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河川の町ミナルでは今、密かに話題となっている占い師がいた。

数週間前に突然この町を訪れたその占い師は、何故いままで他の街で噂にならなかったのかと周囲を不思議がらせるほどの腕前を持っていた。

 

他の占い師のするような曖昧な表現や遠まわしな物言いなどの話術はほとんどなく、先の未来を具体的かつ簡潔に話すのだ。

あまりにもはっきりと言うため、普通ならそれがかえって胡散臭く感じるものだが、この占い師の場合はそれに当てはまらなかった。

そして実際に、その占いはほぼ100%的中した。

だがしかし、その占い師の凄い所はそこではない。

 

その占い師は、先の未来をより良いものにするための『鍵』を教えてくれるのだ。

実際にその『鍵』がどのように未来へ作用されるのかは流石に答えてはくれないが、その助言によって悪い未来を変えられた人も少なくはない。

 

だがどんなに有名になろうとも、その占い師の前に人の行列ができることは滅多にない。

なぜならば、

 

―――その占い師は恐ろしく気分屋で、その日1日どこで占いをするのか誰にもわからないからだ。

 

 

「―――ちょいとそこ行くお嬢さん。待ちねぃ」

「え・・はい??」

とある日の早朝、のんびりと散歩をしていたカリィ・マダガスはそう声をかけられた。

そちらを振り返ると、家と家の間にある狭い路地に挟まれるような形で、小柄な人物がちょこんと座っている。

うわー変な人に声かけられちゃったよー!!と内心頭を抱えて絶叫するが、大人なカリィはそれを表情にはださない。

まぁ本人がそう思っているだけで実際は警戒心むき出しの目でその小柄な人物から一定の距離をとっているのだが。

「あんさん、占いとか興味あるかね?」

「え?・・まぁ一応年頃の女の子ですからそれなりにはありますが・・・」

「そう。んじゃあちょっとウチでやっていかないか?占い。1回300フィズで」

「・・・」

カリィは改めてその占い師の格好を見た。

頭をすっぽりと覆い、顔が隠れるほど広い鍔のついた黒い三角帽子。

悪魔崇拝の信者か、はたまた何かの怪しい儀式に使うような悪趣味でゴテゴテとした装飾が全体に散りばめられた、三角帽子と同色のローブ。

止めに占い師の前には『いかにも』と言った感じの赤い布の上に置かれた水晶玉。

 

「・・・ぼったくりならよそでやってください。それでは」

「ああっ!?ちょ、ちょいと待ちなさいな!!お嬢さんあんた疑ってるな!?」

「初対面の胡散臭そうな占い師を信用するほど私は馬鹿ではないので」

「・・・かーっ!!あーもう最近の人は力を見せなきゃ全っ然ひとの事を信用しないんだかならなーもうっ」

「はぁ、力ですか?というかそもそも顔すら見せない相手をどう信用すればいいのかを教えてください」

 

大げさな仕草で嘆く怪しい占い師に、カリィはまるで酔っ払いを相手にするかのように軽く相手をする。だが、その一言を聞いた占い師は「ふむ?」とまるで今まで気付いていなかったように三角帽子の鍔をつまんだ。

「おや。これは失敬。いつも被ってるんで全然気付かなかったよ」

確かに顔くらいは見せないとなぁと言いながら、占い師は三角帽子を脱いだ。

 

「・・・へ?」

三角帽子を脱いだ姿を見て、カリィは思わず絶句する。

「んん?どうしたお嬢さん。なんだか珍妙な物を見たような顔になってるぞ」

 

帽子を脱いだ占い師は、高く見ても14歳くらいにしか見えない幼い少女だったのだ。

 

「うわ、うそ。金に困って血迷ったおっさんだとばかり・・・!」

「・・・さりげなく酷いこと言うねお嬢さん」

カリィの暴言に思わず苦笑をもらす占い師の少女。

「まぁそんな感じのことはしょっちゅう言われてるからなれとるがね。うーん、やっぱり格好が駄目なのかねー?」

「いやいや、格好も壊滅的に悪いですけどその言葉使いですよ言葉使い。女の子ならもうちょっと気をつけた方がいいですよ」

というかその言葉使いは人として直した方がいいです。というセリフは大人なので言わないでおいた。

 

「言葉使いか・・・言葉使いは無理っぽいかなぁ。・・・って話がズレとるよお嬢さん!!占いだよ占い!!ほら300フィズ!!」

はっと本来の目的を思い出して片手を差し出してくる占い師の少女。ちえっ、もう少しで逃げられたのに。

「・・・というか私がいつその占いとやらをやると言ったんですか。別にいいですよ」

「だぁーもう最近の若者はー!!わかったよ実際に私の力がどんなものか見せてやっからそれでいいだろ!?」

 

なにがいいんですか?とか、最近の若者ってあなたも十分若いじゃないですか。など色々つっこみ所満載だが、もちろんそれらは声には出さずに胸の中にしまっておいた。それが少女のためである。

 

カリィのそんな様子に気づいていない占い師の少女は少し怒ったようすでブツブツと何かを呟くと、

―――あろうことかガシッと豪快に水晶玉を鷲掴みして持ち上げ、それを人差し指でくるくると回し始めた。

あまりにもぞんざいと言えばぞんざいな扱いのうえ、それをやっている占い師の少女も頬杖をついていかにも面倒くさそうな目で回転する水晶玉を眺めている。

今までの占い師の印象を覆すというか最早どこからつっこんでいいのか分からないような光景だった。

「え・・?あの、何をやっているんですか?」

「なにって・・・お嬢さん占い師がすることって占いしかないじゃん」

 

軽く馬鹿にされました。

呆れたような眼で見られて軽くへこんでいると、少女の言う占いが終わったのか、占い師の少女は水晶玉を回すのをやめ、やっぱりぞんざいな感じに水晶玉を赤い布の上に放った。

「ん。3分後にミナル名物のバカップルが向こうの道を走って行くよ」

「はい?バカップル?」

占い師の自信たっぷりの占い・・・というか予言に、思わず向かいの道を凝視してしまう。ミナル名物と言われるほどのバカップルなんて、私は1組しか知らない。

すると―――

 

『痛た!痛たたた!?エミィ悪かった!悪かったからとにかく落ち着け!!』

『うるさいうるさいうるさい!!大人しく殴られて忘れるのじゃあーーーっ!!!』

『もう言ってること滅茶苦茶だぞ・・・ってあだぁ!?!?』

 

だだだだだだだーーーっと仲良く追いかけっこをする(本人達は必死)バカップルが姿を現し、物凄い速さで向こうの道を駆け抜けると、そのまま騒がしく町の中へと消えていった。

よく見ると、向かい側の家の窓から、いまの出来事を見て微笑み合っている夫婦の姿が見える。

「ふふふ、どうかねお嬢さん?」

唖然とその光景を見ていたカリィがその声で我に返ってみると、目の前で占い師の少女が自慢げに薄い胸を張っていた。

「今のはお試し用ってことで結構テキトーに占っただけだからお代はいらんけど、どうだいお嬢さん?ちょっとは占ってほしくなったろ?」

占い師の少女のその台詞を聞き、カリィは思わず考えてしまう。

 

今のものを見ていると、この子の占いは本物っぽい。お年頃で毎日新聞の占いをチェックしている占い大好き人間カリィさんとしてはちょっと見過ごせない魅力が湧いてきてしまう。

「え?いえ結構です」

でも今ほとんどお金持ってないんですよねーあっはっはっはー。

 

カリィの殆ど即答の返答に、どうやら断られるとは思っていなかったらしい占い師の少女はべちゃっと突っ伏してしまった。以外とおちゃめさんなのかもしれない。

「け、結構!?いま結構って言ったかいお嬢さん!?この占い師ルーミン・フォルチュリアの占いを!?」

「へー、ルーミンちゃんっていう名前なんですか」

「ああしまった本名言っちゃった!?」

余程言ったら不味いことなのか、頭を抱える占い師の少女。

 

―――なんかもうグダグダである。

 

「・・・うぅうぅう、もーここまできて断られたら馬鹿みたいだー・・・。お嬢さんお代はいらんからせめて占いだけでも聞いていって」

「わぁ、いいのルーミンちゃん?ラッキー」

「・・・本名で呼ぶのはやめて。いやまじで」

 

はぁ~あ。と占い師の少女は露骨に諦めの溜息をつくと、さっき転がした水晶玉をガシッと鷲掴みにして、再び人差し指でくるくると回し始めた。

 

しかし、今回は先程とは違い頬杖をついていた手を回る水晶玉の横から水晶玉に向かってかざし、その目はどこか虚ろで、まるで夢を見ているようにぼんやりと水晶玉を眺めている。

なにか特別な呪文もない。意味ありげな仕草もなければ水晶玉が光るわけでもない。そこには指でなんの変哲もない水晶玉を回す少女の姿しかないのに、その姿には独特の風格が漂い、見ている者に息を飲ませた。

「んー・・・、・・・む?」

 

―――と、何かに気付いたような奇妙な声を上げると、いままで夢見るように虚ろだった少女の瞳に唐突に光が戻ってきた。

続いて、人差し指の上で減速し始めた水晶玉を見たまま少女が口を開く。

「運勢としては幸運続きの後に凶悪な不運あり。今から午後1時までは色々な事で良いことずくめですが、今日の午後3時以降から1度だけ、生命に関わる災厄に見舞われます。アンラッキーカラーは銀色。色の象徴は剣」

 

そして・・・と占い師の少女は水晶玉を赤い布の上に置き、悪趣味な装飾品のジャラジャラとついたローブのポケットに手を突っ込むと、中から手の平に収まるくらいの小さなガラス玉を取り出してカリィに差し出した。

「キーアイテムは、ビー玉」

そこまで言い、占い師の少女は場の空気を緩めるようにフッと肩の力をぬくと、少し悪戯っぽく笑ってウインクをした。

「まぁ占いの結果を変えるか変えないか、後はお嬢さんの行動次第だがね」

 

 

「・・・で、取り合えず受け取っちゃったけど・・・」

家への帰り道、カリィは手の中にあるものを見つめて呟いた。手の中には、先程占い師の少女から渡されたビー玉が乗っている。

見たところ特別な力が宿っているわけでもなく、本当に普通のビー玉だ。

占い師の少女はラッキーアイテムではなく、これをキーアイテムと言っていた。つまりこの小さなガラス玉が今日の運勢を決める鍵なのだろうが・・・。

「・・・こんなビー玉で運勢が変わるのでしょうかねぇ?」

疑わしげにそう言いながら手の中のビー玉を転がすものの、なんとなく占い師の少女の占いの内容が気になったのでやっぱり捨てたりするのは躊躇われ、カリィはビー玉をスカートのポケットへと突っ込んで家へと帰るのであった。

 

「・・・というか、占いの時、割とまともな言葉使いだったじゃないですか・・・」

 

 

その後、カリィはお昼いっぱい、占い師の少女の占い通りささやかな幸運が続いた。

具体的に言うと、道端でお金を拾ったり、お店の商品が半額になったり、お店のくじ引きで一等賞を当てたりした。

おそらく緑茶とかを飲もうとしたら確実に茶柱が立っていることだろう。

 

気がつけば、3時まではあと少しだ。

 

(ここまでは占いが当たってしまったわけですけど、まさか・・・ですよね)

そこまで考え、急に胸の内に不安の影が射しこんできた。ここまで良い方の占いが当たっているのだから、当然悪い方の占いも当たる確率が高い。カリィは無意識の内にポケットの中のビー玉をギュッと握りしめ、時計塔の針を見上げたその時、

 

かちっ。という音のした途端、街中に割れんばかりに甲高い鐘の音色が響きわたり、時計塔の時計の針が午後3時を指し示した。

 

やがて鐘の音が止むが、まだ何も起こらない。

 

「なんだ・・・何も起こらないじゃないですか」

まぁ占い師の占いだって新聞の占いみたいに外れることが多いし、いままで偶然が続いただけなんだろうな。とカリィは思わずホッと安堵の溜息をついて、握っていたビー玉から手を放した。

 

『今日の午後3時以降から1度だけ、生命に関わる災厄に見舞われます』

 

―――この時カリィは、占い師の少女の言葉をすっかりと忘れていた。

そして『3時以降』は、まだ始まったばかりだ。

 

それが起こったのは時計塔の時計の針がさらに一回りした4時頃のことだった。

カリィが何気なしにのんびりと道端を散歩していると、突然前方の少し離れた店から悲鳴や何かの壊れる音などが響くと、その店から片手に大きな袋を担ぎ、もう片方の手に大振りのナイフと思われる刃物を持った1人の男が飛び出してきたのだ。

少し遅れて飛び出してきたその店の店長と思われる男性と、数人の支援士が血相を変えてその男を追いかけながら叫んだ。

「強盗だぁーーーーっ!!!」

 

『アンラッキーカラーは銀色。色の象徴は剣』

 

強盗犯はギラリと狂暴な光を放つ狩猟などで使われる大振りのナイフを振りかざしながら、血走った目でまっすぐカリィの方へとやってくる。

その目は、明らかにカリィを邪魔者と見ていた。

 

『そして―――キーアイテムはビー玉』

 

カリィは咄嗟にスカートのポケットから占い師の少女にもらったビー玉を取り出そうとポケットの中を漁り、―――そしてその顔が凍りつく。

 

ポケットに入れていたはずのビー玉が―――ない。

「う、うそ!?なんで?なんで!?」

信じられないものを見るような顔でカリィは何度も何度もポケットの中を漁るが、やはりポケットを漁る手には、頼みの綱ともいえるビー玉の感触が伝わることはなかった。

「そんな・・・」

絶望を帯びた表情でカリィは迫りくる強盗犯を見る。周囲の人々が逃げろと叫んでいるが、この足は主人の命令に従わずにがくがくと震えているだけだった。

 

カリィは支援士でも、まして自警団でもない。当然戦うための武器も術も、身を守るための防具も方法も持ち合わせてはいない。

そんなただの娘が血走った目をした強盗犯に襲われるということは、確実に死を意味していた。

 

強盗犯がもう目の前まで迫ってきている。

迫りくる死の恐怖に耐えきれず、カリィはぎゅっと目を固く伏せた。もうすぐ強盗犯がここまでやってきて、その凶刃を振るうことだろう。

 

―――だが、いくら待ってもやってくるはずの痛みや衝撃はやってこない。

まさか痛みを感じる前にすでにあの世にいってしまったのでは、とカリィは恐る恐る目を開くと、

そこには仰向けに倒れる強盗犯と、それを取り押さえている数人の支援士達という光景が広がっていた。

 

何故、なんで。と事態についていけずに混乱しているカリィの頭がさらにプチパニックを起こす。支援士達が強盗犯に追いつくためには間が開き過ぎていて、あの距離ならば強盗犯は追いつかれる前に確実に私を刺し殺していたはずなのに。

 

そこでふと、取り押さえられた強盗犯の足元の地面に、太陽の光を反射して小さく光を放つ物が転がっているのを見つけた。カリィが近寄りそれを拾い上げると、拾い上げた物は逆光によって手の中でキラリと光る。

―――改めてそれを見ると、それは先程カリィが無くしたと思っていた占い師の少女から渡されたビー玉だった。

「・・・うそ・・・」

そこで思い浮かんでしまった疑問の真相に、カリィは自分の中で浮かんでしまったその考えを否定しようとするように思わず声を漏らし、そして緊張の糸が切れたように腰が抜けて、そのままその場に座りこんでしまった。

 

そしてその少し後、カリィは自分の推測が正しかったことを知る。

周囲の目撃者の話によると、強盗犯はカリィに切りかかる直前に、何かに足を滑らせたように突然仰向けに転倒したらしい。

強盗犯にとっては間抜けと言えば間抜けすぎる終わり方だったが、それで少女の命は救われ、この事件は幕を下ろした。

 

 

後日、カリィはお礼を言いに占い師に声をかけられた路地を訪れたが、もうその占い師の姿はどこにもなかった。

それ以来、カリィは占い師の少女に会えてはいない。だがこの町では今も彼女の噂が頻繁に町の人々を賑わしている。彼女はきっと、今もこの町のどこかで占いをしているのだろう。

 

今度会ったその時は、きちんとお金を払って占いをしてもらおう。カリィはお守りとして大事に持っているビー玉を見つめながら、そう思った。