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―5―





「ふふ、それは~甘いですよ~」
突然、ディンの剣を受け止めるように広げられる傘。
――いや、”ように”ではなく、まさにその攻撃を受け止めるために彼女は傘を広げていたのだ。
「なっ……!!?」
信じられない、といった声を上げるディン。
傘など、いくら頑丈に作ろうとも所詮は布きれと骨だけのもの。 パラディンナイトの剣を受けきれるものでは無い。
……だが、目の前では、そんなありえない事が確かに起こっていた。
「……言い忘れたけど、ねーちゃんはマージナルの特殊職の”エンシェント”だよ」
「エンシェント?」
「そ、ねーちゃんの傘にはラジカルシールドっていう、エンシェントの防御魔法が何重にもコーティングされてる」
余裕な表情で、そんな解説をいってのけるリーゼ。
”知られたところでどうにもできない”と判っているのだろう。
……確かに、それが本当であるなら、彼女の傘に対して単純に攻撃を叩き込んだだけでは、簡単に弾き返される。
それは、恐らく魔法でも同じコトだ。
「ふふ、そういうことですよ~、ディンさん」
「……くそっ……」
相変わらずののほほんとした微笑みを浮かべて、カノンは傘越しにディンに語りかける。
その間にも、何度か斬りつけようとしているが、全て傘の表面に触れた時点で弾き返される。
「それと~、傘を広げていても~呪文詠唱はできますので~」
「――まずい!? ディン、離れるのじゃ!!」
カノンの言葉を耳にして、直後に起こる『何か』を予測したのか、とっさにそう叫ぶエミリア。
そして同時に、杖を地面に突き立てるようにして、自信も呪文の詠唱に入る。
「くっ……!」
エミリアのその言葉に従い、ディンはカノンの目前から離れるように後退する。
その直後、カノンは広げていた傘を前方に付き出したまま閉じ、短詠唱の呪文を口にし始めた。
「力よ 我が内より出で 撃ち抜け――」
「――我が前に出でよ! フローズンピラー!!」
相手の呪文が完成する直前に、エミリアの召喚した氷柱がカノンとディンの間に並び、直線状の攻撃を防ぐ壁となる。
それは、エミリア得意の氷壁の防御展開だったが……
「――ラジカルインパクト」
カノンはかまわずに一度閉じた傘を勢いよく開きながら、魔法発動のキーワードを唱える。
その直後、開いた傘から猛烈な衝撃波でも発せられたかのように、彼女の目の前に展開していた氷の壁が一気に粉砕し、それは大小様々な氷の破片となって、散っていった。
今彼女が放った魔法は発動前のアクションが大きく見切られやすい上、一度傘を閉じなければならないので一瞬無防備になり、さらに射程がかなり短い。
……ディンが後退せずに傘を閉じた瞬間を狙ってくれば、彼女と言えど危うかっただろう。
しかし、その威力は驚異的で……詠唱終了と発動までの間に、力を溜めるような”間”があったのは救いだった。
ディンはすでにその衝撃波の実効射程外まで移動しており、飛び散った大きな破片が数個身体に当たったが、ダメージらしいダメージはなかった。
「よかった……」
思わず、そんな声が口をついてでてきた。
しかし、それはたまたま後退という対応が早かっただけで、自分の放った氷壁は実際は何の役にも立っていない。
ただでさえ失いかけていた自信が、さらに小さくなっていくのが自分でも分かる。
「レイザーストーム!!」
「…くあっ!?」
そうこうしている間に、ティールとリーゼの打ち合いにも動きが見え初めていた。
ブレイブハートを本格的に発動し、身体能力の底上げを行ったティールと、条件は最初からかわらないリーゼ。
まだほんのわずかにリーゼの方が速力ではリードを見せているものの、今の状態では総合的にティールの方が上のようだ。
「イリス!」
「我が右手に集え紅を纏う火精 我が左手に集え緑旋を宿す風精 我が力を糧に一つとなりて敵を討て! ブレイズウィンド!!」
何度も高速で槍を突き出す連続技――レイザーストーム。
直撃こそ避けたもののそれを受け、なんとか逃れたリーゼに向けて、イリスが火と風の統合魔法を放つ。
その威力は精々中の下、ダメージ自体はそれほど期待は出来ない。
「くっ…」
しかし、その性質は多少なり勢いのある火を伴う風で、炸裂する範囲も広い。
加えて、セイクリッドは光以外の魔法に対する耐性が低く、牽制にはそれだけでも十分だった。
「エリアル・ブレイカー!!」
それを回避するために飛んだ先に、体勢を立て直したディンの姿。
空中にいる敵を地面に叩き落とす振りの一撃が、その身体を捕らえていた。
「”ワルツ”」
「なっ!?」
――が、紙一重のタイミングでカノンの傘がコマのように高速回転ながら飛来し、その刀身を横から弾く。
僅かに軌道を逸らされたディンの一撃は目標の身体のすぐ横を通り過ぎ、攻撃を阻んだ傘はそのままの回転を維持しながら主の手元に戻っていった。
「……さすがに、今のはヒヤッとしたな……」
「そっちも大したチームワークだよ。 4体2で互角なんて、わざわざ挑んでくるだけあるね」
「はい~、チームワークには~自身がありますので~」
くすっと微笑みながら、カノンはそう口にする。
……現に、この二人は自分自身とパートナーの特製をよく理解し、その隙を上手く埋め合っている。
加えて、個々の実力も決して半端では無く、ソロで行動しても一流の支援士としてやっていけるかもしれない。
「……でも~、本当に互角なんでしょうか~?」
突然、スッ…と、ティール達へと視線を向けたまま、目を細めるカノン。
その表情はこれまでに一度も見せた事の無いもので、言い知れぬ恐怖のような感覚が背筋を走っていくのを感じた。
「こころの要因で~全力を出せないということはよくありますが~……そのせいで~勝てる戦いをフイにするのは~、より大きな悔いが残りますよ~」
「――!!?」
そこまで口にすると、カノンは細めていた目を元の微笑みに戻し、遊んでいるかのようにくるくると傘を回し始める。
……最後の瞬間のその瞳は、紛れもなくエミリアに向けられていたのだが……
「ねーちゃん、なに言ってんの?」
「いいえ~、なんでもありませんよ~」
結局、どこかうやむやなままにして話を終えるカノン。
リーゼもどこかふに落ちない感覚はしたのか、その顔は頭上にハテナマークが出ていそうなものを見せている。
「……ま、いいか。 そろそろボクも本気でいかせてもらおうかな」
しかし、次の瞬間にはやはりこれといってひきずることなく、ティール達の方へと振り返っていた。
ただ、もはやそんな事は関係は無く、問題はその瞬間に口にした一言である。
今までは、多少力を制限していたとでも言うのだろうか?
――そうこう考えていると、リーゼは双剣を鞘に収め、そのままその手を上空に向けて差し上げ、高らかに宣言するかのように、口を開いた。

「――開け、轟雷宮の門――我が呼びかけに応え、ここに出でよ! 『ライトニングエッジ』!!」

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