『セレスティアガーデン』第2話『買い出しの果てに』 Ending





結果報告その1 ~リリー編~


――中央都市リエステール――
  ――セレスティアガーデン


「ただいま~♪」
「あら、おかえり、リリー、セー。」


 台所で私たちを出迎える店長、そして・・・。

「先輩!? 何食べてるんですか!!?」


 何故かテーブルに着いて、ハンバーガーを食べているヴィオレ先輩。
先輩の前には紙コップに入ったジュースとポテトも置いてあり、その側には『M』と刻まれた紙袋が置いてある。


「店長!? 先輩は一体・・・!?」
「まさか、『既製品』を買ってくるとは思ってなかったわね~。」
「『てりたま』・・・確かに卵を前面に押し出した商品だけど・・・。」

 セーが拾い上げた、ハンバーガーの包み紙には確かに『てりたま』と書かれていた。

 ツッコミ所は多々ある。
まず、『夕飯の材料』なのに『既製品』を買ってきたこと。
次に、既に卵じゃないこと。
そして何より、どこから仕入れて来たの!? 先輩!!?


「これは私の負けね・・・。 まさかこんな手があるとは思わなかったわ。」

 店長が、声を漏らす。
負けって? 何故店長が負け? 何故夕飯の材料の買出しで勝ち負けがあるの?
何故かがっかりする店長。その答えはすぐに分かることになる。



「それで、リリーはどうなの? ちゃんと買ってきたかしら?」
「あ、はい、卵10個、ちゃんと買ってきました。」

 私は、買ってきた卵10個の入った袋を店長に手渡す。
それを受け取り、中身を確かめる店長。

「フフフ・・・。」

 袋の中身を見た瞬間、店長が不敵な笑みを浮かべる。
その表情は、まるでゲームに勝ったような・・・。
…え? 勝ち!? 店長が勝ったってことは、私が・・・負け?


「リリーは正直ねぇ~。」

 やっぱり普通の玉子じゃいけなかったの?
動揺する私を妖しい瞳で見つめながら、店長は続ける。

「けど、本当に卵『だけ』でいいのかしら? 今日の夕食・・・。」
「え? それって、どういう・・・。」



 つまり、この依頼から始まった買出しの真意はこう。
依頼には『卵の調達』とだけ書いてあるが、ヒントとして、『夕飯の材料に使う』と書かれている。
そして、『夕飯の材料に使う』ということは、それを食べるのは私たち。
だから、普段よく食べる『普通の卵』を買ってくればいい。

 ここまではセーの協力もあって、なんとかたどり着いた答え。
けど、この問題には続きがあって・・・。

 店長の意向としては、『私たちの買ってきた材料で夕飯を作る』ということだったのだ。
もし私たちが、卵と、『卵料理の材料』を買って来たら、店長はその『卵料理』を作るし、
もし私たちが、卵のことなんか忘れて、『自分たちが食べたい料理の材料』を買って来たら、店長はその料理を作る。

 そして、もし私たちが、卵『だけ』を買って来たら・・・。


「はい、目玉焼き決定~♪」
「え? えーーっ!?」


 当然、卵『だけ』を使って作った料理が、今日の夕食になる。



「これはどう見てもリリーの負けね。」
「そんな~、私がんばったのに~~!!」


 セーはいいよ、いつも水飲んでるだけだし。
別に目玉焼きが嫌いなわけではない。
けれど、一日中リエステールをさまよったというのに、この敗北感は納得いかない。



「リリー、帰ってきたばっかりで悪いけど、マグノリアとシルエラ呼んできてくれる? 目玉焼きぐらいならすぐできるから。」
「・・・はーい。」

 私はがっかりしながら店の奥のそれぞれの部屋に先に帰ってきているらしいマグノリアとシルエラちゃんを呼びに向かう。
そういえば、マグノリアとシルエラちゃんは何か買ってきたのだろうか・・・。





結果報告その2 ~マグノリア編~


「マグノリア~? 竜は倒せた~?」

 何故か店の倉庫で何やら探し物をしているマグノリアに、セーが冗談交じりに話しかける。

「あ? ああ、セー。その話はもうやめてくれよ、この近くにそんな竜なんて居るわけないし。」

 なんだか、昼間に比べると随分テンションが下がっているマグノリア。
表情もどこかぱっとしない。

「あら、じゃあ、どんな竜なら居たの?」
「いや、そうじゃなくって・・・」

 マグノリアの『そんな』を受けて、『どんな』で返すセー。
けれど、そのセーの揚げ足取りも、まともに返す気すらないらしいマグノリア。
そして一言。

「竜殺しはもう止めたの・・・。なんか、冷めちゃったっていうか、まあ・・・。」

 どうやらマグノリアにも思うところがあるらしい。
昼間から今までにどういった心境の変化があったのかは知らないけど、多分悪い変化ではないと思う。
言葉に詰まって苦笑するマグノリア。


「とか何とか言いつつ、あなたが手に持っている『ドラゴンスレイヤー』は何?」
「ああ、これ? これは・・・。」

 マグノリアが倉庫の一画から取り出し、今手に持っているのは、竜殺しの剣、『ドラゴンスレイヤー』。
傍から見れば、先ほどの「竜殺しは止めた」という発言とは矛盾する行動に見える。
しかし、そんなセーの指摘にも動じずに答えるマグノリア。



「ふーん、なるほどねぇ~・・・。」
「マグノリアの剣、いっつもあれだもんね。」

 腕を組んでうんうん頷くセー。
私は、マグノリアが持つそれぞれの剣、柄だけの状態のライトセイバーと、刀身輝く細身の曲剣ドラゴンスレイヤーを見比べる。

「まあ、たまには実体剣使って戦ってみるのもいいかもね。」
「そうだよな、ライトセイバーは軽くて扱いやすいけど、軽いから力が鈍っちゃうしね。」

 そう言って、笑って誤魔化すマグノリアだが、その考えは私たちにはバレバレだった。


 簡単に言うと、相手を殺さずに戦いを終わらせる戦い方をしてみたいのだろう。
マグノリアの使うライトセイバーは、本人の意思に関わらず、光の刀身に触れた者全てを傷つける破壊剣。
その刀身に刃と峰の区別なんてものはない。

 故に、扱い方によっては、相手を殺さずに動きを封じることのできる鋼の刀身を持つ剣を使って、自分の戦闘スタイルを見直してみたいようだ。
 とは言っても、いきなり慣れない剣を持って強敵に挑むわけにもいかないだろうから、まずは余裕のある時に持ち替えてみるぐらいだろうけど。



「ところで、マグノリアは卵とかってどうしたの?」
「それがさあ・・・」


 あえて自分から話したくはなさそうだったので、マグノリアのために話題を変えることにしたけれど、逆にマグノリアの表情は暗くなる。



「「えーーっ!! 一週間卵づくし料理ーーっ!!」」
「ああ、そうなんだ・・・」

 どうやら、マグノリアは卵の調達には成功したようだが、量が多すぎたらしい。
マグノリアが差し出したバスケットの中には卵の山が・・・。

「確かにこれは多いわね~。」
「マグノリア、元気出して・・・。」

 拷問には2つのタイプがある。
1つは、即時的に相手の嫌なことをしたり、それを目の前にちらつかせたりするタイプ。
そして、もう1つは、先に述べた方法を多少弱めたものを長時間かけてじっくりと与えていくタイプ。

 店長の料理は美味しい、が、同じ料理を長期にわたって連続して与えられるとなれば、どうなるか・・・。


「まあ、依頼に『夕飯の材料』って書いてあるのに、一回の夕飯で処理できない量を買ってきたんだから自業自得ね。」
「ちょっと、セーっ!! マグノリア、大丈夫?」
「・・・それはまあ、いいんだ・・・、けど、その・・・、ゴメンっ!!」
「へ?」

 急に私に対して謝るマグノリア。状況が理解できない。
そんな私にマグノリアは真実を告げる。



「えーーっ!!? 私とシルエラちゃんも一週間卵づくしーーーっ!!?」
「ホント、ゴメンっ!!」

 どうやら、マグノリアの買ってきた卵の処理責任は、一緒に調達依頼を受けた私とシルエラちゃんにもあるらしい。
溜息をつく私、頭を下げて謝るマグノリア。

「しししっ!! リリーも大変ねぇ~。」
「コラーっ!! セーも卵食べてよーーっ!!」
「私は水だけしか飲まないもんねーーっ!!」

 一人元気なセー。
無理やり食べさせてやりたい・・・。



「あ!? その卵はっ!!?」

 その時、部屋の入り口の辺りから声がした。

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はい。というわけで、マグノリア再登場に伴い、『竜の溜息』からのフィードバックです。
とりあえずマグノリアが『ドラゴンスレイヤー』持ち出してますが、
やはりメインはこれからも『ライトセイバー』でいきます。ジョブ変わっちゃうし・・・。





結果報告その3 ~シルエラ編~


「あ!? その卵はっ!!?」
「ん? どうしたの? シルエラちゃん?」

 倉庫の入り口の所でマグノリアの持っているバスケットを指差して叫ぶシルエラちゃん。


「シルエラちゃん? その卵がどうかしたの?」

 シルエラちゃんがバスケットの中から取り出した卵は、真っ赤に染まった卵。大きさは普通の卵と変わらない。

「すごい赤だね~。」
「これ、『不死鳥の卵』だって店員さんが言ってました!!」
「え? ホント!? それってすごい貴重品なんじゃ!!?」
「うん、10000フィズはする貴重ひ・・・」

 シルエラちゃんの口から出た『不死鳥の卵』という単語に驚く私。
ところが・・・


「ああ、あの店員ね・・・。 見るからに怪しかったねぇ・・・。 案の定、ちょっと脅してやったらすぐに吐いたけど。」
「え? それってどういう・・・。」

 マグノリアの発言が割って入る。
話の方向が見えないが、シルエラちゃんにとってはあまりいい方向ではなさそうだ。
不安そうに続く言葉を待つシルエラちゃん。

「それ、赤く塗っただけの普通の卵。アイツ、アタシにこれを25万フィズで売りつけようとしやがったんだよ!!」
「えっ!? これニセモノっ!?」
「ああ、店の奥に染めるのに使ったペンキやらなんやら置いてあってバレバレだったから、逆にキズモノってことで1個1フィズで叩いてやったけどね。」


 どうやらマグノリアはその店員を返り討ちにしてやったらしい。
さっきまでと違って生き生きと小さな武勇伝を語るマグノリア。

「あれ? シルエラちゃん?」

 それとは対照的に、口をポカンと開けて呆然としているシルエラちゃん。

「シルエラちゃん・・・? まさか、買ったとか!?」

 シルエラちゃんの顔を覗き込む私とマグノリア。
それに気づき、我に返ったシルエラちゃんは、ぶるぶると首を横に振って、

「その卵は買いませんでした。けど・・・」
「「けど?」」

 言いづらそうにもじもじしているシルエラちゃん。


「・・・ちょっと、こっち来てください!!」
「わ、ちょっと、シルエラちゃん!?」

 私の手を引き、部屋を出ようとするシルエラちゃん。
いや、私より、実際にその店員と遭遇したマグノリアを連れて行った方がいいんじゃないかな。



 そんなわけで、シルエラちゃんの部屋に場所を移す私とマグノリア。
そういえば、セーはいつの間にか姿が見えない。
まあ、居たらかえってややこしくなりそうだから、居なくて正解だと思う。


「で、その『不死鳥の卵』ってことで売られてる、赤い卵は買ってないんだな?」
「うん。」
「じゃあ、何を買ったの? シルエラちゃん?」

 まだ言いにくそうにしているシルエラちゃん。
だが、このままでも埒が明かないので、思い切って発言する。

「・・・・・・うさぎさんの卵。」
「・・・・・・はい?」
「・・・・・・ほへ?」

 うつむいたままのシルエラちゃんに、目を丸くする私とマグノリア。
短い沈黙。
そして、

「アハハハハハハハハっ!!!」
「ちょっと、マグノリアっ!!」

 次の瞬間、大笑いするマグノリア。

「わ、悪い、シルエラちゃん。 けど、『うさぎさんの卵』って!! アハハハハっ!!!」
「むーーっ!!」

 ほっぺたを膨らませて抗議するシルエラちゃん。
マグノリア、ちょっと笑いすぎ。

 仕方がないので私がシルエラちゃんに教えてあげることにする。

「シルエラちゃん。 言いにくいんだけど、うさぎは卵からは孵らないよ。」
「え?」
「だから、うさぎは哺乳類だから、卵からじゃなくって・・・。」
「もしかして、私、騙されました?」

 ようやく気づくシルエラちゃん。
でもまあ、被害総額は150フィズらしい。
マグノリアが赤く塗った卵を1個1フィズで10個ほど買ってるから、ギルド全体では160フィズで11個。
…えっと、トータルでは若干損してる?


「で、その卵は今どこに?」
「あっち。」

 シルエラちゃんの指す方向にはグツグツと煮えたぎる鍋と、その中の卵1個。

「・・・シルエラちゃん? これは?」

 苦笑しながら再度尋ねる私。

「うさぎさん、孵そうと思って・・・。」
「いや、これじゃたとえ本当にうさぎさんの卵だったとしても、ゆで卵になっちゃうような・・・。」
「アハハハハハハハハハハハっ!!! あー、お腹痛いっ!!」

 それを聞いて更に大爆笑するマグノリア。
目が半泣きになっているシルエラちゃん。
えーっと、私、どうすればいいの?


 こうして、『セレスティアガーデン』の夜は更けていくのでした。
私たち3人の卵調達の結果は散々たるものでしたが。




最終更新:2007年05月04日 16:21