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 「旦那ぁ、良かったなっ!
例の仕事、このジュリアが引き受けてくれるッてぇ話だ。
さぁ、今夜は安くしとくからジャンジャン飲んで食ってくれい!」
すっかり日が落ちて空が暗くなったリエステールの酒場。
カネモリとジュリアが向かいに座るテーブルに、マスターがビールをなみなみ注いだジョッキと
串焼き肉の皿を運んできた。
「えっ、コレみんなカネモリが奢ってくれるの?
わーい、嬉しいなぁ〜♪」
「マスター、お力添えには感謝しています。
しかし…〈ボソッ〉」
「ん? 支援士が小娘ひとりじゃ心配か??
だがな、ジュリアはああ見えてもダンジョン探索の護衛を何度もこなしたコトがある、
けっこうな腕利きだぞ。
…『ランクBの中でも上級者』ッてトコだ。〈ボソボソ〉」
「…えっ、なにナニ!? ボクがどーしたッてぇ?」
「何でもねぇよ。
それよりおふたりさん、いくら『目的地は不定』ッて言っても、ある程度の計画と優先順位は
立てといた方がいいぜ。
ムダが多けりゃそんだけ疲れるし、生還の可能性も下がるッてモンだ。」
「貴重なご助言、感謝します。
それでは後ほど…。」
「あぁ。お代わりの時ぁ呼んでくれな!」
マスターは他の客から注文を取るために、彼らのテーブルを後にした。
「…それではジュリアさん…」
「ヤだぁ、水臭いなー。ボクのコトなら呼び捨てでいいよ!
ボクだってキミのコト、つい呼び捨てにしちゃってるんだから。」
串焼き肉を頬張りながらジュリアがそう言うので、
「…ジュリア、旅の計画を立てることにしましょうか……」
カネモリはうつむき加減に照れながら、この世界の地図を広げてテーブルに置いた。

 「大陸を南北に何度も行き来するのはメンドっちいから、先に南半分から片付けちゃおうよ。
カネモリならドコに『風の元素』、あると思う?」
「グノル神殿(シュライン)は除外しても良いでしょう。
アルティア教会は元素を信仰の対象として認めていませんから、遺物の法具や聖像にも
元素が用いられていることはありません。」
「モレク鉱山は?」
「実験や製薬に必要な鉱物を採取するために何度も入ったことはありますが、元素の
『気配』は感じませんでしたね。
…もっとも、あまり深い所まで探索してはいないのですが…。」
「オース海の洞窟は? 『海賊の財宝』が眠ッてるらしいけど。」
「元素はご覧の通り、光りはしますが見た目は脆い塊に過ぎませんから、海賊が関心を示す
とは思えませんね。」
依頼の際マスターに見せた「火の元素」を、今度はジュリアに見せながらカネモリは
首をかしげる。
「…あとは砂漠の墓所かな?」
「『この墳墓を築いた王は不老不死の薬を作るようお抱えの薬師に命じた』
と古文書に記されていますから、その研究成果の一部が封じられているかもしれません。
…ただ、研究の内容が内容だけに、少々怪しい気もしますね…。」
「あれっ!? エリクシールは不老不死の薬じゃないのぉ?」
「エリクシールは全ての病と傷を癒す薬とされていますが、『不老不死をもたらす』とは
伝えられていません。
もっとも、『不死の薬』や『蘇りの薬』など作り上げてしまった日には、『魂の輪廻』を説く
教会の教えに反する異端者として、厳しく罰せられることでしょう。」
「………。」
「…それでなくても、エリクシール作りを目指している錬金術師たちは
『聖職者のみに授けられる神聖な治癒の法術を冒涜している』
として、教会から冷たい扱いを受けているのですよ。
『あくまでも一部の強硬な勢力の行い』というのは理解できるのですが…。」
「そうなんだ…。」
ビールのジョッキを口に運びながら、ジュリアが相槌を打つ。
「…さぁ、これで大陸南部の探索プランは、ほぼ固まったと思いますが…。」
「そうだね。
まずはカネモリも行き慣れてるモレク鉱山をもうちょっと奥まで調べてから、砂上墓所に
行ってみよ!
…ところでカネモリ、キミは食べないの?
食べなかッたら、ボクが食べちゃうぞ!」
カネモリが話に夢中になっている間に、皿の上の串焼き肉はもう半分以下になってしまって
いるではないか!?
「わわっ! ジュリア、わたくしの分も残しておいて下さいよ!」

 次の日。まだ朝日が昇ったばかりの頃。
「おはよっ、カネモリ!」
すでに旅支度をして工房の前で待っているカネモリの前に、ジュリアが姿を見せた。
最初の目的地・モレクの町まではその日のうちに行くことができるので、荷物はそれほど
持っていない。
「おはようございます、ジュリア。」
一方カネモリは、右手に引き出しがいっぱい付いた大きな木箱。
「うわっ、荷物重そうだね!? 大丈夫ぅ?」
「錬金術師として当然の持ち物ですから、もう慣れました。」
その木箱の中には、精緻を極めた錬金術師の技術で調合された薬や特殊アイテムが整然と
収納されている。
依頼があれば、道具屋通りから遠く離れた居住区まで、木箱を携えて往診に足を運ぶこと
だってあるのだ。
「…さって…と。陽の明るいうちにモレクに着きたいから、早めにココ出なくちゃ!」
「そうですね。噂に聞いた話では、街道の魔物が少々増えているらしいですから。」
「それに、工房にこもって運動不足の依頼者が一緒じゃねぇ〜…」
「うぅ…、それは悪うございました★
ともかく、出発です!」

 こうして、カネモリとジュリアは南都リエステールを後にした。
ふたりが探し求めるものは、はたしてこの世のどこに存在するのだろうか?
まだ見ぬ大地に吹く風だけが、それを知っている。

                                《次回に続く》