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2:ディン&ヴァイ編


この世で最も手っ取り早い修行法はなんだ、と聞かれれば、『実戦』と答える。
しかし、実戦に挑むとしても、いくら高くとも自分の力量の少し上、程度に留めなければ確実に死が待っている。
それは支援士としても、冒険者としても当てはまる事で、酒場で受ける依頼がランク分けされているのは、考えようによってはありがたい事である。
なぜなら、自分で自分の実力を計れない者にとっては、そのランク分けというのは一つの目安になるからだ。
……高い報酬が欲しいから、とランク分け制度に文句を言っている者は、その重要性が分かっていないのだろう。





――崩壊したシュライン『グノル』
その地上に面するフロアには低級の魔物が湧き、その構造もさして複雑では無いために、新米の支援士がダンジョン慣れするための訓練の場としても扱われている。
だが、地下深く潜るにつれて構造は複雑に、そして出現する魔物の強さも上がっていき、フロアを降りていけば並の支援士ではそこそこ苦戦するレベルになる。
「ぁぁあああっ!!」
そして……今、二人が足を踏み入れているのは、そのさらに下層。
この地点までくれば、単独ではAランクの者でも苦戦するため、一人で突入する事自体愚かであるといえるだろう。
またそれは、コンビ以上で来るにしても、全員生き残ろうと思うのなら、総合力でAランク以上の実力を要するということでもある。
「……ひとまず、片付いたか」
ディンの裂帛の気合いと共に地に崩れ落ちた亡骸を目にし、そう口にするヴァイ。
ディンはその一言を受けて周囲に視線を泳がせ、近くに敵の気配は無いことを確認し、こくり、と一度頭を縦にふる。
そんな二人の周囲には、今この瞬間まで絶え間なく群がってきていた魔物の肉塊が、山のように積み上げられていた。
「悪いな、こんなトコまで付きあわせて」
「……気にする事じゃない」
敵の気配は無くとも、ダンジョンの中では完全に安心することは許されない。
既に倒すべき相手は眼前にいないにも関わらず、二人は剣を収めずにその手に握ったまま歩き始めた。

――珍しい組み合わせだな、と、この二人を知る者なら思うことだろう。
ディンは基本的にエミリアとのチームを主として動き、彼女とペアと組まないときでも、単独で向かうのが常であり……
またヴァイについても、リスティがいない場合に他の誰かと組んで動くという事はほとんど無いと言ってもいい。
例外があるとすれば、ティール、エルナ、ケルト、ついでにグリッツ、という頼み込める相手はいるのだが……
やはり、その割合が少ない事に変わりはない。
「……エミィかリスティがいればもう少し楽だったかもしれないが……」
しばらく歩いたところで、溜息混じりにディンが呟くようにそう口にする。
マージナルであるエミリアは、一撃の火力と攻撃範囲、多彩さではギルド随一。
また、カーディアルトであるリスティは、ギルドの治癒能力者としては貴重な存在である。
現状、回復剤やパラディンナイトであるディンのラリラで繋いではいるが、やはり回復力では彼女には及ばない。
「なら、もう少し待てばよかったんじゃないか?」
「……ちょっと理由があってな。 どのみち、エミィを連れてくる気はなかった」
「……なら、”もしいれば”なんて口にするな」
「はは、手厳しいな……」
エミリアは、この二人が町を出た時にはリエステールにはいなかった。
その理由は、実家への帰省。
いつもならばディンも共に向かっていたのだが、『家』の話だからと彼女の方から断ってきていた。
跡継ぎならば彼女には兄がいるのでそれで問題ないはずなのだが、時々こうして家族会議的なモノを開いているらしい。
「そういや、リスティはどうした?」
「アイツにこの階層はまだ危険だ。 だから止めた」
「……それを言ったらいつまでも進展が無い気がするんだが」
と言いつつも、ディンもヴァイの一言には納得していた。
カーディアルトは基本的に治癒・補助以外に役割は無く、体力的にも劣るために少し強い攻撃を受ければそのまま死に至る場合もある。
ディンは、そういった脅威から彼女のような後衛を護る役割をもつパラディンナイトではあるのだが、さすがにこの階層までくれば護りつつ戦うのは難しく、下手をすれば……結果は、見えている。
ティールとエミリアもいれば手数も増え、彼女を連れてくる事に問題は無かっただろう。
だが、ディンとヴァイだけの状態では、彼女を連れてくるよりもそのままの方が動きやすい、という事実は確かに存在していた。
「……で、このへんで間違いないのか?」
単に気まずくなったのか、素で流しただけなのかは不明ながら、もうしばらく進んだところでヴァイがそう呼びかけた。
ディンは、ヴァイなりに思うところはあるのだろう、と判断し、一つ前の自分のセリフについては追求しない事に決め、コクリと頷く。
「依頼は『ミスリルの採取』だったな? 鉱石なら、モレクに行くべきだと思うんだが」
「そうだな。常識的に考えれば確かにそうなるが……知るヤツだけが知る、『穴場』ってもんがあるんだよ」
「…………なるほど、”レアハンター”のパートナーだけはある」
「ははは……まぁ同じレア鉱石でも、アダマンタイトなら迷わず鉱山だったんだがな。 どっちにしても、向こうは確実性に欠ける」
――ミスリル。
それは所持者を害的な魔法の力から護り、また魔法触媒として使えばかなり大きな力を得る事が出来るという魔法金属。
その特性から、魔術師からは杖、戦士からは対魔法の鎧の素材として重宝されている。
が、基本的にレアな品物であり、鉱山の奥地に向かおうとも、滅多に御目にかかれない貴重な金属である。
また、アダマンタイトとはこの世に存在する鉱石の中で最堅の鉱石とされ……ダイヤを上回る硬度を持つ、これまたレアな一品。
勿論、双方共に早々見つかるようなものでは無い。
「で、そのミスリルの鉱脈はどこにある?」
ふぅ、と一呼吸おいて、ヴァイは改めてそう尋ねる。
元神殿、と言ってもここが地下であることには変わりなく、またその辺の壁を掘ればなにか見つかる事があるのも事実。
『鉱脈』という単語を使ったのも、そこからの連想によるものだろう。
……だが……
「……あー、悪い。 言い忘れてたが、鉱脈捜しに来たわけじゃないんだ」
失敗した、とでも言うような苦笑いを見せながら、そう口にするディン。
「何?」
なら、一体何をどうしようというのか。
そういったニュアンスのすべてをその一声に込めて、ヴァイは再びディンの顔へと目を向けた。
……その時、視界の端になにか大きいものが映り……走るのは、悪寒。
「――右だ!!」
刹那、その頭上から落ちるように繰り出される、銀色の一閃。
ヴァイの声に即座に反応し、ディンは転がるようにしてその位置から離脱する。
――その直後、彼が立っていたその床が、轟音を立てて砕け散っていた。
「デカイな、リビングアーマー……か?」
ひとまず大きく距離を取り、一撃を放った敵に目を向ける二人。
そこにいたのは、全長にして3~4Mはあろうかという銀色の鎧……リビングアーマー。
足や頭に該当する部分は無く、鎧の胴体と腕部分だけが宙に浮いているような姿をしている。
地面にめり込んだ同色の剣を引き抜き、再び攻撃を加えようと構えていた。
「…………ディン、退くぞ」
まだここにきた目的は達していない。
下手に相手をして体力を余計に消費するより、帰るための体力を残しておくのが正解である。
……普通ならば、の話ではあるが。
「何言ってんだ。 コイツが目標だ!!」
「何!?」
言葉通り、既に剣を構えなおしているディン。
ヴァイは一歩遅れてフェルブレイズを構え、僅かに戸惑いながらも目の前の敵への攻撃体制に入る。
「――ミスリルガードナー。 コイツの鎧は、高純度のミスリルの塊なんだよ!!」
「……なるほど、確かに穴場だな」
グノル神殿。
旧時代の遺跡であるこの場所には、かつて存在していたという技術で創り出されたゴーレムなどが徘徊している。
今目の前にいるリビングアーマー……ミスリルガードナーもまたその一つで、人工の魔物、とでも言うべき存在なのだろう。
「で、勝算はあるのか?」
「ああ。 ヴァイ、今から俺が打ち込むのと同じ場所を、『冥氷剣』で叩いてくれ。 時間差でな」
「……わかった」
「あと……驚くなよ?」
……何? とヴァイは口にしそうになったが、その瞬間のディンの発するメンタルの波動に押され、その一言を思わず飲み込んでしまった。
肌に感じられる、熱を帯びた力の波――それはまぎれもなく、『炎』のエレメンタルウェポン。
しかし、それにしては今まで彼が使っていたそれとは『質』が……『強さ』が違う。
だが、ヴァイはそれによく似た気配を、属性こそ違えど、以前にどこかで感じた事があった。
「――我が身に刻まれし法印の下に、開け、劫火宮の門!!」
「!」
その言葉を口にした直後、その腕から発せられる紅い光。
それは手に握る大剣・天羽々斬を包み込むように広がり――
「劫火天剣・火之迦具土――」
最後の一言と共に、その光は強大な炎の渦と化し、その形を成すための軸となる剣の一部となる。
火之迦具土とは、十六夜に伝えられる炎の刀神の名。
今目の前にあるその剣は、その名に負けることのない、凄まじいまでの炎の気を放っていた。
「ヴァイ!!」
「……ああ、分かった」
一瞬、予想もしていなかった展開に動きを止めていたヴァイだったが、ディンの呼びかけで正気を取り戻す。
そして同時に、彼が一体どういう手を取ろうとしているのかも理解していた。
――炎と氷、一見すると相容れない属性だが、ある特定の相手には、組み合わせる事で大きな力を発揮する。
「――ディヴァイン・イグニスブレイド!!」
大振りで繰り出されるガードナーの剣をかわし、その隙に鎧の中心部に超高熱の一撃を叩き込む。
インパクトの瞬間に、溢れ出すかのように剣の炎が広がり、一瞬相手の全身を包み込む。
「我流氷晶秘奥義――冥氷剣!!」
数秒ほどして炎の幕が晴れ、ガードナーは焦熱の渦から解放される――
が、その瞬間を見計らい、今度はヴァイが凍気を纏うフェルブレイズで、ディンが炎の剣を打ち込んだその場所を寸分違わず斬りつけ……その一撃は瞬時に周囲の温度を奪い、高熱で赤く染まっていたはずの鎧を凍りつかせた。
しかし、凄まじいまでのその二撃を受けてなお、怯むことなく攻撃を繰り出すガードナー。
だが、急激な温度差の攻撃に鎧全体が軋み、最初の一撃のような速度は無い。
「コイツで終わりだ――ブレイズ・チャリオット!!」
その攻撃を一歩距離を取るようにして回避し、そのまま剣を前方に突き出すように構えて再び炎を大きく展開――
全身を炎の戦車と化し、先ほどと同じ箇所に突撃し、全霊の一撃を叩き込む。
直後、凍りついた鎧が一気に溶けだし、再び高熱の渦に撒き込まれたその時、ピシッ!と大きくヒビが入り、そこから連鎖的に崩壊が全身へと広がっていく。
――超高温の劫火剣と、超低温の冥氷剣。
金属は瞬間的に極端な温度差を連続して与えられると、金属疲労を起こしその強度は大きく低下する。
いくら魔法的な防御力が強いミスリルと言えど、物理的な法則に従う攻撃には抵抗しきれないということだろう。
「――図体のわりに、あっけなかったな」
身体を維持できず、崩れ落ちていくガードナーを目にしながら、ヴァイはそう口にする。
とはいえ、自分一人であればこんな速攻で倒す事が出来なかったのは理解している。
炎と氷、両極の熱を操る能力を持つ二人が揃っていたからこそ、簡単に攻略できたのだ。

「……はは、まぁ、慣れない事はいきなりやらない方が……いいってことかな……」

……が、とどめをさした当人であるディンは、喜びや勝利を確認するような声の前に、ぜいぜいと大きく息をきらせながら、その場に崩れ落ちていた。
その手の剣からは炎は消え、彼自身からも炎のメンタルは感じられなくなっている。
「メンタル切れか?」
「…………ああ…ティールやお前みたいに、上手くはいかないな……」
メンタルの枯渇は、決していいように影響はしない。
人によって多少の症状の違いはあるものの、多くの場合は昏睡状態に陥り、目を覚ますのは丸一日後――というのはザラである。
まぁ、それは本当に全ての力を使いきった場合の話ではあるが、多少
「確かに、大した力だが垂れ流しだったな。 力の解放は、当てる瞬間だけで十分だ」
手持ちの精神剤を口にするディンの姿を見ながら、先ほどの戦いの情景を思い返し、そう口にするヴァイ。
確かに、劫火剣の発動中は常にフルスロットルで炎を展開していたようで、ただでさえメンタルの総量で劣る前衛が、そんなペースで長時間戦えるはずが無い。
……もっとも、ディンの場合はこの場所に来るまでに何度もラリラを繰り返し使っていた、というハンデを背負っていたという理由もあるのだが、いずれにしても制御訓練をしないと実戦投入は無謀といえるだろう。
精神剤を使いつづけながらごり押しでする事も可能ではあるが、それはあまり生産的な行為とは言えない。
「しかし……そんな力いつ身につけた?」
「……3日前だ。 半年はかかったがな」
「…………」
半年前と言うと、丁度エミリアが氷雪宮の力に覚醒した時期。
恐らく、その時からこの力を使う事を視野に入れていたのだろう。
全てエミリアとリーゼからの口伝えの情報でしかないが、精霊宮に招かれるにはその属性の扱いを極めなければならない、というのが第一条件。
そして、その能力者を捜しても早々見つからないことから、半年やそこらで至れる道程ではないことは容易に予測できる。
……まあ、彼は以前からエレメンタルウェポンを積極的に攻撃の中に取り入れていたので、その時点で多少の習熟はしていたのかもしれないが……
「……エミィのためか?」
人間というものは明確な、そしてなにがなんでも、という目標があれば驚くほどの力を発揮する事がある。
ヴァイは、ふと浮かんだ『理由』を口にしていた。
「…………いや、ただの自己満足だ。 アイツとは、常に対等でいたい……それだけだからな」
「…………」
それは結局、エミィのためじゃないのか?
その一言を聞いた瞬間そんな一言が脳裏を横ぎったが、それはあえて口にする事は無かった。
「ん、どうした?」
「呆れてるんだ。 それだけの理由で、そこまでできるお前にな」
……と言いつつも、同時に感心もしていた。
それだけの理由で――つまり、それだけその『理由』にかける想いが強いということになる。
メンタルの力を使うには精神面が強く影響する。
ティールのブレイブハート程極端なものでは無いが、前衛のメンタル技の基本であるエレメンタルウェポンも例外では無い。
ただ漫然と”鍛えよう”と思っているだけでは、ある段階で成長は停滞する。
その意思を裏付ける、強い何かが必要なのだ。
「…………ははっ。 ヴァイ、それは笑わせるつもりで言ってるのか?」
「何?」
数秒ほど間を置いて、急に笑い出すディン。
まだ疲労は残っているのか顔色はいいとは言えない状態だが、何かいいネタでも拾ったかのように、その笑い顔はどこか悪戯じみていた。
「お前が『沙雪』を捜して、身につけた理由は何だ? 俺と同じ、『女』のためだろ」
「……ぐっ………」
否定はできなかった。
護るための……そして、それを周囲に認めさせる力が欲しかった。
それこそが、十六夜の宝刀『沙々雪之迩哲(ささゆきのにてつ)』を探しあてた理由。
「結局、男ってのは好きな女にゃ勝てない生き物なんだろーな」
「…………」
そう言いきるのはどうかと思いつつも、否定できない自分がいる。
……というか、その本人の目の前以外では、そういうことを冗談めかして言えるというディンの態度に、少し意外さを感じ、なんとなく絶句してしまっていた。



「さて、カケラを回収して帰るとするか」
またしばらくして、ディンが重い腰をあげながらそう口にし、周囲に散らばっていたミスリルガードナーの破片をバッグに詰め始めた。
ヴァイもそれに従い、適当に手近に転がっているものを拾い集めはじめる。
「……ひとつ、聞いていいか?」
そんな中で、ふと思いついた事。
ディンは作業を止めることなく、”何だ?”という声だけでその質問を受ける。
「エミィを連れてこなかったのは、その力を隠すためか?」
その気持ちは、なんとなくではあるが分かった。
自分自身がまともにこの力を振るえるようになるまでは、隠しておきたいと思うことはあるだろう。
……制御がきかなければ、周囲を巻き込みかねない危険な力でもあるから。
「まーそれもあるが……悪い、あと一つは秘密だ」
「……そうか。 なら、それでいい」
隠したいのなら、わざわざ追求する事も無い。
というか、やや照れ気味のその表情から、なんとなくそのもう一つの理由とやらも察する事はできていた。


――余談ではあるが、ミスリルは鎧や杖にせずとも、所持しているだけである程度の対魔、魔術触媒の効果があるということ。
またその美しい輝きから、ミスリル製のアクセサリーはかなり高価ではあるが、女性に非常に人気があるということをここに記しておこう。


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