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―セントラル・インテリジェンス―



新聞……それは世間の情勢を十数枚の紙面に書き込み、時に写真も交えることで多くの市民に真実を伝える、世界をうごめく情報の発信元の一つ。
しかし、その情報も集める者がいなければ紙面に載る事もなく、誰にも知られずに消えていくが定めだろう。
世の人には、知る権利というものがある。
それは例えばダンジョンの情報だったり、新たに発見されたアイテムがどんなものかだったり、強いては教会や騎士団の利権争いだったり……
民衆は、常に自分の目では知り得ない世界の情報を求めているのだ。
そしてそれを可能にするのが、新聞……加えて言えば、その新聞を制作する新聞記者の役目である。




「さあアーレスくん、今日もスクープ求めて行きますよ!!」
「ま、待ってくださいよメイ先輩。 今日は『黒の錬金術師』さんの取材に行くんじゃ無かったんですか?」
黒の錬金術師ことカネモリ・タテカワ。
彼はこのリエステールに工房を構える薬剤系の錬金術師で、錬金術の至宝とも言える『賢者の石』と『エリクシール』のうちの、『エリクシール』の製法を見出したという噂が立っていた。
実際、随分前にその材料を捜す依頼を酒場に持ち出していたと言う話も聞いた事があり、当時も彼の工房に記者が向かっていた事はあったのだが、その時は工房を空けていて話を聞く事は出来なかったという。
……今日は、そんな彼の工房に向かってみると聞いていたのだが、今自分達が立っているのは、それとは全く別の建物の前だった。
「今は単に留守なだけなのか、まだその材料とやらが発見されていないのかまでは判りませんが、現在彼の工房は留守なのです。
数日前に一度帰ってきたという報告は在りましたが……その後の所在が掴めれば遠路だろうと取材に行きたいところですが、居場所の情報がないのであれば仕方ありません」
「はあ、それでは、今日はいったい誰の取材に?」
どこか残念そうな顔をしつつも答えるメイと、そのまま質問を続けるアーレス。
「最近発足して噂になっている支援士ギルド『Little Legend』です! 目の前にあるこの建物こそが、彼女らの本拠地との話なのでやってきたのですよ!!」
「ああ……確かに、『聖女(アルティア)』とその『聖女の守(フォルセイナル)』や、あの一年ちょっと前のモレクの新鉱石騒動で聞いた『伝説の探求者(レアハンター)』や『子龍(パピードラゴン)』がメンバーにいると聞いた事があります」
「それだけではありません、なんとあの吟遊詩人……『慈愛の歌聖(イスラフィル)』とも称されるシアさんもがメンバーの一人だと言うのです!! これは是が非でも取材するべきだと思うでしょう!!」
「そ、それは確かに……メンバーだけでも話題性がものすごいですね……」
「風の噂では、あの伝説に伝えられる『虹の精霊王(アイリス)』もいるという話ですが、こちらは確証が無いのでなんとも言えませんね」
「そうですね……では、そのあたりの事実確認のためにも早速……」
「はい! それでは、突撃です!!」
威勢良く拳を振り上げるメイと、そこまでノリきれないらしいアーレス。
彼らが所属する新聞社・セントラルインテリジェンス、通称C・Iの中でもこの二人は有名どころで、リエステールをはじめとした南部では良くも悪くも名前の通った新聞記者である。
一部の不正を働いていると噂される貴族からは何よりも恐れられ、彼女達の手により悪事が暴かれた者は少なくない。
……まぁ、他愛の無いゴシップ記事の方が多いのもまた事実ではあるのだが、自分達も有名で在る事を当人達は知らなかったりする。
「こんにちわ! C・Iの記者、メイ・セルテイシアです!」
さて、まぁそんな些細な事実は空の彼方に捨ておいて、ノックした後に出てきた少女に向けて、とびっきりの(と、本人は思っている)笑顔で挨拶をするメイ。
「同じくC・Iのアーレスです…」
第一印象はどんな相手でも大切で、プロの記者と言えども、取材対象に怪訝に構えられてはうまくいくはずもない。
アーレスには少々勢いが足りない部分も感じられるが、この際気にすることもない。
「C・Iって……ああ、ウチでとってる新聞の人? ……購読料なら三日前に払ったはずだけど」
「いえいえ、今回は最近巷で有名な貴女方に取材をさせていただきたいと思い、お邪魔させて頂きました。貴女はこの支援士ギルドのマスター、ティールさんですね?」
メイは変わらぬ笑顔のまま、目の前の黒服の少女、ティール・エインフィードに語りかける。
ついでに、その後ろで記者の必需品であるカメラを構える写真家系クリエイターのアーレス。
それらの光景を目にして、ティールは少し考えるような表情を見せるが……
「ま、差し支えない範囲だけなら受けてもいいよ。 入って」
少し間を開けた後にそう答えて、大きく戸を開いた。
記者という立場上この段階で門前払いを食らうことも珍しく無いのだが、今回は幸先はいいかもしれない。







「あ、あの……お茶、どうぞ」
家の中に入り、リビングのテーブルを囲んで座る記者二人とティール。
そんな三人の前に、紅茶が注がれたティーカップとシュガーポットを置くのは、巷で『聖女』と呼ばれるリスティ。
……普段からそういった細やかな気の利く彼女ではあるが、過去の経験上から記者というものに好意的にはなれず、その笑顔はどこか引きつっているようだった。
また、一応全体への取材と言う事で呼ばれていたヴァイも、同じような理由で記者と言う存在を決してよくは見ていない。
……尤も、彼の場合はリスティのように表情を取り繕うような事も無く、怪訝な表情を見せたままではあるが……
「ありがとうございます。 貴女のように気配りが上手な女性は、将来いいお嫁さんになれそうですね」
「お嫁さっ……いえ、そんな、私……」
そんな一言を駆けられた瞬間、リスティはちらり、とヴァイの方へと視線を向け、顔を赤くして口をどもらせていた。
ヴァイは相変わらず表情も変えず、その心中をはかる事は出来ない。
「ふむむ、まぁリスティさんとヴァイさんの仲については、フォーゲン氏の件の後の『アルティア失踪』からの周知の事実。 取材する事も在りませんよ」
「あ、あぅ……」
さっきまでティーセットを載せていたトレイで赤くなった顔を隠すようにするリスティ。
……ヴァイとの関係を露骨に尋ねられる事は、実のところこれまでほとんど無かった。
それは今メイが言ったように、いわゆる『駆け落ち』まがいのことをするほどの仲であるとか、時折町中でデートしてるのを見かけるだとか、情報を肯定させるには十分な要素がそろっているから、という理由である。
「もちろん”YES”という本人の言葉があれば購読者の反応も少しは変化すると思いますが、今更言われても『あ、やっぱり?』程度だと思います」
笑いながらそんなゴシップの解説を続けるメイ。
このギルドの中では二人の関係性など本当に今更な事であり、あえて話題にするような事も無かったのだが……考えて見れば、『外』のそういった評価を気にした事は無かったかもしれない
「下手に名前が売れているのも難儀なものじゃなぁ……」
やれやれ、とばかりにそんな言葉を口にするエミリアだったが……
「あら、エミリアさんとディンさんの関係も似たようなものですよ? まあ、話題性ならリスティさんとヴァイさんの方が若干上でしょうか」
「……そ、そうなのか?」
これまでそういったゴシップには関心もなかったが、まさか自分がその対象になっているとは思いもよらなかったらしい二人。
ふふふ、と笑うメイの顔が、ヴァイとリスティ、そしてディンとエミリアには、小悪魔じみて見えていた。
「それにそういったゴシップならば、これまでただの一度も男女関係の噂がないティールさんの方が、世間的興味が集まりますね」
「私?」
「ええ、貴女は……そうですね、十四から二十歳くらいの男性から好意的に見られていますね。
他社の記事になりますが、ある雑誌で『彼女にしたい女性支援士は?』というアンケートで、上位に食い込んでいるのですよ」
「ふーん」
まるで他人事のような反応を見せるティール。……いや、興味はないと言った方が適切だろう。
ちなみに、その雑誌に寄せられたコメントをいくつか挙げると……
『あと二、三年もすれば絶対美人になる』
『可愛いくせに凛々しかったり強いし、守られたくなるね』
『全財産を報酬に、結婚を依頼したい』
などというのが揃っている。
まあ、彼女以上に人気のある女性支援士もいるのだが、この場で語るのは控えることにしよう。
「ではせっかく話題に出したことですし、男性関係など聞いてもよろしいでしょうか?」
「……それじゃあ簡単に…………私が恋した相手は、この14年間で一人だけ。 彼は、戦い方を教えてくれた師であり、身寄りのなかった私を育ててくれた親であり、だれよりも好きな一人の男性だった」
相変わらず表情を変えずに、淡々と口を開くティール。
その言葉に感情はあまり感じられず、まるで他人のことを話題にしているかのように、語りを続けていた。
「私にとって、あの人は絶対的な存在だった。 だから、あの人が私の前から消えてしまった時は、自分も、そのまま消えてしまいたいと思っていた。
……けれど今を生きているのは、あの人の”何が何でも生き残れ”という言葉があってこそで……私が生き続けることが、あの人へ恩を報いる唯一の道だって気がつけた」
「ふーむ、なかなかハードなお話なのですね」
さらさらとメモ帳にペンを走らせて、話を聞くメイ。
アーレスはその横から、過去を語るティールの姿をファインダーに収めている。
「では、もう男性と関係を持つ事は考えていないのですか?」
「んー、恋なんて偶発的な出会いの発展に過ぎないわけだし、その時が来たなら私もまた恋するだろうし、こなかったら一生独身。 それだけの事だよ」
「またえらく消極的な考え方ですねぇ」
「そんなこと言われても、今は色恋沙汰になんて興味が無いとしか言えないよ。 あと、性質の悪いストーカーは返り討つからそのつもりで」
最後の一言は、あははと笑いながら答えてはいたが、返り討つという一言に関してはかなりの威圧感のようなものが含まれているように見えた。
実際、過去一度だけ彼女に性質の悪いストーカーが一人いたが、言葉通りに叩きのめされていたのが現実である。
色々と迷惑行為が続いていたのもあったので、ジャッジメントの裁判でも正当防衛として片づけられていた。
……ついでに言うなら、事後もティール本人は全く意にも介さないという斬り捨てぶりで……まさに”始末した”とでも言うような勢いだったりする。
「ふむふむ、なかなか興味深い話でした。 ……ところで、話を聞く限りではその男性はもう……?」
「命を救って貰ったっていうのは、一度しか使えない空間転移魔法で飛ばされたってことなの。 だからあの人が死んだ瞬間をこの目で見たわけじゃ無いから、どうなったかは知らないし、生きてると信じたいけど……
どの道、あの人も私も、この大陸から見れば異世界の住人。私が元の世界に還る手段がない以上、生きていたとしても会えはしないよ」
この一言に限っては、ここまでの取材の間、一度も見せた事が無い悲しみの感情を僅かにその顔に滲ませていた。
――因みに、彼女が異世界の住人であると言うのも、『異国の通貨』を手にしていたという事実もあり、前々から噂されていた事である。
それゆえに、メイはそれに関する一言は耳にはいっていたが、あまり大きな反応は見せなかった。
……しかし、恐らくその心の内では、彼女をとりまく噂のひとつに確証がとれたという事に喜々としているかもしれない。
「うーん、なかなか難しい話のようですね。 まぁ、貴女の恋愛感と、その裏にある大体の事情は理解しました。 ありがとうございます」
「ま、別に隠してる事でもないしいいけどね」
まあ、今の取材内容が新聞の一面に飾られた後に、彼女に好意を持っているという男達がどんな行動に出るかは少々覚悟しなければならない気もしてくる、と思っていたのはまた別の話。
いずれにしても、いちいち構っているとやりきれないのは確かである。






そして、そこからはメンバー全員に対してこまごまとした取材を続けるメイ。
アーレスは、取材には直接絡むことは無いのか、ひたすら要所でカメラのシャッターを切るばかりだった。
取材の内容については、『どうしてこのギルドに属しているのか』とか、『自分の周囲から向けられている評判についてどう思うか』とか、『メンバーはまだ増やす気でいるのか』など、個人に向けるような問いから、ギルド全体への問いまで様々なものを織り交ぜられている。
中にはヴァイとリスティ、ディンとエミリアに対して『結婚はいつとか考えてますか?』などという問いも存在していたが、それについては二組両方に完全に受け流されてしまい、結局解答を得るには至らなかった。
……そんな中で、ふと『聖女殺害事件』の事が話題に上がってしまう。
「……」
そう、ヴァイが記者という人種を嫌う最大の要因であり、時にはその剣をもって情報を求めてくる記者を退散させたというほどの、一つのトラウマである。
その話が矢面に出た瞬間、ヴァイを中心にリビングの雰囲気が一変していた。
……その当人は、まだ無言を保ってはいるが、話の動きによってはその腰に下げたフェルブレイズを抜きかねない、という可能性もあるだろう。
「……あー、失礼しました。 ですが話題として出してしまった以上、”私は興味はないから言わなくていい”などとは言って取り消すのは潔くありませんね」
「…………貴様も記者なら判っているだろう。 その話は、興味本位で聞き出すようなものじゃないと」
メイのその言葉に、さらに殺気を尖らせ始めるヴァイ。
その場にいる一同の背に、緊張と冷や汗が走る。
……実際、過去彼に向かってそれを問いただした記者達は、軽々しく扱う事は出来ないであろう重大なことと判っていながら、自らの興味を満たすためだけに彼や教会へと殺到していた。
その結果はすでに周知の事実であり、当時の記者の間では一つの黒歴史、更に言うならば、禁忌の事象として扱われている。
「……コホン。 失礼ながら、先程の発言を改めさせていただきます。 その件についてでしたらヴァイさんのお気持ちも重々承知しておりますし、過去その件を貴方から問いただそうとした記者の方々がどうなったのかも承知しております。
ですが、当時のコトに関してはフォーゲン元神父の一件から我々新聞社にも断片的にですが知る事となっていますので……詳細な事柄についての興味が無いわけではありませんが、貴方の意思とノアさんの心を尊重する意味も込めて、わが社では必要以上に追求しないものとして考えております
……先の問いは、私の失言でした。 お詫び申し上げます」
ソファから立ち上がり、ここまで一度も見せなかったような神妙な顔を見せて、大きく頭を下げるメイ。
何も言わずに撮影に集中していたアーレスも、これについてはメイと共に同じように頭を下げていた。
「…………次は無いぞ」
その動作を目にしたヴァイは、深い溜息をひとつつくと、肩の力を少し抜いて”この場は”許すという意思を見せる。
実際、アルティアの英知がリスティの身に宿り、その事が新聞にも大きく取り上げられたことの派生として、その原因となったフォーゲンと当時の副司祭の行為についても、ある程度は一般的にも知られることになっていた。
その時もまた、教会などから『アルティア奪還』の依頼を受けた支援士と共に、一部の記者が再び当時の証人の一人であるヴァイを追おうとしていたのも事実ではあるが……
前回の事件の事もあり、実際に彼の元までたどりついた記者の数はそれほど多くは無かった。
……尤も、そんな彼らに対しても、ヴァイは一切のコトを黙秘したままでいたのだが。
「あれ? 見た事ない人がいる」
「あら~、お客さんでしょうか~?」
……そんな時、それまでの緊迫した空気をぶち壊すかのような声と共に、奥の部屋へと続く通路から三人の少女が現れる。
一人はティールの『娘』であるイリスで、比較的小柄な体型をした別の少女に肩車されている。
その様子から、後の二人は今の今までイリスの遊び相手を任されていたと言うのが見て取れた。
「ん、どうかしたか?」
「いや、なんかさわがしいなーと思ったんだけど、なんかあったの?」
カノンとリーゼのエルヴィオン姉妹。
世間的にはカノンの『アンブレラ』という異名から有名になったと言われている二人姉妹の支援士のチームである。
……リーゼは、姉にだけ通り名があることにちょっと不満を抱いているようだが、実際は彼女にも『ライジング』という通り名は存在している。
ただ、姉の方が先に名前が目立っていたために、現状はどうしても『アンブレラ』の影に隠れてしまっているのである。
「ママー」
「おっと……イリス、リーゼ達に遊んでもらってたの?」
「うん。 ママ達は、何をしてるの?」
「んー、お客さんとお話中だよ」
リーゼの肩から降りて、ティールへと駆け寄るイリス。
なんとなく、一瞬リーゼの顔に悔しさのようなものが見えたのは気のせいだろうか。
……尤も、イリスは世界で一番ママが好き、と平然と言うかのような子どもである。
恐らく、誰が間に入ろうとその気持ちを揺らがせる事は不可能だろう。
「ママ……って、その子はいったい? さすがに実子と言うには無理があるように見えますが……」
無理があるもなにも、ティールは現在14歳で、イリスは外見的には8歳であり、外見だけで言うならば不可能である。
まぁ、イリスの実年齢は0歳で人間ですらないのだが、事情を知らない者にとってはそんな反応が普通だろう。
彼女の反応から察すると、どうやらアイリスの騒動についてはそこまで詳しく噂は広まっていないようだった。
「うーん、この子の親が死んだらしくて、たまたま私が見つけたから引き取って面倒見てるんだけど、なんか私の事をお母さんって思ってるみたいで……」
となれば、コトを大きくしないためにもそのくらいの説明が適切であるが……まぁ、嘘は言っていない。
考え方にもよるが、『産みの親』にあたるかもしれない先代が死んでもういないのは確かであるし、刷り込み効果でティールを親と思っていると言えばそうであるのだから。
「ふむふむ、それは大変ですねぇ……お腹を痛めて産んだわけではないとはいえ、14歳の身で一児の母とは……」
そして、早速とばかりにメモをするメイ。
……時には変に騒がれてしまう真実よりも、一時期噂になるだけの虚構のほうが気が楽だったりもする。
「……あのさ、ボクの質問聞こえてた?」
「まぁまぁ~、そんなに~急かすこと無いと思いますよ~?」
とかなんとかしていると、どこか引きつった表情で口を挟んでくるリーゼ。
そういえば、イリスの話が出る直前になにか言っていたような気がする。
「あ、カノン、リーゼ、ごめんごめん……えーっと……この人C・Iの記者だってさ。 ウチを取材したいっていうから、受けてあげてたの」
抱きついてきたイリスをそっと放して頭を撫でながら、リーゼの問いに答えるティール。
抱きついてきた後に傷つけずに引き剥がすのは、彼女にとっても実は結構気を使う作業だったりする。
「……新聞記者? へー、あんたらそんなのが来るくらい有名だったんだ」
「このギルドの方々は~結成前から個々でも有名でしたからね~」
いつもはその通り名に従うかのように、日傘と改造されたローラーブレードを身につけている二人だが、さすがに室内ではそれぞれ手元から外していた。
「カノンにリーゼ……まさかエルヴィオン姉妹ですか!? 風来坊で捜してもなかなか捕まらない二人がなぜここにいるのですか!!?」
が、なんだかんだと言っても二人もそれなりに名を持った支援士。 新聞記者の目に留まれば、即座に話題の中に引き込まれるのは必定である。
加えて言えば、たった今口走ったメイの言葉の通り、ある日リックテールにいたかと思えば2~3日後にはリエステールにいたり、かと思えば十六夜に顔を出したり、この二人はこれまであまり一箇所に留まる事が少なかった。
それゆえに自宅がどこにあるのかは本人達しか知らず、他の人達は所在を掴むことすらも難しいチームなのである。
「うーん、ここしばらくはこの町(リエステール)を拠点にしてるから、暇な時に遊びに来てるだけだよ」
「そうですね~。 ですから~なぜと聞かれましても~単に気まぐれとしか~」
実のところ、そんなふうに拠点らしい拠点を持たない生活を繰り返していたがゆえに、二人とも友達が少なかったりするのが大きかったりもするのは、この二人だけのヒミツである。
居心地のいい場所ができると、自然とそこに居座ってしまうものなのだろう。
「遊びに来てるというと……頻度はどのくらいなんですか?」
「うーん、仕事もあるからさすがに毎日は無いけど、ボクは週一回か二回くらいかな? 」
「うち一回は~、私もお邪魔している事が多いですね~。 時々泊めて貰う事もありますし~」
「なるほど。 ……しかし、ここのメンバーでは無いんですよね?」
「まぁね。 まぁ、一番近いのは……友達ってところ?」
……友達、と言われて少し考え込むギルドの一同。
確かにその言い方が一番しっくり来るかもしれないのだが、出会いが道場破りというどこかぶっとんだものだっただけに、そう言われても微妙な気分は拭い切れない。
「むむむ……これまた興味深い要素が増えましたね……フィズはフィズのあるところに集うといいますが、名は名があるところに集うとでも言うのでしょうか」
「いや、多分偶然だから」
尤も、この中にいるメンバーのほとんどは、自分自身がそれなりに有名であるという自覚は無く、他のメンバーは有名なんだろうと認識していたりするのが皮肉なところ。
加えて言うならば、カノンに至ってはただの一度も名声に対して気にかけた事が無く、自分の『アンブレラ』という名に対しても、何度かそう呼ばれたから、程度の認識に留まっている。
「……そういえば、ここに来る有名どころの知り合いというと……クローディアさんもそうじゃありませんか?」
「おお、確かにそうじゃな。 『白麗の戦姫(ホワイト・ヴァルキュリア)』、『プレスコット騎士団長』と言えば、リエステールで知らぬ者はおらんと言うしのぉ」
「あと、『ひだまりの旅人(サニーウォーカー)』のソールと、ヒミンにマーニも時々くるよね」
この場にはいないものの、記憶の中にある比較的名の通っている支援士の名を上げるリスティとエミリア、そしてティール。
とはいえ、クローディアは実家の都合や騎士団の団長という立場上月に1度か2度顔を出す程度であるし、ソール達妖精三人組はイリスの様子を見に来るためと言っているが、その周期は完全にきまぐれで不定期である。
……それでも、対外的には名のある人達とつながりがあると言う事には変わらず……
「こ、これは凄いです!! メンバー個々の知名度もさることながら、ここに訪れる客人も”エルヴィオン姉妹”に”白麗の戦姫”、しかも町中ではほとんど見かける事が無いといわれている”ひだまりの旅人”まで!!
ゴシップ性にはやや欠ける面もありますが、メンバーとその友人関係だけでも、とんでもない話題性を秘めています!!」
メイは、かろうじて冷静さを残しつつも、その名の集い方に対して思いっきり吠えていた。
ちなみに、ソールは人間としての存在を知られているのだが、ヒミンとマーニは普段身を隠しているためにほとんど知られておらず、その二人の名前についてはすでに耳には入っていないようだった。
「……そこまで言われると、名前ばっかりで力が伴ってないみたいに思われそうな気がしてくるんだけど」
そして、なんとなく浮かんだそんな懸念に苦笑するティール。
実際そこまで名が売れているという自覚がなかっただけに、目の前の女性の反応はかなり滑稽に映っていた。







――夕方。 日も傾き、空が赤く染まる時間――
「いやー、今日は久々に実りのある取材が出来ましたねぇ。 社会の裏に通じるような黒い話もなかったのがなにより気持ちいいいです」
結局、メイとアーレスは夕食前までリビングに居座り、リーゼとカノンも取材の中に巻き込んで、ホクホク笑顔でC・I本部への道を歩いていた。
「確かに、あれほどまで名の在る人達が集まっているとは思いませんでした。 僕としても、彼らの姿をフィルムに収められて感激しています」
……なお、アーレスが取材中に発言する隙が無いのはまぁいつもの事なので本人もほとんど気にはしていない。
むしろ、写真に集中できて都合がいいとまで考えている様子である。
「取材とは何かを『聞き出す』のではなく、何かを『喋らせる』ものである!! とは言いますが、今回ばかりはこちらが手玉に取られていた気分です」
「ははは……あの、そんな事言ってるから取材を嫌われるんじゃ無いでしょうか」
「嫌うと言う事はなにかやましい事があると言う事ですよ。 まぁ逆になんの躊躇も無く受ける人も怪しい部分もありますが……」
「でしたら、ティールさんくらいが怪しく無いということですか? 受けると言う前に少し考えるような様子がありましたし」
「まぁ、私なりの目安でしかないので、この言葉も当てにしすぎないで下さい。 記者がすべき事は一つ!!」
「『現実を書くのでは無い、真実を描写するのです』 ですか? その格言はもう聞きあきましたよ。」
ははは、とどこか呆れたような笑顔を見せてそんな事を口にするアーレス。
とりあえず、今彼が口にした一言は、メイの記者魂に刻みこまれた、座右の銘であるということだろう。
……とりあえず、この二人は先輩後輩の関係ではあるのだが、あまり序列は感じさせない雰囲気を放っていた。
「むー、素晴らしい言葉だと思うのですがねぇ」
「はいはい、素晴らしいです。 それより、今度はどこに取材に行くつもりですか?」
「そうですね……ギルドと言えば『セレスティアガーデン』にも一度行っておこうと思っています」
「ああ、確かにあちらも最近急激に名が売れてきていますよね」
セレスティアガーデン。
そこは支援士ギルドとしての総合力は高く、道具屋として見ても何でも揃う店として、最近かなり有名になってきているギルドの一つである。
ただ、なにやら店の内部で大爆発が起こったり、内側から妙な光線が発射されて倒壊しても、次の瞬間には何事も無かったかのように元に戻っている、という不可解極まり無い店であるという噂もあり、記者達も少々足が向きにくいという点があるのは否めない。
「まぁ、今日は夕飯の時間も過ぎている事ですし、このあたりで引き返す事にしましょう。 今日の取材を纏めなければいけません」
「そうですね。 こちらの写真も現像しなければ……」
「さあ、新聞記者の仕事はここからが本番です!! 集めた情報をいかに判り易く! 緻密に! そして明瞭に纏めること!!」
どこかであったように夕日に向かって吠えるメイ。
アーレスもどこかつきあいきれないと思う部分もあるようだが、すでに慣れているのか苦笑して受け流している。

メイ・セルテイシア。
セントラルインテリジェンスが誇る名新聞記者(※と、本人は言う)
その自信に溢れた記事は、他の追随を許さないほどに民衆の心を捉えている(※が、信憑性がある記事は二割程度)
彼女が求める末には、いったいなにがあるのか……それは神すらも知り得ぬ、真実と混迷の海の中

今日も彼女は走り続ける。
全ての真実を、その手で記するために。





「――世に真実を求める民衆がいる限り、私の戦いは終わらないのです!!!」







なんかもう色々と自信過剰な短編になってしまいましたゴメンナサイ(汗


※慈愛の歌聖(イスラフィル)
吟遊詩人(バード)のようなジョブ名ではなく、あくまで一部の人がシアの事を称えてそう呼んでいるというだけの、ただの通り名ですw