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―――
そして運命の日。
彼女、シータはというと、言ったからには仕方無く、朝から模擬戦まではパソコンと格闘していた。
途中で息抜きのために部屋の外に出た時、始めて艦内に何か異様な空気が流れていることに気が付いた。
そこでその理由を知るべくそこら辺にいた兵を適当に選んで聞いたが、誰も何か上の方でやるのだろうということしか知らなかった。
ただ、気になる情報をレイヴンから聞いた。
何か新しいものが出来ただか、使うだか。
と、言った文脈が分かりにくいものだったが、とりあえず最小限分かった。
そして、それは恐らくは後者だとも思った。
この頃に対してここ最近という表現を使うと、最近はあまり目新しい物は作られてなかった筈だから、新しく何かを実用化するのだろうと気楽に判断した。

しかし、ことの重大さは模擬戦が始まる前に知ることになる。



―――もっと早く気付くべきだった。
前日の胸騒ぎ、当日の艦内の空気と知ることが出来る要因はあった。
しかし、誰も気付けなかった。
いつものことだろう。
そう思ったのがこのことの重大さを霞ませたのだと思う。

…結局始まるまで気付けなかった。
誰も、誰も―――

そして昼を越えて、模擬戦が始まる。
この模擬戦というのは、指令室前の大部屋で彼らの現在の能力を評価し、コンディションも確かめるために行われ、模擬戦なので勿論武器もそれ専用の物を使う。
それはその部屋の壁に普段は備え付けられているのだが、
「ま、待って。これは…」
ルインはそれを見て明らかに狼狽せざるをえなかった。
それは明らかに一目で見て分かる実戦用の物だった。彼女も使ったことがあるのでそのことはよく分かっていた。
しかし、これは『模擬戦』である、と最初に聞いていた。
「シロ姉、今回は変だ。これは止めさせて貰うべきだと思う」
「…」
「…シロ…姉?」
狼狽しているルインとは違い、シローネの方はただ淡々と準備を進めている。
仕方なく、彼女も倣って準備をするしかなかった。
「シロ姉、これは…」
「ルイン、例えどうであろうとやるしかない」
「ど…どうして」




「…シローネの様子が平生と大きく違う、目の色も違う。これをどう説明する…シャマル」
アインはこの部屋の外でいつも通りシャマル、カリフと共にこの部屋で起きていることの始終を見ていた。
彼の言う通り、シローネは普段の目の輝きも失せ、どこか虚ろな表情をしている。
「新薬のテストをしてもらっただけだ」
「それの名は?」
「ξ薬」
驚きを隠せない様子で問い正す。
「何…それは開発、製造禁止した物だろ…禁忌を破ったか、シャマル!」
ξ薬とは、黒船の技術を使い製造された名も無き二十四の薬剤の一つだが、それらの殆んどが製造禁止に指定してあった。
あまりにも強力過ぎる故にだ。実用かされているのは極一部だけであった。
しかし、今回それの一つが使用されている。
効果は『対象の能力を最大限に引き出す。但し、効果終了時に反動がある』

「効果を知っていて使ったのか! シャマル!」
「勿論だ、それに彼女にも同意をとった」
「なん…だと…だが、実戦の武器まで使うのは何故だ」
「実戦同様にやらなくては意味が無い。だからだ」
「しかしあの薬は危険すぎる、止めさせてもらう」
と、言い臨戦状態に入るが、
「アイン、この戦いを止めることは出来ないのよ」
「カリフ、何故だ?」
「だって、彼女達だけでなく全員のことを考えて見なさい」
「成程…拘束時間…か。厄介な制度だ」
この模擬戦が行われていた頃、彼らの自由は無かった。
拘束時間という制度で、部屋から出てこの戦いを見ることはできないとされていた。一切の手出しをさせないために念を入れてだ。
部屋だけでなく、それは大部屋にもかかっている。

つまり、彼らの命運をもシャマル達は握っているということを直接表している。
ここでアインが強引に突き破ろうものなら彼らがどうなるかは目に見えている。
確かに彼らは強いが、あくまで一兵。代わりはいなくも無かった。
「分かったか、アイン。もはや止めることは出来ない」
その言葉はもうアインの耳には聞こえていなかった。
ただ、二人の無事を祈ることしかできなかった。