくれた礼だ。部屋を借りても十分余るだろう。これからの支援者活動の資金に当ててくれ。」
「そ、そんな!こんなに沢山貰えません!それにお礼目当てで助けたわけでもありませんしミリィが襲われている所に出くわしたのも全くの偶然だった訳ですし・・・」
慌てて辞退するトートではあったがエリックは譲らない。トートもとうとう折れて金貨の袋を受け取ることにした。
夫の横で静かに佇んでいたエレノアがトートに声をかける。
「トートさん、ミリエラもあなたと同じく新米の支援士なのです。あなたがよろしければミリエラと仲間として接してあげてくださいね。」
トートとしても別に断る理由などなく、初めての街で仲間と呼べる存在が出来たことが嬉しくもあったので快く承諾した。


その後、エリックやエレノア、ミリィなどを交えて雑談をしているうちに外は既に日が暮れてしまっていた。席を辞し、トートは暇を告げることにした。
「待ちたまえ!トート君!」
応接間から出ようとすると急にエリックに呼び止められた。
「なんですか?エリックさん。」
エリックの視線は驚いたようにトートのベルトに下げられた斬鬼に向いていた。
「そ・・・、それは十六夜の片刃剣!このような形で目にできるとは・・・。」
と、エリックはまるでオモチャを見つけた子供のようにはしゃぎ始める。
「是非とも私に見せてくれないか・・・。ああ、ありがとう。・・・おお、この刀身の輝き!それにつばに刻まれた細工も見事だ・・・。この切れ味と美しさを両立させた機能美!!こんな業物にめぐり合えるとは私は幸せ者だ!!」
斬鬼をまじまじと見つめて次々と賛美の言葉を投げかけるエリックに対してトートは気が気ではなかった。斬鬼も堅物で頑固な性格とはいえ褒められて悪い気はしないはずだ。調子に乗って一言でも喋ってしまえば大変なことになる。エリックはひとしきり斬鬼を眺めた後、真剣な顔でトートに向き直った。
「トート君!頼みがある!私にこの片刃剣を売ってくれ!!」
「えええっ!!そんな!それだけはダメですッ!!」
思いもかけない言葉にトートは狼狽した。エリックは諦めない。
「私は古今東西の武器を蒐集していてね。この十六夜の片刃剣を是非ともコレクションに加えたいんだ。新しい剣を買うほどの金額は出すつもりだ!頼む!この通りだ!!」
と、ついには土下座までしてしまう始末だった。困ってしまったトートだったが、頭を上げさせるとしっかりと言った。
「エリックさん、そこまでするあなたの熱意は十分に伝わりました。けれどこの刀は・・・、斬鬼だけは絶対に譲れないんです。オレにとってコイツはただの武器ではないんです。命を預ける大切な仲間でもあるんです。・・・だから、いくらお金を詰まれても譲ることはできません。・・・申し訳ありません」
キッパリとそう言うとトートは深々と頭を下げた。エリックは斬鬼を名残惜しそうに見ていたが、頭を軽く振ると言った。
「・・・トート君、君がそこまでその剣に愛着を持っていることは良くわかったよ。名残惜しいが諦めるとしよう・・・。それにしても君は自分の武器にそこまでの信頼を寄せているんだね。最近の支援士達の中ではそういう者はなかなか居ないものだよ。これからもその剣を大事にするんだよ!」
「・・・ハイッ!」
トートは強く頷いた。


『トート、俺はお前のことを少々見くびっていたかも知れん』
屋敷を出て突然斬鬼が話し掛けてきた。
「なんだよ急に。お前がオレを褒めるなんて・・・」
『いやなに、お前は俺をあのエリックとか言う男に売り飛ばすのではないかと正直不安に思っていたのだ。』
そう言われてトートは自分がそんな風に思われていたのかと少しガッカリしたものの、気を取り直して反論した。
「何言ってんだよ!約束しただろ?お前の魂をなんとかする方法を見つけるって。オレは約束を破るようなマネは絶対にしないよ」
『そうか・・・。ありがとう。・・・それにしてもエリックはなかなかどうして武器を見る目があるな。俺の素晴らしさをあそこまで見つけ出すとは・・・。案外あの男の物になる方が良かったかも知れんな。なかなか腕も立つようだしお前のような未熟者と一緒にいるよりも効率が良かったかも知れん』
「なんだよそれ!折角褒められていい気になってたってのに・・・。なんなら今から戻ってもいいんだぞ!」
『フフ・・・冗談だ』
夜が近づきつつある夕暮れの中をトートと斬鬼は他愛も無い口喧嘩をしながら歩いていった。