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(お願い・・・お願い! 助けて・・・セイジ様!!!)
「・・・?」

 授業終了のチャイムが大音量で響く中、彼は思わず首をひねった。


  ―――ここは日本。事件と言う事件は多々有れど、基本的に市民として生活するうえではそこはかとなく平和ではある。


 もちろん、霊的事象なんかもテレビなどで取り上げられるが、そんな物は所詮テレビ企画で、面白おかしくでしかない。
 その中で彼――――宮守誠司は、確かに『声』を聞いた気がしたのだ。
 しかし、彼は『気のせいだ』と割り切る。
 それはそうだ。声を聞いた。女の声だ。だが、そうは言っても、女の声などその辺の女子が喧しく騒いでいる。
 ―――何をそんなに大声で話しする必要があるのか。そう思いたくなるほどに

「やっぱ、女の子って言えば、こうさ。もっと落ち着いた感じって言うか。大人な人が良いよな」
「・・・誠司、お前は何でこうタイムリーに話題を振って来やがる」

 そう誠司は友人の一人に―――もちろん、他の女子達には聞こえぬように―――そう声を掛けた。
 その友人と席を立ち、共に学食に向かう。共に寮に住む仲間だ。弁当を作ってくれる女の子もいないし、飯は自然とそうなる。
 クラスメイトの女子から離れ―――もっとも、学食組みも居るだろうが、クラスの外から出れば、よっぽど仲が良く無い限り、把握される事なんて無い―――友人は、先ほどの話を続ける。

「・・・まっ。確かに俺もどちらかって言えば、騒いでいるよりもひっそりと咲く一輪の花って方がタイプだけどな」
「その気障な例え方はどうかと思うけど、オレも割りとそんな感じだな。明るい子は好きだけど、騒がしいのは好きになれねぇよな」

 ただ、そんな話も学園生活であるから許される雑談の一つだ。
 後は、進路が決まっていないとか、彼女が欲しいだとか。漠然としか判っていないが、そういった事を望んでいる。
 進路。今決めた事が、将来そうなるという絶対の確証は無い。有るのなら、皆が皆『金持ちになる』とでも書きそうな気がする。
 それに、彼女。もちろん誠司はクラスでは明るいし、良く喋る女友達も居る。だが、そいつらを彼女にするかと言えば微妙で、やはり楽しい友達どまりなのだ。

「やっぱさ。同学年じゃどうも子供っぽいんだよ。化粧とかしても垢抜けないっていうかよ」
「それは同意だな。ならどうだ誠司? 今日、駅前にでも出かけてみないか?」
「おっ♪ いいねぇ~!! あー・・・でも悪ぃ。今日は部活あるからな」

 オレの意見に同調した友人が、詳細は言わないものの提案を仕掛けてくる。
 詳細を口にする必要は無い。暗号みたいなモノだ。
 判りやすく言うならば『ナンパ』の事である。
 だが、学校の中で平然とそんな会話をしていれば、教師からこっぴどく注意されかねない。
 だから、あくまで抽象的な言葉で話すことにより、お上の人には判らないようにしているのだ。
 しかし、生憎と今日は日が悪い。流石に『この学校を受かったオレ』は、部活を休むワケには行かないのだ。
 言い方をちょっと印象的にしたのにはワケがある。
 つまり、スポーツ推薦という奴だ。中学の全国大会でもそれなりに成績を残したオレは、この学校を勉強ではなくスポーツで入る事が出来たのである。
 だけど、全国で一位とか、そう言ったレベルの話じゃない。宙ぶらりんと言えばそれまでだ。
 そんなオレが、スポーツで食っていけるかといえば微妙で、やはりスポ推薦での部活と言うリスクを背負う上に、勉学まで取り組まなければならないのだ。
 ・・・・正直、やってられないと言えばやってられない。

「さすが、一年スポ推薦の期待のエースって奴ですか」
「じゃねぇとオレの学園生活がマズイだろ」

 そんな話をしながら、オレは学食へと向かうのだ。
 今日は、カレーうどんでも食べておくか。とでも考えながら―――――





 はっきり言おう。全然面白く無い。

 いきなりこう言われると戸惑うかも知れないが、現状全然面白くないのだ。
 スポ推薦で入った以上、それなりに実力の程を見せなければならない。
 しかしだ。部活に入っている全員が全員そうとは言えない。
 例えば、普段タバコを吹かしているような不良生徒。
 それが同級生なら何の問題も無い。
 問題は、“それが先輩であるという事”なのだ。
 はっきり言って、実力はオレの方が上だ。
 稽古で試合をするとなれば、本気で掛かれば5秒で一本を取る自信がある。
 だが、そんな先輩の顔を立てる為と言うだけで、わざと手を抜かなければならない。
 そうなると、今度は逆に顧問からは『やる気が感じられない』と取られてしまう二律背反にあたるのだ。
 もちろん、大会となれば話しは別だ。
 ・・・だが、それでも。こうして手加減する事の方を学んでいる自分はひどく腕が落ちたように感じるのだ。

「マジだりー・・・」

 寮の部屋に戻り、靴も脱がずに玄関に倒れこむ。
 別に気絶したとかそう言うわけではない。行儀が悪いと言われても仕方の無い状態だが、
 それでも、誠司は今の状況にモチベーションも落ちていた。

(あー・・・床冷てー・・・このまま寝ちまうのも良いかなー・・・)

 誠司はそう思い、目を閉じた――――刹那。

『・・けて』
「え?」

 ・・・ふと。
 どこからか、声が聞こえた。

『・・・すけて』
「て? ・・・助けて?」

 ゆっくりと誠司は起き上がり、部屋の奥へと向かう。
 そこには、ありえない。非現実的な光景が広がっていた。
 どこか儚げなもやもやとした映像っぽい少女の姿。
 その後ろに広がっている青い空間。
 思わず誠司は半身引いた。

『助けて・・・セイジ様』
「!? オレの事を・・・知っているのか・・・?」

 そっと、その幻覚の少女が手を差し伸べてくる。
 その手へと、誠司はゆっくり手を伸ばし、
 そして、触れた!

「うあ・・!!」

 まず、ぐいっと、手が引っ張られる感じ。
 その後、地面ごと吸い付けられるように青い空間へと飲まれていく!

「うああああああ!!!!!」

 誠司の叫びも虚しく部屋に木霊し


 ――――後には、主の居ない部屋がしんと静まり返って残っているだけだった