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リエステール中央図書館。

大陸南部にある図書館の中で最も大きいとされ、大陸中から様々な書物が集い、本の虫なら一度はその足を向ける本好きの聖地である。

そんな大規模な図書館ともなれば、館内の管理やお客の案内、本棚の整理などの役目を与えられる司書の数もそれなりに多いのだが、・・・どこにでも変わり者というものはいるようだ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

まるで泥棒のようにコソコソと本棚の影を移動する影がひとつ。お客が見たら間違いなく通報される不審な動きをしているが、今のところ見つかった様子は無い。

「・・・カロ、何してるの?」

司書の一人に呼び止められて、影の持ち主の体がビクリと弾む。

返事はない。辺りは図書館特有の静けさを保ったままだ。

「こら。そこにいるのはわかってるんだから出てきなさいよ」

影は尚も無言。

それに痺れを切らし、司書はその影に向かってズンズンと進んでいく。慌てて影も逃げようとするが、司書の方が数秒早くその影の腕をつかんだ。

「こらっ!カロ!!」

「うわっ!み、ミロ!?しーっ、しーっ!!」

司書に腕を掴まれた少女は、慌てて人差し指を口元に当てて、司書に「静かに」とジェスチャーを送った。少女の名前はカロ。 ・・・一応この図書館の司書の一人だ。

 

「・・・あんたまたサボってんの?司書長に見つかっても知らないわよ?」

掴んでいた腕を放し、呆れ半分にミロと呼ばれた司書は言った。

「フッ・・・、そんなヘマはしねーぜ」

「威張るな威張るな」

「如何にして効率よく、尚且つ安全にサボるか。・・・まっ、ミロには分かんない話かなー」

サボリについての力説の後、カロはやれやれ、と首をすくめて大袈裟に溜息を吐いた。無駄な事に全力を注ぐその姿は、滑稽だがどこか輝いて見える。

「・・・そう、確かに分らない話ね。それじゃあ、司書長呼んでくるわね」

「あーーーっ!まってごめんストップストップーーー!!」

さも当然、と言った感じで司書長を呼びに行こうとするミロの服を咄嗟につかんで必死で呼び止める。それにしても館内でそんなに大声で叫んでいいのだろうか。正直他のお客にはいい迷惑だ。

「・・・じゃあ、今度ケーキでもおごって貰おうかしら?」

しかしそれに対して、ニッコリと振り返ったミロは普通に交換条件を突き付けてきた。一連の流れに無駄がまったく無いことから、このやり取りもよく行われているようだ。

「おごるおごる!紅茶その他オマケも付けるから!」

「もう、じゃあしょうがないわねー♪」

 

「せいぜい足掻きなさーい」と縁起でもないことを言いながら、ミロはごきげんな様子で図書館の奥へと消えていった。

「うう・・・変な約束しちゃったよ・・・。あたしのお金、大丈夫かなぁ・・・」

しかし、余計なお金まで使うハメになったのだ。今日のサボリは絶対に成功させなければ!

どこか間違った決意を新たにし、ひらりと本棚の上に跳躍。そのまま気配を殺しながら、司書長のいるカウンターから離れていった。・・・正直、司書よりもクレセントの方が向いている気がするのは気のせいだろうか。

 

「・・・ふぅ、ここまで来れば一息つける・・・っと、危ない危ない」

「・・・?だれかいるんですか?」

丁度近くを通りかかった一人の司書が、訝しげにこちらに視線を送る。・・・視線の先にはただ綺麗に配置された本棚と静寂しかない。気のせいか、と呟くと司書はそのまま通り過ぎていった。

―――そして、司書が通り過ぎた後、その本棚の影から音もなくこっそりと移動する人影が一つ。重ね重ね言っておくが、不審者ではありません。

「ふ・・ふふふ・・・この緊張感が何とも―――」

 

「―――・・・何をやっているんですか?」

 

あちらの本棚、こちらの本棚と、まるでどこかのスパイのように身を隠しながら不敵に笑っていると、突然ポツリと背後から声が聞こえてきた。

「何って、サボるために隠れて―――・・・?」

「へ?」と若干間の抜けた声を上げて恐る恐る振り向いた先には、

「・・・カロさん、『また』ですか」

今一番会ってはならない、この図書館の支配者(司書長)が静かにたたずんでいた。

 

「うわああああああ!!??ふぃ、フィロさん!?なんで此処にいるんですか!?」

 

思いもしなかった相手の出現に、思わず絶叫する。そもそも彼女は受付のカウンターからほとんど離れることが無く、離れる時も大抵図書館の本を盗もうとする哀れな盗人の殲滅(カロ視点)で、それもカウンターからそう離れていない所で行われる。だからこそカウンターから遠く離れたここまで来たというのに、何で今日に限って・・・。

「うるさいですよ。館内では静かにしてください」

あくまで冷静に、しかし不機嫌そうにジロリと睨まれて、カロは思わず、両手で口を塞いでしまった。

「それに、それはこちらのセリフです。あなたは今確かC棚の整理をしていた筈ですが、仕事もしないでここで何をやっているんですか?」

 

・・・まずい。

カロの額から、滝のように冷や汗が流れだす。まぁさすがに「サボってました」とは言いにくいだろう。否、言えない。・・さっき口走っていたが。

さてどうするかと、無言のまま目を泳がせて言い訳を必死で巡らせるカロに、フィロはやがて静かに溜息を吐き、ポツリと

 

「もういいです」

 

そう呟き、そして

「へ?あ、もしかして許して―――」

 

「――書物に宿りし者達よ、契約の元、我、フィロ・ミリートが命ず――」

 

・・・許して、くれなかった。

 

「―神話―『霜の巨人』」

そう呟き終わった瞬間、一冊の本が光り出し、そこから3Mを超える身長の巨人が数人、カロを取り囲むようにして出現した。

「ひいっ!?」

「・・・この場所でサボる等という愚行を働くんですから、それ相応の覚悟は出来ていますよね?」

巨人の中心でへたり込むカロに、フィロは淡々と言った。物言わない巨人達も「またか」とでも言いそうな呆れた表情を浮かべている。

「あ・・あの、フィロさ・・・いや、司書長!すいません私が間違ってました反省してますから許してくだ―――」

「さて、そろそろ私も仕事に戻らないといけないので、さっさと済ませてしまいましょう。

―――ではみなさん、お願いします」

フィロの言葉に、巨人達はこくりと頷き、

「ひ・・ひいいぃぃぃいいい!!??」

 

そして約数分間、館内に少女の悲鳴が響き渡った。

 

図書館内ではお静かに。

 

 

―――後日。

「あのさっ、サボるの失敗したからおごる話は無かったことには・・・」

「ダメ。そもそもあんたがサボろうとするからいけないんでしょ?」

「むっ、サボりをバカにしたな。見てろよー、今度こそフィロさんに見つからないようにしてやるんだから!」

 

 ・・・どうやらまったく懲りていないようだ。