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朝ご飯を食べそこなった腹いせか、それとも朝ご飯の分を取り戻そうとするかのように、大量の料理が2人の小柄な少女の胃袋の中へと消えていく。

テーブルの上には少女たちの築き上げた英知の塔(材料・料理を食べた後に残る皿)が、天にも届かんと誇らしくそびえ立っていた。

 

しばらくの間は「まあしかたがないか」と半ば諦めて苦笑しながらその様子を眺めていたライトだったが、その消費量がいつもの平均量を超えた辺りから、ついでに言うと純白の皿の塔の高さがいつもより高くなってから、ついに耐えられずに口をはさんだ。

「マスターさん、ホワイトベースシチュースパゲッティお願いします!」

「おいティラ!そんなに値が張るものばっか食うな!・・・っつーか、お前また約束忘れてないか!?」

「がおーっ!」

「ってリイン!お前も食べすぎだ!お子様ランチ32皿食っておいてまだおかわりするつもりか!?」

「マスターさんおかわりー!」

リインのその胃袋の凄まじさに一瞬戦慄を覚えていると、今の内に、と隙を狙っていたとしか思えないタイミングで、ティラが酒場のマスターにホワイトベースシチュースパゲッティのおかわりを注文した。その口元には先程のスパゲッティの白いシチューがついていたりするが、そんなものにはまったく気づいていない。

「おいっ!人の話を聞いてんのか!?」

「がおー」

そうティラに注意を向けると、今度はリインがおかわりを注文し、その度にテーブルの上に建造された塔が増築されていく。

ティラを注意するとリインが、リインを注意するとティラが。そんな無駄に抜群なチームワーク(それも本人達無自覚)にライトは翻弄され続け、

 

そうして繰り返される堂々めぐりに、ライトは一回酒場の天井を仰ぎ見て長く長く息を吐くと、―――もう我慢するのも馬鹿馬鹿しいと言わんばかりにブチ切れた。

「お前らぁあああああああああ!!!!」

「うひゃぁああああ!!??」

「がおーーー!!??」

 

雷鳴の如き轟音と、それに比べてささやかな少女の悲鳴が店内に響き渡る。

いい加減にしろ、という言葉が口から出る前には既にライトの体が動き出し、唸りを上げる2つの鉄拳がそれぞれの少女の頭上へ直撃した。

 

ゴゴンッ!という鈍い音が酒場の一角から響き、何事かと周囲がそちらに目を向けると、

視線の先の席では脳天に拳骨を食らった2人の少女が、でかいタンコブを作りつつ目を回してテーブルに突っ伏して、

そのすぐ隣では、拳を握りしめたまま、ぜーぜーと息を切らしながら怒りで肩を震わせている青年が立っていた。

一見してもしなくても、青年が少女達に暴力を振るった様にしか見えない。

 

そして周囲ではお約束の如く自警団を呼ぼうかいやいやでも巻き込まれたくねーなーという何とも無責任な会話が繰り広げられ、その中でも事情を知っている一部の者は、「またか、若いっていーねー」と、これまた無責任に苦笑していた。

そんな騒ぎの中、テーブルの上では少女達の築き上げた純白の塔が、日の光を受けてキラキラと光り輝いていた。

 

「おいライト・・・、今のはちょっとやり過ぎなんじゃねぇか?」

「マスター。そのセリフはオレが何とか残そうとしている少ない生活費を、何の遠慮もなく湯水のように消費していくこいつらに言ってくれ」

人の苦悩と努力を食い物にする悪魔達を睨みながら、ライトは心底うんざりした表情で酒場のマスターの問を一蹴した。当の2人はいまだにテーブルに突っ伏したまま、起き上がる気配を見せなかった。

 

 

そんな楽しい楽しい恐怖と暴食と鉄拳の入り混じった昼食を終えたライト達は、調査隊と合流すべく、リエステールの城門広場へと歩を進めていた。鉄拳を受けて気絶していた2人は起きてからずっとご不満そうな表情をしている。

 

「・・・約束を忘れてたのは悪かったですけど、なんだかあの止め方は納得できないものがあるのですが・・・」

そう言って頭を擦りながら頬を膨らませるのは、暴食少女ティラだ。頭の一部から飛び出ているアホ毛も、今は「不機嫌です」と言わんばかりに揺れていた。

「・・・がおー・・・」

そう言い(鳴き?)ながら、ビクビクとティラの背に隠れてこっちの様子を窺っているのは、暴食幼女リインだ。今彼女は警戒心丸出しの小動物状態にも関わらず、瞳の色は赤では無く、なぜか蒼色に染まっていた。怒られたのが余程怖かったのだろう。

 

そんな2人をチラリと見た後、ライトは溜息を吐きながら立ち止まることもなく、そのまま前進した。

何かもう疲れてきたしこのままスルーしてもいいよね?とか、そんな感じの考えがその時ライトの頭の中をぐるぐると廻っていた。

「?ちょっとー、ライトー?」

話聞いてるー?と訝しげに首を傾げて声を掛けてくるティラの声を完全に右から左に受け流し、今度は振り返ることも無く前進前進ひたすら前進。

 

「・・・あれ?」

『綺麗に無視されていますよ、マスター』

「え・・へっ!?」

 

ティタノマキアに指摘されて初めて、自分が無視されていることに気付いたティラは、そんなすっとんきょうな声を上げた後、慌ててひたすら前進し続けるライトの背中を掴んだ。

その瞬間

何の運命の導きか、はたまた悪魔の悪戯か、ティラの足が道のくぼみに引っかかり、ぐらりと前のめりに倒れかけた。

「わ・・わあああ!?」

倒れる!と本能的に察したティラは半ば反射的に体を支えようと手で掴んでいたライトのコートをグイッと思いきり引っ張ったが

「ぐはっ!?」

ガクンと後ろから急に力を掛けられたライトは、不意の出来事に対応が遅れて上体を思い切り仰け反らせ、咄嗟に踏みとどまろうとした努力も空しく頭から後ろへ倒れこんだ。

 

ゴツンッ!!というコミカルな衝突音が周りに響く。

後頭部から来る頭痛に顔をしかめながらライト起き上がり、何すんだコノヤロウと事を起こしたバカ娘に天誅を下すべく視線を下に向けると、

「・・・何やってんだお前」

そこには、下敷きになってライトの衝撃と頭突きを全て受け止めたティラが、頭に2つ目のタンコブを作りながら呻いていた。この角度からは見えないが、今少女の顔は完全に泣き顔になっていることだろう。

 

呆れるのを通り越して何だか可哀そうに思えてきたので、とりあえずぶん殴るのはやめておいたライトだった。

ちなみにこの光景を見ていた周りの人々が、先程の酒場での野次馬達と少し違う気もするけどやっぱり同じ様な反応をしていたのは言うまでも無いだろう。

 

「はい、ライト・エバーデンさんですね。依頼書よりご本人と確認しました。・・・ところで・・・」

場所はリエステール城門広場。

そこで特に何の問題も無く合流できた調査隊の隊員はそこまで言うと一度言葉を区切り、チラリとライトの後ろに目を向けた。

そこには、大きなタンコブを作った少女が2人、一方は本気で涙目になって立っていた

「あの、お連れの方は大丈夫ですか?」

「あー大丈夫大丈夫。いつもの事だから」

「は・・はぁ・・・」

 

隊員は少し戸惑った声を上げたが、まぁ本人達が大丈夫だと言うなら特に口を挟む必要もないだろうと判断し、次の話へ進めることにした。

 

「ところでライトさん。依頼の前に確認したいのですが、もしかしてあなたの後ろにいる方々が依頼を受けた他の支援士ですか?」

「ああ、依頼を受けられるのは最大で3人だから特には問題ないだろ?」

ライトのこの言葉に、隊員は少し、というかかなり困ったような表情を浮かべた。

「つかぬことをお聞きしますが、お連れの方の支援士ランクは?」

「杖を持った方がB。小さい方は・・・まだ見習いかな」

見習い、とあやふやに答えたが、つまりEランクなどではなく、本当に支援士ですら無いということだろう。隊員は今度こそ本気で困り顔になった。

「あの・・この依頼はランクがAでして、ランクがB以下の支援士の方は同行できないのですが・・・。ましてやそちらの小さな方は支援士でもないのでしょう?流石にそのような方の依頼の受諾を認めるわけには・・・」

「まー硬い事を言うなよ。Aランクの依頼がどんなものかを見学するってことでいいだろ?」

「いや、ですから・・・、というか、何でそんな無理なことを?」

「何って・・・」

隊員のその疑問に、ライトは本当に何でも無いといった感じで答えた。

「だって3人で受けたら、報酬金も3倍でお得だろ?」

 

・・・・・・・・・・・。

 

「・・・・・は?」

 

ポカンと、突然言われたことに、隊員は思わずといった感じで聞き返していた。

「だから、7万の依頼を3人別々で受けたら21万だろ?大金ゲット」

アホか!?という喉から出かかったつっこみを無理矢理飲み込み、隊員は努めて平常心を保って、

「あ、あなた何考えてるんですか!?そんな理由なら尚更連れていくこと何てできませんよ!?」

それでも耐えきれずに叫んでいた。

「そんな理由だと!?こっちは明日の生活を全てこの依頼に賭けてんだぞ!?」

「知りませんよそんなの!!というか命の関わる危険な依頼に子供を巻き込まないでくださいよ!?何かあったらどうするんですか!?」

「だからオレがいるから大丈夫だって言ってんだろ!?」

「何を根拠にそんなに自信満々に言いきれるんですか!?」

 

―――――ッ!!

―――――ッ!?

―――――ッ!!

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

それから互いに譲らない口論はその後しばらく続き、時には拳を交えつつも、最終的には他の隊員が「まあまあ、自分たちで責任が持てるならいいんじゃないか?」と言ったことにより、しぶしぶといった感じで大体が丸く収まってしまった。

「・・・ほんとに、どうなっても知りませんよ・・・」

自分の正当な意見が通らなかった隊員は、ちょっとイジケ虫だ。

「ふっ、負け犬の戯言にしか聞こえないな」

対して、不当な意見を無理矢理押し通したライトは、完全に勝者の笑みを浮かべていた。

「・・・ライト、かっこわるい・・・」

隣でポツリと放たれた少女の言葉は、いつもの如く無視された。

 

 

一方、その頃酒場のマスターは、

「しくじったな、ライトの奴の切羽詰まった勢いに乗せられて了承しちまったが、このランクじゃ嬢ちゃん達は受けられないじゃねぇか。・・・まぁ、調査隊の奴らが止めてくれるか」

 

そんな彼の予想を裏切り、ライト達は調査隊と共にオース海岩礁洞窟へと足を踏み入れるのだった。

 

 

 

「ゼルド・バオアクードの特徴・・・ですか?」

オース海岩礁洞窟に入り、最初にライトは隊員の1人―――正確にはリエステールで口論をした隊員に、その事を聞いた。

「ああ、噂は聞いたりするんだが、オレはまだそいつと―――というか、バオアクードと戦ったことがないからな、情報は多い方がいいだろ?」

なるほど。と、隊員は頷いた。

「解りました。・・・ですが、私も直接出会った訳ではないので、調査協会内で聞いた話になるのですが、それでもよろしいですか?」

「OK」

ライトが頷くと、隊員は記憶を思い出すように僅かに目を細めた。

「バオアクードは、太ったカメレオンの様な外見をした竜の1種らしいのですが、その最大の特徴は、周囲の背景と完全に溶け込むステルス能力ですね」

「つっても、何か目印になるようなものはあるんだろ?目だけは溶け込まないとか」

ライトの質問に、隊員は首を横に振った。

「いいえ、残念ですがそれはないです。バオアクードの恐ろしいところは、その異常なまでに特化されたステルス能力。恐らく、余程強力な空間把握能力でも持っていない限り、向こうが攻撃してこなければバオアクードの居場所を突き止めるのはまず無理です」

面倒臭いな。とライトは苦笑いした。

「・・・だが、攻略法が無いわけじゃないんだろ?」

「はい。バオアクードのステルス能力は、半永久的に機能しているわけではなく、獲物を捕食する際に弱らせたり、敵を追い払う短時間にのみ機能することが確認されています。つまり、持久戦で時間切れを引き起こせれば、少しの間、奴は消えることができません」

その前にこっちが袋叩きになってなかったらなー。というライトの冗談に、隊員は思い切り苦笑いをした。案外そういうケースも多いのかもしれない。

「あと気をつけるのは、長い舌と、それに天井から垂らしてくる唾液ですね。特に唾液には防具を劣化させる効果があるので気をつけてください」

 

他の支援士が、『あいつにはもう会いたくない』『岩礁洞窟を歩いていたら涎を垂らされた』と言っていたのを思い出しながら、ライトは納得したように頷いた。

 

「なるほどな。バオアクードの事は大体分かった。じゃあ、今度はゼルドについて頼むぞ」

解りました。と、隊員は再び説明を始めた。

「ゼルド・バオアクードは、バオアクードの上位個体です。外見こそバオアクードとほぼ同じですが、その大きさはバオアクードのおよそ3倍が普通です。普段は岩礁洞窟の深部に縄張りをもつ筈なんですが、今回の調査内容のようにごく稀に比較的浅い場所までやって来ることがあります。最大の特徴はステルス能力と超雑食性。一度空腹を感じれば周りにある物を見境なく捕食―――噂では岩壁をも抉りとって飲み込むそうです」

「うわ、マジかよ」

「ええ、それに攻撃方法もバオアクードとは大きく異なります。その中でも最も注意しなければならないのは2つ」

そう言い隊員は右手で握り拳を作り、ライトの顔の高さまでもってくると、その拳から人差し指を上へ突き出した。

「1つは体内の酸を口から発射する『アシッドバースト』と呼ばれる攻撃です。これを受けると酸にやられて殆どの武具やアイテムが使い物にならなくなってしまいます」

そう言い、今度は人差し指が突き出ている拳から、さらに中指を突き出した。

「2つ目は、驚くほど口を開き、相手をそのまま丸呑みにする攻撃です。これに当たってしまうと確実に死ぬと思ってもらって構いません。と、まあ、こんな感じですね」

「OK。正直相手にしたくないことははっきりと解った」

ライトがそう言うと隊員は苦笑し、それから真剣な表情に切り替えて言った。

「・・・あの、悪い事は言いませんから、お連れの方は連れていかない方がいいのでは?」

未だ納得できない様子で、隊員が別の場所を見ながら呟いた。視線の先には、初めての洞窟に目を輝かせながらはしゃぐリインと、それを見ながらやはり楽しそうにしているティラがいた。

「ゼルドが浅いところに出たっていう目撃証言を確かめに行くんだろ?だとしたらガセネタの可能性も高い。それにもしも鉢合わせをしたら、あいつ等を後ろに下げれば済む事だ」

平然と言うライトに、「バオアクードは壁や天井も移動できるんですけどね・・・」と独り言のように呟いた後、隊員は溜息まじりに答えた。

「解りました。もう止めませんよ。・・・その変わり、どんなことがあっても責任は全てあなたが持ってくださいね」

「何時もそんな感じだから今更お前に言われるまでもないけどな」

 

その後、まるで示し合わせたように頷くと、2人は調査隊の中へ戻っていった。

 

 

それからしばらく歩き続けると、岩礁洞窟の通路は二股に分かれていた。

隊員達は通路で止まると、隊を半分に分けてそれぞれの通路に足を踏み入れた。

一体何事かと首を傾げるライト達に隊員の1人が言った。

「ここからは調査隊を2手に分けます。ライトさんはゼルドが出たという目撃証言があったこちらの通路を、後のお二人は洞窟調査が目的のそちら隊に同行してください」

隊員達が隊を分けつつ言った言葉に、ライトは成程と納得した。

先程、歩を進ませながら隊員達が何やら話をしていたので、きっとこれが、ランクの低い2人の為の苦肉の策なのだろう。3人は(リインは2人の真似をして)特に不満も言わずに頷いた。ただ、ティラが少し心細そうに不安そうな目をライトに向けたが、当の本人は気付いた様子を見せなかった。

「んじゃ、オレはこっちだから、お前らは向こうで飯代しっかり稼ぎやがれ」

最後の「稼ぎやがれ」の部分を特に凄みをきかせて強調したライトの言葉に、思わず身を引いてしまったティラ。その行動にライトは少し眉をひそめた。

まずい。何か言わなくては・・・!と、軽く焦ったティラが口を開く。

「お・・オッケーです。どーんとまかせちゃってください!」

「言ったな?言ったからにはきっちり稼げよ?ドジ踏んで『ごめん、報酬は無しで』とか言われるんじゃねえぞ!?」

 

うわっ!?すっごく信用が無いですよ・・・!?

 

ライトの信用度ゼロのお言葉に軽く落ち込みつつ、さらに何故か言い返せない自分の情けなさにさらに落ち込むティラに、ライトは「本当に大丈夫か・・・?」と身を案じるのとは少し違う心配を抱きつつ、いつまでも隊員達を待たせるわけにもいけないので、そこでこの話は一方的に切り上げることにした。

 

そんないつも通りの会話と共に、ライトとティラ&リインのコンビは違う通路に足を踏み入れた。

 

通路の先の水溜りから、天井より落ちてきた雫が、ピチャンと水面に波紋を作る音がした。