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「あの、師匠…いい加減、どいてもらえませんか?」
「嫌だ。」
「ご飯は僕が作りますから、どいてください。」
「嫌ダ。」
「子供ですか、貴女は。」

こうして押し問答を繰り返して既に数十分
どうしてもこの人は、“料理”という物が作りたいようだ。
でもそんなことを任せたら、命がいくらあっても足りない気がする。
否、足りないだろう。

「…どいてください。」
「イヤダ。」

いつまでもこんなことを繰り返していれば、昼食が夕食になってしまうに違いない。
台所の支配権を争っているうちに、店内の扉の鈴が鳴った
なんともタイミングの悪い来客だ。
慌てて、カウンターへ戻る

「ん?」
「あ、あの…?」

男性客は、自分に気付くなり顔をジロジロと見てくるのだ。

「え、えぇと。」

顔に何かついてますか?

なんて、言えない。

「紫水晶の瞳に、その髪の色…。」

ぼそり、と特徴を言うと不精髭を撫でて首を傾げる男性客

「ルキウスの息子か?」

真剣な表情で問いかけてきた。

「父を、ご存知なのですか?」
「まぁな…、話してやってもいいんだが。
この臭いは何だ?実験に失敗でもしたのか?」

―しまった。

「師匠、ダメですっ!!
一体何を作ろうとしてるかしりませんけど、ダメです!!
貴女がそこに立っていていい事が起こった例なんて何一つ無かったじゃないですか!!」

そう、例えば―

油の使いすぎで、天井が燃えて火事になりかけたり―

調味料と劇薬を間違えたり―

とりあえず、あの人が台所に立って“料理”といえる物を上手く作れたことなど一度も無いのだ。

台所へ駆け用とした瞬間、思い出した。

バルツァー・エールリヒがルールのこの家では

“廊下は走るな”

これがルールだ、背いたら反省文100枚というふざけた仕置きが待っている。

しかし、今は一刻を争うのだ。

歩いていたら、間に合わない。

男性客に待っているように告げて、慌てて台所へと駆け抜けた

「参ったな……。」

慌てた様子も無く、ましてや参っている様子など微塵にも見せず
まるで実験の失敗作を目の前にしたような態度で師はそこに立っていた。

「おぉ、ジャック。廊下を走ったな?反省文100枚だ。
と言いたいところだが、どうしたらいい?」

知るか。

「今日は、何と何を間違えたんですか…。」

呻きながら、鍋を覗き込むとそこには食材と言えない物が!異物が!

「いや、本の手順通りにやってみたんだけどな。」

手元にある、本。

“あなたにもできる料理100”

図書館のエンブレムシールがついている

「どうして、魔獣の肉や骨が入っているんです?」
「ん?あぁ、それはだな。ダシをとる、と書いてあったからな。
適当に放り込んでみたんだよ。まぁ、どれも同じだろう?」
「馬鹿じゃないですか?」
「なんだって?」
「言い方が悪かったですね。すいません、言い直します。」

溜息をついて、大きく息を吸っていった。

「―あたま、だいじょうぶですか?」

どちらにせよ、言い方が悪いのは変わらない。


――――

“料理”という皮を被った“兵器”を処理。

「エールリヒ、お前。まだ諦めてなかったのか?」
「こいつに出来ることが私に出来ないはずが無い。」
「昔から、料理がダメだったくせにな。」
「そうなんですか?」
「あぁ。初めてのときはビックリした。
真っ黒な煙の汚染物質が漂ってやがる!!って思ったからな。」
「汚染物質とは失礼な。」

余っていたパンと残り物で作ったスープを口に運ぶ

「あ、師匠。言い忘れてましたけど…
これからは、台所に一人で入らないでください。」
「何?」
「せめて、僕の目が届く場所で料理というものをしてください。
本当は、立ち入り禁止にしようと考えたんですけど。」

それではあんまりだ。

「ここは一応、私の家だぞ?」
「汚染物質を振りまかれたらたまりませんから。」
「おせっ…汚染物質とは失礼な!!」
「エールリヒ、いい加減に認めろ。
お前が製造するのは料理ではなく汚染物質であるということを。」
「ディスケンス、お前まで…。」

うぅ、と低く呟くとしょんぼりとした顔で昼食を黙々ともぐもぐと食べ始めた。

「あ、そうそう。勝手だけど、しばらく居候させてもらうかんな。」
「こき使ってやるから、覚悟しろ。」
「こき使われるのは慣れてるからな。覚悟なんていらねぇよ。」
「毛布一切無しで床で寝ろ。」
「それは…。」
「言っておくが、ジャック。こいつに毛布の類を貸したら原稿用紙に」
「はい、わかりました。」
「な、お前まで!?」

ごめんなさい、ディスケンスさん。
僕にはもう、原稿用紙に書くネタが無いんです。