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Stage4



「よし、と」
ガリガリと地面に杖の先を走らせ、周囲の一帯に特大の魔法陣を描いていた少女。
天使の翼のアップリケの帽子に、黒色のドレス風の衣装。
普段は南部(リエステール)で活動している支援士の一人である彼女は、ある依頼のために同じギルドの何人かと、同じように雇われた十数人の者達と共に、数時間かけて半径30Mにも及ぶ巨大魔法陣を組み上げていた。
『エミィちゃん、選手達がスタートしたわよー』
そんな時に聞こえてくるのは、スカイライダーズ社長の声。
と言っても、彼女本人はここにはおらず、実際にその声を発しているのは、すぐ近くに浮遊している淡く光る水晶玉だった。
「わかっておる。 こっちの準備も終わっておるよ」
”エアロ・スピーク”
マークスミラージュと同様、大気中に満ちる風のメンタルを通じて、離れた所にある魔法媒体に音を飛ばす嵐と音の複合魔法である。
『おっけー。 それじゃ、”銀雪の姫君(スノーリージュ)”の実力、見せて貰うわよー』
「……こんな大掛かりな仕掛けにする必要ないと思おうがのぉ」
『何言ってんの、イベントは騒いでナンボよ。 精霊宮の加護を受けている者同士のよしみで、お願いね♪』
そこまで行った所で、エアロスピークの媒体となっていた水晶玉は光を失い、コトリと足下に落ちていった。
向こうが通信をきったのか、単に込められていたメンタルがきれたのか……まぁ、説明すべき事は終えていたので、問題は無いだろう。

風を駆ける者(エアリアス・ブルーム)――旋嵐宮の加護を受けし者。
エミリアと同様、社長もまた精霊宮に至った人間の一人だった。







「―――ごちゃごちゃとせまっくるしいな」
一方、リックテールとルナータを繋ぐ街道。
まだ町を飛び出して間も無いという事もあってか、見渡せばまだまだ多くのライダー達がひしめいて同じ方向に向かって飛んでいた。
比較的後方から出発したリューガは、トップグループに追いつくまでに食い込みはしたものの、すぐ前を走るライダー達の一団に進行方向を塞がれ、スピードを上げられずにいた。
―意図的に邪魔しよーってわけじゃなさそうだな―
恐らくたまたま同じようなスピードで走る連中が、一箇所に固まってしまったのだろうと推測し、じっとその一団の様子を見張る。
左右どちらかに大きく振って横から抜ける手もあるが、それはプライドのようなものが許さなかった。
「……先に行くわよ」
「――クゥ!?」
その時、後方から一歩遅れて駆けてきたクリエが、リューガとその前の一団の頭上を跳び越す形で前方へと躍り出た。
箒と比べれば基本的に最高速度に劣るものの、高度が出しやすく機動性に勝るのがライドボード。
彼女はそのまま上下左右の三次元的な動きを駆使し、前の方にひしめく選手達を、さも当たり前のように華麗に回避しながら進んでいく。
「ちっ……言うだけの事はあるってことか!」
それは回避すべき障害物そのものが自ら動き回る選手であり、周囲の者達の機動を予測しつつ、自らのスピードも緩めずに、常に形を変え続ける隙間を縫って行こうという行為。
いくらライドボードといえど、こんな密集状態であの速度で飛ぶのは難しい。
「なめるなよ……っ!!」
リューガの箒も高度が出せないわけではないが……とにかく限界までスピード特化型にチューンを施しているために、高さを出すために消耗するメンタルが通常の数倍になってしまっている。
密集状態はごく最初だけの現象。 それに、スタートして早々に余計な消耗をするのはあまり得策では無いだろう。
「……」
意識を、目の前に広がる空間に集中される。
今前にある障害は、意図的に作られたものではなく、単に全員が個々に飛んでいる中で偶然出来た状況。
このまま延々と続くようなものではない。
「――――《加速(アクセル)》!!」
狙い済ました一瞬。
選手同士の間に開いた僅かな隙間。
それが直線的に、トップの一団まで続いている。
その瞬間を逃すことなく、リューガはトップスピードで一気に駆け抜けていった。



「さすがに速いわね……」
直後――数分も経たない間に、最前列付近まで順位を押し上げたリューガは、そこを走っていたクリエと並ぶ。
リューガが一瞬スピードを緩め、彼女の横につけるような体制をとると、クリエは相変わらずの冷めたような表情で、そう一言口にしていた。
「お前も、アレだけ俺に言ってたクセに速いじゃないか」
「状況によるわ。 それに貴方ほどの無茶はしない」
「……そーかよ!」
そうして続いたのは、ただそれだけの会話。
リューガの悪態を最後に、お互い何も話すことは無い、という空気を出すかのように黙り込み、リューガはそのまま加速をかけていた。
「リューの気持ちも、分からないわけでは無いけれど」
……そうして前へと飛び去っていくリューガの背を見るクリエは、どこか遠い目をしつつ、誰にも聞こえない声でそう呟いていた。
「……今回ばかりは、私のボードも速度を出せるように調整してある。 負けは、しないから」
一見常に冷静沈着に見える彼女もまた、勝負ともなると静かに闘志を燃やすタイプなのだろう。
彼女が纏う飛翔の風が、少しづつその勢いを増していた。








「今のところダンゴ状態で大きな差はついてないわね」
丁度そのころ、スタート地点であるルナータ城門前。
上空に魔法で映し出された選手達の様子を背にして、軽く実況をする社長。
アリンはもう諦めたのか、未だに顔を赤くしながらも、もう何も言わずにその横でフラッグを持ったまま立ちつくしていた。
「でも、確かに差は出てきてますよ。 やはり直線的な街道がコースなだけに、テクニックタイプの選手は立ち遅れてきてますね」
……そしてマリンはというと、そんな感じで解説らしきものを担当していた。
本人はそれはそれで楽しんでいるようだが、アリンのレースクィーンの方も楽しそうだなと思っているのはまた別の話。
「ま、それだけで決まるようなレースにはしないつもりよ。 トップ集団がそろそろポイントにつく頃ね」
「あ、そういえばさっき誰かと連絡してましたけど、それですか?」
「ふふ、まぁそんなとこかしら? さぁ会場の皆さん、ちょっとキレイなものが見れるかもよ!?」
ズビシ! という音が聞こえてきそうな感じで、観客席に向けて人差し指を立てる社長。
その先に何が待っていると言うのか……
観客の期待は、彼女の思惑通りに高まっていくばかりだった。







ほぼ独走状態……と言いたいところだが、気を緩めるとすぐにでも追い抜かれる距離。
最初の障害の時から殆ど時間をかけずにトップ集団でも前の方に出たリューガ。
基本的に整備された地形である街道上を走っているだけに、単純にスピードに優れた者が有利なようで、箒乗りを中心に、スピード型の者がそこに集まっていた。
「……なんだ?」
と、その時見えたのは前方にぽつんと一人の人影。
まだ距離は遠く、手服装などは分からない……
が、なにやら僅かに蒼が差し込んだ白いドレスに、大きな宝石が装飾された杖らしき物をもっている程度の事はわかる。
『大地に根差す氷の精 界を包みし大樹の影を映し 夢幻の輝きを宿す白銀の樹海を我が袂に顕現せよ』

幻想の氷樹海(フローズン・イグドラシア)

「魔法陣!?」
その人影が呪文を唱え、手に持つその杖を地面に突きたてたその瞬間、地面に刻まれていた巨大な魔法陣が青白い輝きを放ち始め――
直後、その光の中から、見渡す限りの氷で創り出された樹海が現れた。
「――――!!?」
一瞬、目を奪われていた。
その全てが太陽の光を反射し、幻想的な光の世界を生み出している。
言葉にするならば、樹氷……ではなく、氷樹。
全てが氷で生み出された《銀雪の姫君(スノーリージュ)》の世界。
「……社長だな……」
実行者が別人である事は分かるが、こんな大規模な魔法を可能にするような魔法陣を用意するのは、それなりの大人数で、組織立って行動しなければ到底不可能である。
――まぁ、魔法陣……そしてその他もろもろ大量の魔法触媒を使っているのは間違いないが、それを実際にやってみせる術下大したものだが。
「中を抜けるか、外を迂回するか……」
コントロールに自身があるのならば、無数に並ぶ氷の樹を避けながら中を通り抜ける選択肢がまず浮かび上がる。
別の道を考えるにしても、半径にしても30Mはあろうかという樹海。外周にそって飛ぶとすれば、それなりのタイムロスは免れない。
かといって樹海の上を飛び超えるルートならば、その分速度を殺す事になる。
最も早く、メンタルの消耗が少ないのは樹海の中……減速を最低限にして、氷樹を避けながら駆け抜けることだがどのルートにしても多少のリスク、減速、消耗は覚悟しなければならないと言うことだろう。
「……受けて立とうじゃねーか!」
リューガのその雄叫びは、氷の樹海の中に吸い込まれるようにして響き渡っていた。


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